(030)影 (百年文庫)

  • ポプラ社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591119129

作品紹介・あらすじ

夕闇が降り、家路にむかう男たちの影もまばらになったが、夫はまだ帰らない。炭鉱労働者の家族を襲った秋の夜の哀しみ(ロレンス『菊の香り』)。友人を見舞って帰る夜、灯りのついた店に入ると、どこからか犬の遠吠えが…。死の影せまる不安な時間(内田百〓(けん)『とおぼえ』)。嫁に行った娘が他界した後、残された婿、孫娘と暮らしてきた登利はある重大な決意をする。家族のために自分を擲ってきた女性の鮮やかな心の景色(永井龍男『冬の日』)。胸底にひそむ影の来歴。

感想・レビュー・書評

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  • ロレンス『菊の香り』
    チャタレイ夫人の作者。炭鉱町の生まれだそうで、その体験が下敷きになっているのだろう。最後の一文が重い

    内田百閒『とおぼえ』
    阿房列車の人、こんな堂々たるホラー小説を書くのか!師匠漱石の夢十夜に似ているとは納得

    永井龍男『冬の日』
    四十四歳はまだ若いとは今なら思うが。

  • ロレンスは労働者階級の出身なんですね。

    百閒先生はいつもの感じ。この人の「怖い」は外から来るようで、最終的には自分の存在が崩されていく怖さなんだとよくわかる一編。

    永井龍男の「冬の日」は、読み進めるに従って、主人公と娘婿との関係が怪しくなっていく。結末のやるせなさがたまりません。

  • 酒好きの夫の事故死を切欠に夫との関係、空虚さを知る妻を書く『菊の香り』。夫が帰宅しない不安、酒場で散財する苛立ちが徐々に不安に変わりそれが現実に。
    混乱しながらも夫と自分の関係を見つめなおす妻とただひたすらに母性を前面に出して嘆く夫の実母が対照的でした。

    『とおぼえ』はじんわりじんわり怖さが来る怪談。怖さが小出しで来るから少しずつこちらも不安になる。会話は軽快なのに怖さが増すと言う…。おやじの問う『どっちから』は彼岸と此岸と言うことか。

    亡き娘の婿と孫と暮らす若き祖母、婿が新たに嫁を貰うために自分が家を出る決断をしたが実は…と言う少し背徳を匂わせる物語。
    祖母の想いを確認するために訪れた婿の同僚が家の玄関先から持ち帰る梔子の実にこの関係の秘密に口を閉ざす意思を感じます。

    どれも良かったけれど『とおぼえ』のテンポの良い怖さが特に好みでした。

  • 「菊の香り」
    旦那の死によって、今までの心の通っていない生活を思い知るなんて、なんて侘しいことだろう。
    生活の当たり前さに飲まれて、お互いがちゃんと向かい合えていないのだろう。
    でも、夫の帰りが遅かったら腹も立つし、心配もするよね。
    エリザベスは取り立てて薄情な妻ということもない。
    ごく普通の一般的な妻だろう。
    だからこそ、私も、相方のことを分かったつもりになっていて大切にし切れていないのかもしれない、と疑う必要があるのかもしれない。

    「とおぼえ」
    何?
    どういうこと?
    この主人公のお客さんは、幽霊だったってこと?
    文章全体に異界の空気が漂っている。
    薄気味悪い、おばけの世界に現実が飲み込まれているかのような、そんな夜。
    うまいなあ。
    上手に空気を作っているなあ。
    この、わからなさが、異界感たっぷりだと思う。
    会話もいまいちかみあっておらず、ずれている。
    そこもなんだか気味悪い。
    幽霊の存在を受け入れているかのような店の亭主も、気味悪い。
    この、混乱加減が、理解のできない世界とシンクロしている。

    「冬の日」
    抜き差しならぬ不適切な関係。
    それを断ち切り、愛する孫との決別を覚悟した登利の苦しみはいかほどだったろうか。
    梔子の実。
    そこに込められた誓い。
    そして、元日の夕日と、ひびのはいった鏡餅。
    人生の一つの時期が終わってゆくことが、実にはっきりと示されている。
    そして、まだ内にあふれている生命力を、持て余しているかのような登利のしなやかな姿。
    まだまだ、人生は終わらない。

  • ・ロレンス「菊の香り」◎
    これ昔読んだことあるかも。それとも行間にながれる妙な懐かしさのせいだろうか。石炭の町、線路、無蓋貨車、引き込み線、茂み、落ちる夕陽、家のなかの蝋燭…そしてせわしなく動きまわる人々の影。

    ・内田百閒「とおぼえ」○
    会談話。百鬼園先生は雰囲気あるなァ。

    ・永井龍男「冬の日」△
    感慨なし。

  • 2013.6.6
    『菊の香り』ロレンス
    炭鉱夫の夫が帰らぬ不安。不安は現実となり、そして発覚する死んだ夫と自分との隔たり。

    『とおぼえ』内田百閒
    初百閒。名前はよく聞くけどやっと現れた。
    会話が多くすいすい読める。飴を買う幽霊の話は聞いたことあるな。可も不可もなし。他の作品はどんなかんじなのかしら。

    『冬の日』永井龍男
    娘が他界した後の、その婿と孫娘との暮らしを終わらせた女の、話。文章が綺麗。『自分がここにいた』最後の章は特別良い。

  • ロレンス『菊の香り』
    内田百閒『とおぼえ』
    永井龍男『冬の日』

  • 意外に良かった。

    ロレンスも内田百間も永井龍男も私と相性がいいのか『影』というくくりが上手かったのか。
    ほんのり怖くて切ない暗闇が好き。

  • とても魅力的なコンセプトの、ポプラ社の百年文庫シリーズの1冊。
    百閒目当てで購入しましたが、共に収録されている作品との出会いも嬉しいものでした。
    他のテーマのものも読んでみたいけれど、ちょっとお値段は高めに感じた。

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