月のぶどう (ポプラ文庫 て 3-3)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591160527

作品紹介・あらすじ

泣けなくなったら、訪ねてきてください。

人は、どんなに光を浴びていても、
何度も〝ぶどうのなみだ〟を流しながらつぶやく。
「こんなはずじゃなかった」。
でもそんな時、きっと『月のぶどう』で作られたワインが、
ちょっぴり人生の甘みを教えてくれると思います。
――『しあわせのパン』の三島有紀子(映画監督)

大阪で曽祖父の代から続くワイナリーを営み、発展させてきた母が亡くなった。美しく優秀な母を目標にしてきた姉の光実と、逃げてばかりの人生を送ってき た弟の歩は、家業を継ぐ決意をする。うつくしい四季の巡りの中、ワインづくりを通し、自らの生き方を見つめ直していく双子の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 少し前に、m.cafeさんのレビューを見て「読みたい」に入れていた。

    大阪でワイナリーを営んできた家族のお話。中心となって切り盛りしていた母親が突然帰らぬ人となり、双子の姉弟が中心となって遺された家業を継いでいく。

    大阪でブドウづくり?と思ったので調べてみたが、府のホームページには『栽培面積全国第9位、収穫量全国第8位を誇るぶどう産地』と書いてあるのを見て、認識を新たにした。
    物語の中では『先のとがったブーツのような大阪府の地形の、ちょうどかかとのあたり』とあり、それだと河内長野市や千早赤阪村あたりになるが、実際には柏原市、交野市、枚方市で栽培が盛んらしい。意外と近くでやっていてちょっと驚く。

    とても佳い話だったが、優等生でも頑なな姉・光実がほどけていくのも、出来の悪いほうの弟・歩がしっかりしていくのも、周りの人たちのありようも、ブドウから作り始めるワインづくりの過程が丁寧に描かれるのも、概ね定石通りに話が運び、あまり面白みはなかった。
    その中では、歩とあずみの恋とも言いにくい関係の切なさと、現場から軽く見られている経理屋の父親がしっかりものが見えててけっこう腹も据わっているところが良かった。

  • 曾祖父が興した会社「天瀬ワイナリー」の代表者であった母を突然失くした双子の姉弟、光実と歩。
    姉の光実はできのいい子で、18歳の頃からずっと家業を手伝っていて、弟の歩は特にやりたいこともなく、アルバイトで日々を過ごしている。
    性格も対照的な二人だけれど、歩は強引に光実に会社を手伝わされることになる。

    大阪の架空の町が舞台の物語である。
    ワインのもととなる葡萄の栽培、醸造、販売等々、人が一本のワインを購入し口にするまでにどれだけの時間と工程を経てつくられているか、家業を継ぐと一言でいうけれど、そうそう容易いことであるはずもなく、この物語を通してとても尊いものを見せられたような気がします。

    地味で地道な毎日が淡々と続いていて、まだ30にも満たない若い姉弟に頭が下がる思いがします。
    家族や友人、職場の人たちに支えられ、お互いに刺激しあってたどり着いた答えは、二人にしか出せないもので、タイトルの「月のぶどう」とはこういうことだったのかと納得できました。
    光実と歩のこれからの人生が、月の光を受けるようにキラキラと輝いていてほしいと願っています。

  • 『夜が暗いとはかぎらない』で寺地はるなさんにすっかりハマって、著作を少しずつ全部読もうとしている最中です。
    『ぶどうのなみだ』という映画が何年か前に公開されたのは知っていましたが、その原作が寺地はるなさんのこの小説とは知りませんでした。
    .
    出来の良い頑なな姉と出来の悪い柔軟な弟、祖父や父、姉弟の友人達、伯父、など、個性的かつ魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。
    双子の出来の悪い方と言われ続け、どんな仕事も続かなかった弟が、段々と家業のワイナリーの仕事に本気になっていく様子もいいし、出来のいい方と言われ続け、他人に弱みを見せられなかった姉が少しずつ変わっていく様子もいい。
    寺地はるなさんらしいグッとくるセリフもあり、テーマもわかりやすく、お話としてのまとまりもいいです。

    取り立ててここが不満、というところは無いのですが、『夜が暗いとは…』や『わたしの良い子』を読んだ時のような満足感には少し遠かった。
    出版されたのはこちらの方が2年くらい前なので、段々と作品の完成度が高くなっている途中の作品だったということなのかも。先に読んだ方をあまりに気に入ってしまうと、どうしても比較の目線が出てしまって良くないですね。


  • 知識なし、経験なし、興味なし、そしてやる気もない『できがよくない方』とされる弟・歩、対照的に、知識あり、経験あり、興味津々、やる気の塊りのような『できがよい方』として育った姉・光実。そんな二人を結びつけるキーワードが双子。家族の、そしてワイナリーの大黒柱だった母親の急死によってそんな二人の位置づけ、関係にも変化が訪れます。それを淡々と描いた静かな物語。

    『世の中にある華やかなものは、すべて誰かの地味な作業によって生み出されているのだ』、ワインというと華やかで洗練されたイメージがまず浮かびますが、それが作り出される舞台裏の極めて地味で地道なワイナリーの人々の一年が描かれていきます。寺地さんの丁寧な取材の賜物と思われるその描写はとってもリアル。光実の『ワインが生まれる時の産声。生まれてくる手伝いをしてるだけって思う。』というとっておきの瞬間の描写にハッとさせられます。

    神様もヒーローもいなければ悪魔も決定的な悪人も出てこない。どこにでもある風景。ここはファンタジー世界ではないから、そこここにある現実だから。誰も逃げられない、もがいて苦しんでも前を向いて歩いていくしかない。

    そんな苦しみの中にいた歩に訪れる転機、『この人に、負けたくない。手のひらに爪が食いこむほど拳をかたく握りしめて、歩みは思った。』人は機会を掴むと強い、速い、そして負けない。一方で、自分の立ち位置が絶対と思っている人ほど脆い、何も見えていない。『ずっと自分の後ろを歩いていると思っていた歩が、いつのまにか自分の先を歩いている。どのようにして、歩は自分を追い抜いていったのか。』とふと気づく光実。でもこの物語には勝者はいない。極々普通の日常だから。追いつき追い越し、また追い越され、それがヒーローのいない日常、人生。

    『大切やない、必要のない仕事はない。必要でなかったら、それは職業として成立せんからな。』という祖父の言葉を含め、就職活動を始めようとする学生さん、今の仕事に迷いを感じている人、そんな人生の転機にある方に是非読んでいただきたいと感じた作品でした。

    最後に…。この作品の敵は刺激に溢れた日常、刺激を求める感情かもしれません。一見、あまりに淡々とした山も谷もない、丘さえもない平板・平坦な作品だからです。でも、長い目で見れば人生ってなだらかな大地のようなものだと思います。
    だからこそ、感じるものがある。動かされる感情がある。そんな作品でした。

  • 大阪の月雲(つくも)市で、ワイナリーを営む家族の物語。

    ある日突然、三代目の社長である母親が亡くなり、残された双子の姉弟、経理担当の父、二代目で現会長の祖父、そして従業員達で会社を引き継ぐことになります。双子の子供達を中心に話は進みます。姉は、子供の頃から出来の良い子で、以前から母親と一緒に働いていて、尊敬しており、母親のようになりたいと思っています。逆に、弟は、26才になっても、自分のやりたい事を頭の中で夢想してばかりで、気持ちがフラフラしていて、行動をおこせない。母の妹である叔母の喫茶店で、アルバイトをしています。出来が悪くて、心配な子と、まわりから見られています。しかし、母の死後、姉と共にワイナリーで働くことになります。二人の共通点は、努力家で真面目なところです。二人が悩み苦しみながら、成長していく姿が、ぶどう農家の過酷な労働と共に描かれています。

    一番心に残ったのは、姉の結婚式。人前式で、弟が進行役を務めたのですが、その時の誓いの場面がとても良かったです。新郎(同級生)、新婦、二人のことをよく知っているので、弟の、あたたかく、優しい言葉に、感動しました。この本を最後まで読んで良かったと、心から思った場面です。

  • 素敵なお話でした。
    双子の光実と歩が亡き母のワイン作りの後を継ぎながら成長していくお話です。
    読みながら、光実の気持ちも歩の気持ちも
    本当に痛いほどわかる気がしました。
    兄弟や双子というと
    つい比べられたり、自分でも勝手に比べて落ち込んだり仲がいいんだけどどこか複雑な気持ちもあったリ…
    寺地さんの作品はどれも私の中にある誰にも見せていないような自分でも気づいていないような
    感情に出会えるそんな気持ちになります。

    ワイン作りの奥深さに感動しつつ、
    光実や歩の周りの人たちの厳しい中に温かく見守る姿や言葉がけが本当に素敵で私も頑張ろうと
    元気が出るお話でした。

  • それぞれが何か抱えながら、それぞれに打ち解けていく様がすてきな話だった。きょうだいのそれは、特に良かった。

  • すごく良かった。ラストの少し前にある出来事には、感動して陽の光やワインの煌めきがありありと目に浮かんで、泣いてしまった。
    寺地さんの本は、悪人がギャフンと言わされることもないし「間違った」行動や言動が猛省される描写もないんだけど、伝えたい人にはちゃんと伝える、そこがいい。登場人物みんなが生きている、生きていく感じ。

  • ワイン好きなので、ワイナリーが舞台というだけでとても楽しく、興味深く読んだ。葡萄の棚が続く丘を思い浮かべるとそれだけで気持ちが清々する。
    親子や兄弟間の思いやり合い・葛藤などは、どこの家庭でもあるような問題ではあるけれど、家族経営の会社などはそういう問題がより濃く出るのかもしれない。
    とにかく、できることや、やらなければならないことをひたすら続けること。進むこと。そういうことが大切なのかなと思う。

    「嫌なことからも面倒なことからも、逃げ続けることはできません。受け止めるしかない。怖がって目逸らしたらあかん。逸らしてたら身体のどこにぶつかってくるかわからん。大怪我するからな。しっかり目開けてみろ。よう見て、しっかり受けとめて、いろんな角度から観察してみなさい。正体がわかったら、あとは叩き潰すなり、よそに放り投げるなり、煮て食うなり焼いて食うなり、好きにしなさい。
    (略)
    ふたりでも受け止められへん場合は、今日のことを思い出しなさい。そこにいる人たちのことを。お前たちのためにどれだけの人が集まってくれたか。どれだけの人が力を貸してくれたか。ひとりっきりでもないし、ふたりっきりでもありません。お前たちは。」333〜334頁

    それともう2つ…共感したり、心に残ったりしたところ:
    1.歩くんが日野さんに果敢に交渉にいくところ(217頁辺り)。日本は仕事の仕方が属人的すぎると私もよく感じる。「他の人が真似できない至高の技を持つ職人」が尊敬されるのはわかるけれど… 特に企業は組織で動いている以上属人的すぎるのは良くないと思うのだけれど、意外とまだそういう仕組みで動いている会社が多いように思う。
    2.あずみちゃんと彼女の母親との関係についての歩くんの考え方「自分の母親にこういう問題点がある、と把握することは、自分の母親を否定することとはちがう。それは、わけて考えた方がいい。」(265頁)
    上から目線の言い方になってしまうかもしれないけれど、日本人って「こうと決めた以上は全てを呑み込んで突き進むべき」みたいな潔癖な考え方をする人が多いような気がする。もう少し割り切って柔軟に考えてもいいんじゃないかと思う。

    寺地さんとは同年代。田辺聖子さんが好きなのも同じ。読んでいて違和感やストレスを感じないので、たいへん読みやすい。

  • 残したくなるフレーズが6件ほどもありました。ぶどう農家の苦悩と喜びを素敵な文章で綴られていて、ぶどうに限らずすべての農家さんたちが、自然を相手に打ちひしがれたり喜んだりしている現実を、今までよりリアルに、これでも足りないとは思うけど少しはリアルに捉えられるようになったと思います。

    「どう考えても君の方がふさわしい」と日野さんからマイクを受け取ってからの歩のセリフの全てが素敵で、感動的で、アドリブ力最高でした。ドラマチックな場面が想像できて泣けました。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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