([と]1-2)あん (ポプラ文庫)

  • ポプラ社
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レビュー : 172
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591144893

感想・レビュー・書評

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  • 何も知らないできてしまっていた。

    ハンセン病という病気と共に生きてきた人々のこと。

    感染源がわからないということで、
    家族と離され、療養所の外の世界と隔離されて
    長い長い間出られなかったこと。

    親から付けてもらった名前まで、取り上げられたこと。

    この本は職場の読書友から薦められて読みました。

    目的を持てずに生きているどら焼き屋の店長千太郎と
    あん作りを教えることになる徳江さんの物語。

    想像力に乏しい私から見ても、
    時に過酷だと思う人生を、ひたむきに生きる人たちに出会います。

    さらりと書かれていますが、徳江さんの人生もまた
    どうしてそこまで…と思わずにはいられません。

    徳江さんが千太郎さんに出す手紙が沁みます。
    苦しんで苦しんで、死の恐怖や痛みや
    世間の偏見に傷つけられ
    崖っぷちの切羽詰まったところをみた人ではないと
    感じられない生きる意味。

    こんな自由にどこへでも行けて何でもできるのに
    心が狭く腹黒くてどうしようもない私でも
    生きる意味があるんだよと包まれる一冊です。

    なぜ自分とは違う他者が受け入れられないのか。

    心が狭い私のテーマの一つでもあるのですが…。
    この物語は力まず、自然で正直な感覚で描かれています。

    千太郎さんが、自分の中の偏見を感じつつも
    療養所を訪ね、人間としての徳江さんに
    どんどん心を寄せていくところがとても好きです。

    最後の終わり方も、とても好きです。
    きれいごとだけで終わらせてない所が、
    とっても素敵だと思いました。

    無知な私はまだまだ知らなければいけないことが
    沢山あるなと感じます。

    知ったからといって、何ができるわけではないですが
    知ると知らないのとでは大きな差があることが
    まだまだ沢山後ろに控えてますね。

    もうすぐ映画が公開されるとか。
    活字が苦手な人にも、「知ること」が広まっていく。
    いい映画になる気がします。

    私もそんな一つを知れたこと。読書友に感謝です。

  • R1.5.4 読了。

     タイトルと表紙で衝動買いした本。人生に希望が見いだせないどら焼き屋の雇われ店長の千太郎と元ハンセン病患者の老女の徳江がどら焼き屋での仕事を通して交流していく物語。
     ハンセン病療養所なる施設がこの国に存在し、まるで社会から隔絶された世界が存在したこと、ハンセン病によって後遺症の残る身体や四肢などが、周囲の人たちから非難めいた眼で見られるつらさ、病気よる身体の痛みや苦しみなどをこの本を通して知ることができた。
    また、現代では有効な治療薬があること、元ハンセン病患者は完治していて他者へは感染しないことなども記されているのに、仮に自分が元ハンセン病の患者に出会ったらと考えた時に、自分の中にも一般的な人並みの偏見や差別の心があることを気付かされて恥ずかしく思った。

     読み進めていくうちに、これまでたくさんのつらい体験をしてきたであろう徳江さんの優しさや他者への慈しみに、癒されているんだなあと気づかされました。自分も周りの人もありのままで受け止められる自分になりたいです。
     また、映画「あん」も観てみたい。徳江役は樹木希林さんということなので。きっとハマリ役のような気がします。

    ・「私たちはこの世を観るために、聞くために生まれてきた。この世はただそれだけを望んでいた。だとすれば、教師になれずとも勤め人になれずとも、この世に生まれてきた意味はある。」
    ・「患者を一般社会から隔離することを定めた「らい予防法」が廃止されたのはほんの20年ほど前、1996年のこと。病気じたいは過去のものとなっても、それぞれの元患者たちに流れた時間の重みが取り払われるわけではない。かつてこの国で何が行われていたのか、偏見をなくすには何が必要なのか。読者一人ひとり、この国に暮らすすべての人が、知らなければならない、考えなければならないことだ。私自身、この小説を読むまでは、療養施設で暮らす元患者らが、どんなふうにその長い時間を生きたか、どうやって自分自身の中にすらある偏見と向き合い、どうやって心の豊かさと尊厳を保って暮らしたかをまるで知らなかった。(解説より)」

    • ikkeiさん
      映画とても良かったです。
      映画とても良かったです。
      2019/05/15
  • 線路沿いから一本路地を抜けたところにある小さなどら焼き店。千太郎が日がな一日鉄板に向かう店先に、バイトの求人をみてやってきたのは70歳を過ぎた手の不自由な女性・吉井徳江だった。徳江のつくる「あん」の旨さに舌をまく千太郎は、彼女を雇い、店は繁盛しはじめるのだが…。偏見のなかに人生を閉じ込められた徳江、生きる気力を失いかけていた千太郎。ふたりはそれぞれに新しい人生に向かって歩きはじめる―。生命の不思議な美しさに息をのむラストシーン、いつまでも胸を去らない魂の物語。
    「BOOKデータベース」より

    ハンセン病について、詳しく知らなかった.学ぶ機会もこれまでなかった.この本を読んで改めて調べて知ることになった.感染力は弱く、だいぶ前から完全に治る病気と分かっているにも関わらず、それまでの歴史から誤解を受けている病.日本の患者は年間1人いるかいないかということだけれど、海外ではまだ患者が多くいる国もある.
    そんな病にかかっていた徳江さんが作る「あん」が、どら焼きやの千太郎の心に明りを灯し、中学生ワカナの心を溶かす.
    徳江さんも40年も前に完治していたにもかかわらず、外に出ることができず、教師になりたかったという夢もかなえられなかった.チャレンジしてダメだったのと、可能性が最初からないのは意味が全然違う.
    それでも、誰でも生きる意味がある、塀の中で暮らす毎日でも得られるものがあると思える強さは、乗り越えてきた人にしか分からない境地なのだろうと思う.
    映画も見てみよう.

  • 満開の桜の頃から話が始まり、葉桜になり、サクランボの実をつける頃へと、桜の花の移ろいとともに物語は静かに進んでいく

    小豆の声を聞きながら、丁寧に丁寧に炊き上げ、どら焼きのあんこが完成する。

    そんな幸せな光景の中で、目をそらしたくなるような、でも決して目をそらしてはいけない大切な問題が提示される

    千太郎に一からあんの炊き方を教えてくれた吉井徳江は、14歳のときにハンセン病を発症し、それ以来76歳になる今日までハンセン病の療養所天生園で暮らしてきたのだった

    徳栄の口から語られる数々のハンセン病患者が置かれた現実は、本や映画で見聞きしていたとおり、過酷なものだった

    家族と引き離され、名前まで変えられる
    お母さんが徹夜で縫ってくれた白いブラウスも取り上げられ、消毒薬の風呂に入れられる 断種
    生涯、塀の外には出ることができないと法で定められた現実
    絶望?憤り?諦め?

    徳栄は語るーー
    ハンセン病と生きるという生涯でしたが、この場所での歳月が過ぎていくなかで、私には見えてくるものがありました。

    それはなにをどれだけ失おうと、どんなにひどい扱いを受けようと、私たちが人間であるという事実でした。
    たとえ四肢を失ったとしても、この病気は死病ではないのだから生きていくしかありません。
    闇の底でもがき続けるような勝ち目のない闘いのなかで、私たちは、人間であること、ただこの一点にしがみつき、誇りを持とうとしたのです。

    ライ予防法は廃止されましたが、世間はあまり変わっていないようです。
    それでも、あらゆるところに向けて耳を澄ませていてください
    普通の人には聞こえない言葉を聞いて、聞いて、聞いて、どら焼きをつくってください。ーーー

    自分は、どんな対応をするだろう?
    どんな声がかけられるだろう?
    と、話を読みながら、ずっと自分に問いかけていた



  • 尊敬する明川哲也さまの小説ですもの、いい本に決まってると決めつけて読み始める(あれ、今回は「ドリアン助川」で書かれてるんですね!)。

    とても読みやすい本。でも内容は深い。
    後半の全生園の様子は、助川さんの確かな取材によって書かれているんだろうなと思った。徳江さんも、どなたかモデルがいらっしゃるのかな。

    わたしはハンセン病に関する本としては『しがまっこ溶けた』という、ハンセン病を患った詩人・桜井哲夫さんと韓国人の金さんとの交流を描いたものしか読んだことがない。
    ハンセン病とともに生きた、また別の方の人生を知ることができました。ハンセン病者とひとくくりにできない。一人ひとりに、違う人生がある。

    多摩にある全生園のこと、全然知らなかった。
    園の中ではお菓子教室が開かれるなど、普通の生活が営まれていたこと、90年代に隔離政策が解除されて、園を出ていいということになっても、高齢で最早出られるわけもないこと…いろいろと驚きながら読んだ。

    たまらなく辛かったのは、徳江さんが全生園に入ることになり、前の日にお母さんが縫い上げてくれたブラウスを取り上げられた場面。
    だめだ、いま書いていても涙が出てくる。

    この本の肝は、なんといっても徳江さんの悟り、「わたしたちにはこの世を見るために、聞くために生まれてきた」って部分だと思う。

    助川さんは「なやむ前のどんぶりくん」でも同じことを書いておられる。
    一言でいえば、わたしたちは宇宙との関係を味わうために生まれてきた、と。
    宇宙に心あるものが生まれなければ、宇宙がここにあるということを誰も証明できず、この全世界はこつ然と消えてしまうというのです。
    だから、わたしたちは最初から祝福されているのだと。宇宙から望まれて誕生するのだと。

    たとえば難病で生まれてから死ぬまでベッドで寝るだけの人生を送る人がいるとする。
    でもこの人には存在するだけの価値がある。宇宙はこの人が誕生することを望んだ。彼はベッドから空を眺め、飛ぶ鳥を眺める。それで宇宙は存在を確認されるから。

    この考え方に感動し、励まされ、折に触れて思い出すほどだったわたし。
    この小説にもよく表れていた。
    たくさんの人に読まれて、映画にもなって、多くの人がこの素晴らしい考え方を知ってくれたのだと思うと、とてもうれしい。

    • ありんこゆういちさん
      素晴らしい心情の籠ったレビューですね。とても感銘を受けました。映画を見ていないので初見で読んだのですが、てっきりほっこり系の本だと踏んでいた...
      素晴らしい心情の籠ったレビューですね。とても感銘を受けました。映画を見ていないので初見で読んだのですが、てっきりほっこり系の本だと踏んでいたので、不意打ちの涙が止まらずに苦労しました。この病気の存在も、ある程度の知識も有ったつもりでしたが、この本で知った生活の悲しさは、知識だけで病気を分かったつもりでいた僕の心にぐさりと刺さりました。

      >この本の肝は、なんといっても徳江さんの悟り、「わたしたちにはこの世を見るために、聞くために生まれてきた」って部分だと思う。

      そうですねとても素敵な言葉です。レビューを読んでまたこの本の事が蘇ってきました。ありがとう。
      2016/02/05
    • ゆきさん
      コメントありがとうございます!
      教科書的な知識と、生身の経験者の言葉(たぶんモデルがいらっしゃるんですよね)とでは、全然違いますよね。
      ...
      コメントありがとうございます!
      教科書的な知識と、生身の経験者の言葉(たぶんモデルがいらっしゃるんですよね)とでは、全然違いますよね。
      ハンセン病を患うということがどういうことだったのかが、胸に迫ってきます。理不尽だし、やりきれない。。
      でも、ドリアンさんは生きるってどういうことか、どんな状況にあっても真に生きられるってことを教えてくれていますよね。

      この素晴らしい本のことを語り合えてうれしいです。
      こちらこそありがとう。
      2016/02/05
  • 映画がめちゃくちゃ良くて、劇場を出たその足で本屋に買いに行った。樹木希林さんの演じる徳江さんは、小説の通りとってもキュートだった。
    病気を知る、という物語であることはもちろん、それだけじゃなくて、徳江さんという素敵な女性についての物語だとおもった。

    ほとんど映画の感想ですが追記→rinpippi.hateblo.jp/entry/2015/06/07/025950

  • 私自身、医療系の学生ということで、もともとハンセン病には興味がありました。資料館や療養所にも何度か行ったことがあります。その中で、『あん』という作品に出会い、改めて「元患者(回復者)の生きた歴史は風化させてはならない」と感じました。
    ハンセン病について知らない人はまだまだ多くいるでしょう。
    国がどんな事をしてきたのか、ハンセン病患者や回復者はどのような生活をしてどのような人生を歩んできたのか、少しでも興味を持つキッカケとなるといいなと思います。

  • 「グレーテルのかまど」で、助川さんのどら焼きが紹介されたので読んでみた。
    上記の番組は、お菓子にまつわる人間の物語をひもとき、本人から、あるいは実在しなければ、遺族や知り合い、研究者などから話を聴きつつ、そのお菓子を作る番組だ。
    そこでは、「あん」の映画が少し紹介されて、主人公はだいぶ助川さん自身が投影されているという事で、その来し方をうかがった。

    この作品は、おいしいどら焼きを作るために腐心する、なんだかダメな中年男・千太郎と、餡作りの達人である老婆・徳江さんを中心にして進む。
    ふつふつと煮える小豆の美味しさを思うとともに、ハンセン病で長い間隔離されていた人たちの、病気と差別に覆われた生涯の痛みを思う。
    その痛みは、甘いどらやきに、少しのしょっぱさを与える。

    千太郎の明日はまだ見えてこないけれど、「人間である」という事を忘れずに、歩いて行けるだろう。


    芋づる式読書は、遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』

  • 大人になってもうまく生きられないと感じている主人公の千太郎は、自分の生き方に自信を持って生きていないだけに、他人に対しても根拠のない偏見をもたない。(解説より)
    あぁ、それはすばらしい長所だ。
    正しいと信じている人ほど、偏見があったり他人に厳しいことを、ここ最近強く感じるから。

  • 映画では伝えきれない、たくさんの言葉が隠されています。映画よりおすすめです。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれの神戸育ち。作家、朗読家。早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。日本ペンクラブ理事。長野パラリンピック大会歌『旅立ちの時』作詞者。放送作家を経て1990年「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。若者たちの苦悩を受け止め、放送文化基金賞を得る。同バンド解散後、2000年からニューヨークに三年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説そのものもフランス、イギリス、ドイツ、イタリア、レバノン、ポーランドなど十二言語に翻訳され、2017年、フランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)」の二冠を得る。

「2018年 『線量計と奥の細道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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