- 本 ・本 (154ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591118924
感想・レビュー・書評
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古今東西の名短篇を漢字一文字で編んだアンソロジー、今回は初めて収録の三篇全て日本人作家のものを選んでみた。
「白梅の女」
以前から読んでみたいと思っていた円地文子さん。若い頃愛した男性との再会。しっとりした格調高い文章が美しかった。これをきっかけに、他の作品にも挑戦してみたい。
「仙酔島」
島村利正さんは初読みだが、季節の流れの美しさと夫婦の歳月の重みを感じさせる名短篇だった。
「玉椀記」
若い頃好んで色々読んだ井上靖だが、彼の作品を読むのは本当に久しぶり。古墳から出土した硝子器と正倉院の白瑠璃椀との関係、そこに重ねる妹と友人夫婦の思い出の描写が秀逸だった。
三篇の共通テーマは「季」だが、情景描写の美しさに絡めた心理描写のきめ細やかさが印象的で、改めて名作の素晴らしさを痛感した。
字も大きく読みやすい分量なのもありがたい。名作に親しむ機会が激減したからこそ、定期的にこの百年文庫を読みたいなと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
3つの作品のうち、『仙酔島』が良かった。文章もきれいだし日本の風光明媚な景色が浮かび上がってくるようだ。島村利正という作家は、この本で初めて知りました。おそらく一時期は注目されていたのでしょうが、今は忘れられた存在に近いのでしょう。そういう作家、作品に出会えるのもアンソロジーの良さですね。
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円地文子、井上靖はあまりピンと来なかった。島村利正は地味ながら味のある作品。
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なんだか読みにくい印象の作品が多かった。
「白梅の女」
一番読みやすかったかな。
桂井に対するたか子の気持ちと姿勢は、非常に理解できた。
パーフェクトな女として昔の男と再会する。
そののびた背筋、しなやかな身のこなしがどのようなものであったのかは、描かれていないところまで目の前に見えるかのようだ。
その反面、産み落としたきりの息子との再会は、たか子の想像を超えたものだったのだろう。
制御できず予測できず、あらゆる可能性とあらゆる不可能性を秘めた、パンドラの箱なのだ。
その対比が実に鮮やかで、見事だと思った。
「仙酔島」
多少、読みにくかった。
ウメと信吉。
手紙を束ね、墓を訪れるウメの姿。
大奥の女中であった江島と重ねるように描かれた信吉の墓の描写。
ウメの夫であった亀太郎と信吉との対照的な様子。
痴情の人ではなくとも、ウメにとって信吉がどこか特別であることは間違いがない。
この作品を読むと、人が人に対して残すもの、つなぐものは、季節を超えて心から心へと移っていくのかもしれない、と思える。
人なんて、産まれて死んでゆくだけなのだけれども、その間に、心を通していろんなものを受け取り、渡していくのだな、と思った。
それが存在意義なのかな。
「玉碗記」
これは、ちょっと苦手だった。
歴史のダイナミズムのようなものは感じた。
空間的にも時間的にも、非常に雄大で、その中に秘められた人の心の光を感じさせる、そんな作品なのだと思う。
でも、ちょっと私には響きにくかった。
なんか、ちょっと、妄想?とか思ってしまう。
春日皇女の歌と安閑天皇の歌には温度差があるって言ってたじゃないの。
碗にかこつけて、ちょっと綺麗に書き過ぎてはないか?
ロマンチックにしすぎたのではないか?
とか、思ってしまった。
たぶん、単純に興味がないのだ。私には。 -
円地文子『白梅の女』
まったくもって趣味でない。
島村利正『仙酔島』
独特の文章。日本の中の旅すらオオゴトだった時代。
井上靖『玉椀記』
古代の天皇に関する伝説と妹夫婦を重ね合わせる。さすがにうまいが印象は薄いかな。 -
時の移ろいが美しい作品群。
物悲しくもしみじみとした味わいの上品な本でした。
亡き妹夫婦の愛の在り方と安閑天皇と春日皇女の時代を隔てて邂逅する器を重ね見る『玉碗記』が特に好きです。過去の時代に思いを馳せる静謐な文章はさすが井上靖、と感じました。 -
『玉碗記』がよい。こういうのを読むと、古典の素養が欲しくなる。
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『白梅の女』円地文子
知識のある料理のできる美しい気の利く風流な女性。とてもすてき。ある程度、年のいった人たちの恋愛、読むの好きだ。
『仙酔島』島村利正
さらりとした文章。主人への忍従を続けたウメ。四国への旅路で遠い記憶が溢れ出る。しみじみ〜好き。
玉碗記『井上靖』
妹夫婦と碗と昔の人とが重なり合う。ぼおっとしたここちよさ。
これも良い。
表紙の後ろの『歳月の気品が香る3作』とはまさにその通り!3作とも静かな中に訴えるものがあり、粒ぞろい。いややっぱり小粒ぞろい。
著者プロフィール
円地文子の作品





