スイート・ホーム

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591156681

作品紹介・あらすじ

幸せのレシピ。
隠し味は、誰かを大切に想う気持ち――。
うつくしい高台の街にある小さな洋菓子店で繰り広げられる、
愛に満ちた家族の物語。

香田陽皆(こうだ・ひな)は、雑貨店に勤める引っ込み思案な二十八歳。
地元で愛される小さな洋菓子店「スイート・ホーム」を営む、腕利きだけれど不器用なパティシエの父、
明るい「看板娘」の母、華やかで積極的な性格の妹との四人暮らしだ。
ある男性に恋心を抱いている陽皆だが、なかなか想いを告げられず……。(「スイート・ホーム」)
料理研究家の未来と年下のスイーツ男子・辰野との切ない恋の行方(「あしたのレシピ」)、
香田一家といっしょに暮らしはじめた〝いっこおばちゃん〟が見舞われた思いがけない出来事(「希望のギフト」)など、
稀代のストーリーテラーが紡ぎあげる心温まる連作短編集。


どんなに疲れて帰ってきても、仕事でうまくいかないことがあっても、
ここまで来れば、もう大丈夫。駅からバスに乗って、ふたつ目のバス停で
下りて、色づき始めた街路樹を眺めながら、甘い香りのする場所へと向かう。
そこでは、おいしいスイーツと、なごやかなパティシエ一家が、
私の到着を待っていてくれる。(本文より)
さりげない日常の中に潜む幸せを掬い上げた、心温まる連作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 心温まる、時に涙腺を刺激する短編集。5を付けようかと思ったら、某不動産屋さんのHP用だったことを割引きました。本当にこんな街に住んで見たいと思わせられた。
    小さな家族経営の洋菓子店と、その前に植えたシンボルツリーのキンモクセイ。次女が生まれてから、その前で記念撮影するのが行事となる。最初は4人から始まり、長女の結婚式当日に長女の夫が入り、その子供が入り、叔母が加わり、次女の夫が加わる、という歴史が刻まれて行く。
    また、洋菓子店のお客様達の心温まるエピソードも紹介される。
    何気ない日常に、全て善人だけの登場で、心穏やかに読み進められる。

  • みかん色の花と共に香るキンモクセイ。
    丘の中腹に建つ 赤い屋根にクリーム色の壁の家。
    その家には二つ入り口があって、ひとつは家族用の玄関。
    もう一つは洋菓子店「スイート・ホーム」のエントランス。

    街で暮らす人々の温かい交流が、この洋菓子店を中心に描かれます。
    善意の人だけでできている街の様子は、洋菓子そのもの。
    内気な性格のこの家の長女・陽皆(ひな)と、活発な次女・晴日(はるひ)。
    北海道から移住してくる母親の妹・郁子や、店のお得意さんたち。
    街の料理教室で講師を務める未来(みく)さん。
    浪人して受験勉強中の由芽ちゃんや、アメリカ人のエマさん。
    グラフィックデザイナーの明日香さん。
    そして、ひとり娘の家族をこの街に呼んで、同居したい祐子さん夫婦。

    途中、こんな記述がありました。
    『家は、人が住むことでハウスからホームになる』
    それぞれが理想の家族を追い求めます。
    そして、その中心にあるのが、美味しいものたち。
    お店の洋菓子と、未来さんのお料理。
    ページの間から良い香りが匂いたちます。
    未来さんのレシピ、どこかに書いてないかな?
    知りたいんですけど!

    ここからは、ちょっと皮肉屋の私が登場します。
    せっかくの夢物語に水を差すようで申し訳ありません。
    ただ、じゅうぶん大人になってしまった私には、“?” が残るのです。
    登場人物の中心は、ほぼ女性。(パティシエは男性ですが)
    そして、家庭を持った娘たちは、みんな 心地よいこの街に戻ってきます。
    同居したり すぐ近くに家を建てたり、親にとっては 幸せなお話。
    我が家には男の子も女の子もいますが、
    男の子しかいない親は、どう解釈するのでしょう?

    人と人が心静かに平和に暮らすためには、適度な距離感が大切かな?
    あ~。 水差しちゃったかなぁ…。

  • 電化製品を買えば、細かい取り扱い説明書が付いてきます。食品を買ってもパッケージには注意事項の記載があります。でも、本にはなぜか注意事項の記載はありません。なので、書名は全く違うのに実は続編だったとか、続編じゃないけど、実は読む順番があったとか、読んでから情報を知って後悔することがそれなりにあるように思います。では、それが本の内容に関することだったらどうでしょうか。いや、こんな重い話だったら読まなかったのにとか、電車の中で読んだら涙ポロポロで恥ずかしい思いをしてしまったとか、読む前にどんな内容か雰囲気だけでも知りたかったという経験が多かれ少なかれあるのではないでしょうか。…という前振りをした上で…

    ◎ この作品の注意事項
    (表をイメージしてください) 縦軸に上が『幸せ』・下が『不幸』、横軸に左が『前向き』・右が『後ろ向き』
    ※この作品には、上の表上の中心点より左上の感情のみ描画されています。この作品を読んで嫌な気持ち、不快な気持ち、そして悲しい気持ちになることは一切ごさいませんのでご安心ください。

    どうでしょう。こんな表の記載があるとわかりやすいです。でも普通はこんなことはできませんよね。苦悩を経て最後に歓喜に至る結末があったり、最後にはやっつけられるとしても、とても嫌な奴が出てきたり。それが小説を読む面白さとも言えますが、こちらの気持ちがそれを受け止める余力がない時にそんな作品にたまたま当たると、自分をさらに鞭打つだけの拷問のような読書になりかねません。
    …ということで、この本は、上記 注意事項 の通りの内容です。心を病んで辛い気持ちでいっぱいだという、そんな今のあなたに安心しておすすめできる、これはあなたが幸せな気持ちになるための作品です。
    他人の幸せは、自分の幸せでもあると感じる読書。
    そこに、素敵なことがあなたを待っている。

    『今度の日曜日、私の家へ来てくださいますか。どんなふうに、あなたを、父に、母に、妹に、紹介したらいいのかな。いまからあれこれ考えて、わくわく、どきどきしています』と大切な人が来るのを待っているのは主人公の香田陽皆。『私の家には名前がついています。「スイート・ホーム」。小さな小さな洋菓子店』という陽皆の家は『もうすぐ春なんやなあ。もう夏がきたんやなあ。葉っぱが色づいてきたなあ。雪が降りそうな感じやなあ』、と『めぐる季節』を感じられる場所にあります。『梅田からほんの四十分で、こんなふうに自然を体感できる街に、私と、私の家族は暮らしている』という陽皆。そんな家には『ふたつの出入り口がある。ひとつは、チョコレート色のドアの玄関』という住居とは別に『もうひとつの入り口。父が経営する洋菓子店「スイート・ホーム」のエントランス』があります。『ガラスのドアにはみかん色でお店のロゴが描かれている』という外観。『母は、自称「スイート・ホームの看板娘」。パティシエである父を手伝って店を切り盛りしている』、そんなパティシエの父が『宝塚にあるホテルを退職し、自宅を改装して小さな洋菓子店を開いた』のが現在の陽皆の家です。そしてもう一人、『西宮にある某私立大学の三回生で、女子大生ライフ絶賛満喫中』という妹の晴日の四人家族が暮らしています。『ていねいに接客する父と母の姿がすてきだと、ずっとずっと思っていた』という陽皆は、『梅田の地下街の雑貨店に、契約社員として勤めて』います。『何事も起こらない、平凡な、けれどおだやかな日々』を送る陽皆。『バスの窓から眺める街明かりと、四季を感じられる街路を歩くのが、何よりの楽しみ』という幸せな毎日。『毎日私を見送り、出迎えてくれる、キンモクセイの木。父と母が営む洋菓子店の甘やかな香り』という幸せな生活。『それで、じゅうぶんだった。私にはそれでじゅうぶんだと思っていた』という陽皆。『あの日、あのとき ー あの人と出会うまでは』、とそんな陽皆の日常に変化の兆しが訪れます。

    阪急不動産とのコラボにより誕生した経緯もあってか舞台となる陽皆の家がある『宝塚の山手にあるこの街』の美しい四季がとても印象的に描かれるこの作品。山手にあると言う『スイート・ホーム』は『ゆるやかなカーブの坂道を、ぐんぐんバスが上る』という高台の上にあります。そんなバスに乗る時『途中の橋から遠くの街並が見える瞬間を狙って、私はいつも左側の座席に陣取る』という陽皆。『夏ならば燃えるような夕焼けに包まれ、冬ならばとっぷり暮れた空に浮かんでちらちら揺れる街の明かりを眺める数秒間』と表現されるその素晴らしい見晴らしが目に浮かぶようです。そして、原田さんはその時の感情を『これを見るたび、秘密の宝箱をのぞき見したような、ちょっと得した気分になる』と表現します。平凡な日常生活のただのワンシーンでこんな思いができるというのは、小さいけれど大きな幸せだと思います。また、『私たち家族は、私が生まれた年からずっと、秋になってキンモクセイの花が咲いたら、木の前で記念写真を撮影するのを恒例にしてきた』という『毎年恒例の「キンモクセイ前の家族写真」』が全編に渡ってこの作品を象徴するシーンとして描かれていきます。『どれ、見せて。今年はどんなふうに撮れたん?』という家族が一年に一度必ず集う自宅の庭に咲き誇るキンモクセイ前の光景。『晴日が生まれた年から毎年撮り続けられている』という毎年訪れるその幸せな瞬間は、作品が展開するに従ってそこに集う人の数が増えていきます。『にっこりやさしい笑顔だったり、破顔一笑、って感じで、めちゃくちゃ楽しそうに笑っていたり』というその時々の家族の姿が、見事に浮かび上がってくる素晴らしい描写だと思いました。

    一方で、人は勝手なもので幸せに慣れてしまうと、それが特に幸せだとは感じなくなっていくものでもあります。この作品は 注意事項 に書いた通り、幸せ&前向きというエリアに囲まれた感情だけに包まれた世界です。でも、原田さんはきちんとアクセントを用意しています。それは失恋だったり、入院だったり、そして夫婦のすれ違いだったりと人の人生の中では避けて通れないものです。でも原田さんは、これらのマイナス要因を作品の幸せをさらに一段上げるためのアクセントとして利用していきます。ほろ苦さまでもが、幸せのアクセントになっていくという絶妙な構成。『雨に打たれたあじさいがあざやかに彩りを増した、とある週末』と、不幸が幸せに転じていく場面をこのような自然の描写を使って演出していく原田さん。違う場面では『はらり。はらり。秋の風に吹かれて、舞い落ちる桜の葉』『秋の桜の花びらに、ぽつんとしょっぱい涙が落ちた』、とマイナス感情が一瞬漂う場面に、秋と桜というわざと違和感のある組み合わせを重ねておいた上で、一気に『ほんのりとかすみがかった水色の空に、小さなつぼみをいっぱいにつけた桜の枝が、そよ風に吹かれてかすかに揺れている』という幸せに転じた未来へ続く瞬間に繋げていくという絶妙な描写。この辺り絶品だと思いました。

    『ホームタウンへ帰ってきたそのときが、一日のうちで、いちばんほっとする。緑のにおいに包まれて、家々の窓から明かりがこぼれるのを眺める』という誰にでも共通するであろう一日の終わりの最も幸せな瞬間。『ひとつひとつの窓の明かりは、そこに暮らす人たちの幸せの光のように思えて、こちらまで幸せな気分になる』という陽皆の素直な感情。人の幸せを垣間見て、それをどのように感じるかは人それぞれだと思います。世の中には、【人の不幸は蜜の味】というようなマイナス思考な考えだってあるでしょう。でも、そんな考え方をしていても本当の幸せを感じることはできないと思います。素直な気持ちになって、幸せな時間を前向きに感じてみる。そのために今がある。そう、優しいその心が嬉しいことで満たされた時、そこに、本当の幸せが待っている。ほら、素敵なことがあなたを待っている。そんな前向きな気持ちに繋がる幸せな読書の時間。キラキラと眩しい光に包まれたとても素敵な作品でした。

  • 「スイート・ホーム」という小さな洋菓子店を中心とした連作短篇集。

    みんなから愛されるこのお店は、駅からのアプローチがよくて、バスに乗って、眼下に街を眺める橋を渡って…。バス停で下りて、緑いっぱいの道を歩き、いくつかの角を曲がるうちに、バニラとバターの甘い香りが漂ってくる。
    美味しいお店の道標となるよう語りかけるような街路樹、家々の庭先を彩る季節の花々が、歓迎ムードになっているところが喜ばしい気持ちにさせてくれる。

    そして、ここのパティシエである父と看板娘?なる母。
    物語は、ここの家の姉妹が成長し結婚してこの地を離れてもまた近くに戻ってくるという…。
    愛している店であり、周りのご近所さんからも愛される店である。

    じんわりと心が温まる愛に満ちた物語。

    こんなアットホームなお店が、近くにあれば嬉しいのになぁと思った。

  • えーこれは誰の作品。もう一度表紙を。
    小川糸、宮下奈都、三浦しをん???

    原田マハ作品、まだ自分は原田マハ初心者。
    楽園のカンバスからのあまりにも違う作風。

    素敵、アメージング、素敵以外の何者でも無い。
    「痣」を読んだばかりの「悪ばかり」この身にスーと温かいものが入っていく。
    こんな家庭を作りたい、こんなご近所さんとくらしたい。
    まあ子育て終え、子供たちそれぞれに家庭を築いてることに何の不満もありません。喜びしかありません。

    しかし、しかし、スイートホーム良い、いい。キンモクセイを中心にしての家族写真、毎年、まいとし
    一人、ひとりと増えていく〜きちんと美味しい料理を作り、テーブルセッティング「お膳立て」をして
    美味しいものを食べる
    みんなを愛おしみながら。
    それぞれの短編が一つの関連した物語になっている。素晴らしい!!時々今の気持ちを思い出して
    優しい人になろう〜なんてね、
    あまりにもキャラ違いすぎ。「自分」

    そうそう宝塚に行きたくなる「住みたくなる」

    宝塚のSAは素敵ですね。
    リボンの騎士もいて!



    「スイートホーム」の看板娘
    パティシエの奥さん、2番目のいっこさん、本物の看板娘陽皆ちゃん、そして晴日ちゃん
    一人の時も三人、四人と揃い踏みの時もある。

    こんなの読むと、明日はフルーツいっぱいのタルトかモンブランを絶対食べよ。
    あーそばに「スイートホーム」というケーキ屋さんがあったらね。

    うちの金木犀はまだ小さい。
    今、我が家には木槿が咲いている。


  • 宝塚のとある街で洋菓子店を営む家族と、近隣に住む人々の暮らしを切り取った、温かく愛の溢れる連作短編集。

    ・スイート・ホーム
    小さな洋菓子店を営む両親の娘である陽皆(ひな)は妹の晴日(はるひ)と対照的に、優柔不断で恋愛経験が少ない。ある日職場の雑貨屋に客として訪れた昇さんに恋に落ち、やがて恋人となり、そして、家族になる。
    父の丁寧な接客を自然と受け継いだ陽皆と、その心配りに惹かれた昇さん。お似合いすぎる二人。香田ファミリーと昇さんの人柄の良さが伝わってくる温かい作品。

    ・あしたのレシピ
    料理研究家の母と二人暮らしの未来ちゃんは35歳独身で料理教室の講師。スイート・ホームで知り合った始に恋を寄せつつも、始の気持ちは陽皆へ向いていることを知ってしまう。それでも、決して自分の気持ちを押し付けることなく、始のために料理を教える未来ちゃんがとても素敵。始に対して「こんなに素敵な未来ちゃんを、あなたの鈍感さでこれ以上傷つけないで〜( ᵕ_ᵕ̩̩ )」と思わずにはいられなかった。

    ・希望のギフト
    陽皆の妹の晴日の結婚、そして函館からやってきたいっこおばちゃんを含めた賑やかな生活が描かれる。
    完全に核家族の家庭で育ち、15歳で実家を出た私には、社会人になって実家暮らしのうえに、叔母まで同居というのは、現実としてはなかなか考えられない状況だが、だからこそこんなふうにアットホームで優しさに溢れる実家というのはとても憧れる。

    ・めぐりゆく季節
    ショートショートで『秋の桜』『ふたりの聖夜』『冬のひだまり』『幸福の木』『いちばんめの季節』の5つが収録されている。登場人物はスイート・ホームの常連さん達。関西人の集まりなだけあって、とにかく賑やかでポジティブ。
    浪人して二度目の受験を迎える由芽。一浪というだけでもプレッシャーなのに、受験後にお疲れ様会まで開かれてしまっては、万が一不合格だった場合に見せる顔がないな…なんてネガティブな発想は、本作では考える必要はなかった(笑)

    「幸せの塊」と言い切れるほど、毒味や穢れが一切ない作品を読んだのは久しぶり。(というか、もしかしたら初めてかもしれない)
    読後に調べたら、阪急不動産が「阪急宝塚山手台」のPRとして原田さんに書き下ろしを依頼してできた作品とのことで、ユートピアな世界観にも深く納得。
    幸せな気持ちにはなれるが、ストーリーが美しすぎて物足りなさを感じてしまい、個人的には星3.5くらい。

    とにかく温かい気持ちになりたい、という方におすすめの作品。

  • ほっこり心温まるストーリー。幸せな気分になる話なのになぜか涙が止まらなかった...
    こんなケーキ屋さんが近所にあったらいいなぁ。
    マハさんのお話は、やっぱり好きです。

  • 宝塚にある、小さな小さな洋菓子店「スイート・ホーム」の家族や(父、母、姉の陽皆、妹の晴日)、周りの人々をめぐる物語の連作短篇集。

    毎年、10月になると庭のキンモクセイの香りに包まれて、家族全員で記念撮影をします。
    最初は、四人だった家族がだんだん増えてゆき、周囲の人にも幸せが訪れる、とっても甘くてとっても優しいストーリーです。

    「お母さんはこんなふうに思うんやけど、どうやろ。家は人が住んで、家庭になる。「ハウス」は人が人と暮らして、時を経て「ホーム」になる。ほんでね。わが家は特別。なんていうても、ただのホームやないから。「スイート・ホーム」やもん」

    第1回目の「スイート・ホーム」は長女の陽皆の恋を巡るお話です。
    「あしたのレシピ」
    「希望のギフト」と続きます。
    そして最終回の「めぐりゆく季節」は登場人物、総出演でとても賑やかです。

    スイーツや心のこもった料理は人を幸せにする魔法の食べ物ですね。私も、近所のケーキ屋さんにスイーツを買いに行きたくなりました。

  • 「何事も起こらない、平凡な、けれどおだやかな日々。バスの窓から眺める街明かりと、四季を感じられるがいろあを歩くのが何よりの楽しみ。そして、毎日私を見送り、出迎えてくれる、キンモクセイの木。父と母が営む洋菓子店の甘やかな香り。」
    原田マハさんの情景を語る表現がすごく好き。あぁ、幸せって、日々のこんな近くにあるんだと、言われないと見過ごしてしまいがちな小さな幸せを感じることができます。

    主人公・陽皆の自宅は宝塚で洋菓子店「スイート・ホーム」。梅田の雑貨店に勤める陽皆が、買い物に来た男性・昇に恋して、結婚して自分たちのスィート・ホームを作ろうと約束する、心暖まる話。

    この話の中には他にも明言がある。例えば「家は、人が住んで、家庭になる。『ハウス』は、人が人と暮らして、時を経て『ホーム』になる。」家の、家族の大切さを改めて感じる言葉である。

    苦手な短編習慣だが、全てが洋菓子店の「スイート・ホーム」に絡む話で、話が連続しているので、「スイート・ホーム」がいかに宝塚のこの街で愛されているかを違った視点で確認することができる作品となっている。

    [あしたのレシピ]は、「オアシスキッチン」の講師・未来先生の話し。未来が好きなスイーツ好き男子・辰野君に晴皆が好きと相談され、「スイート・ホーム」のメンバーを招待するパーティーを二人で企画、実施。辰野君を思う気持ちが純粋で、きっとうまくいくだろうと予感をさせる。

    [希望のギフト]は、香田家に同居するようになった晴日の叔母・池田郁子と、晴日と明野真君の結婚話。
    晴日が、結婚当日に「もちろん、うれしい。けど、ちょっとさびしい。心にポッカリ穴が空いたみたいな。」の感覚に、当時の自分の心情が描写されているような感じがして、懐かしかった。

    [めぐりゆく季節]は「スイート・ホーム」の常連さんたちの話で、その時々の彼らの気持ち、心情を香田パティシエがケーキで表現している。桜のマジパンが乗ったケーキ、クリスマスの粉雪を連想する粉砂糖がふってあるザッハトルテ、思い出の幸福の木というネーミングのケーキ…その時の人の気持ちがケーキを通して形になっている。パティシエの暖かい気持ちである。

    ちょっとした普段の何気ない日常のやりとり、仕草、行為、人との関わり合いで、自分も自分の周りの人も幸せになれるよ!というメッセージのように思えた。
    残念なのは、幸せだと感じるのは、幸せが過ぎた後だということ…かも。

  • アンディ・ウォーホールのイラストが表紙。
    原田マハさんの本はいくつか読んでいたので、期待大で読み始めた。

    が、ん?ちょっと…なんていうか内容があまり入ってこない…。
    いつ頃書かれた物なのかなぁと、奥付を見て納得。
    阪急不動産のホームページ用に書いた広告小説だったらしい。
    やたら、宝塚という地名や、梅田からの道のりが出てくるので少々違和感があったのも納得。

    全体的にほんわかとして幸福感満載だが、宝塚を大々的に分譲する広告なのだから、そうでなければならないだろう。
    宝塚市は、就職氷河期世代を正規雇用する取り組みでニュースになったが、なかなか戦略的である。

    最近、社会問題を取り上げた本を読むことが多かったからか、なんだかそれらとこの本が同じ国の話(こちらはフィクションだが)とは思えなかった。2019.12.12

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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