- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591126561
作品紹介・あらすじ
世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、少しずつそれぞれの「足りない何か」が浮き彫りになっていく。
感想・レビュー・書評
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『真夜中のパン屋さん』のドラマ化も決まって、今や大人気作家の大沼紀子さん。
「まよぱん」ファンで、しかもくいしんぼうの私ですが
イケメンが出てこなくても、おいしそうなクロワッサンが出てこなくても
こっちのほうがだんぜん好き!と言いたくなってしまった、この『てのひらの父』。
イケメンのイの字すら逃げ出すような強面に堂々たる体躯。
なぜか空色の昔ながらの乳母車(注・ベビーカーではありません)に柴犬を乗せて
柊子、撫子、涼子の、女性三人が住む下宿、タマヨハウスに
臨時の管理人としてやってくる、トモミさん(男性)が素敵すぎて♪
「乳母車を引いた、目つきの悪い不審者に注意!」と回覧板を回されても
自分のこととは露ほども思わず、下宿人に防犯ベルを用意せねば!と意気込み、
布巾の消毒に至るまで家事には一切手を抜かない。
就職の面接に落ち続ける柊子のために、無骨な手でふかふかのミトンを編み
結婚前に撫子を妊娠させた彼氏は、容赦なく関節技で締め上げ
意地を張って実家からの電話に出ない涼子を気遣って
会ったこともない彼女の母親と、こっそり緻密な連絡を取り合う、
下宿人には超過保護なトモミさん。
幼い頃に両親が離婚したため、父と過ごした記憶がなく
たったひとつ父の思い出といえば、火葬後に触れた骨壺のあたたかさだけ、
という柊子をはじめ、父親へのわだかまりを抱えた女性3人が
そんなトモミさんの不器用な優しさに包まれるうち
どんどんやわらかく、素直になっていくのが、どうにもうらやましくて♪
タマヨハウスの女性たちを一方的に癒して、風のように去っていったトモミさんが
柊子の手の中に残ったボイスレコーダーの中で
静かに終わる人生でいいと思っていたけれど、今は、君らの未来が見たい!
とつぶやくとき、血は繋がっていても愛してくれなかった父の手よりも
ずっとずっとあたたかい、電子部品でできた小さな機械を
柊子と共に、この手の中に感じるのです。
関東には珍しく、雪の降り積もった寒い日に読んだけれど
やがてやってくる春を揺るぎなく信じさせてくれるような
温もりあふれる物語でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
女性専用の下宿に臨時管理人ときてやって来たトモミさん。もう半端なく魅力的! 真面目てお節介焼きで、でも全く不快じゃない。お話の中には心がギュッと締め付けられるところもあるけど、トモミさんのお陰で最終的にはほんわか気分になれる。大当たりの1冊だった。
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世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。
女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。
弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、
そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。
幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、
春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、
少しずつ「足りない何か」が浮き彫りなっていく。 -
表紙からは「児童文学」または「年配の女性の自伝的小説」と思ってしまったが、女性専用下宿にくらす女性3人に対し、生真面目で干渉してしまう男性初老管理人との連作小説。
お人よしのヒロインと、不器用で昭和のオヤジ的な管理人を軸に物語は進み、下宿する女性3人のそれぞれの親子(特に父娘)を描いている。
初めての作家さんだが、読んでで心地よい話。文章も好きだなあ。 -
家族というピースの欠けた三人と一人が一緒に住むことで、それぞれの足りない部分を埋めていくための新しい一歩を踏み出す、その過程がほかほかと温かくて心に沁みた。
生真面目で律儀でまっすぐに日々の生活を送る管理人のトモミさんに思わず「私も一緒に住まわせて!」と言ってしまいそうで。
生きているとそりゃぁたくさんの嫌なことが起こってくるけれど、それでも毎日毎日を丁寧に生きていけばきっとステキな明日がやってくる、だからがんばれ、と背中をそっと押してくれる、そんな優しい小説。
ただ、柊子ちゃんの抱える問題があまりにも多くて、ちょっとピントがぼやけてしまう気も。
でも大沼さんの小説は読む人に「誰かによって与えられる温かさ」に満ちていて一人じゃないっていいなぁとそうつくづく思わされる。 -
読みながらこのタイトルの意味は何だろう?と考えていたけれど、最後まで読んでも結局わからなかった。でもなんとなくこの話が始まった時よりもそれぞれの登場人物が少しだけ前に進めている感じがあって、トモミさんではないけれど「君らの未来がみたい」という気持ちになる内容だった。登場人物の中に根っからの悪人がいなくて、皆それぞれ自分の人生を頑張って生きている感じがあって、結果としてうまくいっていない今ではあっても、悩みつつもがきつつ今の自分と向き合っているんだなあと思った。
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読み始めて割とすぐから入り込めた。キャラクターに置いていかれることがなくて、前半の時点で、大沼さん、すきだなあ、としみじみ思った。
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タイトル「タマヨハウス」じゃない?
助っ人の姿を形作るのに時間かかった
それでも愛すべき本です -
(2016/10/3読了)
大沼さんの本は「真夜中のパン屋さん」シリーズ以外は初めてだったんだと読み終えて気づいた。
かなり前に数冊チェックしていたので、すでに読んだことがあると勘違いしていた。
あらすじを読んで、本の装丁を見て、こんな話だとは思わなかった。押し付けのない温かさのある作品。想像以上に満足したが、このタイトルはどうかな?ちょっと違うように思う。
語り部である柊子の話メインではあるけど、でこちゃんや涼子ちゃんも、トモミさんもみんなが主人公で誰も脇役ではない。
アメリカに帰って行ったトモミさん同様、3人の彼女たちの将来を見てみたいと思った。。。続編はあるか?
(内容)
世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、少しずつそれぞれの「足りない何か」が浮き彫りになっていく。
(目次)
プロローグ
春
夏
初秋
晩秋
冬
再春 -
就職浪人中の柊子、デザイナーの撫子、弁護士を目指す涼子の3人が暮らす女性専用下宿タマヨハウスにやってきた臨時の管理人トモミさん。3人が彼と過ごした数ヶ月の出来事の物語。
じんわりと暖かなお話。
家族との確執のある3人には、父親の様なトモミさんの存在がとても大きくなり、彼のお陰もあって、それぞれが前を向き先に進んでいくようになります。
トモミさんが本意ではなくとも残すこととなった『君らの未来が見たくなった』と言うメッセージに、鼻の奥がツンとなりました。
しばらく余韻を楽しみたい、素敵な本に出逢えて良かったです。