- Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591134214
作品紹介・あらすじ
13世紀、フランス。"天啓"を受けた羊飼いの少年・エティエンヌの下へ集った数多の少年少女。彼らの目的は聖地エルサレムの奪還。だが国家、宗教、大人たちの野心が行く手を次々と阻む-。直木賞作家・皆川博子が作家生活40年余りを経て、ついに辿りついた最高傑作。
感想・レビュー・書評
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天啓を受けた少年・エティエンヌは、仲間たちとともに聖地エルサレムを目指して旅立つが、彼らの行く手には思惑や打算を抱えた人々が現れてきて、道行は波乱含みに進んでいく…
「開かせていただき…」よりももっとシンプルな文体で、波瀾万丈な十字軍遠征を描きます。さまざまな悪巧みやずるがしこさを含みつつ、天啓、神というものに対してのそれぞれの信望のしかたを描き分け、なかなかに読み応えのあるお話となっていました。
少年が主人公なので、より読みやすくて、奔放な少年ルーとエティエンヌを慕うアンヌのやりとりなどはコミカルでジュブナイルのような味わいがあって楽しめます。
天啓が本物かどうかなどというのは信じるものをもたない人には判らない話であり、だからエティエンヌのさまを哀れだと感じてはいけないのでしょうが、「なにかに身をささげるために、なにかを失う」ことの残酷さを感じずにはいられないのでした。
後日談がありそうでもあるさっぱりとした終わり方でしたので、読み心地はとてもよかったのですが、エティエンヌは幸せなのか?というところだけ、そういうふうに気になったのでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
やっぱり面白い。
そして、皆川博子氏の作品にしてはとても読み易い。
難解な暗示を込めた幻想的な描写や、時空を行ったり来たりする複層的な技術をほぼ用いることなく、万人にとって非常に分かりやすい形で、そして若干のミステリーを味付けとして加えて、仕上げてある。
中世ヨーロッパに生きる登場人物にとって神の実在/非在が為す意味、そしてそこから派生する人間の心のありようといった、興味深いテーマも描かれている。
面白いんだが、少々物足りなさを感じることもまた事実。
少年十字軍という史実を土台としているのでやむを得ないところはあるが、「薔薇密室」に見られた、鮮烈な映像を伴うかのような文学性と縦横無尽に張り巡らされた謎が収斂していく緻密性が融合して昇華した何物かがあるわけではなく、「冬の旅人」の如く、まるで永遠に物語は継がれていくんじゃないかと思わせる悠遠かつ壮大な流転が紡がれているわけでもない。
ラストシーンの描写もまた、あっさりと終わったな、という印象を持った。
今年で御年83歳。
これほどのものを書かれるというだけでも敬服の極みだが、今一度彼女のすべての技量を詰め込んだ新しい大作を読んでみたい、という欲もある。 -
実際の少年十字軍の悲惨を、皆川博子女史の筆はこうも残酷でありながら美しい物語に仕上げてしまう・・・。
レイモンの見栄から始まった虚言がどんどん自分を浸食していく様とか、堕落した聖職者達とか、ならずものと通じてる貴族とか・・・人間の邪悪さや汚濁をこれでもかこれでもかいやまだだ・・・ってぐらい書き上げていながらもその腐臭をさせない圧倒的筆力・・・これが・・・皆川博子・・・。
奇跡はない、だが圧倒的な虚無は間違いなく存在するのだ・・・。圧倒的耽美、無惨、そして死。
翻弄される民衆は、少年たちはエルサレムへ辿り着くのか・・・??
『少年十字軍』、圧巻です。
ルーが・・・ルーの萌えがすごい・・・。
森で暮らしていた自然児だった狼少年が年上の少女に素直になれないながらも気に掛けてるのが・・・こりゃあ萌えだ・・・。
ドミニクには懐いてるのとかも・・・自分と同じく素直じゃない兄ちゃんには親近感覚えてる少年・・・。
ジャコブとドミニクっていうかドミニクのジャコブへの気持ち・・・あれは・・・もう言い逃れできねえよ・・・。
そういう目で読んでしまったことを許してほしい・・・いやだってあれは・・・なあ・・・???普通ただの同僚のために命を捨てられる???違うでしょ??? -
面白い!と言ってしまうにはあまりに不敬、不遜かもしれない。
実在した少年十字軍のエルサレムへの悲劇的な遠征を。
少年たちの無垢と大人の汚なさと、信仰と虚無と、仲間。
「エティエンヌがいるから大丈夫!」
ああこの言葉の残酷さに気づかない無垢さは正義なのか?
信仰は美しい、けれどそれは何かを失うことと引き換えのような気もする。
全然関係ないけど、ドミニクとジャコブにもやっとしたものを感じたのはわたしだけじゃないはず…だよね…。
彼らの未来に、神のご加護がありますように。 -
子供たちはエルサレムへ行けるのか?という好奇心と、旅の途中で起きるちょっとした出来事にわくわくしながらの読書。ページを繰る手が止まりません。子供たちがみんな可愛い! 聖も俗もカンケーねえよな狼少年ルー、頭の回転が早くてちょっと大人びている助修士ドミニク、世俗にまみれつつもお馬鹿すぎて逆に可愛らしいレイモン。神の啓示を受けたエティエンヌは守ってあげたくなるほど純粋すぎて眩しい。
文章は三人称が中心ですが、昔の記憶を失っているガブリエル(成人)のみがときおり一人称で現れ、独特な色を添えています。
装丁も可愛らしく、児童文学なのかなと思いました。児童劇団の脚本が元になったというあとがきに納得です。とくに十字軍について知っていなくても小学校高学年くらいから十分に楽しめる内容だと思います。 -
『聖餐城』をジュヴナイル化したような印象。
先が気になって読み進めながら、読了してしまうのがとても惜しかった。そういう意味では確かに物足りない。
先のことを考えると本当にハッピーエンドなのか?という疑問はありつつ、こういう形で(とりあえずの)決着がついたことは良かったと思う。
ラストの4行がとても好き。 -
歴史の中の一コマではあるが、ファンタジーと言ってもいい作品。身勝手な人間の中にあって無垢な魂とはこういう物だと見せられた。大天使ガブリエルの名前をもつ記憶をなくした僕の見る青い蝶が神秘的で、最後はあまりにも上手く行き過ぎたような気もするが、すべからく物語はハッピーエンドは望ましいので★5。
それより、『開かせて‥」の続きがあるなら、早く読ませていただきたいです。