i(アイ)

著者 :
  • ポプラ社
3.64
  • (185)
  • (344)
  • (341)
  • (74)
  • (13)
本棚登録 : 3227
レビュー : 364
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591153093

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • アイとは“i(私)”であり“identity"なんだろうなと勝手に解釈する。
    西さんの本を読むのは「サラバ」に続いてまだ2冊目だけれど、世界観というか自己肯定感というか共通するテーマが根底に感じられた。他の作品もそうなのだろうか。

    この本を読んで、以前にNYで知り合ったネパール系アメリカ人の女性から聞いた話を思い出した。
    彼女の妹も、もちろん生まれも育ちもアメリカ。医師の資格を持ち、NYで揺るぎない生活を送る未来があった。しかし自分の中にぽっかりと空いた穴(彼女はemptinessと表現した)を埋められずネパールに渡ったと。

    おそらく、多民族国家や、大陸においては養子にかぎらずとも自分の出自、アイデンティティについて考える人は多いのだろう。
    日本が特殊なだけで。

    そう言った意味で、このようなテーマをストレートに投げかける西さんは今までにない新しい作家という気がしてならない。
    ぜひ若い人に読んでほしい。
    自分を見つめることは世界に目を向けること。
    いい作品でした。

  • ワイルド曽田アイ。
    アイはシリアで生まれ、ハイハイを始める前にアメリカ人の父と、
    日本人の母の養子となった。
    小学校卒業まで住んで居たのはニューヨークの高級住宅街。
    「この世界にアイは存在しません。」高校の入学式の翌日、数学教師は言った。
    その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続ける事になる。
    ある「奇跡」が起こるまではーー。

    アイはシリアからの養子で、裕福なアメリカ人と日本人の夫婦の元で育ち、
    その恵まれた環境にいる自分と世界で起こる事故や事件や天災や紛争の犠牲者の
    ニュースを見聞きしながら、安全な場所に居て自分の身には何も起こらない
    ことへの罪悪感に負い目を感じている。
    「何故私が選ばれずに、彼らが選ばれたの…」どこか後ろめたく思って成長していくアイ。

    子供を子供扱いしないこと、一人の人間として接する事。
    アイを深く深く慈しみ愛してくれる両親なのに自分の意見を言えないアイ…。
    シリアで生まれて、養子という複雑な心境が理解出来ず、
    繊細で聡明なアイの事を何て暗く欝々としてるのだろうかと、最初は反感すら抱いてしまった。
    しかし、何だろう読み進めていくうちに、現実に起こった
    紛争や天災や事件や戦争が沢山登場する。
    その時、自分が何を想い感じたのか…。
    遠い異国で日々起こっているそれらがニュースで報じられると可哀相…痛ましい…。
    それが自分自身に起こったらと考えもせず深く想いを馳せる事も無く忘れていってた。
    日本で起こった東日本大震災を始め、天災の数々は身近に感じられる分
    自身に置き換え、苦しくなって報道や映像を観る事すら出来ず、逃げてしまっていた。
    最初反感すら抱いていたのに、読み進めるにつれ物語に引き込まれていった。

    アイの考え続ける事、想い続けることの凄さ!
    今、世界で起きていることに目を背けないで出来る事はなくても、
    考え続け、想像する事をやめてはいけない。
    自分の存在に感謝しながら生きていきたいって思った。
    誰かを想う事、誰かに想われる事の尊さが詰まっていました。

  • 「この世界にアイは存在しません」
    冒頭の一文から始まるこの本にすっかり飲まれ、一気読みしてしまった

    シリアに生まれ、日本人の母とアメリカ人の父に養子に貰われたアイ
    シリアに生まれたのに、恵まれた環境で育ち恵まれた家庭に選ばれた自分の存在がいつもどこか否定的に捉えてしまう

    しかしレズビアンであるも、自分をしっかりと持つミナとの出会いや、東日本大震災での被災、またデモで出会った伴侶との出会いの中で、自分の存在意義を見出していく

    大きな災害や内乱、戦争など時事問題を織り交ぜて主人公であるアイが落ち込んだり、深く考える場面が多く出てくるため、すごく当事者意識の持てる本だった

    自分が恵まれた環境におり、本当の苦しみを味わったことがなくても、その人のくるしみを想像するだけでも意味のあること

    内面的でとても繊細な本だと感じた

  • 西加奈子の小説は花火大会のようだ。
    打ち上げ仕掛けと趣向を凝らした演出で場を盛り上げいよいよのラストはこれでもか!と言わんばかりの音と光の百花繚乱、後に残るは昂ぶる心と懐かしさにも似た感動…サラバ以来すっかりこれが癖になっている。
    本作もそれに違わぬ作り込みで数学哲学果ては民族問題やらマイノリティやら色とりどりのてんこ盛り、こんなのどうしてまとめるの?の心配はよそに力技で壮大なクライマックスに仕上げる手腕は見事と言うしかないだろう。
    閉塞感漂う今日、「生きること」「愛すること」をテレることなく叫べる西加奈子はやはり素敵でありひょっとしたら惚れてまうかもの存在なのである

  • これまでいくつもの小説を読んできたけれど、過去の自分を見ているような気持になった小説は初めて。

    出自も、悩んでいる内容も違うはずなのに。

    内へ内へと籠っていって、それでいて外の世界の人たちがどう思っているか気になる。そして自分だけが何か間違っているような気がして、自分自身を恥じて生きている。
    そういった姿が、なにか昔の自分によく似ていると思った。
    大学時代に、容姿を整えて外の世界と繋がりだすところも何か通じるところがあって、この物語がどう着地するのかとても気になった。

    私の場合、「死んだらどうなるのか」「生まれてきた意味は」「正義と称して人を倒すことは正しいのか」「存在ってなんだろう」なんてことを堂々巡りのように考えるタイプだった。
    だから、外の世界との繋がりに興味が持てず、年頃の女の子のように、かっこいい男子にも興味がないと思っていた。

    主人公アイの苦悩は、本当にごく一部の人たちが抱える悩みだと思う。
    外の世界に悩まされるのではなく、自分自身の内面と対話して苦悩する。
    恵まれているのに孤独だし、恵まれているからこそ苦悩する。

    誰かのために悩む、世界の自分とは関わりのない人のために苦しむ。
    もしかしたら自分が死んでいった人だったのではないか。

    そんなことを考えてどうするんだろう?
    そんなふうに思わないでもない。
    でも、そんな悩みを持つアイに、たった一人の親友ミナが言った言葉は、私の中にもなにか突き刺さるものがあった。

    考えてしまうのなら、それはなにかに繋がる大切なこと。

    多くの人は目の前で起こっているいろいろなことに思い悩んで生きている。
    それが建設的かもしれないが、人間が人間らしいのは「想像」の力だ。
    その力を使って、会ったことのない人に思いをはせる人もいてもいい。
    そういった人たちを必要とする人もいる。

    内へと籠っていくと、自分自身がどこにいるのか、自分の存在そのものがつかみどころのないものに感じることもある。
    「この世にアイは存在しません。」
    という言葉の「アイ」は含蓄があって、「愛」という目に見えないものも指している。
    人間の「想像」の力とは、「虚構」を作り出したり、それを存在させる力でもある。
    誰かが強く「思う」ことで、それは「存在する」。

    アイデンティティの確立の物語でもあり、自分自身でもあるのかどうかつかみどころがないような「愛」の存在を確立させる話でもある。
    それを数学を使って暗示的に示して見せた。

    つかみどころがない物語だけれど、自分の中で忘れられない特別な本になりそうだ。

  • うーーーーん
    こんな文章が書けるようになりたい。

    西加奈子さんに暫くハマりそう。

  • 「この世にアイは存在しません。」
    という印象的な言葉から始まり、このフレーズはたくさん出て主人公であるアイを葛藤させる。
    この本のテーマはiでありidentityであるのは、この本を読んだ皆がわかる事。
    日本とシリア人のハーフであるアイは、幼い頃から
    貧しい人達を見てきた。一方でアイの家は裕福であり、親も理解がある。そんな境遇で生きてきたアイにとって、自分は幸せであることとともに、幸せな世界で生きている私は許されるのか、いつも頭のどこかでそう思うようになる。
    「この世にアイは存在しません。」
    このフレーズの呪縛が解けずにいるアイの人生への葛藤と、
    アイにはないものを持つ親友ミナの存在が
    アイの思考を、行動を、世界を変えていく。
    西さんの本の凄さは、西さんにしか書けないであろう人物設定と変化だと思います。ぜひ味わって見てください。

  • 微妙な感情や現代独特の息苦しさみたいなものがすごくリアルに描かれていて心をえぐられました

  • 西加奈子さん、ほかの作家では味わえないくらいの迫力。
    心が痛くなるほど、心を揺さぶられた。
    「この世界にアイは存在しない」という数学教師の言葉で自分の中にくすぶっていた思いに気づかされる。
    親友や夫との出会い、不妊、退治の死、親友の予期せぬ妊娠を経て、自分の存在価値を見出してくる。私たちは知らないからという理由で、辛い現実から目を背けている。
    知ろうとしない感情も罪を犯しているのかもしれない。

  • 「サラバ!」を読んだときにも感じましたが、熱量がすごいと思いました。
    物語を読んでいるというより、西加奈子さんの心の叫びを聞いている様な、そんな感覚でした。
    自分のアイデンティティとは。
    自分はのうのうと生きていていいのか。許されるのだろうか。たくさんの世界中で起こる惨劇と死んでいく人たち。私だったかもしれない。申し訳ない。だけど、そう思うことでさえ傲慢だと思う。
    私とは。

    この世界にアイは存在しません―この言葉をパートナーの様にポケットに入れて生きるなんて、胸が苦しすぎる。息ができない。ギリギリの心の叫びの中、「愛があるかどうかだよ。」という言葉に救われた気がしました。

著者プロフィール

西加奈子(にし かなこ)
1977年、イランのテヘラン生まれ。エジプトのカイロ、大阪府堺市で育つ。関西大学法学部卒業。雑誌「ぴあ」のライターを経て、2004年『あおい』でデビュー。
2007年『通天閣』で織田作之助賞大賞、2011年咲くやこの花賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞。
その他代表作として、宮崎あおい・向井理出演で映画化された絵本『きいろいゾウ』、同じく映画化された『円卓』、20万部を超えるベストセラー『さくら』、本屋大賞ノミネート作『i』など。2020年初夏、『さくら』が映画化決定。プロレス好きとして知られる。お気に入りの本は『アントニオ猪木詩集』。

西加奈子の作品

ツイートする