歩くような速さで (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
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本棚登録 : 201
感想 : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591136720

感想・レビュー・書評

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  • 映画監督、是枝裕和さんのエッセイ集。

    フランスで取材を受けた際、死者について描こうとする理由を問われた是枝さんの、苦し紛れの回答が印象的だった。

    「日本にはあなたたちと違って絶対的な神様がいないから、その代わりが死者なんじゃないの。ご先祖様に顔向けができないって言葉もあるし。恥ずかしくない生を生きるために”死者”という存在が必要なんだよ、きっと」(P40より引用)

    思いつきで言ったそうだけど、死者を神様のように想う習慣はあるなあ、と共感した。生きていく上で、死者をいいように利用しているのかもしれない。

    戸惑っているなら、戸惑ったままでもいい。
    そういう気持ちで作品を撮っているのだと知って、余裕を持つことの格好良さみたいなものを感じた。明確な答えなんて用意しなくてもいいのだ。

  • 是枝監督の最新刊を読みたいと思っているが、まだ読めないでいる。その代わりに?図書館の本棚から手にとってみた。

    吉野弘の「生命は」が引用されている箇所。
    "生命は
    自分自身だけでは完結できないように
    つくられているらしい
    (略)
    生命は
    その中に欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ"
    この部分を引用したあと。
    "人は自らの欠点を努力で埋めようとする。その努力は現実でも映画の中でも美徳として語られてきた。ずっと昔から。しかし果たして人は一人の力だけでそのような克服を成し得るのか?成し得たとしてそれは本当に美しいのか?この詩はそんなふうに私たちの価値観を問い直しているように思った。
    (略)
    ヒーローが存在しない等身大の人間だけが暮らす薄汚れた世界が、ふと美しく見える瞬間を描きたい。そのために必要なのは歯をくいしばることではなく、つい他者を求めてしまう弱さなのではないか。欠如は欠点ではない。可能性なのだ。そう考えると世界は不完全なまま、不完全であるからこそ豊かだと、そう思えてくるはずだ。"55ページ


    「見えないものと見えているもの」というメディアについて書かれているところも、初出は2007年なのだが、今ますます書かれていることが切実になっていて、日本のメディアは10年前から下り坂を下り続けているのだなあと実感して悲しくなった。

    新聞の連載が中心なので短くて読みやすいのだが、いろいろ考えさせられた。
    全作品を見ているわけではないが、是枝監督の映画が好きな理由がわかった。

  • 読みやすいし共感できるところも多い。イーストウッドのインタビューを思い出した。映画も観たくなる。

  • 是枝裕和監督。日本の映画監督の中では、トップクラスに好きな監督です。その是枝監督の文字の作品を読むのは、初めて?という感じでしたので、ドキドキしながら読み始めました。「映画は大好きだけど、文字作品は、どうだろうなあ、、、あんまグッと来なかったら、個人的にはショックだなあ、、、」とか思いながら。

    結果。杞憂でしたね。映画監督として抜群の存在の是枝監督は、文章家としてもお見事でした。やっぱそらね、映画が本業の方ですので、映画の方がグッとくる率は断トツですが、文章も良い。良いんだよ。こういう考え方をする人が好きなんだよ俺は!という感じの文章がズラリ、でしてね。読んでて嬉しくなっちゃった。

    色々なエッセイが収録されていますが、その中の一つ、「欠如」というエッセイが、凄く印象に残りました。是枝監督自身の映画「空気人形」(自分はまだ未観なのです、、、すみません)に絡めた話のエッセイなのですが、文中で引用されている詩人・吉野弘氏の「生命は」という詩の素晴らしさがヤバい。

    あと、是枝さんの言う「欠如とは欠点ではなくて可能性」という考えは、プロ野球人の落合博満さんの考え方とも繋がるなあ、と思った次第。落合さんは、中日ドラゴンズの監督をされていたとき、選手の欠点を見ると、まず「この欠点を直そう」とは考えずに「この欠点を逆に上手く利用できないか?」って考えた、んですって。「欠点を直すことは良い部分が失われることでもある」みたいな名言を残してもおらえるはず。禅問答みたいやな、とかも思いますが笑、いやあ、深いなあ~お二人とも。

    色々とネットで調べてみると、是枝監督、書籍も沢山出しておられる感じです。これからは、ガンガン読んでいこうって思いましたね。で、映画の方も、ガンガンと観て行きたい。まだ、全作品は、観ること出来ていないんですよね、、、あかんがな。

    ま、間違いなく、自分にとっては最高峰の存在です。是枝裕和さんという人物は。是枝監督の、物事に対する視点、視線。それがもう、たまらなく、好きなんですよええ~。

  • 是枝映画は7本以上は観ていて、すごくファンというわけではないけれど割と好きで、面白いか面白くないかはちょっとよくわからなくて、でも目が離せなくて、毎回わかるようなわからないような気持ちになって、それが微妙にクセになるのです。

    初期の映画は確かに「残された人たちの世界」という確固としたテーマがあったように思います。最近の作品はよくわからない。

    このエッセイ発売のきっかけになった「奇跡」という映画は、観たことがありませんでした。痛恨のミス。映画を観たあとならもう少し理解できたのでしょうか。

    映像でははっきりとはわからない監督の考えのようなものが、文字になっていれば少しは理解できるかしらと思ったら、文字で読んでもよくわかりませんでした。頭に入ってくるのは断片的なシーンばかり。とても不思議な体験ができました。

  • 欠如は欠点では無い、可能性なのだ
    あと味の苦かったあの旅も無駄にはならなかった
    「絶交だからね」と笑った時の夏川さんの美しかったこと
    ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    感情はその外部との出会いや衝突によって生まれる
    知っていて何もしない人間は、無知で何もしない人間より罪が重い
    昭和の記憶を呼び覚ます駄菓子の感じがたまらない
    今思えばそんなことも懐かしい母の思い出のひとつである
    今でも台風が来ると僕はあのカナヅチの音を思い出す
    僕が人生の中で最も“男の子”だった時代である
    故郷と呼べる場所は、この世に存在しないという寂しさ
    イチゴはイチゴの甘さだけでそのまま食べた方が美味しい
    こどもたちの動きと対をなす、この秘められた動
    話す力は、まずこの聞く力があって生まれる
    主役とは画面に映っていない時にも、その映画を支配している人のこと
    これが最高に気持ち良かった
    作り手が原則にこだわるあまり・・・
    メディアには定住者に対して警告を発し続け、覚醒を促し続けること
    目立たない地道な積み重ねが・・・今回の結果には反映された
    多様性を背景にしながら、その差異を越境し・・・繋がれるという豊かさ
    自分の力の及ばなさや、どうしようもない現実・・・だから唄います
    美味しいものを、いや、本当にあちこちの美味しいものを・・・
    たとえどんな極悪人だとしても誰かが殺されても喜ぶのは慎むべき
    忘却を強要するのは、人間に動物になれと言うに等しい

  • 【いちぶん】
    僕は主人公が弱点を克服して家族を守り、世界を救うといった話が好きではない。むしろそんなヒーローが存在しない等身大の人間だけが暮らす薄汚れた世界が、ふと美しく見える瞬間を描きたい。その為に必要なのは歯を食いしばることではなく、つい他者を求めてしまう弱さなのではないか。欠如は欠点ではない。可能性なのだ。
    (p.55)

  • 思慮深さ
    考え方の方向性

  • 是枝さんの作品は見たり見ていなかったり。
    なんとなく遠ざけていた作品もあるが
    見てみようかなという気持ちになる。
    映画の中のリアルな空気感が生まれる感じがすこし分かった。

  • 久しぶりに読み終えたくなかった本だった。どっちか言い切れないような曖昧な思いやありきたりな日常にある密かな輝きみたいに、一見分かりづらいものにピントを合わせていくような視線に魅かれました

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著者プロフィール

著者)是枝裕和 Hirokazu KORE-EDA
映画監督。1962 年東京生まれ。87 年早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオン に参加し、主にドキュメンタリー番組を演出。14 年に独立し、制作者集団「分福」を立ち 上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(04/カンヌ国際映画祭最優秀男優賞)、『そ して父になる』(13/カンヌ国際映画祭審査員賞)、『万引き家族』(18/カンヌ国際映画 祭パルムドール、第 91 回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)、『真実』(19/ヴェネ チア国際映画祭オープニング作品)。次回作では、主演にソン・ガンホ、カン・ドンウォ ン、ぺ・ドゥナを迎えて韓国映画『ブローカー(仮)』を 21 年撮影予定。

「2020年 『真実 La Vérité シナリオ対訳 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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