橋はかかる

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591118535

感想・レビュー・書評

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  • フジテレビのいいともで一躍有名になった猿まわしの太郎次郎。その太郎こと村崎太郎氏の半生。彼が生まれたときに作られた詩『太郎が恋をする頃までには…』。部落解放活動家だった父の願いが込められたこの詩を叶えることはできるのだろうか。本当の同和教育とは、全ての差別に思いを馳せ、寄り添うこと、という太郎氏の言葉を私たちは受け止めなくてはいけない。

  • 当事者にとっては重い問題なんだな〜と思った。
    個人的には学校で習った以外触れたことはないし、
    身近にいても多分何も気にならないと思うから
    その温度差はあったけど
    本人たちにはきつかったんだろう。
    そうやって差別する周りの人って、普通の顔で笑ってるもんね。

  • 小学校に上がった頃「部落という言葉を使ってはいけないよ、差別用語だからね」と親に教えられた。しかし、私の住んでいる地域ではいわゆる差別的意味ではなく、
    単なる「集落」の意味でその言葉が使われていた。幼い自分はその違いを理解することはできなかった。
    やがて、授業で「同和問題」を学んでもそれは遠いどこかの地域で過去にあった話だと思っていた。
    しかし「部落差別」は過去のものではなく、今も根強く、そして理不尽に不条理にそこに「ある」という現実をつきつけられた。

  •  私は、いじめにあった中学生時代~高校時代に「破壊」「橋のない川」「幸徳秋水」を読み、就職後は採用にかかわる者として、毎年「同和研修・公正採用選考人権啓発研修」なるものを受けていた。一般的なの同年代の人よりは、多少知識はあるほうだと思う。ただ、「猿回し」という芸が、部落の人たちの伝統的な生業であることは、全く知らなかったし、かつてお茶の間で一躍有名になった「反省ザル」の次郎くんの相棒、村崎太郎さんが、部落の出自でこれほどまでに苦悩しながら生きてこられたとは驚いた。そして、これほどまでに人に傷つけられてきた村崎氏の魂を救ったのは、「妻との出会い」「親兄弟との復縁」「日本各地の人々との生のふれあい」つまり「人」であったことは、興味深い。私自身も、これまでに「人に必要とされない辛さ」を何度も味わってきたのに、傷つくことを恐れ、ぶつかり合いを避け、まっとうに「人」と向き合って来なかったことが恥ずかしくなった。
     彼の父「義正」も素晴らしい。元は差別と貧乏のせいで、前科15犯というすさんだ生活をしていたが、ある日「貧乏なのは自分たちのせいじゃない」と立ち上がる。その後の義正の活動の詳細は本に譲るが、 「猿回し」復活のために三男「太郎」を導き、亡くなった今もなお、彼の心の支えになっている。彼の言葉は名言ばかりだが、この言葉は特にすばらしい。「部落に生まれようが生まれまいが、一生懸命やらん奴の人生はつまらんのだ。‘どうせ’なんて卑屈になって生きることほど、つまらんものはない。」うまくいかないことのすべてを、自分の持ってしまったもののせいにして、逃げることのないよう私も肝に銘じたい。
     この本のおかげで、現代の「同和団体」が脅迫まがいの恐ろしい団体ではないことがわかったし、ついにメディアもこれまでタブーであったこの問題をとりあげるまでになったことに希望を感じる。
     「破壊」「橋のない川」などの作品は、文学的な評価は高いが、世に出たことで社会を変えることはできなかった。しかしこの本が、いや村崎氏や村崎氏と心を通わせた日本各地の人々が、(もちろん時代も変わり、ようやく機が熟してきたこともあるだろうが)いよいよ日本人の心の壁を取り払い、橋をかけ始めている。社会を変えるのは、やはり一人一人の心なのだ。私もその輪に加わりたい。

  • 自ら被差別部落の出身者であることをカミングアウトした”猿回しの太郎・次郎”の太郎さんの本。被差別部落については、小学校以来学校でならったりしていたけれど、実際に身近に見聞きしたことがなかったので、当事者の苦しみを初めて知ることができた。壮絶・・・。虐待された子どもが虐待に立ち向かう力をそがれてしまうように、多くの部落出身者も自分の境遇に立ち向かうことができなくなってしまう哀しさ。自分たちの境遇を改善しようとして立ち上がっても、急進的・先鋭的な手段を選んだためにかえって社会から敬遠されてしまう悪循環。システムとしての部落を解放しても人の感情にのこる差別の感情。実はこの本の前に2冊、本が出ているのだけれど、それはマスコミに取り上げられなかったのだそう。部落問題はタブーだということで・・・。でも、私はこの本を新聞の書評で知った。ということは、少しずつ、状況が好転している、ということなんだろうか。
    この本の中で心に残った言葉に「同苦の悟り」という言葉がある。同じ苦しみを知っている人の手助けをしたい、そう願うこと。今の日本には、きっとこんな気持ちがあふれている。福島から転校してきた子どもがいじめにあっている、という哀しい事例もあるけど、そういう感情を一切消し去ることはできないのだろうけれど、それでも一人ずつでも心を開いて、相手の気持ちを慮っていくことができれば、世の中はもっと幸せになる。太郎さんはそう信じているし、私も信じたい。

  • 部落出身をカミングアウトした猿まわしの太郎さん。
    「傷ついてきた人が、更に傷つくことを恐れず、言葉にしていかないと」って、言葉が印象的でした。
    部落差別だけにとどまらない、世の中にある全ての差別に対する向き合いかたを語ってくれる本だと思う。
    自分も、「橋を掛けたい」と切実に思った。
    差別のあるなしに関わらず、誰もみんな人との間に川がある。
    自分から橋をかけていこう。開かれていこう。
    そう、思った。ありがとう。

  • 部落出身者であることを公表した太郎次郎の太郎さんの、幼少期から今日2010年までの心の葛藤の記録である。何度も開いては閉じ篭る自分の感情を丹念に客観的に描くと同時に、部落問題をとりまくわれわれ一般の環境の情勢とこうあるべきという理念までも、平易に描かれていてこれは凄いなと思ったのだが、これは共著である奥さんが全面的にリライトしたことが大きいと思う。当事者でなければ発言できないことを、当事者はえてしてうまく語れない。それが当事者でない人の手を経てまとめられていることが大きな役割を果たしているのだ。「なんだかめんどうくさい」部落問題の入門書としても読めるし、たまたまこの夫婦は「部落」というテーマと向き合うことを余儀なくされただけの、誰でもが向き合うべき問題と向き合って生きているのだ、という普遍的な話でもあると思う。

  • 「周防猿回し」の末裔の村崎太郎さんとその妻栗原美和子さんが書かれた本。
    「猿(次郎くん)」そのものが、登場はしませんが、もし彼(次郎君)が太郎さんのことを語ればこんな風に語っただろうなぁ、と思われるほどの波瀾万丈のあれやこれやが綴られています。被差別部落のこと、むろん差別のこと、当時のマスコミのこと、巡業で出逢ったすてきなじいちゃん・ばあちゃんのこと、今の日本だからこそ、この本が一人でも多く読まれてほしい。次の人に、ぜひ推薦したい一冊です。

  • 読む人の年齢やおかれている立場によって、読後感が変わると思う。数年後のまた読んでみたい。

  • 部落に生まれた村崎氏の半生を語り、妻でフジテレビプロデューサーの栗原美和子さんが文章にして構成した本。「部落」といえば、暗くて重くて、つまらないのかな、避けてとおりたいな、と思うようなテーマだけれども、構成がうまくて、するりと読めてしまう。テーマは部落問題なのかもしれないけれど、最終的には恋愛小説だったのではないか?と思いました。ということで、あえて部落問題などに興味のない方も「恋愛小説」として読んでみてもいいかも。

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