夜が暗いとはかぎらない

著者 :
  • ポプラ社
3.74
  • (47)
  • (85)
  • (87)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 930
レビュー : 96
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591162743

作品紹介・あらすじ

奇跡が起きなくても、人生は続いていくから。
『大人は泣かないと思っていた』で話題沸騰の著者が贈る感動作!

大阪市近郊にある暁町。閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・あかつきんが突然失踪した。かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているという。いったいなぜ――? さまざまな葛藤を抱えながら今日も頑張る人たちに寄りそう、心にやさしい明かりをともす13の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 人生のどの場面でも主役ばかりという人はいません。長い人生、ならせばなだらかな大地のようなものだとも思います。ある場面で主役を務めれば、違う場面では主役をサポートする側に回る。自分のことは見えなくても人のことは他人だからこそよく見える。自分が経験してきた失敗、過ち、そこからくる悲しみを知っているからこそ、他人には自分と同じ過ちを繰り返させぬよう励まし、応援したくなる気持ちも湧き上がる。その一方で『自分の翅で飛び立った空から見下ろす景色はきっと美しい』そう、その景色を見たいという気持ちもよくわかる。

    黄昏色の感じられる街で長年親しまれてきた『あかつきマーケット』、閉店を前にマスコット・あかつきんが失踪し、街の人々の生活のあの場面、この場面に出没するという設定。この作品では、まさしくそんな街に暮らす色んな人々の人生が思いがけないことで交錯し伏線のように繋がって行く様が丁寧に描かれていきます。やや薄暗い色調で描かれる人々、街並み。老若男女、色んな価値観、幅広い考え方の人々が登場する分、この人の気持ちわかる、この人誰かに似てる、こういうことってあるよねと自らの人生に重ね合わせてしまいます。

    『たくさんの人がここで生きているんだと知った。多くの人が見えない着ぐるみを着て生きているのかもしれない。弱さやあさましい気持ちや泣きごとや嫉妬を内側に隠して、他人には笑顔を見せている。』そう、数多くの登場人物が、角度を変えながら色んな形で登場、再登場する度にぼんやりしていた世界がどんどん色濃くなってはっきりと見えていきます。どこにでもあるような街の光景が輝いて見えていきます。だからこそ最終章で描かれる登場人物大団円の瞬間がたまらなく愛おしく感じられました。

    全編に渡って散りばめられた寺地さんのハッとするような言葉の数々がメモし切れないほどに次から次へと登場するなんとも贅沢な時間を過ごさせていただいたこの作品。駆け足で駆け抜けるのばもったいない、登場する人物一人ひとりの生き様、もがきながらも前を向くそんな人たちの声に耳を傾けながら一緒に歩きたい。「大人は泣かないと思っていた」と双璧に感じた寺地さんの絶品でした。

    読書中、そして読後のじわっとわきあがってくる幸せ、とても素晴らしい作品でした。

  • ★4.5

    奇跡が起きなくても、人生は続いていくから。

    大阪市近郊にある暁町。
    閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・あかつきんが突然失踪した。
    かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているという。
    いったいなぜ――?


    「あかつきマーケット」を中心にマスコットの「あかさきくん」や
    マーケットで働く人々やその周りにいる家族・恋人・友人…の、
    13篇からなる連作短編集。

    あかつきマーケットの周辺で暮らす普通の人々、
    子供から老人までの何気ない日常を切り取って、
    一人一人の哀しみや悩みや葛藤・怒り・喜び…色んな感情を
    丁寧に丁寧に描かれていた。
    色んな感情が溢れていた。
    寺地さんはどうしてこんなに人の思い…悩みや苦しみを抱えた人々の
    繊細な心理を描くのが上手いんだろう。
    優しいんだろう…。温かいんだろう…。
    色んな思い出が甦り、想いが溢れ
    何度も何度も涙が零れて仕方がなかった。
    文中にあるのですが、子供に悩みがないなんて言う人は、
    子供の頃を忘れている人だ。という一文。
    私も忘れていた人だった。
    子供の頃、些細な事だか色んな事に悩んだり傷ついたりしてた。
    祖母の事も思い出した…あんなにも愛されていたんだ…。

    登場人物達は、過去の私であったり現在の私だった。
    これから私かもしれない。
    どのお話を読んでも、心に刺さったし、
    心に染入る言葉の数々がありました。

    多くの人が見えない着ぐるみを着て生きているのかもしれない。
    弱さやあさましい気持ちや泣き言や嫉妬を内側に隠して、
    他人には笑顔を見せてる。
    心のバランスが崩れた事がない人なんている?

    沢山泣きましたが、心がじんわり温かくなり
    元気を貰えました。
    明るい日もあれば暗い日もある。
    奇跡は起きなくても一日一日を大切に生きていこう。
    頑張ろうって思えました。

  • 知らない作家さんだったのですが、ブクログでのレビューに惹かれて読んでみました。

    よかった。凄くよかったです。
    小説には「面白かった」と言いたいものと「よかった」と言いたいものとがあると思いますが、これは本当に凄くよかったです。
    子育てと夫の無理解に悩むお母さんも、自分に自信を無くした人も、大切な人をなくした人も、繰り返す朝と夜をなんとか凌いで、生きていく。
    小さくも大きくもない街で生きる色んな人のお話、どれも心に刺さって、何度も泣きそうになりました。

    木皿泉さんの『さざなみの夜』という小説が、今、私の一番好きな小説なのですが、『バビルサの船出』は、それと少し味わいが似ていました。

    『グラニュー糖はきらきらひかる』に出てくる〈すごろく〉の話は、私も以前から考えていたことで、本当に女の人生は、どんな選択をしてもなんやかんやジャッジされてしまうんだなとうんざりしていたのです。

    『はこぶね』の千ちゃんが一番好きです。
    「自分にとってどういうのが素晴らしい人生か、その判断を他人に委ねたらあかんねん」というセリフは、全ての若い人に誰かが言ってあげて欲しい。

    好きなフレーズがたくさんあって、これも図書館で借りた本ですが、購入決定です。

    • 旅する本好き(休み中)さん
      こんにちは!
      寺地はるなさんいいですよね!
      僕は「わたしの良い子」という本を読んで、知りました。
      この本は、書店でもチラチラ見かけましたが、...
      こんにちは!
      寺地はるなさんいいですよね!
      僕は「わたしの良い子」という本を読んで、知りました。
      この本は、書店でもチラチラ見かけましたが、感想を読んで気になったので、買ってみようと思います!
      2020/03/14
    • かおりさん
      〉旅する本好きさん
      寺地はるなさん、この一冊でファンになりました。「わたしいい子」も読んでみます!
      コメントありがとうございます
      〉旅する本好きさん
      寺地はるなさん、この一冊でファンになりました。「わたしいい子」も読んでみます!
      コメントありがとうございます
      2020/03/15
  • フォローしてる方のレビューを読んで、読みたいと思っていた本。初めての作家さん。

    どなたかもレビューに書かれていたけれど、表紙の印象から受けるようなほのぼのとしたお話ではなかった。

    表紙に描かれている「あかつきん」は、閉店が決まっている暁マーケット(戦後の闇市から続く小さな商店が集まった市場)のゆるキャラ。
    ある日、あかつきんがマーケットから失踪してしまうのだが、その後町のあちこちで目撃され、町の住人がその様子をSNSに上げる。「あかつきん」には何か意図があるのだろうか…?

    どこにでもあるような町に住む人々の心模様が、丁寧に描かれている。前章の主人公が次章にもチラリと出てくるリレー形式の短編集。そして、必ずどこかに「あかつきん」も登場する。
    終盤に近づいて、「あ、この名前、前の方に出てきた!だれだっけ?」みたいな感じでページを行ったり来たりして、見つけてスッキリ!てなことも楽しめた。
    それだけ入り組んだ構成を、作者は考えられているんだなぁ…と驚嘆。

    どんなに幸せそうに見える人、恵まれて見える人にも心の中に重石のようなモノはある。その大きさ重さは、人それぞれ、重石で抑えているモノも人それぞれだと思うけれど。
    格差が広がる世界で、人は他の人の重石には目がいかない。自分の重石ばかりが気になって人を羨み、人を軽んじ…大人の世界がそんなだからスクールカーストもうまれるのだろうな…などと考えてしまった。どうも考えが学校に行き着いてしまうこの頃である。

    どなたかも書いていたが、私も「グラニュー糖はキラキラひかる」がとても心に響いた。2019.12.27

  • この読後感をどんな言葉で表現したらいいのだろう?
    難しい! 私のボキャブラリーでは、表現できない
    しみじみ? かな? ちょっと違うような
    身体の隅々にまで何かが行き渡り、染み込んでいくような・・・
    身体の底から何かがふつふつと湧き上がっていくような・・・

    大阪の暁町あかつきマーケットを中心としたその界隈に住む人々の何気ない日常の物語
    しかし、それは暁町だけではなく、私が住むこの町、近所の物語でもある

    人の心は、悪気のない何気ない言葉で簡単に傷つく
    言った言葉は水に刻まれ、言われた言葉は岩に刻みつけられるとかいう格言があるが、確かに言った本人は、言ったことすら覚えていないのに、言われた本人は、心に棘が刺さったようにいつまでも痛めつけられる

    でも、反面、人はまた、言葉で慰められ、癒され、微かな希望の光を見出し、立ち上がる勇気を与えられることもある

    人を傷つけるのではなく、人に僅かでも温かさを届けられるような言葉を発する人間になりたい

    いつまでも心にとどめておきたい言葉がいくつもあった

    ☆運動会ってなんで万国旗なんだろうね
    世界にいろんな国があるみたいにいろんな子がいますってことなんじゃない

    ☆ねえ、君もあんなふうに、生まれてきたんだろ。君が生まれてきたことに震えるほどの幸福を感じた誰かが、どこかにちゃんといるはずなんだよ。もし実際に居なくったって関係ない。
    生まれてきた、それだけでもう君はそう思われるに値する存在なんだから

    ☆みれの未来も、心も身体も時間も全部、自分のもの。他人の期待に応えるために生まれてきたわけやない。他人に渡したらあかん

    ☆二十歳を過ぎたら、早く結婚しなきゃね。結婚したら早く子供を産まなきゃね。産んだら、二人目はまだ? 男の子を産んだのなら、次は女の子ね。一人っ子はかわいそうだもん。
    すごろくに似ている、と思っていた。この世に生まれでたら最後、さいころを振り続けて前に進まなくてはならない。だけど、このすごろくにはあがりがない。いつまでも、いつまでも誰かに何かを言われ続けることには、終わりがない
    すごろくなんてくそくらえや

    ☆「ずっと」は、はじめからそこに存在するわけじゃない。一瞬一瞬を積み重ねて作っていくものなのだ

    ☆死んだ人間は、天国にもどこにも行かん。死んだら小さい、たくさんのかけらになって散らばって、たくさんの人間に吸収される。生きてる人間の一部になる。とどまり続ける

    ☆雨と一緒に音がふってくる。まさしく、ふってくる、という感じで聞こえてくる。音は目に見えないけれども、隣家のピアノの音を聞くとわたしはいつも色とりどりののドロップを連想する。レモンにいちご、メロンに薄荷。ドロップを集めて、細かく砕いて高いところからふりまいたら、きっときらきら光る。
    高いところからふってくるきらきらしたおと。あのピアノの音は、舐めたらきっと甘くて、おいしい

    たくさんの野菜をグツグツ煮込んだあったかいスープが飲みたくなった

  • 「朝が明るいとは限らない。どんなことがあっても、時間がめぐれば朝はかならずやって来てしまう。ままならぬ思いや不安を抱えて迎える朝はたくさんある。生きていれば、いくたびも」
    やることなすこと何故か空回りしてしまう、ままならない日常を送る人達は世の中にごまんといる。
    そんな、朝が来ることを恐れて夜を安らかに過ごせない人達の背中を、そっと優しく押してくれる言葉が沢山綴られている連作短編集。

    一般的には朝は明るく夜は暗い、と言われる。
    けれど朝が明るいとは限らない、とその日その日をなんとか乗り切ろうと奮闘する人達よ。
    そんなに思い詰めないで。
    肩の力を抜いて。
    大丈夫、頑張り過ぎないで。

    明るい暗いは関係ない。
    朝が来て夜が来る、ただそれだけのことなのだから。
    不安に駆られた人達の気持ちを受け止めそっと励ましてくれる、そんな優しさの連鎖が読んでいて心地好かった。

    困っている人を助けてくれる、しっぽを掴むと幸せになれる、と噂の「あかつきマーケット」のゆるキャラ「あかつきん」。
    私も「あかつきん」のしっぽを掴みに行きたい。

  • 言葉は魔法だ。

    寺地さんはどうして人の心の細部の細部までを掬い出し、それを言葉にのせて響かせるのが上手いのだろう。

    誰もが悩み苦しみもがきながらも必死に生きている。
    そんな日々の中で時に誰かの言葉に傷ついたり縛り付けられたり。でも言葉によってグンと救われたり背中を押されたり、包んでもらえたり。

    読みながら所々自分に重ね合わせ何度も共感し涙し、肯定され認められた気分にもなった。
    ふわっと優しく自分も包まれたような気分になった。
    ずっと心のどこかで感じていた言葉、欲しかった言葉があふれていた。

    まさに寺地さんの言葉の魔法を感じた。

    • けいたんさん
      こんにちは(^-^)/

      寺地さんはミナトホテル…のみだなぁ。
      ミナトホテルも悪くなかったけど、心に残るまではなくて。
      これ心に響...
      こんにちは(^-^)/

      寺地さんはミナトホテル…のみだなぁ。
      ミナトホテルも悪くなかったけど、心に残るまではなくて。
      これ心に響きそうだね。
      表紙もいいし、暗い自分に合ってる気がする(*≧艸≦)
      新刊?結構チェックしてるんだけど気がつかなかったなぁ。
      2019/05/31
    • けいたんさん
      もう図書館にあったわ!予約入れました(*≧∀≦)ゞ
      もう図書館にあったわ!予約入れました(*≧∀≦)ゞ
      2019/05/31
    • くるたんさん
      けいたん♪(●'∇')ハロー♪

      おー、予約完了(⸝⸝⸝˃̵◡˂̵ノノ"☆パチパチパチ

      うん、私もミナトホテル、ハチミツ…大人は泣か...
      けいたん♪(●'∇')ハロー♪

      おー、予約完了(⸝⸝⸝˃̵◡˂̵ノノ"☆パチパチパチ

      うん、私もミナトホテル、ハチミツ…大人は泣かない…を読んできたけどこれが一番かな。

      新刊出るたびにパワーアップしてる気がする♡(って、何様だろ)

      あ、今ごろパフェ、実は私も立ち読みしたことあるよ(*≧∀≦)ゞ
      手にした娘さんの気持ち、すごくわかる(o^^o)
      2019/05/31
  • 『一色で塗りつぶせるような単純な人間なんかいない。澄んだ色、濁った色、やさしい色、きっぱりとした色。あらゆる色が、ひとりの人間のなかに存在しているのだ。』

    フォローしている方の書評を見て、読みました。

    あかつきマーケットと呼ばれる商店街のゆるキャラ、「あかつきん」が急にいなくなるところから物語は始まります。

    あかつきんは失踪した後も、再び現れては、人助けをしてまた消える…。そんなことを繰り返しているうちに、「あかつきんのしっぽをひっぱったら幸せになれる」という噂も流れて。

    あかつきんが主人公でもなくて、いや、この本に出てくる誰もが、主人公であり脇役なのです。
    そんな、全員が平等なこの物語を読んでいると、「世の中」って感じがして、ホッとします。

    誰もが悩んでいるし、悩んでいる自分が嫌いだし、でも、そんな自分を、側から見て羨ましく思っている人もいて。そうして、人間って繋がっていくんだと思います。

    物語の途中に、人に色が見えるという、女の子が登場します。

    子供のうちに、人を見る目が優れていること。ものすごく羨ましく思いました。

    が、冒頭の引用のように、人は単純なんかじゃないんですよね。いろんな色が混じり合ってできていて、見ている僕らは、そんな外側の色だけを見つめて、無意識のうちに色分けしている…。

    だから大切なのは、その人の違う色を探すことだと思います。目に見えるものばかりなんかじゃなくて。

    もしかしたら、色でなくても、あらゆるものに何らかの意味合いを見ようとしているのかもしれません。

    今日とか、明日とかは、特に意味なんかなくて、でも、やってくる明日に意味づけして、明日が不安になる。
    不安になるなら、いっそ考えなければいい。正解なんてないのですから。そうすると心はフッと軽くなると思います。

  • 『夜が暗いとはかぎらない』うーん、深い!『明けない夜はない』とか『やまない雨はない』とかは言いますが、『夜が暗いとはかぎらない』ですよ。

    この物語を読むとそのタイトルの意味することがよくわかります。ここでその解説を述べるのはちょっと違うと思うので、そこはスルーしておきますが。

    さて、私ごとですが、かなり久しぶりに小説を読みました。久しぶりに読むと、この連作短編集にちょっとビックリしたりします。この人がこうで、えっ!?この人はなんの人だっけ?っていう風に頭がこんがらがったりします。
    でも、新しい発見がありました。連作短編集って、今までは当たり前のように読んでましたが、これって、物語のリレーみたいですね。各章でそれぞれ違う登場人物がいて、それぞれの登場人物がその章では主役になって頑張っています。そして、この寺地さんが描く登場人物はみんなが魅力的で、その各章が終わるたびに凄く寂しい気持ちになります。
    いやぁ、本当にどの章も面白かったし、優しかった。寺地さんが描く物語で共通しているのは、優しさでしょうか。嫌な奴だなと思っていた人も、他の章でその人のいい部分が見えたりします。

    どの章も面白かったんですが、最後は誰が主役になるのかなぁ?と思って読んでいくと、やっぱりこの人ですよね!そして、各章で活躍した人たちもみんな出てきて凄い贅沢な最終章。

    『夜が暗いとはかぎらない』。どの章にもその意味が隠されていると思います。久しぶりに読んだ本がこれで良かった。

  • 寺地はるなという作家が好きだな。
    デビュー作であるビオレタを初めて読んだときではなく、今、強くそう思う。

    私は本を読むのが好きだ。それはもういつからとかどうしてとか理由とかはじまりを覚えていないくらい本は私の生活の一部だった。
    (今は活字の日に生を受けたからだと後づけでかっこいい理由をつけている)

    今の私は本を読むことの何に楽しさを見出しているのだろうと考えてみて、寺地作品を読んでいてようやくすっきりする答えを見つけられたように思う。
    私は物語に気味の悪い美しさとか理想は求めていなくて、安心したいのだろう。(自分の捻くれた性根からして間違いない。)
    奇跡も美しさも垣間見られない退屈で窮屈な現実世界と続いているところで物語を読みたい。
    こんな毎日を生きてるのは自分だけでないと安心したい。
    余裕がなくなって簡単に誰かを傷つけてしまったり、周りが見えなくなったり、誰かの理想を押し付けられて息苦しくなったり、家族とうまく話せなくなったり、『夜が暗いとはかぎらない』のそこかしらに「私」がいた。
    そして、ぐさりと胸を抉られるような痛みと同じくらい安堵も覚える。

    そうか、私だけではないのだな、と。


    作中に、多くのお気に入りの表現を見つけたのでいくつかご紹介したい。

    “だけど、朝が明るいとは限らない。どんなことがあっても、時間がめぐれば朝は必ずやってきてしまう。”

    これすごいなぁ。朝がやってきてしまう。確かに私にもそんな後ろ向きな気持ちで迎える朝はある。(たとえば毎週月曜日とか)
    それを小説の中で言ってしまえるその潔さがかっこいい。そうだ、朝がいいものだなんて、誰が決めたの?


    “その人の好きは、その人だけのものです。わたしたちの『好き』はわたしたちのものです。世間にすでに存在するパターンに当てはまらないからって、ほんとうに人を好きになったことがないなんて決めつけられたくない。”


    もうここ太字でマーカー引いて、「はい、ここテストでるからね!」と声高に言いたい。昨今の私たちはどうにもいろんな気持ちを既存のパターンに嵌めたがる。そんなものくそくらえだ!と、首がもげるくらい頷いてしまった。


    “ひとりでも楽しそう、というのが柳田を好きになった理由だ、と言ったら、弟は納得してくれるだろうか。もし明日私が姿を消しても、柳田は平気で私と知り合う前の日常に戻っていくのだろうという気がするから安心してつきあえる。君なしじゃ生きていけない、などと言い出す人はあぶなっかしくてこわい”

    これには本当にノックアウトされた。まさに自分がそうだからだ。わかる。わかるよ、瑛子!弟くんが納得してくれなくても私はわかる。瑛子ちゃんとビール飲みたいよ。そんな危うい男など好きになれないよな!!(うるさい)


    挙げたらキリがないほどに私の琴線に触れる表現に溢れている。どのエピソードにも自分が見え隠れしていて、時に読むのが辛くなる。それもまた、本を読む楽しみではないか。しみじみ。

    『夜が暗いとは限らない』に奇跡は起こらない。誰の目にも見えるような大きな変化も、全米を泣かすほどの感動もない。しかしながら、多くではなく少数の人間のハートを深く強く揺さぶる。

    そしてそういう物語は必ず誰かの本棚の10年選手になるだろう。
    BOOKOFFの棚ではなく、私のようなごく一部の人間の本棚の大事な場所にずっとずっと居座ってくれるのだ。
    寺地はるなという作家はきっとそういう作品をずっと書き続けてくれる。そう期待してしまう。


    最後は作中のとあるキャラの台詞でしめようかな。

    『心のバランスが崩れたことがない人なんているの?』

    そんな人なんていないから。誰もがそうだから。
    だから、『私も』、今日を、明日を、生きていく。

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著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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