(086)灼 (百年文庫)

  • ポプラ社
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感想 : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (135ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591121740

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  • 「母」
    正しさを信じ、母を売った息子は、傷つき裁かれる側となってしまう。
    なのに、なぜだろう。
    薄情であるはずの息子があたたかく描かれ、正しいはずの子どもたちが卑しく描かれているのは。
    正しさとは何だろう、と思う。
    強いものが正しいのか。
    多数が正しいのか。
    弱者や少数にも、彼らが信じる正しさというものがあるのだ。
    正しさは、時と場合によって変わる。
    だから、一律の「正しさ」で物事を測ることは、ひずみを生む。
    母親は、自分の子どもを守るためなら、神にだって嘘をつける。
    それは、母親としての、ゆるぎない正しさだと思う。

    「メアリ・ポストゲイト」
    ウィンはメアリに安心しているから、悪態がつけるのだ。
    メアリの憎しみの心が、悲しい。
    優しく気立てのいいメアリだが、人間はキレイなだけではない。
    正しさ、良さというものは、常に逆のものも秘めている。
    善と悪はコインの裏表、という言葉を思い出させるようなお話だった。
    最後のメアリの姿は、実に人間らしいものに、私には思えた。
    人間とは、不完全なものなのだ、と。

    「夏の花」
    淡々とした文章が連ねられているが、その口調の静かさが、描かれているものの悲惨さを、かえって深めている。
    驚きと恐ろしさと非現実的な景色に、もう、心も麻痺してしまうような、呆然としたような、なすすべもないような、そんな状態を感じる。
    夏の花というタイトルと、生きるものと死んだものとの境界を感じるような妻の墓を訪れるという書き出し。
    その鮮やかな世界が、一気に焼き尽くされるという、ギャップが迫る。
    もう二度と、このようなことが、誰の身にも起こりませんように。
    戦争が無くなりますように。
    戦争が起こりませんように。
    願わずにはいられない気持ちになった。
    百年文庫85「紅」の、大田洋子の「残醜点々」に出てくる詩人とは、この原民喜のことのようだ。

  • 戦争にまつわる3篇。
    ドイツ  ヴィーヒェルト「母」
    イギリス キプリング「メアリ・ポストゲイト」
    日本   原民喜「夏の花」

    夏の花は、被害のなまなましさに休み休みでないと読み切れない苦しさがあった。

    まだうまくまとまらない。
    どの国にも人間がいて、戦争の苦しさをいやというほど感じている、文学はそういものをつないでくれる

  • 「夏の花」めあてで借りる。海外ものはやっぱり苦手…。

    ヴィーヒェルト「母」
    夜や風景の描写が鋭くて美しい。母と子の会話が力強くって、胸にグサグサっと刺さりました。戦争前と戦争後で世相が変わってしまうのは、どこの国でも共通していることなんだと知った。人が人を裁くことの難しさ、法律はなんのために存在しているのか、正しいことって一体何?と、様々なことが読者に問いかけられている。

    キプリング「メアリ・ポストゲイト」
    文化とか歴史背景がわからないので、何かなじめなかった…。ほとんど流し読み。
    『ジャングル・ブック』の作者だとは…驚き。

    原民喜「夏の花」
    名前は知っていた。こうしてきちんと作品を読んだのは初めて。…つらい。ギラギラノ破片ヤ…で始まるカタカナの詩が圧倒的だと思った。人と作品で紹介されていた「廃墟から」も読んでみたい。作者が亡きあとも作品は残る。文学は強いと思った。

  • ・ヴィーヒェルト「母」◎
    かなりインパクトあった。
    密告により強制収容所に入れられた母が家に戻ってくる。家には家族と兵隊がいる。そして家のある部屋にはなにか不気味な者のいる気配が示唆される。それはこの家の息子でナチの党員だった。
    正義や悪といったものがおままごとのように思える、死をまっすぐに見据えるような深く暗い穴のような話だ。
    息子の部屋にかかった赤い布など、まるで絵に見るような文章も良し。

    ・キプリング「メアリ・ポストゲイト」○
    イギリス。これも大戦中の話。
    お手伝いさんとして家に住み込むメアリ、それから養子でやってきたウイン。ウインは戦闘機の試乗中に墜落して死んでしまうが、なにやら淡々と描かれる。町が爆撃にあい、子供が殺されるのを見たメアリ。
    敵軍の戦闘機が帰りに墜落し、兵士が木の根元でひん死のところを見つける。
    ここで、非常につかみどころのなかったメアリという人物の我が、急ににゅっと現われて、それが妙に怖い。
    いい意味で、「母」のような善悪を越えるような哲学とか、博愛とか、そういうものが綺麗さっぱりない。もっとツルッとして槍のように単純に尖ったもの。それが、女の怖さのように描かれているようにも見えなくもない。

    ・原民善「夏の花」×
    原爆投下時の広島。描写が、ただひたすらに生々しい。
    ただし小説として読んだときにちっとも面白くない。上二作と比べちゃうと特に。ここらへんが日本の小説のありようの、すごく難しい点だとはつくづく思ったのだけれど。

  • ヴィーヒェルト『母』
    キプリング『メアリ・ポストゲイト』
    原 民喜『夏の花』

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