(094)銀 (百年文庫 94)

  • ポプラ社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (139ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591121825

感想・レビュー・書評

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  •  堀田善衛の小説が読みたくて、でも手頃なのがこれしかありませんでした。実家は廻船問屋だそうで、戦前の豪商の暮らしぶりが少し見れました。食客を住まわせる離れがある、って凄いですね。こういう所に山下清とかが逗留したり、宿代の代わりに書いた掛け軸が「なんでも鑑定団」で鑑定されたりするのでしょう。
     堀田の自宅が火事にならないで、この続きを読んでみたかったです。

  • 「鶴のいた庭」
    羽根を切られたつがいの鶴。
    それに涙する老人。
    生きすぎた老人だからこそ、見えることがある。
    そして、とどめることなどできないことも、知っている。
    ただ泣くしかない。
    「どこへ行くのだろう」
    繰り返されるこの言葉に、不安と切なさと、胸の痛み、ささやかな憧れを感じる。

    「石段」
    下卑た父親を恥じる子どもたち。
    しかし、帰らぬ妻を思う気持ちは、子どもたちの母を求める気持ちの強さと変わらない。
    根底にある寂しさと悲しさが、この父子をつないでいる。
    うわべだけでは理解できない、心の底で寄り添う家族の姿が切なかった。

    「兄の立場」
    なんとも頼りない兄だ。
    自分の欲と、その場の感情に流される。
    言葉に真実味がない。
    気持ちと行動は裏腹で、大口をたたく割に、借金も抱えて、先行きは不透明だ。
    それでも、兄として弟を思う気持ちはある。
    結局は若い弟に甘えてしまう兄なのだから、兄の立場でものを言う資格がない。
    そんな兄に、言いたいことならたくさんあるであろう、弟は歯を食いしばってそれを飲み込み、境遇を受け入れようとする。
    すっきりしない読後感。

  • 堀田善衛の「鶴のいた庭」は没落する廻船問屋の末裔としての著者が幼年の思い出の旧家を描いた秀作。日本海から太平洋へ、人々の生業の変化と日本の経済の中心の移り変わりを追う時代小説として、できれば長編で読みたかった。
    小山いと子の「石畳」は、嫌悪感の的となる道化男の家族への想いが人々の心を打つ。今ではこのようなお話は成立しにくくなった。
    「兄の立場」は、ヤングケアラーの現代、一周回って共感されるのか?

  • 堀田善衞『鶴のいた庭』
    小山いと子『石段』
    川崎長太郎『兄の立場』

  • ・堀田善衛「鶴のいた庭」×
    飛行機の銀か。もはや記憶になし。

    ・小山いと子「石段」△
    びっこの父親とかったるい姉弟と旅行中なにかといっしょになってしまって、あーかったるという話。なんとなく不気味な雰囲気に満ちているのに、最後に美談になるのにはしらける。

    ・川崎長太郎「兄の立場」△
    いかにも私小説ったるい。実家の魚屋を継ぐのが嫌で飛び出した兄が、小説で身を立てながら、弟にも大学に通わせてあげたい、絵を描かせてあげたいと思い両親と対立するが、ぼかぁーほんとに口だけだなぁーという話。

  • 堀田善衛「鶴のいた庭」。廻船問屋として栄えた生家の曾祖父の晩年のすがたに、時代の激変のなかで落ちてゆく旧家の歴史を思う。和船が蒸気船に変わり、港を見張る遠見望楼の重要度が低くなった当時の状況が描かれている。作家の生家を描く長編小説の序章として書かれたが、資料焼失のため未完に終わったのは惜しまれる。

    小山いと子「石段」。佐渡を旅した女性が、ふたり姉弟を連れた男と行く先々で一緒になり、最初は好ましく思えなかった男とその子供たちが気にかかるようになる。作家は、読売新聞の人生案内の回答者を20年に亘ってつとめたとのこと。

    川崎長太郎「兄の立場」。関東大震災直後、小田原を離れて文筆で整形を立てつつある兄が、魚屋を継ぐ弟を不憫に思う。不景気ということもあり、志あるものすべてが自由に生きられなかった時代の、若者の将来を思う気持ちは、いまの世相に通ずる。
    自由の尊さを感じる。

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著者プロフィール

1918年富山県生まれ。小説家。1944年国際文化振興会から派遣されて上海に渡るが、敗戦後は中国国民党宣伝部に徴用されて上海に留まる。中国での経験をもとに、小説を書き始め、47年に帰国。52年「広場の孤独」「漢奸」で芥川賞を受賞。海外との交流にも力を入れ、アジア・アフリカ作家会議などに出席。他の主な作品に、「歴史」「時間」「インドで考えたこと」「方丈記私記」「ゴヤ」など。1998年没。

「2018年 『中野重治・堀田善衞 往復書簡1953-1979』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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