クローバー・レイン (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591129661

作品紹介・あらすじ

本を「作る人」になってみて、わかったこと、思ったこと。あちこちに熱い思いが迸る、小説が届くまでの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 小説って、それが原稿の時は作家のものだけれど、“本“にするという時点で、そこに携わる全ての人による“作品“になるんだね。
    出版界のあるパーティで、今は売れなくなった、泥酔した作家を家まで送り届けた、主人公彰彦は大手出版社の若手編集者。その作家の家で、原稿を見つけた。
    「どうしてもこの小説をを自分の会社で本にしたい。どうしても自分がこの本を作りたい」
    熱い思いで「この原稿を預からせて下さい」と作家に頼む。「どうせ、君の会社では出ないと思うからダメならダメと早く言ってよ」と言いながら作家は預けてくれる。
    彰彦の勤める出版社は大手で、売れない作家の本など出してくれるはずもない。編集長に推してみても、忘れられるくらい長い間、デスクの引き出しに眠らせられるか、その上の会議で簡単にボツになるかだ。そんなことなら、さっさと小さな出版社に原稿を渡して日の目を見たほうが、作家も幸せだ。
    だけど彰彦はどうしてもその小説を自分が本にしたかった。何故なら、その小説は“彼自身“の小説でもあったから。
    彰彦は熱意を持って、あの手この手で社内の人間を説得し、とうとう出版の決定がなされる。しかし、その先の道のりも大変だった。
    まずはその小説の“要“である詩の作者である作家のお嬢さんから引用の許可を貰うこと。それから、せっかく出版された本が、平積みさえされずに返本ということを避けるために、営業と一心同体となって本屋回りなど、あらゆる努力をした。
    本屋から「王子」と呼ばれているイケメン若手敏腕営業マンは「今をときめく編集者が首を掛けて作った本」などという触れ込みで、本屋のスタッフに印象づける。
    本を作るのは作家と編集者とデザイナーと印刷屋などだけではない。「読者」に届けるという本の大切な役割を果たすためには、“営業マン“も“製作者“の一人なのだと思った。
    他に、若手編集者たちによる「シロツメクサの頃」(その本のタイトル)をめぐる座談会が雑誌で企画してされるなど、「読んでほしい」と心から思う人たちによって読者に届ける戦略がなされ、「シロツメクサの頃」は重版された。
    そして、彰彦はじめ、小説「シロツメクサの頃」を読んだ読者たち自身の小説の続きが始まった。
    電子出版なら手間もコストもかからず、エコである。けれど、多くの人の手や足や頭や心を使って、なんとか完成する「紙の本」は、出来ただけで「ドラマ」、出来てからも「ドラマ」を産む。それくらい素晴らしいものだと思った。

  • 一気読みでした。

    ブクログに登録されている皆さんにとって、絶対面白い作品だと思います!
    この本は出版社の編集者のお話です。一冊の本がどんな風に出来上がっていくのかが、細かく描かれています。編集者がいいと思った作品でも、上を認めさせなければ出版にはこぎつけられないこと、こぎつけたとしても内容の見直しや装丁など、出版までに様々な頭を抱える問題が待っていること、それを読むだけでも読書好きの我々はワクワクするはずです。
    そして、主人公が作中で手がけている小説がとても興味をそそられます。ぜひ読んでみたくなります。

    “あの人“の上に優しく降り注ぐ雨になりたい‥‥
    “あの人“には届かなくても他の誰かを潤してあげることができれば‥‥

    何ともしっとりとした、静かに胸に響く作品でした。
    お仕事小説としても、人間ドラマとしても文句なしの一冊です。

  • 読み始めてすぐに、この小説はとても好きだ、と思った。
    本好きにはたまらないでしょう。

    一冊の小説が、著者→編集者→営業→書店販売員の連携により売れる本になっていく様を描く。
    その流れは、あたかも、熱い想いを繋ぐタスキ・リレーのようで、駅伝を思い浮かべてしまった。

    シロツメグサ(クローバー)に振る雨。
    そんな雨に誰しもなりたい。
    いつかなれるといい。

    他の方のレビューでも書かれていたけど、彰彦と冬実のその先が読みたい、と思った。

  • 大崎さんの本は初めてですが、本好きな人にこれはおススメ。
    読後感もとても良くて「いい本読んだ!」と幸せになれます。
    この作者さんの代表作でないのが不思議なくらい。

    本好きな人は「舟を編む」は好きだと思いますがそんなイメージ。
    映画化されたとしても、いい映画になる気がします。

    ついでに「シロツメクサの頃に」という本も
    架空ではなく外伝的に本当に出してほしいですね(笑)。

  • 罪つくりな本です。

    だって、大感動で読み終えたあとに、作者の大崎梢さんが本の中に登場させた
    もう1冊の本『シロツメクサの頃』を、読みたくてたまらなくなって
    どうしてそちらもちゃんと書き上げて、一緒に刊行してくれなかったの?!
    と、恨みがましい気持ちになってしまうから。

    大手出版社「千石社」の文芸部門の編集者 彰彦が、
    とある作家を自宅に送っていった際、炬燵の上で見つけた原稿。
    鼻の奥が痛くなるくらい泣き、心に得も言われぬ余韻を残した
    この『シロツメクサの頃』を、ぜひ本にしたい、預からせてください、と
    彰彦が頼み込むところから物語は始まるのですが。。。

    本が大好き!と言いながら、知りませんでした。
    1冊の本(ことに、人気が下火になった作家の本)を出すことが、こんなに大変だなんて。

    大手出版社なら資金もツテも潤沢にあることだし、
    これは!と思う原稿はすいすい出せるんだろうな、と思いきや
    大手だからこそ、作家や作品のランク付けが厳しくて
    確実に売れる人気作家の作品の陰で、何年もヒット作のない作家が書いた
    『シロツメクサの頃』は、どんなに内容が素晴らしくても会議にすらかけてもらえない。

    中小出版社からなら出してもらえるだろうから、さっさと手放せと言われても
    惚れこんだこの作品を、絶対に自分の手で世に出すのだと、
    編集長に直談判し、編集者の仕事から逸脱しても、手作りのプレゼン資料を作り、
    ありとあらゆる関係部署に頭を下げて配って歩く彰彦。

    「一冊はいつかきっと百冊にも千冊にもなる。
    数年後の誰かのために、その人を感動させるために、
    今、種を蒔いたり水をかけたりするのだ」と、頭の中では緻密な戦略を練り
    書店員にはジャニーズばりの爽やか笑顔を振りまきながら
    販売スペースを拡げ、好意的に扱ってもらうよう骨を折る、営業の若王子。

    大御所ならたやすく手に入る献本を断り、1500円払って書店でこの本を買い
    頼まれもしないのに、大手の全国紙に読後感を綴ってくれる
    気骨の大御所作家、柴山。

    手書きのPOPに思いの丈を綴り、工夫を凝らした飾りつけで
    本を手に取ってもらえるよう、店に並べてくれる書店員たち。

    心を揺り動かされた作品をきちんと本にして、書店の隅に埋もれさせることなく
    なるべくたくさんの読者のもとへ届けるために
    最大限の努力を惜しまない人たちがいるからこそ、
    私たちはこうして素晴らしい本に巡り会えるのですね。

    タイトルと装幀を見て、「うん?女性向け? というか、少女向け?」
    なんて誤解して手を引っ込めた方(特に男性)も多いと思いますが
    本が好きなら、ぜひぜひ引っ込めた手を戻して
    読んでいただきたい1冊です!

    • だいさん
      似たような筋のマンガがありませんでしたか?
      似たような筋のマンガがありませんでしたか?
      2013/01/26
    • まろんさん
      kuroayameさん☆

      本を書く人、本を形あるものとして世に出そうとする人、
      本を売る人。。。本を愛する人たちの日々の努力が
      とても胸を...
      kuroayameさん☆

      本を書く人、本を形あるものとして世に出そうとする人、
      本を売る人。。。本を愛する人たちの日々の努力が
      とても胸を打つ物語でした。
      ジャニーズ系美青年なのに、実は反骨精神のかたまりで、
      戦略を張り巡らす若王子さんが、とても素敵ですよ(*'-')フフ♪
      2013/01/27
    • まろんさん
      だいさん☆

      おお、この本に似た感じのマンガがあるんですか。
      最近のマンガは、『ちはやふる』と『3月のライオン』しか読んでいないので知らなく...
      だいさん☆

      おお、この本に似た感じのマンガがあるんですか。
      最近のマンガは、『ちはやふる』と『3月のライオン』しか読んでいないので知らなくて。。。
      不勉強ですみません(>_<)
      2013/01/27
  • 知らなかったなぁ・・・
    たくさんの本を読んできたけど、本1冊が出来上がるまでにこれほど時間と労力が必要とするなんて。
    売れてる作家さんならまだしも、売れていない作家さんが素晴らしい原稿が書けたとしても、それが世に出てくるのには多くの人の並々ならぬ努力が必要としてたこと。

    編集者、営業者、書店員の人たちが1冊の本を売り出すのに、こんなにも熱い思いがあるのかぁということを知り、今までの本、これから出会う本の1冊1冊が愛おしく感じるようになった。
    そんなことを感じさせてくれる1冊でした。

    「シロツメクサの頃」世にでてこないかなぁ・・・
    読みたくて仕方ないんだけど。

    • まろんさん
      おお!noboさんもやっぱり、『シロツメクサの頃』、読みたくなりましたか♪
      ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。

      本に関わるひと...
      おお!noboさんもやっぱり、『シロツメクサの頃』、読みたくなりましたか♪
      ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。

      本に関わるひとたちが、こんなに懸命に世に出そうとしてる姿を見ると
      読みたくてたまらなくなりますよねぇ!
      売れてなくても素晴らしい本がこの世にはまだいっぱいあると思うと
      ブクログ仲間さんのレビューを今まで以上に真剣に読んで
      本屋さんでも目を光らせなくちゃ!と思ってしまいます(*'-')フフ♪
      2013/03/08
    • nobo0803さん
      まろんさん

      本当に「シロツメクサの頃」出てくれないでしょうかね・・・
      まだまだ知らない本がたっくさんあるので、このブクログは貴重ですね!!
      まろんさん

      本当に「シロツメクサの頃」出てくれないでしょうかね・・・
      まだまだ知らない本がたっくさんあるので、このブクログは貴重ですね!!
      2013/03/09
  • これは、とてもよかったです!
    大崎さん、ちょっと変わった‥?
    満を持して書かれた感のある、出版社で出したい本を出すために編集者が奮闘する話。

    工藤彰彦は29歳。
    老舗の出版社・千石社に入社7年、文芸部3年。まずは順調なキャリアを送ってきた。
    ベテラン作家の家永の原稿を読ませてもらい、「シロツメクサの頃」というその小説に惚れ込む。
    ところが、既に盛りを過ぎたという評価のある家永はランクが低く、慎重に作品を選ぶ千石社では、会議にすらかけて貰えない。
    工藤の熱意で、何とか編集長を動かすことに成功するが‥

    ライバル社の相馬出版の国木戸は、うちからなら出せるから譲れと持ちかけてくる。
    千石社の営業担当で「王子」とあだ名される人気者・若王子の存在を知り、協力を求めるが‥?

    一方、作品中に娘の書いた詩があるのが問題かもしれないと家永。
    娘の冬実に掲載の承諾を得るため、会いに行くが断られてしまう。
    その詩はやはり作品の核になっている。
    工藤は承諾を得ようとするうちに、気まずくなっている父娘の仲も何とかしたくなるのだった。

    中盤、すごくいいなーと思いつつ、主人公のキャラがいまいちはっきりしないことぐらいかしらと考えていました。
    優等生的なのか、それほどでもない普通の男が成長する話なのか?というあたりが。
    実家に帰ったときに「打ち解けない息子」だとは、前半ではまったく気がつかない。(ちらりと伏線はあります)
    どういう人間なのかは、後半で明らかになっていきます。
    大好きだった「なおちゃん」の行方は。
    仕事にかける思いや、この作品に入れ込んでいく経過も含めて、重層的に盛り上がっていくのです。

    本好きにはこたえられない作品の素晴らしさと本への愛情、かかわる人の熱意や工夫、上手くいかない部分も含めた人間模様の親しみやすさ。
    しみじみと満足な読み応えでした。

  • あたたかい雨がじわーと心に染み入って、この本に出会えてよかったなという気持ちにさせてくれるお話でした。

    ここのところ、大崎梢さん何冊か読んだけどダントツでいい。
    本に関わる仕事をしている人のお話で、今回は文芸書の編集さん。
    今まではエンタメ色の強い話だったけど、これは作中の「シロツメクサの頃」のように普遍的な感動作ですね。
    気分転換にちょっとだけ、と思って読み始めたら、結局最後まで読んでしまいました。
    シビアな出版業界のビジネスの裏側を垣間見れるところも、いつもながら本好きには興味深いところ。

    本屋さんのレビュー集「The Books」を直前に読んだこともあり、多くの人に読まれるベストセラーだけでなく、一人でも二人でもその人の人生を変えてしまうような本がたくさんあるんだなぁ、ということをすごく実感を持って感じることが出来ました。
    日々、いろんな本を読んで勝手に感想書いているけど、もっと一冊一冊大事に読んでいこうと思いました。

    いい本を届けたい人たちの想いと、家族への不器用な愛情がいい具合に合わさって、それぞれのビターな部分をやさしい春の雨が少しずつ少しずつ溶かしていくようで、みんな誰かの雨になれるんだなと思えたラストもよかったです。

    • まろんさん
      tiaraさん、こんにちは!

      編集の仕事をかなり逸脱してまでも、
      これは!と思う原稿を世に出すために奔走する人がいたり
      大手出版社の看板を...
      tiaraさん、こんにちは!

      編集の仕事をかなり逸脱してまでも、
      これは!と思う原稿を世に出すために奔走する人がいたり
      大手出版社の看板を鼻にかけることなく、地道に書店員さんと触れ合い
      信頼を勝ち取って、地味でもよい本を並べるスペースを獲得する営業さんがいたり
      その必死さがうれしくて、心にしみる本でした!

      それにしても、こんなふうに描かれてしまうと
      『シロツメクサの頃』が読みたくてたまりませんよね?!
      2013/02/18
    • tiaraさん
      「シロツメクサの頃」ほんと読みたいですね~。
      クローバー・レインというタイトルのもとになる冬実の詩がすごく気になります。

      こうして本を手に...
      「シロツメクサの頃」ほんと読みたいですね~。
      クローバー・レインというタイトルのもとになる冬実の詩がすごく気になります。

      こうして本を手に取るまでに、いろんな人の熱意や努力がいっぱい詰まっているんだなぁと思うと感慨深いですよね。
      2013/02/18
  • 2012年6月発行 
    大手出版社“千石社”の若手編集者 工藤彰彦は、業界パーティーの帰りに過去の人になりつつある家永嘉人の新作原稿に出会う。一読しただけで、その作品の虜となり、一編集者として世に送り出すことを誓う。

    そこからの展開は、出版業界事情が自然な起伏を作る。が、それ以上に 作家や編集者が ひとりの人間として抱く「特別なだれかに読んで欲しい」という強い願いが物語を牽引する。

    出版は、実際には文字だけで本という一つの世界を作り出そう、という生業。強烈な自我や、疑心暗鬼、嫉妬などなど、見たくないものだらけの中で棲息しているんじゃないか?という気もする。

    でも、そんなことはサラリと流して、ただただ良い作品が世に出て欲しいという希望が込められている。
    万感の思いを伝えるために、膨大なエネルギーを注いで何かを生み出す。 物語たるもの、そうであってほしい、と。

    いささか時間の経過がわかりにくかったり、心理描写なのか?大げさなのか?ごじゃごじゃしてしまったり、だれか風っぽい?と感じさせたりするところはままあるけれど..........

    皆さんが書いているように本好きにはたまらない。
    一気読み。
    スィートだけど、とっても良かったです。
    人にすすめたくなる本。

    これからはどこから出た本なのかも 気になりそう。
    そんな本を出したのは、
    ポプラ社 でした。

    映像化するなら...... 瑛太と 若王子は三浦翔平 どうかな

  • 大崎さんは、成風堂書店の頃から好きで読んで
    いるけど、これは、中でもピカイチに好きな作品。
    タイトルのつけ方も素晴らしくて、じんわり心に
    響いてくる。
    雨のイメージが大きく変わった気がする。

    いわゆる「優等生」の若手編集者が、1つの原稿と出会い、
    なんとしても本にしたいという思いに突き動かされ、
    周囲の反対を押し切って行動していく。
    その後ろにある思いや、いくつもの出会い。
    この作品のこと、語りたい思いもあるけれど、
    自分の中に取っておきたいような気持にもなる。
    まだ読んでない人には、多くを語らずに、
    手に取って読んでみてほしい。

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著者プロフィール

大崎梢
東京都生まれ。書店勤務を経て、二〇〇六年『配達あかずきん』でデビュー。主な著書に『片耳うさぎ』『夏のくじら』『スノーフレーク』『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』『めぐりんと私。』『バスクル新宿』など。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

「2022年 『ここだけのお金の使いかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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