- Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591119297
作品紹介・あらすじ
「市場で象が暴れています」と連絡を受けた警察官が護身用のライフルを手にすると…。群衆に取りかこまれた男の痛切な経験(オーウェル『象を射つ』)。隣接した墓地に向かって傾いている三階建てのアパート。ユニークな住人たちの暮らしを描いた武田麟太郎の『日本三文オペラ』。南の島に君臨する行政官と助手はことあるごとに対立していた。屈辱を感じつづけた助手は大胆な行動を決意するが…(モーム『マッキントッシュ』)。民衆の力がすべてを飲みこんでいく物語。
感想・レビュー・書評
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“群”れる。
オーウェル「象を射つ」は群れと対峙する。
武田麟太郎「日本三文オペラ」は群れを観察する。
モーム「マッキントッシュ」は群れを操ろうとする。
でも、それだけではない物語で、短編ながら読後は重いものが残る。
モームは良いですねー。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
百年文庫、五冊目は「群」。
群衆の持つ力、群衆の生活、群衆がいる光景。
オーウェル『象を射つ』
植民地時代のインドで、警官の職についていたイギリス人の男。
象が暴れているとの知らせを受けて、護身用のライフルを手に現場へ向かうが……
「土人」に過ぎないはずの群衆の力に押され、「主」であるはずの白人が、望まぬ行為を強いられる瞬間。
武田麟太郎『日本三文オペラ』
墓地の隣に立つ、3階建てのボロアパート。風呂トイレ共同、プライバシーは無いも同然。
アパートの住民たちのそれぞれの生活と、その中での奇妙な関わり合いを、オムニバス映画のようなリズムで映す作品。
モーム『マッキントッシュ』
南の国の小さな島に、行政官の助手として駐在するマッキントッシュ。彼は自分の上司に内心辟易していた。
彼の上司は島を暴君のように取り仕切っており、そのうえ酒浸りで横柄な男だった。
ある時上司は島の住民たちに卑劣な方法で道路整備の仕事を押し付ける。
そのあんまりなやり方と、日頃の恨みから、ついにマッキントッシュは大胆な行動に出る……
「象を撃つ」は、群衆の力によって主従が逆転してしまう、印象的な場面を描く。
社会からの圧力により、望まれた人格を演じなければならない様は、『1984』を思い出させますねぇ。
「日本三文オペラ」は、とにかくきったねぇアパートでの暮らしが見どころ。
職場の労働闘争の処理に追われる男とか、旅芸人の一座とか、あらゆるシーンに昭和を感じます。
「マッキントッシュ」は群衆よりも、マッキントッシュ君と上司の2人に焦点を絞られる。
マック君はいつも冷静で、黙々と仕事をこなすタイプの男。それに対して上司の彼は、とにかく自分勝手で下品なおっさん。マック君からすれば嫌悪の対象。
そんな大ッ嫌いなオッサンなのに、いざ、ラストシーンに臨むと……。
人というものを、海面に見えてる氷山の一角からしか判断しようとしないのも、「汝」ではない、「群」の作用の妙ですかね。 -
「市場で象が暴れています」と連絡を受けた警察官が護身用のライフルを手にすると…。群衆に取りかこまれた男の痛切な経験(オーウェル『象を射つ』)。隣接した墓地に向かって傾いている三階建てのアパート。ユニークな住人たちの暮らしを描いた武田麟太郎の『日本三文オペラ』。南の島に君臨する行政官と助手はことあるごとに対立していた。屈辱を感じつづけた助手は大胆な行動を決意するが…(モーム『マッキントッシュ』)。民衆の力がすべてを飲みこんでいく物語。
著者等紹介
オーウェル[オーウェル][Orwell,George]
1903‐1950。イギリスの批評家、小説家。植民地時代のインドに生まれる。インド帝国警察を退官後、執筆活動を開始。労働者階級の生活を描いた『パリ・ロンドンどん底生活』で注目を集める
武田麟太郎[タケダリンタロウ]
1904‐1946。大阪市生まれ。東京帝大入学後、1929年に「文藝春秋」に『暴力』を発表し、プロレタリア作家としての地位を確立。32年発表の『日本三文オペラ』以降は、庶民の視点から風俗を描いた作品を発表する
モーム[モーム][Maugham,W.Somerset]
1874‐1965。イギリスの小説家、劇作家。貧民街で医療に従事した体験をもとに『ランベスのライザ』を発表し、作家デビュー。1919年『月と六ペンス』がベストセラーになる。旅をしながら執筆するが、58年に作家活動から引退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。 -
武田麟太郎を除き、オーウェルとモームはどちらも植民地の住民を「群」と捉え、彼らと対峙する宗主国の出先役人を主人公とする構造。
武田麟太郎はヒッチコックの裏窓よろしく、一棟のアパート住民の人間模様を捉えた短編。オチは少し笑える。43/100 -
群衆の持つ圧力がひしひしと伝わる『象を射つ』。
古いアパートの住人の人となりが書かれた『日本三文オペラ』。
尊大な上司と我慢する部下。
しかし上司は純真な心で地域の住民を愛してもおり、人間の複雑さが部下のマッキントッシュの感情をかき乱す。
マッキントッシュの心の動きが伝わる『マッキントッシュ』が三作品では一番心に響きました。 -
「象を射つ」
私たちの周りには、象がたくさんいる。
集団の意志にあらがえず、傷つけ苦しめてしまう、象が。
己の残虐さに目を背け、最後がどうなるかを思うこともできず、しかたなかった、と弁解をする。
この小説は、苦しく悲しい。
傷つけられる象が悲しい。
己をしっかりと持てず、群れに流されてしまう人間が、哀しい。
「日本三文オペラ」
ひとつの古ぼけた奇妙なアパートに、どこか奇妙な人たちが住んでいる。
その人間模様が面白い。
でも、こういう人たちはわりといそうだ。
喜劇か悲劇か、背中合わせか。
見ようによって変わるのか。
いや、喜劇だよな。
「マッキントッシュ」
下卑て尊大で、反感を感じる人。
でも、その反面、ずっと奥の方に純粋で神的な気持ちも持っている人。
そんな上司を持ったマッキントッシュの気持ちは、とてもわかる気がする。
だから、ピストルが無くなったときも、戸惑い、恐れ、守ろうともする。
実に人間臭い話だ、と思った。
様々な顔を持った、一筋縄ではいかぬ人間。
愚かで愛おしい。
面白い話だった。 -
群衆とは悲しいものなのか。人間は寄り集まるとこうも悲しくなるのか。
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オーウェルの像を射つが気になったのでそれだけ読んだ。
何も力を持たない黄色い人間の群衆が背中に迫りくる。笑われたくないという理由で像を射った。群衆の持つ力とそれに圧倒されてしまう自分の弱さ。
自分は自分であるという確固とした意志が持てるようになるにはどれだけの強さが必要なのか。並大抵の人には無理だろう。 -
期待と圧力、群集の中から目立った「個」はそれぞれの役割を押し付けられてくんだなーと
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オーウェル『象を射つ』
武田麟太郎『日本三文オペラ』
モーム『マッキントッシュ』 -
12/11/27 三人の作家の短編が1編ずつ。読ませるなあ。
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オーウェルの「象を射つ」、モームの「マッキントッシュ」が面白かった。
「マッキントッシュ」は南の海の島での白人植民地支配者の話なんですが、威張り屋で押しつけがましい、でも住民思いの行政官ウォーカーがなかなか魅力的。こういう人は当時の白人には少なかったのかもですが。 -
百年文庫9冊目は「群」
収録は
オーウェル「象を射つ」
武田麟太郎「日本三文オペラ」
モーム「マッキントッシュ」
いずれも初読だった。庶民のイメージを活写した「日本三文オペラ」と、「「官」と「民」のせめぎあい」が描かれるオーウェルとモームの短編。オーウェルとモームをこの枠で並べるとなんだかイギリスの古典小説っぽいなと思う。そういえばちょっと前に読んだコンラッドもそうで、イギリス国外が舞台だ。
「マッキントッシュ」が特に面白かった。名短編「雨」を思い出させるような構成。『1Q84』も読んだところだし、オーウェルの『1984』もどこかで読みたい。 -
象を撃つ/オーウェル
日本三文オペラ/武田麟太郎
マッキントッシュ/モーム
第一作のオーウェルに釣られて手に取ったらモームの短篇が面白かったです。
群=大衆の力ということだがそんなにブラックでもない(いやブラックユーモアだが笑) -
新着図書コーナー展示は、2週間です。
通常の配架場所は、2階文庫本コーナー 請求記号908.3/H99/47