紅 (百年文庫 85)

  • ポプラ社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591121733

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  • いずれも若い女性の作だが、死の匂いが濃厚に漂う。65/100

  • 「帰郷」
    生まれ故郷にとって、自分は訪問者になる。
    決して良い思い出ばかりではなかった場所。
    別の土地で生活の根をおろした者にとって、故郷は懐かしい場所であると同時に、終わった場所でもある。
    その感覚がリアルに描かれていた。

    「三十三の死」
    終わりを決めることによって、今に対する集中力が増す。
    それは、あるだろうと思う。
    足を失ったことによって、自分の醜さや畸形を恐れる心が、そういった生き方を求める。
    美しさというものにこだわり、美しい死に憧れる。
    しかし、現実の自分は、他者に寄り添い、支えられることによって生かされている、ということに気づく。
    生きるということには、悲しくて醜い面も含まれている。
    それが現実であり、その「生」の不確かさ、はかなさ、苦しさをリアルに感じたお葉の生き方は、この後どう変わるのか、見てみたい。
    本当の意味で、強く美しくあってほしい、と願いたくなる。

    「残醜点々」
    最後が、強く印象に残る。
    陋屋の中に鮮やかに飾られた笹。
    人々の平和への切実な願いが、色彩と共に心に迫る気がした。
    この小説は、出だしからずっとジメジメとした印象や、混沌としたどこかすっきりしない人間関係の描写が続く。
    ナメクジや死者や病人や悲劇など、心身の傷や生きる苦しみに覆われている。
    しかし、最後の七夕飾りの美しさと空の青さ、テイ子の弾む声、そういったものが、これから先の世の中への希望のような明るさを感じさせた。
    人間の強さ、祈りの深さも。
    ダラダラと冗漫な印象の小説だったが、最後がよかった。

  • 若杉鳥子『帰郷』
    素木しづ『三十三の死』
    大田洋子『残醜点々』

  • 日本の生活はこんなものだったのだということが伝わる。市井の暮らしは寸分変わっていない。女性の書き手は感性が鋭い。芸妓置屋の娘である主人公が親しんだ芸妓の生き様に思いを馳せる、若杉鳥子「帰郷」(1934)。片足をなくした若い娘が、人目を忍んで朝の浴場での母との会話に、母のために生き、子のために生きるということを考える、素木しづ「三十三の死」(1914)。原爆に晒された爪痕も消えない1951年のH市の戦災者住宅で、東京から戻ってきた主人公が思うこと。七夕の短冊に「戦争反対」「平和、自由、独立」、大田洋子「残醜点々」(1954)。三編とも自伝的小説とのこと。

  • 百年文庫7冊目は「紅」

    収録は
    若杉鳥子「帰郷」
    素木しづ「三十三の死」
    大田洋子「残醜点々」

    いずれも初めて読む作家。どの作品も飾り気のない語りで、困難に立ち向かう人達の様子が読んでいるこちらへ迫ってくる。

    芸妓置屋である養家へ久しぶり戻った時のことを描く「帰郷」。義足となった自身の足を見つめる「三十三の死」。広島で被爆をした家族の生き抜く様が描かれる「残醜点々」。

    終戦記念日に近い日に「残醜点々」に出くわしたのは偶然というかなんというか。読んでいて何も言えなくなる。次にこの苦痛を生み出さないように、よく覚えておこうと思う。

  • 亡き養父母の経営していた店を継いだ芸妓の葬儀に参列する為20年ぶりに故郷の土を踏んだ逕子。故郷の思い出が蘇る若杉鳥子『帰郷』、18の時に片足を切断し幸福は死によって求められると考え33歳で死のうと信じているお葉 。些細な事でも生きていく悲しみを思い母が言った言葉に母の為に生きる淋しさを憶える素木しづ『三十三の死』、広島で被爆し3年ぶりに東京から戻った「私」。郷里での知人との再会が描かれると共に当時の惨状、原爆と戦争の惨禍から来る私の暗い心境を綴った太田洋子『残醜点々』死が纏わり付く自伝的小説3篇を収録。

  • ポプラ社 百年文庫の第85巻。
    赤でも朱でもなく、『紅』の一字の元に集められた三つの小作品は、いずれも「死」が背負うほど近くに感じられる時代に生きていた女たちの話。

    特に大田洋子の『残醜点々』は、原爆投下後7年を経た広島を舞台にしてさえ、人が生きるに必要とするある種の暢気や陽気を孕んでおり、311後という今へも重なる深い読後感でした。

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