- Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591149881
作品紹介・あらすじ
戦後日本とアメリカを生き抜いた女性写真家の
生涯が圧倒的な臨場感で迫る感動作!
終戦直前、空襲の焼け跡から助け出された赤ん坊の茉莉江。
彼女は10歳でアメリカに渡り、長じて報道写真家となった。
激動の時代に翻弄されながらも運命を自身で切り拓いた一人の女性の生涯を通し、
戦後日本とアメリカ、戦争と平和についても問いかける。
著者新境地となる美しく骨太な物語。
感想・レビュー・書評
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茉莉江の駆け抜けた生涯の密度の濃さにとても引き込まれて、重い読書でしたが心に刺さりました。人は醜い。争うこと、破壊することをやめられない。でも、善や美を諦められません。終戦から現代へと続く日本や世界の情勢、中でもテロや戦争の描写に、本当に茉莉江がそこにいて伝えてくれたかのような気持ちになりました。美化してはいけない。一般化してもいけない。自分も無関係ではいられません。この世界で生きていく、しっかり考えていかなくては、という思いになりましました。面白かったです。何度もこみ上げるものがありました。作中にあった、「二十歳の原点」、買いました。この本は図書館から借りたのですが、購入しようかな。
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「私のてのひらの中に、一冊の雑誌がある」
この書き出しで本書ははじまる。1976年に発行されたこの雑誌「Searchlight Monthly」には、当時頭角を現しつつあった日本人の報道写真家「鳥飼茉莉江」についての記事が載っていた。「私」はこの写真家の生い立ちから亡くなるまでを調べている。だが、「私」については「美和子」という名前以外、どんな人物で、なぜこの報道写真家にそれほど興味があるのかは、物語の終盤まで明かされない。読者は「私」とともに、報道写真家鳥飼茉莉江の数奇な人生をたどっていく。
1945年、岡山で激しい空襲がある。戦時動員の訓練中だった14才の鳥飼希久男は急いで家へ戻るが、家屋は跡形もなく、家族の生存は絶望的と知らされる。呆然とする希久男にかすかな赤ん坊の声が聞こえてくる。希久男はその声で、家に赤ん坊がいたことを思い出す。父の姉が神経を病んでいたため、その姉の乳飲み子を預かっていたのだ。それがその子の声だと確信した希久男は、慎重に瓦礫をどけながら、火傷を負った赤ん坊を救い出す。それが茉莉江だった。
希久男とともに親戚に預けられた茉莉江は、そこの女の子たちと姉妹のように暮らすが、やがて突然迎えに来た母親に連れられ、アメリカへ渡ることになる。船の中で出会うフルブライトの学生たち、電車の中で茉莉江を「日本鬼子」と罵倒する中国人等、当時の世界の様子を様々取り入れながら物語は進行し、ある写真に魅せられた茉莉江は写真家を志すようになる。
やがて彼女は、新宿駅西口の反戦フォーク集会、浅間山荘事件。三菱重工本社ビル前の爆弾事件、そしてニューヨーク同時多発テロ等を報道写真家として追い、人間について、世界について考えていく。
「私ののてのひらの中に、一枚の写真がある」
「私のてのひらの中に、声がある」
「私のてのひらの中に、一個のカセットテープがある」
茉莉江の人生を追う物語は、カセットテープから流れる彼女の講演で幕を閉じていくのだが、とにかく素晴らしい小説である。私は人より余計に本を読む方だと思うが、この小説は私にとっては別格だった。著者に敬意を表し、この本と出会えたことに感謝したい。是非多くの人に読んでほしい本である。 -
時代に絡めて興味深く一気読み。
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小手鞠るい作品、3作目読了。
ある女性が、報道写真家の女性の生涯を
彼女の生きた道筋をひとつひとつたどっていく。
まるでノンフィクションを読んでいるような、
ほんとうに生きた人間の足跡を追っているような、
不思議な気持ちになる物語だ。
1945年の岡山空襲で瓦礫から助け出された赤ん坊・茉莉江。
首筋に戦争の記憶そのものとして火傷の跡をもち、
戦後の日本と、そしてアメリカを生きていく。
報道写真家となった茉莉江は国内外様々な事件、紛争、闘争を追っていく。
まるで近代史の教科書を、目の前で再現されているかのようにリアルだ。
或いは、白黒のニュース映像で見たその世界に、紛れ込んでしまったかのように。
日本では1945年8月15日以降、ずっと【戦後】だが、
世界はまだ、争いをやめていないのだった。
茉莉江の足跡を追っている美和子と彼女の関係はなんなのか。
なぜ茉莉江の関係者はこんなにも彼女に親身になり、
彼女の人生を語るのか…。
わかったとき、物語は終わる。
そうだ。
今を生きているほぼ誰もが鮮明に覚えている、事件が
もうひとつあった。
私たちの多くがテレビで他人事のように見ていた事件は、
同じ時代に生きていた私たちの誰もが、
遭遇していておかしくないものだったのだ。
そして、これから起こる争いに、巻き込まれる可能性は
いくらでもあるのだ。
自らが、争いを選択しなくても。
素晴らしい本に出会えた。
久々に物語<フィクション>が持つ力に圧倒された。
過去をすぐそばに引き寄せてしまう力。
なんでこんな素晴らしい本が話題になっていなかったのだろう。
高校生以上なら読めると思うので、
是非この夏の読書感想文の題材にしてほしい。
近代史の勉強にもなるので。 -
読むうちに頭が痛くなるほどの絶望があった。
しかし、その絶望には希望があり、未来があった。
写真には、そこに写っていないものも含めて、その外には世界が広がっている表現であり、見た人に世界の広がりを感じさせるもの。
まりえの写真には、きっと途方も無い広がりと、ゾッとするほどの深淵がそこにはあったんだろうなと思う。
これは「戦争」を題材した小説では無い。
忘れてはいけないことだけれど、忘れなければ生きていけない現場を見続けた1人の女性。逞しくも弱い1人の女性の物語だ。
小手鞠さんの新鮮な文にも魅了された。 -
戦後日本とアメリカを生き抜いた女性写真家の
生涯が圧倒的な臨場感で迫る感動作!
終戦直前、空襲の焼け跡から助け出された赤ん坊の茉莉江。
彼女は10歳でアメリカに渡り、長じて報道写真家となった。
激動の時代に翻弄されながらも運命を自身で切り拓いた一人の女性の生涯を通し、
戦後日本とアメリカ、戦争と平和についても問いかける。
著者新境地となる美しく骨太な物語。