すてきな地球の果て (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591135624

感想・レビュー・書評

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  • これは、とてもいい本だ。
    写真を眺めエッセイを読みながら、何度もそう思った。
    著者の田邊優貴子さんは、南極や北極の雄大さ、美しさ、そこに息づく生命の神秘さ、素晴らしさをフォト&エッセイ「すてきな地球の果て」で思う存分伝えてくれる。
    本を開いたとたんに、南極・北極の自然が光や風とともに広がりだす。動物たちはひょっこり顔を出し、その鳴き声に驚かされ息遣いが耳をくすぐる。まるで飛び出す絵本のように、わたしの目の前にそれらが次々と立ち上がってくるのだから、このワクワク感は半端なかった。

    目を瞑る。南極大陸に降り立つ。あまりの静けさに、自分の鼓動と呼吸の音ばかりが聞こえる。生き物の気配がまったくない。まるで想像の世界にある火星のよう……田邊さんの描く世界を思い浮かべる。
    耳をすませば、ギギギと氷がきしむ音、プツプツと氷が融ける音、水が動く音……文面から、かすかに聞こえてくる。
    そっと目を開ければ、アデリーペンギンや、ほのぼのと休息するヴェッデルアザラシ、つぶらな黒い瞳のユキドリ……息を凝らして眺める可愛い写真には釘付けにされる。
    著者のように、うつぶせになりながら北極海に浮かぶ島で可憐な花々を眺め、ごろりと仰向けになっては眩しい青空を見上げる。


    南極にはどんな世界が存在しているのだろう。
    どんな音、どんな色、どんな光、どんな風、どんな匂い。
    人間が決して根づくことができなかった世界はどんなものなのか。
    そんな世界で、なぜ自分がこの世界で生まれて生きているのか、もしかしたらほんの少しはわかるかもしれない。

    家族が遺伝性の病で、もしかしたら自分もそのうちに歩けなくなるかもしれないという思い。徐々に心を覆っていく生きるということへの虚無感。そんな感情を抱いたことがある田邊さんにとって、南極への旅(研究、調査)は生きることの意味を見つける旅でもあったのだろう。

    自然はいつも脆く、そして力強い。
    その脆さに煌めきを感じ、田邊さんはいつも心を揺さぶられる。それは、日常の暮らしの中で忘れられている、生きていることの根元的な悲しさと、いとおしさを彼女に問いかけてくる。

    誰かの生命がなくなって、誰かの生命になっていく。
    生き物は、生まれたときからすでに悲しみを背負っているのかもしれない。生きるということは悲しいものなのかもしれない。
    そう田邊さんは、動物たちの生死を前にして思いを馳せる。
    けれど、それは決して哀れだったり可哀想だったり、そんな哀しさのことではないとわたしは思う。そしてそういう思いを受けとめてくれるかのように、そこにはとてつもなく強い生命の佇まいがあることを田邊さんは教えてくれた。
    それは遥かなる生命の物語。

    南極海を北進するオレンジ色のしらせの上に舞うオーロラを眺め「すてきな地球の果て」での彼女の旅は終わる。


    田邊さんは今も南極で何かを感じ、見つける旅に出ているのだろうか。そう思っていたのだが、現実は違うようである。その衝撃的なニュースを知って、気持ちの整理がつかない部分があるのも事実。
    でもこの本で感じた彼女の真摯な想いには嘘偽りがないはずだ。そしてこの本からわたしが感動をもらったことも真実。だから、いつかまたこんな素敵な本を届けてほしいなと願ってる。


    フォロワーさんのレビューから興味を持って鑑賞したアニメ「宇宙よりも遠い場所」
    それがとても良かったので、感激した~感動した~とレビューでわいわいしてたところ、フォロワーさんから、報瀬(南極目指す女子高生)の母親・貴子(南極で行方不明)が書いた本「宇宙よりも遠い場所」のモチーフになったんじゃないか、と教えていただいたのが「すてきな地球の果て」でした。すぐに図書館から借りることが出来ました。そしてそして、なんと、嬉しいことに、その後すぐに中古本販売チェーン店で、ほぼ新品の状態で紀行文の棚に並んでいる本書を見つけました。真っ青な南極の空の色の背表紙が目に飛び込んできたときの嬉しさといったら。とうとう外出自粛となった今、お家で何度も眺めて楽しんでいます。

    もしかして、フォロワーさんよりも先に読んじゃったかもしれません 笑

    • 沙都さん
      地球っこさん、コメント失礼いたします。

      先を越されてしまいました(笑)
      コロナウイルスの影響で配送がだいぶ混乱していたのか、配達指定...
      地球っこさん、コメント失礼いたします。

      先を越されてしまいました(笑)
      コロナウイルスの影響で配送がだいぶ混乱していたのか、配達指定日時を二回すっぽかされて、今日ようやく受け取れました。

      地球っこさんのレビューを拝読した限り、素敵な本なのでしょうね。自分は先に写真だけパラパラと見たのですが、これだけで元が取れた気がします。(中古しか見つからなかったので、安く買えたので)本文はこれから読み始めるのですが、とても楽しみです。
      2020/04/26
    • 地球っこさん
      とし長さん、こんにちは。

      先を越しちゃいました、すみません 笑
      でも、運命の出会いだったので許してくださいませ(*^^*)

      と...
      とし長さん、こんにちは。

      先を越しちゃいました、すみません 笑
      でも、運命の出会いだったので許してくださいませ(*^^*)

      とてもわたしの好きな感じの写真だったので、もう一目惚れでしたよ!
      本当に素敵な本を教えてくださって、ありがとうございます。

      コロナの影響は、どこまでも広がっていきますよね……
      とし長さんもお身体に気をつけてくださいね。
      2020/04/26
  • 本書の紹介によれば、筆者の田邊さんは、学者・研究者。研究活動の一環として、北極、南極を訪れることがある。本書は、その時の訪問記である。エッセイと写真で構成されている。

    写真の美しさに、心を奪われる。
    地球上の他の場所では絶対に撮影できない、北極や南極でしか撮影できないであろう写真も多い。
    一番印象に残る写真は、表紙の写真。南極の氷原、氷原の高さを超えて露出した地表部、それを座って悠然と眺める人。人が座っている岩には、苔のようなものが生えていて、南極にも生命が息づいていることが分かる。
    そんな驚きを与えてくれる写真が沢山。

  • 装丁の美しさと中の写真に一目惚れして手に取った。しかし、読んでみるとそれだけではないどころか、それ以上に文章が素敵だった。
    「はじめに」で一気に中に引き込まれ、「僕が旅に出る理由」から始まる著者の心の旅には驚きと、これまでの忘れていた純粋な何かを思い出させられた。僕はまだペルーの星空にもアラスカの果てしなさにも出会えていないのだろう。
    南極や北極での自然に対する温かく真っ直ぐなまなざしから導き出される世界はとても清々しく、静かに心に迫ってきた。決して派手ではないし、分かりやすい感動ではない。しかし、著者の人柄なのだろうか、文章と写真に漂うなんとも言えない透明感と、地球・自然・時間に対する見方や考えの深さが、転じて、人間が生きるということを肩肘張らずに語りかけくるがために、読んでいる側も一緒に、そのことをごく自然に考え、色々な思いが湧いてくるのである。最終的に、読後は何とも言えない透明感と清々しさが漂うまま、じわじわと感動が押し寄せてきた。

  • 南極と北極という地球の果て。そこは日本からは考えられないぐらいの絶景や静けさ、命があふれる場所だった。美しい、なんて単純な言葉だけではない、大自然の営み。著者の感動が真っ直ぐに伝わってくる。写真だけでも圧倒されるのに生で見たらその感動はどんなものだろう。北極、南極。絶対に行くことはないが一度ぐらいは雄大な景色を見てみたいものだ。

  • 北極と南極。今まで全く興味も知識もなかったので、とても新鮮に読むことができました。

    北極や南極のしんとした静けさや身を切るような寒さなど、読んでいてとても伝わってきます。
    また文章中に出てくる箇所の 実際の写真も載っていて、さらに臨場感をもって読むことができました。

    2000年前のアザラシのミイラには感動しました。

    地球ってすごい…と改めて感じさせられます。
    そしてそれを研究されている方々も。

  • 写真も素敵で、あたかもその場にいるかのような気分になります❗

    本当にすてき。

  • 北極、南極、地球の果てにある未知の世界と雄大な自然。なんて胸が踊る景色だろうか。大切な感情を思い出させてくれる本でした。

著者プロフィール

1978年青森県生まれ。植物生態学者(国立極地研究所・助教)北極・南極などの極地で生きる植物や湖沼を対象に研究をおこなう。2009年に南極の湖底で”コケボウズ”を発見。2014年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。これまでに北極4回、南極に5回調査で訪れている(2015年5月現在)。2011年11月からWebナショジオで連載。2015年3月「情熱大陸」出演。著書:『すてきな地球の果て』(ポプラ社)。

「2015年 『北極と南極』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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