ミナトホテルの裏庭には (ポプラ文庫 て 3-2)

著者 :
  • ポプラ社
3.64
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本棚登録 : 1366
感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591158258

作品紹介・あらすじ

笑えなくなったら、泊まりに来てください。

「おすすめ文庫王国2018」エンターテインメント部門第1位
(選者・藤田香織氏)
『ビオレタ』の著者が贈る感動作!


祖父から大正末期に建てられた宿泊施設「ミナトホテル」の裏庭の鍵捜しを頼まれた芯輔。金一封のお礼につられて赴いた先は、「わけあり」のお客だけを泊める、いっぷう変わったところだった。さらには失踪したホテルの猫も捜す羽目になり……。 温かな涙に包まれる感動作。


★おすすめコメント★

文章も、主人公も、 ぴりっとキュート!
ハートウォーミングな映画を 見ているかのようでした。
――宮下奈都(作家)

この作家が好きだ! と、 大きな声で叫びたい!
――藤田香織(書評家)

感想・レビュー・書評

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  • 《その程度のことでそんなに落ち込むのはおかしいとか、いつまでも引きずるのはおかしいとか、そうやって他人のつらさの度合いを他人が決めることこそおかしい。なんの権利があって他人のつらさを判定しているのだ。君はあれか、つらさ判定員か》

    と、若い頃に一度は気づかされるべきだと、自分のことも含めてそう思います。でも、あー、一度も誰にも気づかせてもらえなかったんだな、って思っちゃうような大人も、世の中にたくさんいますよね。


    そして

    《気に食わないことがあるからと言っていちいち辞表を出しとったら、世界中どこにもお前さんの居場所はなくなるよ。しかし、
    死ぬほど辛い場所で、青筋立てて頑張る必要もない。がんばりどころと、そうでないところを間違えてはいけないよ。
    働くのは、食うためだ。食うのは、生きるためだ。生きるための仕事で、死ぬな。》

    これもまた、若い人みんなが、誰かから教えてもらって心に刻んでおくべき言葉だな、と思います。


    ポプラ社の本は10代の読者向けの本が多いイメージなのですが、そうだとするとまさにポプラ文庫的な一冊でした。

    私はもういい大人で、どちらかというとこれらの事を若い人に言ってあげるべき立場ですが、なかなか言える機会もないですし、若い頃の自分を振り返っても、そういう言葉を大人からかけられる機会もなかった。気づきをくれたのは本でした。

    優しい、柔らかいトーンのお話の中に、沢山の気づきが詰まった良書だと思います。
    中学年から大人まで、おすすめします。

  • 祖父と二人暮らしの芯(木山芯輔)は、大正の終わりぐらいに建てられた古いホテルの裏庭の鍵捜しを頼まれる。
    ミナトホテルの経営者は祖父の中学の同級生の湊陽子さん。
    彼女の亡くなった後を息子の篤彦が継いでいる。
    ミナトホテルにはわけありのひとばかりがやってくる。
    「寝てない」人たち。だけど、疲れた人の身も心も癒してくれる、そんな優しいホテルだ。
    しんみりと、わりと深い話が続くのだけど、胸にグッと突き刺さる言葉も多くて、いろんなことに気づかされた。

    「誰にも頼らずやっていけることは、たぶんそんなに立派なことではないのだ。
    だって、誰かに頼られると嬉しいし、誰にも頼られることなく生きていくのはむなしい」

    わけありでも、それぞれがみんな主役なんだと思わせてくれる。

    あとの二編、「手の中にある」と「魔法なんてここにはない」もすごくよかった。
    慈愛に満ちた、他にはない温かさを感じます。

  •  いいなあ。こういうホテル。疲れた人、訳ありの人、家で眠れない人に寝る場所を提供するホテル。大正時代からの建物だけど、看板も出さずに、ひっそりと経営している。各部屋と受付には花を絶やさない。
     このホテルに関わる人たちはみんな優しい。生まれつき、のほほんと優しい人たちに見えるけれど、実は、身近な人たちを立て続けに失っていたり、身近な人に傷つけられていたり、身近な人を救えなかったという悔いを残している人たちである。

     印象に残った言葉。
     「気に食わないと言って、いちいち辞表出しとったら、世界中どこにもお前さんの居場所はなくなるよ。」
    「絶対に逃げちゃいけないという話ではないんだ。死ぬほど辛い場所で青筋立てて頑張る必要もない。……働くのは、食うためだ。食うのは生きるためだ。生きるための仕事で死ぬな。」
    「自分自身をないがしろにしている人が、誰かを大切にできる訳がない。」
    「お節介を焼くのは自由だが、せっかく手を差し伸べてやったのに、あいつは拒んだ、と怒ったり、悲しんだりするのは、それは違う。」

     このホテルの経営者の湊さんは、心が疲れている人や困っている人に癒しの場を提供しているが、決して個々の事情に立ち入ろうとしない。湊陽子さん、篤彦さん親子も、困難な事情の中で頑張って来た人達だからこそ、他人との絶妙な距離感を保ちながら、他人を助けていくことが出来るのだろう。
    頑張っている人を守ってホテルであって、頑張らな人を甘えさせてくれるホテルではない。
     私もそれなりに頑張っている。そのことを誇示するのではなく、ミナトホテルの裏庭のようや心を持てる人になりたい。

  • 寺地はるなさんの本は3冊目。
    フォローしている方のレビューを読んで借りてみた。

    今まで読んだ中では、この本が一番好きかな…。
    声の大きい人が幅を利かせる世の中で、そうでない人たちが小さなことを大切にして生きている。
    そんな感じのお話だった。

    以下本文よりフレーズ抜粋
    冗談として通用するかの判断は言う側ではなく、言われた側に委ねられる。

    女をバカにしながら女に支えられて暮らすというのはどういう気分なのだろう。

    登場人物の女の子が、大切な友達のことを親友と呼ばず、ただ大事な友達と言っているところに、すごくすごく共感した。2020.10.26

  • 冒頭のシーンからは想像できない暖かい話でした。
    訳ありの人たちが集まるホテルを支える人たちのお話。
    寺地はるならしい、魅力的な登場人物と胸にささるフレーズ満載。感動作、とまでは言わないけど、時折目頭を熱くしながら読み進めました。
    ゆるーく流れていくストーリーだったけど、決して単調には感じないところがこの作者の魅力だと再認識しました。

  • ポプラ社らしい 似合っている作品でした。あっ初めてのもビオレタのポプラ社.心に沁みる、涙に包まれる気持ちはなかったけど、とても深い話をしている 亡くなった陽子さんが出てくるスピンオフも良いなあーって事 心を開かないで人を救おうとか間違いだという友達がいて羨ましい、ちょっと嫉妬してみた。芯にやらせた祖父の存在感、あんな人がいてくれたら基準になるから。芯と出会う人達の距離が縮まるのと 芯の子育てがそんなに大変なのかと気付く所がグッとくる。ラストのかし子の問題と湊の振り解いたのもかし子の意思と言う所

  • こういう場所が必要なのだと思う。
    家でも職場でも、友人知人宅でもない、ひとりで安らげる場所…眠れる部屋が。

    尊敬する先輩が、家庭が嫌になって時々ふらっとホテルに逃げると言っていた。話を聞いた時には贅沢だなぁと思ったけれど、今はとてもよくわかる。

    ひとりで頑張ることは立派じゃない、誰かに助けを求める勇気だって必要なのだと考えさせられた。
    ふんわりと温まる、素敵な1冊。

  • 君は痛みを知っているか。

    最初の一文で、すでにノックアウトをくらった気分。
    えーと、知っている、つもり、です、はい。と先細りの声がつい出てきそうになる。誰かに言い訳をするような声。そんな必要もないのに。

    寺地はるなさんの作品を読むといつもなんだか安心してしまう。
    どの登場人物も、どこか何かが欠けていて、とても人間くさい。
    だからリアルな嫌悪感も感じたりすることもあるし恐ろしいほど同調してしまいそうにもなる。
    日常の延長にあるような読書体験ができる。
    近すぎず、遠すぎない場所に、寺地さんの世界はある。

    ミナトホテルもきっとそうで、いつもより少しだけがんばって歩いたら見つけられそうな場所にあるような気がした。
    看板はないけれど、部屋には綺麗な花が飾ってあってきっとよく眠れる。
    (もしかしたら平田カラメルに遭遇できるかも)
    こういう場所があったら救われる人はいるんだよね。見過ごされそうな人を寺地はるなさんはきっと見過ごさない。

    芯のことを「適当に扱ってはいけない人」と月子が言うのもわかる気がした。
    みんなが不完全でそれがすごく好きだなぁ。

    特にラストの言葉がすごく素敵。

    “魔法なんてここにはないのだと、あの時湊さんは言った。ここだけではなく、どこにもないのだ、そんなものは。でも私たちには、自分の足がある。手もある。目が耳が、言葉がある。花岡も、かし子も、それを知っている。それしか知らないけれども、それだけ知っていればじゅうぶんだと知っている。”

    きっと寺地はるなさんも、それだけを知っていて、それだけ知っていればじゅうぶんだと知っているから、こんな魅力的な人間を描けるのでしょう。

  • いろいろな悩みや事情を抱えた人が救いを求めて泊まるホテル
    こんなところが本当にあればもっと世界は平和なのに!今の時代には多くの人が利用しそう。
    そしてそこのオーナー湊は人の事情を聞く事なくそこのカウンターにいるだけだけど…ユーモアな個性を持った登場人物ばかりで面白かった!

  • ミナトホテルというあまりホテルっぽくないホテルの裏には、鍵のかかった庭がある。所有者が亡くなったあと、その鍵が雑然とした部屋に紛れて入れなくなっていて、主人公、木山芯輔(きやましんのすけ)は故人の互助会友人の一人だった祖父から鍵探しアルバイトを持ちかけられる。鍵を探す過程で現ホテル所有者の湊や、互助会の面々、芯の職場のこと、特に嫌な渡部のこと、職場の花岡さんのことなど、さまざまな人間関係が語られていき、それが染みるような面白さを生み出しているお話。名言もたくさんあったが、私が一番気に入ったのは芯の友人で引きこもってしまった初瀬の「女の子を泣きをやませるにはあまいものを食べさせるのが一番だ」かなー。真理だよ。諸君。
    この本の欠点は、結局なにか始まってなにか終わったのか?というストーリー的満足感がないこと、なんだけど、そういうのを気にしないなら、とてもオススメです。生きるって不条理とか不運とか嫉妬とか自分の努力だけてはどうしようもないことに見舞われるけど、それから逃げても、うまく立ち回ってもなんでも良いんだよ、と優しく言われているような内容でした。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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