i(アイ)

著者 : 西加奈子
  • ポプラ社 (2016年11月30日発売)
3.69
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  • 270レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591153093

i(アイ)の感想・レビュー・書評

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  • アイとは“i(私)”であり“identity"なんだろうなと勝手に解釈する。
    西さんの本を読むのは「サラバ」に続いてまだ2冊目だけれど、世界観というか自己肯定感というか共通するテーマが根底に感じられた。他の作品もそうなのだろうか。

    この本を読んで、以前にNYで知り合ったネパール系アメリカ人の女性から聞いた話を思い出した。
    彼女の妹も、もちろん生まれも育ちもアメリカ。医師の資格を持ち、NYで揺るぎない生活を送る未来があった。しかし自分の中にぽっかりと空いた穴(彼女はemptinessと表現した)を埋められずネパールに渡ったと。

    おそらく、多民族国家や、大陸においては養子にかぎらずとも自分の出自、アイデンティティについて考える人は多いのだろう。
    日本が特殊なだけで。

    そう言った意味で、このようなテーマをストレートに投げかける西さんは今までにない新しい作家という気がしてならない。
    ぜひ若い人に読んでほしい。
    自分を見つめることは世界に目を向けること。
    いい作品でした。

  • ワイルド曽田アイ。
    アイはシリアで生まれ、ハイハイを始める前にアメリカ人の父と、
    日本人の母の養子となった。
    小学校卒業まで住んで居たのはニューヨークの高級住宅街。
    「この世界にアイは存在しません。」高校の入学式の翌日、数学教師は言った。
    その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続ける事になる。
    ある「奇跡」が起こるまではーー。

    アイはシリアからの養子で、裕福なアメリカ人と日本人の夫婦の元で育ち、
    その恵まれた環境にいる自分と世界で起こる事故や事件や天災や紛争の犠牲者の
    ニュースを見聞きしながら、安全な場所に居て自分の身には何も起こらない
    ことへの罪悪感に負い目を感じている。
    「何故私が選ばれずに、彼らが選ばれたの…」どこか後ろめたく思って成長していくアイ。

    子供を子供扱いしないこと、一人の人間として接する事。
    アイを深く深く慈しみ愛してくれる両親なのに自分の意見を言えないアイ…。
    シリアで生まれて、養子という複雑な心境が理解出来ず、
    繊細で聡明なアイの事を何て暗く欝々としてるのだろうかと、最初は反感すら抱いてしまった。
    しかし、何だろう読み進めていくうちに、現実に起こった
    紛争や天災や事件や戦争が沢山登場する。
    その時、自分が何を想い感じたのか…。
    遠い異国で日々起こっているそれらがニュースで報じられると可哀相…痛ましい…。
    それが自分自身に起こったらと考えもせず深く想いを馳せる事も無く忘れていってた。
    日本で起こった東日本大震災を始め、天災の数々は身近に感じられる分
    自身に置き換え、苦しくなって報道や映像を観る事すら出来ず、逃げてしまっていた。
    最初反感すら抱いていたのに、読み進めるにつれ物語に引き込まれていった。

    アイの考え続ける事、想い続けることの凄さ!
    今、世界で起きていることに目を背けないで出来る事はなくても、
    考え続け、想像する事をやめてはいけない。
    自分の存在に感謝しながら生きていきたいって思った。
    誰かを想う事、誰かに想われる事の尊さが詰まっていました。

  • 2017年59冊目。

    非当事者は、当事者のことをどう想い、想像し、考えるべきなのか。
    そんなテーマを考えさせられた。

    罪悪感を持つと、罪悪感を持ってしまっていること自体にまた罪悪感を持ってしまう、というメタな苦しみ。
    世界のあらゆる痛みに対して、「それらに対して心を痛めていないといけない」という脅迫感。
    だから幸せを心から享受することに躊躇ってしまう。
    (読みながら天童荒太さんの『悼む人』を思い返した)
    「自分も苦しい立場にいないと」、というのはとてもわかる気持ちでありつつ、同時に、それは自分を納得・安堵させたいだけの手段になっていないか、という疑念も起こる。
    大きな世界の中であれ、身近な人間関係の中であれ、様々な痛みと、どう共存していくべきなのか。

    西加奈子さんの作品はこれが初めてだったが、文体がすごくシンプルで、読みやすさに驚いた(最近昔だったり海外の作家さんの本を読む機会が多かったのもあるかもしれない)。
    仕草含めた心情描写もよくて、肌感覚で伝わってきた。
    あと、数々のセリフの、優しくもありつつの、「潔さ」がよかった。

  • 今の私は、もう随分目を閉じて耳を塞ぐことが上手になってしまった。

    日本ではコンビニの食べ物がたくさん捨てられ、肥満人口が増え、ダイエットが盛んになる。一方、何処かの国では食べ物がなく、餓死で死んでいく子供たちがいる。
    日本では義務教育でお勉強をし、受験、進学、就職、そして鬱になって自ら命を絶つ人がいる。一方、何処かの国では鉛筆ではなく銃を持たされ、無作為に殺される子供たちがいる。
    思春期の私は、そんな世界の矛盾に頭痛がし、どうしようもなく不安になり、それでもどうにもできず、己の事しか考えない自分が情けなくて仕方がなかった。

    でも

    平和な日本の幸せな子供なりに色々なことを経験し学び、時に傷ついて挫折し乗り越えて、むき出しだった「心」を守る鎧を身に付けてきた。
    結果、26歳の私は、テレビで垂れ流しにされる悲しいニュースに涙を流すことも、とてつもなく不安になることもなくなってしまった。

    この本を読んで、ひんやり冷えている「心」に気付かされた。しかしだからといって、己を守る鎧を脱ぐことはないだろう。私は私の毎日を必死に戦って生きているのだから。

  • 2017年本屋大賞ノミネート作品 というのは知っていましたが、
    アメトーク読書芸人特集で光浦さんの今年読んだ本の
    中で紹介されていたのを観て興味を持ち手に取りました。

    「この世界にアイは存在しません。」という言葉が常に
    問いただされいるようだったので、
    アイの世界のとても窮屈で苦しい世界が
    いつになったら軽くなるのだろうと思いながら読んでいました。
    やっと自分の世界から少し解放されそうになってきた矢先に、
    心の底から友達と言える友達とのトラブル。
    自分が子供を生んで今まで生きた証をこの世に残したかったのに、
    片方では違うことを望んでいるなんて・・・
    こんな相反することが同時になってしまったところは、
    心は引き裂かれそうで読んでいてとても辛かったです。

    アイはシリアからの養子のハーフという
    日本では少し特殊な存在です。
    欧米ではハーフも養子もそれ程特別な存在ではならないと思いますが、
    アイは養子ということに少し囚われすぎて
    孤独感を余計に味わってしまったのかと思います。
    養子であってもアイほど家庭やその他の環境に恵まれている人は
    なかなかいないと思いますが、
    そうゆう問題ではなくこの立場になった人にしか分からない苦しみが
    生まれるのかと思いました。
    養子などを取り扱った小説は何作か読んだことはありますが、
    養子側からの心の叫びを読んだのは初めてかもしれません。

    苦しくても一人孤独に耐えているアイを追っていると
    本当に芯が強くて凄い女性だと思いました。
    そして本当のアイを知っているからこそ
    頼り甲斐もあり包容力のある夫が寄り添い、
    そしてまた親友にも恵まれて、
    確実なアイに成長したのだと思います。

    アイの本当の祖国でもあるシリアの現状が度々出てきたり、
    近年の世界情勢や災害、事故などがずらりと並んでいると
    こんなにも世界では惨状があるのだと思わされます。
    アイのように惨状を知り罪悪感を持つようなことはないですが、
    それを情報として知っているだけ何もできなかったなとも思わされて
    日本だけを見るのではなく、世界全体を見ているアイは凄いとも思います。

    アイは小さな世界から大きな世界と目を向けて
    何かを発信しているような気がします。
    ラストに本当の自分の存在を分かったことで、
    アイの今まで漲っていたパワーがここで爆発して
    ここから力強く羽ばたけていけるのかと思うと感涙しそうでした。

    アイは愛するの愛だと思え、
    愛ということにパワーを感じられた作品でした。

    西さんの作品は今までに何作が読んだことがありますが、
    読みやすくて、このような心揺さぶられる作品は初めてで
    今の世界情勢、社会などを反映してこの時代に読めて
    良かった作品だと思いました。

  • 主人公アイは1988年生まれ。自分と同い年だった。
    アイがノートに書き留める災害や事件のいくつかは自分も覚えていたし、知らなかった出来事もたくさんあった。災害や事件の当事者ではないアイの苦しみ、読みながらすごく共感した。

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    2011年3月11日の地震で日本は変わった。
    あの大きな地震と"想定外"の津波は多くの人たちの命と暮らしを奪った。原子力発電所から漏れ出た放射能は今も土壌を汚染し続けている。
    当時与党だった政党は対応のまずさを非難され、その後の選挙で大敗した。当時、バイパスを走るどのトラックの背面にも『がんばろう日本』のシールが貼ってあった。
    被災の苦しみを乗り越えるために日本がひとつになろうとしている、そんなふうに期待した人も多かったと思う。自分もその一人だ。

    2017年現在、未だに仮設住宅で暮らす方々がいるのに、東京では多くの資材や資金を使ってオリンピック会場の準備が進められ、その準備に追われた労働者が過労死している。
    なんなんだろうこれは。ずっと、ずっとずっと思っている。こんなのおかしい。
    だけど、自分は当事者じゃないから、被災者じゃないから、怒れる立場ではないと思っていた。圧倒的に無力だ、と。

    この小説で、アイはそのことについてはっきりと答えを出してくれた。
    ”渦中の人でなくても、その人たちを思って苦しんでいい”、”その苦しみが広がって、知らなかった渦中の苦しみを想像する余地になる”、”それに実際の力はないかもしれないけど、想像するってことは心を、想いを寄せること”。
    想像すればいい、想いを寄せればいいのだ。


    Yahoo!ニュースにはコメント欄があって、一般の人が気軽に感想や意見を書き込める。ネットでニュースを見る時、ついついコメント欄を見てしまうのだけど、だいたいが心無いコメントばかり。
    原発事故で避難されている方々のニュースに対して、『被災者ビジネスは儲かると思う人はクリック』、『いつまでも賠償金せびってないで働けよ』なんてコメントを見たとき、本当に悲しい気持ちになった。
    がんばろう日本、だよ。
    当事者でなくても想像するんだよ。

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    アイの精神的成長。親友ミナとの繋がり。パートナー、ユウの気遣い。養子として自分を愛してくれる両親、シリアへの想い。

    養子、外国人扱い、災害や事件について当事者以外が語るということ、性的マイノリティ、出産と中絶、血縁関係。
    多くのテーマを掲げて、それら全てに答えを出したこの小説は超名作。『サラバ!』が直木賞にならなかったとしたら本作が受賞作になったと思う。

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    とんねるずが数十年ぶりにテレビで披露したキャラクター『保毛尾田保毛男』が賛否両論で盛り上がっている。
    同性愛者をバカにしている、と。

    フジテレビはLGBTに対しての配慮が足らなかったとして謝罪文をホームページに記載した。配慮ばかりでテレビがつまらなくなったという人もいる。
    自分は気にしない、というLGBTの人の意見もネットで見た。ハゲやデブは言っていいのになぜホモは駄目なんだとツイッターに書いているひともいた。

    デリケートな問題だから謝って終わり!じゃなくて、色んな意見を出し合えばいい。当事者じゃなくても想像すればいい。みんなで苦しんで答えを探していけばいい。配慮する、想いを寄せるっていうのはそういうことだと思うんだよ。

  • これまでいくつもの小説を読んできたけれど、過去の自分を見ているような気持になった小説は初めて。

    出自も、悩んでいる内容も違うはずなのに。

    内へ内へと籠っていって、それでいて外の世界の人たちがどう思っているか気になる。そして自分だけが何か間違っているような気がして、自分自身を恥じて生きている。
    そういった姿が、なにか昔の自分によく似ていると思った。
    大学時代に、容姿を整えて外の世界と繋がりだすところも何か通じるところがあって、この物語がどう着地するのかとても気になった。

    私の場合、「死んだらどうなるのか」「生まれてきた意味は」「正義と称して人を倒すことは正しいのか」「存在ってなんだろう」なんてことを堂々巡りのように考えるタイプだった。
    だから、外の世界との繋がりに興味が持てず、年頃の女の子のように、かっこいい男子にも興味がないと思っていた。

    主人公アイの苦悩は、本当にごく一部の人たちが抱える悩みだと思う。
    外の世界に悩まされるのではなく、自分自身の内面と対話して苦悩する。
    恵まれているのに孤独だし、恵まれているからこそ苦悩する。

    誰かのために悩む、世界の自分とは関わりのない人のために苦しむ。
    もしかしたら自分が死んでいった人だったのではないか。

    そんなことを考えてどうするんだろう?
    そんなふうに思わないでもない。
    でも、そんな悩みを持つアイに、たった一人の親友ミナが言った言葉は、私の中にもなにか突き刺さるものがあった。

    考えてしまうのなら、それはなにかに繋がる大切なこと。

    多くの人は目の前で起こっているいろいろなことに思い悩んで生きている。
    それが建設的かもしれないが、人間が人間らしいのは「想像」の力だ。
    その力を使って、会ったことのない人に思いをはせる人もいてもいい。
    そういった人たちを必要とする人もいる。

    内へと籠っていくと、自分自身がどこにいるのか、自分の存在そのものがつかみどころのないものに感じることもある。
    「この世にアイは存在しません。」
    という言葉の「アイ」は含蓄があって、「愛」という目に見えないものも指している。
    人間の「想像」の力とは、「虚構」を作り出したり、それを存在させる力でもある。
    誰かが強く「思う」ことで、それは「存在する」。

    アイデンティティの確立の物語でもあり、自分自身でもあるのかどうかつかみどころがないような「愛」の存在を確立させる話でもある。
    それを数学を使って暗示的に示して見せた。

    つかみどころがない物語だけれど、自分の中で忘れられない特別な本になりそうだ。

  • 良かったー…
    とにかく良かったー…
    西さんの書くパワーが本のページを突き抜けてこっち側まで伝わってきた。
    愛は存在するんだ!!と、大きな声で叫びたい!!
    当たり前に昔から言われている愛についての話とか、正直今更感がどうしてもでてしまうことが多いけど、このiは、そんな当たり前の愛の存在についてを凄いパワーで叫んでいる。だからこそ一瞬で引き込まれた。
    2016年の締め本はまさにこの一冊だな。

  • 想像することはできるの意味がようやくわかった気がする。みんなが思う気持ちを拾ってくれた。高校の時のクリスマスカードを思い出した。西加奈子の本で一番好き。

  • 僕が読みとったこの本のテーマを、あけすけに言うなら、感受性の自己肯定だと思う。愛に満ちた幸福な自分と比べて、不幸な人に思いをよせるときの、中途半端な思いやりの偽善性を、自分で糾弾することによって自分を赦す、自己欺瞞を感じることの深い落とし穴について。鏡に映る自分をさらに写す鏡を写す鏡・・・というような、自意識の無限反射の牢獄を描いた上で、そうした不幸の発端とも言える感受性を、いかに自己肯定できるようになるか、というストーリーなんだと思う。それは、ニーチェのルサンチマン批判のような、不幸自慢の断罪とは異なり、庄司薫の「あかずきんちゃん気をつけて」が描いたような、愛への共感に似た、ストレートな生の肯定に近い。主人公は、一般の日本人からするととても特別な境遇に生まれ(ニューヨークに住むアメリカ人と日本人の、裕福な家庭に引き取られた、シリアからの養子)、上記に示したような繊細な感受性を持っているのだが、作者はその感受性のあり方を、決してその子に特別なものではない、私達にも同じように感じ得る普遍的なものとして共感させてくれる。でもその一方で、それは彼女のアイデンティティにもつながっている(つまり特別なもので)、そのあたりのバランスの取り方は、とても巧みだ。彼女が育む、親友との友情も、やはりとても特別で魅力にあふれているけれど、でもそれでいて、私達にとって決して手の届かないものでもない。そんな普遍的なストーリーをつくりあげることに、彼女は成功していると感じた。

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