(P[に]2-4)子どもたちの長い放課後 YAミステリ傑作 (ポプラ文庫ピュアフル)
- ポプラ社 (2011年5月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591124529
作品紹介・あらすじ
これぞ仁木作品の真骨頂!
コージーミステリの旗手が選りすぐった傑作短編がずらり。
「わたしをミステリファンにし、
実作者にまでしてしまったのは、仁木悦子である。」
――若竹七海
バイクの修理代ほしさに高校生たちがネコを誘拐すべく奮闘する「誘拐者たち」、
少女の一途な感情が思いがけない展開を呼ぶ「うす紫の午後」など、
〈仁木兄妹もの〉と並んで人気の高い著者の〈子どももの〉から、
書籍初収録作「やさしい少女たち」「影は死んでいた」を含む七編を厳選。
ユーモラスでありながらほのかにダーク、忘れがたい余韻を残す子どもたちの探偵簿。
〈編集後記・若竹七海〉
感想・レビュー・書評
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若竹七海さんが仁木さんの「こどももの」の中から選んだ短編作品集。書籍初収録作品に惹かれ購入。作品が古いため多少表現に違和感を感じる部分はありますが、それがなければ現代の作品と言われても違和感ない新鮮さがあり、再読でも楽しめました。暗い描写の内容でも、あまりそれを感じさせないのが仁木さんの魅力だと思います。
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仁木悦子さんの「こどももの」ミステリー短編集で、若竹七海氏選定の傑作選。大人向けの作品だが、小学生から高校生までの主人公が活躍する。必ずしも無邪気なだけではない少年少女の心の綾を、やわらかい文体で紡いでゆく。
収録作品は、一匹や二匹/うす紫の午後/誘拐者たち/倉の中の実験/花は夜散る/やさしい少女たち/影は死んでいた。 -
やっぱり仁木悦子作品は素晴らしい
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YAミステリ傑作選ではありますが、内容は意外と人は容赦なく死ぬし(小学生の子供が第一発見者になったり)、黒い動機だったりと、ライトな読み口の中にドロドロしたものが含まれてて大人でも読み応えバッチリです。
短い作品ですが「やさしい少女たち」が好みでした。 -
著者の「子どももの」の短編集ということで軽い気持ちで読み始めましたが、なかなか毒が利いており良質なミステリーでした。
子ども時代を懐かしく思うとともに、「そうそう、こんな風に憤りや苦しみも感じていた」と思い出すことが多かったです。無邪気で楽しいだけではない子ども達が描かれています。
【一匹や二匹】2匹のねこを拾ったことから事件に巻き込まれる2人の少年。貰ってくれる人を探すため努力する2人ですが、やっぱりいいや、と返されてしまったりと捨て猫に対する人々の冷たさと厳しさも感じてしまいます。
2人の目撃者というちょっとした捻りや、鍵の隠し場所など子どもでも無理のない推理と展開も良い。最初から最後まで猫がキーとなっていて綺麗にまとまったのもうれしいです。
【うす紫の午後】これはびっくりしました。ひとつ前の話「一匹や二匹」の少年が活発でしっかり者だっただけに、主人公の女の子の見当はずれな行動に物足りなさを感じていましたが、それもひっくり返されてしまいました。
似た境遇にある千加と小夜子の昏い心の内が、思わぬ真相へと繋がります。
【誘拐者たち】軽い気持ちでやったことが大事になってしまった時の後悔というのは、覚えがあるだけに苦しい。猫を愛するおばあちゃんが可愛くて可哀想。
【倉の中の実験】舅と嫁問題、介護、というようなドロドロした関係がなんとも嫌な感じです。おじいちゃんが可哀想で辛い。
おじいちゃんの本への愛が詰まった暖かくも恐ろしいお話でした。
マジックのようなネタはおもしろいです。
【花は夜散る】母の殺人容疑を晴らすために奔走する小学生の息子・正樹。正樹が小学生ながら必死に考え、調査し、着実に真相に迫っていく過程が丁寧です。
知らない人に勇気をもって話しかけたり、電車に乗るのを躊躇ったりという子どもの視点が健気。
「一匹や二匹」で登場した究介と彼のちょっとした友情の話もとても良い。
母を助けようとする子どもの活躍を描いた暖かい話ながら、良質なミステリーでもありました。
【やさしい少女たち】少年たちが主人公のお話と違って、少女たちは暗く残酷です。
しかし、こういった殺人方法は好きなのでおもしろかったです。確実ではないものの、復讐としては陰険で良いと思います。
タイトルからしてちょっと怖いです。
【影は死んでいた】窓から目撃した殺人。しかし現場に行くと何事もない…。楽しいシチェーションです。
今度は兄の為に妹が奔走します。「花は夜散る」の桜木くんも活躍。
本当なら調べたらすぐにわかるような事をしでかすことに疑問がわくのですが、これは犯人がこういった方法をとった理由に説得力がありました。
最後の兄と妹の姿も微笑ましい。勉強が好きなお兄ちゃん素敵です。 -
子どもが主人公のミステリー短編集。小学生のころ、仁木悦子の短編を読んで印象深かったという若竹七海が編集。
子どもといっても、小学生から高校生まであり、ケースも様々。携帯もテレビゲームもない昭和の時代が舞台なのに、少しも古臭く感じない。今更ながら、仁木悦子ってスゴイ!! -
“「そら、このクモの絵をじっと見るんだ」
おなかの前のところに、絵をかいた紙を持って、あたしに見せるようにしながら、
「じいっと見て。目を離すんじゃないぞ。そうら、クモがだんだん大きくなる、大きくなる。——」
ゆっくりそう言って、手に持った紙を輪をかくようにまわし始めた。うずまきと一緒にクモが輪をかいて動くのを見ると、へーんな気分になってくる。
「そうら、クモが——大きくなる。——クモが——大きくなる。——フーちゃんにとびかかる」
あたしはぞくぞく寒気がしてきた。それといっしょに、なんだかばかばかしくなってきた。
——催眠術だ。催眠術にかけようとしてんだわ。
と、あたしは思った。怖がり屋のユリならかかるかもしれないけど、あたしは科学的なんだ。女の子は大てい理科と算数が苦手なんだけど、あたしはクラスの女子の中では、理科も算数もいちばん得意なんだ。こんなばかみたいな実験にのせられてたまるか。
「へえんだ。催眠術になんか、かかんないわよだ。さよなら」
あたしは、笑いだして、すたすたと出て来てしまった。篤夫さんは、ぽかんと間の抜けた顔をして立っていた。”
子供が主人公のミステリ短編集。
子供ならではといった感じの薄ら寒いのもあったり。
“「正樹。ママは警察から帰されて来たか?」
新聞かテレビで見たとみえて、パパはいきなり聞いた。
僕は、くびを横にふった。
「ばかな女だ」
パパは、ソファーに深く腰をおろすと、つまようじでもぷっと吹きだすように言った。
「パパは、ママが加治さんを殺したと思うの?」
僕はやっと言った。がまんしていた涙のかたまりが、のどに突きあがってきた。でも、パパは言った。
「そうは思わないよ。そんなことはあり得ない」
「ほんとに?」
「ああ。ママは、ばかで意地っぱりな女だ。が、人を殺すことは絶対しない」
うれしかった。からだの中に力が出てきた。屋代さんも、究介のお母さんも、田川さんも、みんなママが犯人でないと言った。でもそれは、僕をなぐさめるために言ってるので、心からそう思っているのかどうかはわからない。——という気がしていた。
でも、パパは違う。離婚したといっても、ママの性質やなんか一ばんよく知ってるのはパパだから、パパが犯人じゃないと言ったら、それはほんとなんだ。
「話してみろ、正樹。いったいどういうことなんだ」” -
通俗的なミステリーとはひと味違う仁木悦子ワールド