i(アイ)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591153093

感想・レビュー・書評

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  • 2017年59冊目。

    非当事者は、当事者のことをどう想い、想像し、考えるべきなのか。
    そんなテーマを考えさせられた。

    罪悪感を持つと、罪悪感を持ってしまっていること自体にまた罪悪感を持ってしまう、というメタな苦しみ。
    世界のあらゆる痛みに対して、「それらに対して心を痛めていないといけない」という脅迫感。
    だから幸せを心から享受することに躊躇ってしまう。
    (読みながら天童荒太さんの『悼む人』を思い返した)
    「自分も苦しい立場にいないと」、というのはとてもわかる気持ちでありつつ、同時に、それは自分を納得・安堵させたいだけの手段になっていないか、という疑念も起こる。
    大きな世界の中であれ、身近な人間関係の中であれ、様々な痛みと、どう共存していくべきなのか。

    西加奈子さんの作品はこれが初めてだったが、文体がすごくシンプルで、読みやすさに驚いた(最近昔だったり海外の作家さんの本を読む機会が多かったのもあるかもしれない)。
    仕草含めた心情描写もよくて、肌感覚で伝わってきた。
    あと、数々のセリフの、優しくもありつつの、「潔さ」がよかった。

  • 今の私は、もう随分目を閉じて耳を塞ぐことが上手になってしまった。

    日本ではコンビニの食べ物がたくさん捨てられ、肥満人口が増え、ダイエットが盛んになる。一方、何処かの国では食べ物がなく、餓死で死んでいく子供たちがいる。
    日本では義務教育でお勉強をし、受験、進学、就職、そして鬱になって自ら命を絶つ人がいる。一方、何処かの国では鉛筆ではなく銃を持たされ、無作為に殺される子供たちがいる。
    思春期の私は、そんな世界の矛盾に頭痛がし、どうしようもなく不安になり、それでもどうにもできず、己の事しか考えない自分が情けなくて仕方がなかった。

    でも

    平和な日本の幸せな子供なりに色々なことを経験し学び、時に傷ついて挫折し乗り越えて、むき出しだった「心」を守る鎧を身に付けてきた。
    結果、26歳の私は、テレビで垂れ流しにされる悲しいニュースに涙を流すことも、とてつもなく不安になることもなくなってしまった。

    この本を読んで、ひんやり冷えている「心」に気付かされた。しかしだからといって、己を守る鎧を脱ぐことはないだろう。私は私の毎日を必死に戦って生きているのだから。

  • 「いつでも自分たちは恵まれているんだということを自覚して生きなさい」。それが、裕福な家庭で育ったアイが養父母から刷り込まれてきた「道徳」だった。

    世界で苦しむ人たちを想い、自分の言動すべてを忌ましめる。アイのように、私はそこまで究極的に自分を苦しめる行為はしない。けれど、「なぜ私は生きているのだろうか」という消せぬ想いをどこか抱えながら生きてきた。

    「あなたは存在しているだけで価値があるんだよ」という言葉は、最近の女性向け自己啓発書にあふれている。

    満たされない承認欲求を抱えて生きる不器用な女たちに向けられた、心地いいだけで空っぽの言葉。

    どんなにステキな人に話を聞いても、どんなに感銘を受ける小説を読んでも、誰も生きていていい「理由」を教えてはくれなかった。そんな私に、この小説は答えをくれた。

    「愛されている(あるいは愛する人がいる)」から生きていていいのではない。「仕事の担い手として必要」だから、生きていいのでもない。究極的に言えば、愛がなくともあなたは生きていていいのだ。アイは親友と出会い、愛する人と愛し合い、絶望し、人生の目標を見失いかけたとき、その結論にたどり着く。

    真夏のカリフォルニアのビーチで、彼女が自らのチカラで背負っていた苦しさをすべて脱ぎ捨てたとき、私もすべての重荷を解放できた気がした。ありがとう、アイ。

  • 主人公アイは1988年生まれ。自分と同い年だった。
    アイがノートに書き留める災害や事件のいくつかは自分も覚えていたし、知らなかった出来事もたくさんあった。災害や事件の当事者ではないアイの苦しみ、読みながらすごく共感した。

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    2011年3月11日の地震で日本は変わった。
    あの大きな地震と"想定外"の津波は多くの人たちの命と暮らしを奪った。原子力発電所から漏れ出た放射能は今も土壌を汚染し続けている。
    当時与党だった政党は対応のまずさを非難され、その後の選挙で大敗した。当時、バイパスを走るどのトラックの背面にも『がんばろう日本』のシールが貼ってあった。
    被災の苦しみを乗り越えるために日本がひとつになろうとしている、そんなふうに期待した人も多かったと思う。自分もその一人だ。

    2017年現在、未だに仮設住宅で暮らす方々がいるのに、東京では多くの資材や資金を使ってオリンピック会場の準備が進められ、その準備に追われた労働者が過労死している。
    なんなんだろうこれは。ずっと、ずっとずっと思っている。こんなのおかしい。
    だけど、自分は当事者じゃないから、被災者じゃないから、怒れる立場ではないと思っていた。圧倒的に無力だ、と。

    この小説で、アイはそのことについてはっきりと答えを出してくれた。
    ”渦中の人でなくても、その人たちを思って苦しんでいい”、”その苦しみが広がって、知らなかった渦中の苦しみを想像する余地になる”、”それに実際の力はないかもしれないけど、想像するってことは心を、想いを寄せること”。
    想像すればいい、想いを寄せればいいのだ。


    Yahoo!ニュースにはコメント欄があって、一般の人が気軽に感想や意見を書き込める。ネットでニュースを見る時、ついついコメント欄を見てしまうのだけど、だいたいが心無いコメントばかり。
    原発事故で避難されている方々のニュースに対して、『被災者ビジネスは儲かると思う人はクリック』、『いつまでも賠償金せびってないで働けよ』なんてコメントを見たとき、本当に悲しい気持ちになった。
    がんばろう日本、だよ。
    当事者でなくても想像するんだよ。

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    アイの精神的成長。親友ミナとの繋がり。パートナー、ユウの気遣い。養子として自分を愛してくれる両親、シリアへの想い。

    養子、外国人扱い、災害や事件について当事者以外が語るということ、性的マイノリティ、出産と中絶、血縁関係。
    多くのテーマを掲げて、それら全てに答えを出したこの小説は超名作。『サラバ!』が直木賞にならなかったとしたら本作が受賞作になったと思う。

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    とんねるずが数十年ぶりにテレビで披露したキャラクター『保毛尾田保毛男』が賛否両論で盛り上がっている。
    同性愛者をバカにしている、と。

    フジテレビはLGBTに対しての配慮が足らなかったとして謝罪文をホームページに記載した。配慮ばかりでテレビがつまらなくなったという人もいる。
    自分は気にしない、というLGBTの人の意見もネットで見た。ハゲやデブは言っていいのになぜホモは駄目なんだとツイッターに書いているひともいた。

    デリケートな問題だから謝って終わり!じゃなくて、色んな意見を出し合えばいい。当事者じゃなくても想像すればいい。みんなで苦しんで答えを探していけばいい。配慮する、想いを寄せるっていうのはそういうことだと思うんだよ。

  • 良かったー…
    とにかく良かったー…
    西さんの書くパワーが本のページを突き抜けてこっち側まで伝わってきた。
    愛は存在するんだ!!と、大きな声で叫びたい!!
    当たり前に昔から言われている愛についての話とか、正直今更感がどうしてもでてしまうことが多いけど、このiは、そんな当たり前の愛の存在についてを凄いパワーで叫んでいる。だからこそ一瞬で引き込まれた。
    2016年の締め本はまさにこの一冊だな。

  • すごかった。この人の書く話はどうしてこんなに引き込まれるんだろう。一緒に苦しくなって嬉しくなって泣いた。
    自分が世界に存在する意味。ミナの言葉に、ユウの言葉に、そしてアイの言葉に心を揺さぶられた。
    大事な言葉がいっぱい詰まってた。力をもらえる小説。

  • 読み終えた直後だからか、うまく言葉を紡げない
    気持ちだけが昂っている、そんな感覚だ

    サラバ!を思い出した人も多いのではないだろうか
    ある一人の人間の「生」を描いた物語
    西さんの、人間の成長、特にこころの成長の描き方はほんとうに素晴らしい
    的確に捉え、掴み、ぐんぐん引き込まれていく

    大量に付けられた付箋が、この物語がどれほどわたしの胸を打ったのかを、教えてくれる

    この人にはわかってもらえない、と、歳を重ねるごとに思うことが増えた
    生きていく中で、変わらないと思っていた人が変わってしまったり、もしくは自分自身の変化に戸惑ったり、見ないようにしてしまったり、逆に変化を受け入れたからこそ変わってしまった自分を誰かに卑下されるのが怖くなったり
    変化は怖い、でも。

    みんな意外と普通の家で育ったんだな、と思った時に感じる軽い失望、この人はとても苦労して生きてきたんだな、と思った時に感じる、いつくしみ
    それらはとても醜い感情
    みんなそれぞれ、苦しい思いをして、生きている、のに。
    早くに友人を亡くした時に思った「どうしてわたしじゃなかったんだろう」
    離婚を選択した母に思う「わたしは産まれてこない方がよかったんじゃないだろうか」
    育ててくれたばあちゃんに思う「感謝すべき」
    人から見たら恵まれた環境にいる自分
    では、この満たされない想いはなんなのだ
    正論で包まれたわたしの日常は、負の感情を押し込めた
    西加奈子は、いつもそんなわたしの心を、解き放ってくれる

    「こんなことを思ってはいけない」そんな風に思うわたしを「そう思ってもいいんだよ」と、そっと、だけど強く、訴えかけてくれる
    アイの想いと、ミナの言葉が、わたしのこころを抉るように、ぐわんぐわん、ごうんごうんと、唸りながら、わたしの中に、入ってくる

  • 主人公のアイのように考え込んでしまったことがあったので、引き込まれて一気に読み切ってしまいました。

    世界にはたくさんの、取り返しのつかない悲劇が起きている。それは遠いどこかであったり、時には数キロも離れていないところで。
    なのに自分は生きている。なんの苦しみを感じることなく。彼らの苦しみや悲しみのほんの一欠片を担うこともなく。
    何かすべきではないか。しかし何もできない。それどころか目の前の楽しみに手を伸ばしてしまう。
    そのことに罪悪感を感じてしまう。

    東日本大震災の折には、「不謹慎」という言葉で電気を使いすぎるのも、宴会をすることすら憚れる時期がありましたね。あるいは今だって、西日本では苦しい思いをしている人がいるのに、自分たちは……と思ってしまう。

    それはどこかで、自分に対する価値や存在の意味に否定的な部分があるからかもしれません。なにもできない自分はこうして生きている…という感覚。

    だからアイのように、両親からの愛情ではなく、恋人からの肯定や、子どもを産むことによって得られる自分が今まで生きてきたことに対する肯定感を、人は渇望してしまうのでしょう。結局、人は一人で生きていけないようにできている。

    自身がここに居ていい、自尊心などとはすこし違う根源的な自己肯定感というのは、案外難しい(のは自分が日本人だからでしょうか?)。むしろ聡明であればあるほど、様々なことに気が付いてしまうからそういう人はなおさら。

  • 多様性と同一性、どちらを求めているのか自分でもわからなかった子ども時代を思い出して、あんな思いを言葉にできる人がいることに驚愕した。

  • 想像することは苦しみだと思う。
    この世界にある悲しいことや理不尽なことにはきりがなくて、その全てを自分のことのように考えて想像すると、今すぐにでも死にたくなる。
    アイのような特別な背景を持っていない私でも、恵まれてる自分(普段は意識していない、しないようにしている)を強く感じ、どうしてその悲しみの渦中に私はいないんだろう、選ばれなかったのだろう、と申し訳なくなる。今ここでのほほんと生きている私と、苦しまされている選ばれてしまった彼、彼女の間に何の違いがあるのだろう。この考えはやがて、自分のほうが死ねばよかったのに、という自己否定の感情に行き着いてしまう。
    アイがずっととらわれている「この世界にアイは存在しません」という言葉。
    自分の存在を自分で認めてあげましょうという言葉が世間にはあふれているけれど、それが本当に難しいことだからこそ、盛んに言われるのだろう。
    自分の存在がここに確かにある、ある必要がある、といつ何時でも自信を持って言える人などどこにもいないと思う。
    人間は孤独では生きていけないと思う。特に、他人の悲しみを見て見ない振りがし続けられない人は。だから、家族や友人、恋人などとの繋がりを欲し、お互いに存在を認め合うことを必要とする。自立、自立というが、生きることはそもそも依存なのかもしれない。

著者プロフィール

西加奈子(にし かなこ)
1977年、イランのテヘラン生まれ。エジプトのカイロ、大阪府堺市で育つ。関西大学法学部卒業。雑誌「ぴあ」のライターを経て、2004年『あおい』でデビュー。
2007年『通天閣』で織田作之助賞大賞、2011年咲くやこの花賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞。
その他代表作として、宮崎あおい・向井理出演で映画化された絵本『きいろいゾウ』、同じく映画化された『円卓』、20万部を超えるベストセラー『さくら』、本屋大賞ノミネート作『i』など。2020年初夏、『さくら』が映画化決定。プロレス好きとして知られる。お気に入りの本は『アントニオ猪木詩集』。

西加奈子の作品

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