(038)日 (百年文庫)

  • ポプラ社
3.38
  • (0)
  • (6)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 47
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591119204

作品紹介・あらすじ

「こうして床を並べて眠るのも今夜ぎりだ」-。娘の結婚式を控えた父親の真情が胸にしみる尾崎一雄の『華燭の日』。戦後の苦しい時代、酒宴の席で怪しげな人生談義が始まった。語り合ううちに哀感の底から湧いてきた新しい希望(高見順『草のいのちを』)。気苦労ばかりの勤め人として幾星霜、ついに定年の日を迎えた「私」。解き放たれた「自由な時間」を前に会社への訣別と感慨を綴ったラムの『年金生活者』。名もなき日々が美しい、愛とユーモアの一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 百年文庫18冊目は「日」

    収録は
    尾崎一雄「華燭の日」「痩せた雄雞」
    高見順「草のいのちを」
    ラム「年金生活者」「古陶器」

    「痩せた雄雞」を会社の昼休み中に読んでいて、うっかり泣きそうになった(いや少し泣いていた)。素晴らしかった。続けて2回読んだ。

    今日に至るまでの心の動きを、今現在目に入るもの、耳に聞こえてくるものと絡ませて語っていく。ほとんど何も起こらない静かな小説で、でしゃばることがない文章なのに、とても力強く感じる。小説の結ばれ方もよい。「華燭の日」の電車に取り残された花束に緒方がもの思うところなども、ありがちな雰囲気に見えてどこか余韻を残す。嫁に行く娘を見ながら語られる、緒方自身の心境についてもはっとするようなところがあった。

    今年は阿部昭に続きいい収穫をしたようだ。日本の私小説は素晴らしい。

    3人とも初めて読む作家で、高見順とラムもいいと思ったのだけど尾崎一雄の印象が強く、ここは間を空けていずれまたじっくりと読み返そうと思った。

  • 尾崎一雄と尾崎士郎は娘の歳も名前も同じとは何かで読んだが、結婚式にも呼び合っていたとは知らなかった。
    ラムの年金生活者は歳をとって得た自由と安らぎが胸に迫る。

  • 『華燭の日』と『痩せた雄雞』の娘の嫁入りと日々の生活、ハレとケと言うまったく違う日を扱うけれどどちらにも家族への愛情がこもっていて良かったです。
    自分の心の裡をここまでさらけ出してしまえるところにすごさを感じました。

    『草のいのちを』の友人が弟に説教している場面で泣きながら詩をうたう私に少し引きました…。色々と思うところがあったのでしょうね。

    『年金生活者』の解放感と寂しさは現代ではとても贅沢な感情になるのだろうな、と思いながら読みました。
    『古陶器』の若く貧しかったころの日々を懐かしむ従姉。日々を工夫して暮らした過去が美しく感じるのは現在が金銭的に不自由しないからなのでは、と『年金生活者』と同じような読後感でした。従姉の話を聞いた後も陶器の話に戻すのはどうかと思う。

  • 「華燭の日」
    娘を嫁にやらなくてはならない父親の気持ちが、よく伝わってきた。
    小さかった娘。
    ここにいてあたりまえだったはずの娘。
    なんて素直な文章を書く人なんだろう。
    この小説を読みながら、自分の父親の様子を思い出していた。
    「痩せた雄鷄」
    病弱な体の内に、妻や家族を愛する心があたたかく鼓動している。
    それが見えるかのような作品だ。
    ほほえましい夫婦の関係。
    もちろん、生活の全てがうまく行っているわけではないのだけれど、それを夫婦で埋めあって、仲良く暮らしている。
    痩せた雄鷄。
    家族を守りたい。
    その愛情にあふれた作品だ。

    「草のいのちを」
    なんだか女々しい最後だ。
    気持ち悪い。
    この詩単独のほうがいい。
    なんで泣きながら歌うの。
    こういうのは、ちょっと苦手。

    「年金生活者」
    ちょっと読みにくい文体。
    海外のものを翻訳した作品は、読みにくいものが多い。
    言語の違いのせいだと思う。
    年金生活者の解放的な心と、それでも働いていたころを思い寂しく感じる心とが描かれていた。
    生活のあり方も、ゆったりと、曜日の区別もなくなっていく。
    どこの国でも同じだ。
    それでも、私は、よい生活だと思う。
    最後からもそれは伝わってくる。
    「古陶器」
    貧しかった頃のことを、懐かしみ美化して話す従姉。
    当時のほうが心のつながりが深く、関係が密接であったと嘆いているようだ。
    要するに、従姉は陶器の絵なんかに興味がないのだろう。
    そして、なんだか退屈なのだろう。
    ね。

  • 娘が嫁ぐ前日の親子の一日。(尾崎一雄「華燭の日」)
    戦後直後の私的な酒宴。(高見順「草のいのちを」)
    定年退職後の開放感。(ラム「年金生活者」)
    他2編の名もなき日常特集。
    尾崎一雄のもう1編のは「華燭の日」とつながりがあるんだかないんだかで混乱しつつ読んだので、いまいちぴんと来ませんでしたが、あとはどれも「今でもそう思うことあるよね~」という共感ポイントがある、古びないタイプのお話でした。
    悲惨な感じもないし、後味の悪くない1冊。

    装画 / 安井 寿磨子
    装幀・題字 / 緒方 修一
    底本 / 『暢気眼鏡』(新潮文庫)、『高見順全集 第10巻』(勁草書房)、『エリア随筆抄』(みすず書房)

  • 2014.2.14
    『華燭の日』『痩せた雄雞』尾崎一雄
    私小説。ふつうなかんじで良い。あまり印象に残らない。

    高見順『草のいのちを』
    くだけたかんじのはなし。

    ラム『年金生活者』
    労働。老後。人のための時間。自分の時間。いまいち。
    『小陶器』
    こっちは面白い。ちょっとやばい姉の話に優しくかまい、けれどさらりと小陶器に戻す。笑った。

  • 尾崎一雄『華燭の日』『痩せた雄鷄』
    高見順『草のいのちを』
    ラム『年金生活者』『古陶器』

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、2階文庫本コーナー 請求記号908.3/H99/38

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

尾崎一雄

一八九九(明治三十二)年、三重県に生まれ、小学生時代に神奈川県に移る。小説家。早稲田大学国文科卒業。在学中より志賀直哉に師事。プロレタリア文学の興隆に押されて行きづまり貧困と沈滞の時期を経て、結婚が再起の契機となり、一九三七(昭和十二)年ユーモア小説『暢気眼鏡』で芥川賞。戦争末期より大病を得、病中の死生観を吐露した『虫のいろいろ』を発表。『まぼろしの記』、自伝的回想『あの日この日』(ともに野間文芸賞)ほか著書多数。七八年文化勲章。八三年三月没。

「2022年 『新編 閑な老人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

尾崎一雄の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×