- Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591140031
作品紹介・あらすじ
終戦直前、焼け跡から助け出された赤ん坊。
長じて報道写真家となった彼女が目撃したものは――
ひとりの女性の人生とともに、戦後日本、そしてアメリカの姿を描き出す感動作。
◆物語◆
第二次世界大戦末期、焼け跡の瓦礫の中から助け出された赤ん坊、茉莉江は、十歳になった年に母と二人、船でアメリカに渡った。
茉莉江は、自らの手で人生を切り拓いて報道写真家となり、人間の愚行と光を目撃していく。
時代の波や環境に翻弄されながらも、人を愛し、真摯に仕事に向かった女性の命の物語。
感想・レビュー・書評
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終戦直前、空襲の焼け跡から助け出された赤ん坊、茉莉江。
少女となった彼女はアメリカに渡った。
過酷な運命を背負いながらも様々な人々に出会い助けられながらフォトグラファーとなった。
彼女の残した足跡をある女性が一つ一つ丹念にたどっていく形式をとる。
茉莉江とこの女性の関係は最後まで伏せられているが、ああ、そういうことかと。
これは茉莉江が最後に出した答えなんだと。
そこには希望がある。たとへ望みが希(まれ)なことだとしても。
絵を描くことが好きだった少女が、ふとしたことで写真の魅力に取りつかれる。
美しいものだけをとりたいと願った無垢な心が、いつしか戦禍へと向けられるようになっていく。
太平洋戦争から始まった彼女の人生はあの大惨事へと。
その間、いったい人間は何をしていたのだろう。
ベトナム戦争、朝鮮戦争、湾岸戦争、チェチェン進攻。
戦争は終わることがない。あまりにも人間は愚かだ。
でも茉莉江は決して希望を捨てることはしない。
彼女は信じている、人間の持つ善の力を。
この本のテーマの一つでもある戦争と平和、そして人間の罪と罰。
このテーマに違うことのない重厚な骨太な作品である。
私は小手鞠さんの作品を読むのはこれが初めてだ。
恋愛小説家として有名な作家さんとのこと。
いやいや、本当か?だとしたらすごいな。
言葉もろくに話せず男の子のようなやせっぽっちの茉莉江。
その茉莉江がグランドセントラルステーションに降り立った場面が何度も何度も思い出される。
2001年8月、私はあの街にいた。それから1か月もたたないうちにあの事件は起こった。
それもあってなんだか感傷的になってしまった。
グラウンドゼロと名を変えてからまだ訪れていないあの場所へもう一度戻りたい。
そこに行ったら茉莉江に会えるような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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こんにちは。
いつも花丸ありがとうございます。
素敵な本でしたね。
小さな茉莉江のがむしゃらに生きた姿に心を打たれました。
...こんにちは。
いつも花丸ありがとうございます。
素敵な本でしたね。
小さな茉莉江のがむしゃらに生きた姿に心を打たれました。
リンゴの描写が非常に印象的でしたね。
リンゴ畑を見る機会は多々ありましたが、そういえば花の咲き方まで目にとめることはありませんでした。
そういえば、NYもビッグアップルといわれますものね。
どこまでもリンゴ尽くしですね(笑)2014/08/13 -
vilureefさん、花丸とコメントありがとうございます。
私にとっても心が揺さぶられる素敵な本でした。
茉莉江の足跡を訪ね歩いてい...vilureefさん、花丸とコメントありがとうございます。
私にとっても心が揺さぶられる素敵な本でした。
茉莉江の足跡を訪ね歩いている人の理由がわかった時、あ、茉莉江らしいなと。
あと表紙のリンゴ、綺麗な色ですね。
かじりつきたくなりました。
vilureefさんは、9.11の1年前にNYにいらしたのですか?
なら猶更あそこに飛行機が…と絶句されたことと思います。
起こってはならないことのオンパレードが史実であっても、忘れてはいけないんだなと。
時々思い出すようにこういう本を読むことが必要だと改めて思いました。
vilureefさんのレビュー、毎週楽しみに拝見しています。
ノンフィクションも色々読まれてますね。
遅読で情報に疎い私には、情報の宝庫で助かります。
これからも本棚におじゃまさせていただきますので、宜しくお願いします。
2014/08/14 -
こんばんは。
表紙、本当に素敵です。
小さな掌サイズのリンゴが物語にしっくりきますよね。
私は9.11のつい1か月ほど前まで半...こんばんは。
表紙、本当に素敵です。
小さな掌サイズのリンゴが物語にしっくりきますよね。
私は9.11のつい1か月ほど前まで半年間ほどNYにおりました。
当時、WTCのオフィスでインターンをしている友人もおりひどく動揺し国際電話を掛けたのがまだ昨日のようです。
私もなにぬねのんさんの本棚好きですよ~♪
気になる作家さんも目白押しで。
畑野さん、私も読みたい!!
こちらこそ、よろしくお願いします(^_-)
2014/08/15
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女性報道写真家の一生をつづった感動作、冒頭の焼け跡から助け出される所思わず生きていてくれと叫びたくなってしまいました。母との死別、ニューヨークでの一人のつらい生活、カメラとの出会いカメラマン坂木との恋愛がいじらしくあこがれの描写が思わず応援したくなりました。数々の事件の描写の所は自分は何をしていたのかと考えながら読んでいました。読み始めたら止まらないラストまで一気読みの感動作まちがいなしです。
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戦争中、瓦礫の中から救い出された茉莉江。幼い頃にアメリカに渡り、ある日カメラに出会う。美しいものを写すことの好きだった茉莉江が、紆余曲折を経て報道写真家になる人生を描く。
物語は茉莉江目線と美和子という女性の目線から語られる。戦後から9.11まで茉莉江と共に歩み、途中まるでノンフィクションのドキュメンタリーを見ているかのような気持ちになった程、瑞々しい生が描かれていた。
悲惨な歴史はくすぶりながらも持続し、創造力にも想像力にも欠ける凶悪な事件・戦争が後を絶たない。ラストの茉莉江の講演の言葉がとても心に響いた。 -
これがノンフィクションでないなんて、本当に信じられない。
フィクションである、と頭でわかっていても読んでいる間中、これを書いたのは2001年にWTCから救い出された女性、美和子であり、この本の主人公は実在の女性フォトグラファー鳥飼茉莉江である、と思わずにはいられない。
戦争の炎の中から救い出された孤児茉莉江の人生は、そのまま日本の戦後の歴史であり、世界の戦争の歴史でもあった。
この世界にあるたくさんの争いと憎しみ、そこから生まれる虚しさと悲しさ。けれどそれが現実。
その悲しい現実から目を反らすことなく、ただまっすぐに記録し続ける、それがジャーナリストとしての「生」。
とても深く豊かで切実で壮大なこの物語がこの世に生み出されたことに心から感謝する。 -
読み応えのある本に出会った。
多くの人に読んで欲しい。
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報道写真家茉莉江の足跡を辿るストーリー。
終戦間際の岡山で、空爆にあった民家の瓦礫の下から救い出された赤ん坊だった茉莉江。
様々な縁を経て、アメリカで写真に出会い、報道写真家となります。
彼女が撮り続けてきたものは、酷く残酷で冷酷なものばかり。
人の持つ悪のせいで、世の中から戦争がなくならないと茉莉江は言います。
しかし、その悪を包み込む善があれば、悪を消すことは出来なくても、覆い尽くすことは出来る。
写真を通して、善と美の種を植えたいと願っていた茉莉江の生涯を一緒に辿り、アメリカを中心にした戦争の歴史をも一緒に振り返ることが出来ました。
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主人公の鳥飼茉莉江は先の戦争のさなかに生まれ、1945年6月の岡山空襲の瓦礫の中から助け出され、10歳のとき、母とともに氷川丸でシアトルに渡った。だが母は自殺。16歳でハイスクールを中退し、単身ニューヨークに出た彼女は、ウェートレスやホテルの客室清掃のバイトをしつつ、やがてカメラ、写真に出会い魅せられる。写真のことを教えてくれた坂木、報道写真家の岩井蓮慈との出会いをへて、彼女は次々と戦争や紛争の真っただ中へと飛び込んでいく写真家となる。一方、資料を集め、ゆかりの人々を訪ね歩き、その茉莉江の足跡を追っているのが語り手の「私」こと美和子。彼女と茉莉江には一瞬だが接点があり・・・。
ご本人が集大成と仰っているだけあって大作でした。あらすじがあまり出てなくて最初は全く想像もつかず、中盤からしがみつくように一気読み。こんなに残酷で、醜い人間の姿を読んでいるのに、なぜか引きつけられる。おぞましいと思いながらも面白いと思ってしまう自分がいて、茉莉江の撮った写真はこの小説と同じなのかもしれない。ずっと覚えているのは無理でも、忘れずたまに思い出す必要のあるもの。絶望の中で生きた茉莉江が出して講演で語られた結論は、美和子と出会ったときの行動に集約されているように思います。あんちゃんに救われた茉莉江がつないだ命のバトン。決して自暴自棄ではなく、彼女は戻れなくても「幸せ」だっと信じたい。私は茉莉江の生きた時代をほとんど知らないけれど、無性に感動したし心に残った。 -
どんな困難にもめげずただただ進もうとする茉莉江。
どこからそのエネルギーが湧いてくるのか。
自身が焼け跡から助けだされた赤ん坊だったから。
それだけでは頑張れそうにない。
自分がやりたいこと、これだと思ったことを見つけられた人の強みか。 -
二世代上の主人公の跡を追う語り手という構図が、ノンフィクションかとも思う実在感を生んでいる。
派手さはないが、危地に入り込み、自らの心を傷つけながらもチェチェン紛争や3.11などの惨事をカメラに収め続けずにはいられない主人公の生き様に心を打たれる。