愛を知らない

著者 :
  • ポプラ社
3.70
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本棚登録 : 849
感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591163238

作品紹介・あらすじ

響きわたる歌声、胸を裂く痛み。心の奥底に寄り添う、言いえぬ希望がここに。

私たちの本音って「嫌われたくない」じゃなくて「愛されたい」だったんだ。
―Superfly(越智志帆)絶賛!

絶望と希望の混じった強烈な吸引力
それぞれの「これから」を見たい
―宮下奈都(作家)

『1ミリの後悔もない、はずがない。』で話題を呼んだ一木けい、待望の第二作。若く力強い魂を描き出した、胸がひりひりするような青春小説。

感想・レビュー・書評

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  •  初めて読む作家さん。文章が、素人の域を出ていなくて、少しびっくりし、戸惑いながら読んだ。でも、確かに、心を動かされるものがあった。話題になったのも頷けた。力がある1冊だった。

     幼い頃から親に虐待を受け、愛着障害を持つ女の子の物語。合唱コンクールの練習に励む高校生四人が主な登場人物。

     愛着障害を持つ女の子は、幼い頃、自分を施設から引き取ってくれた育ての親に、試し行動を繰り返し困らせた。高校生になって、随分と落ち着いたとはいえ、クラスメイトへの態度もぶっきらぼうだ。人からよく思われようなんていう気持ちは皆無と思える行動をとる。

     この物語を読んで1つ強く思ったことがある。私も、この女の子ほどではないが、愛着障害を持っている自覚がある。愛着障害というものを知ったのは、大人になって、ずいぶん経ってからだ。
    若い頃は、今思えば、試し行動を私もしていたように思う。ただ、もうずいぶん長い間していない。なんでだろう?もう良くなったかな?なんて思いながら、理由を考えてみた。

     試し行動を取るのは、こんな態度をとっても、あなたは私を想ってくれますか?と切望する気持ちからであって、対象は、この人から愛されたい、この人を愛したいと思う人に限定される。だから、そういう相手がいなければ、試し行動は現れない。これが理由だった。我ながらとても悲しい分析になってしまった。

     だから、試し行動をとられた人は、「自分はその人から愛されているんだ、そして自分にもっと愛して欲しいんだ」と捉えて欲しい。そして、その人と関わり続ける気があるならば、その人をとても想っていることを言葉にして、繰り返し伝えてあげて欲しい。愛着障害を持っている人は、ただただ愛に飢えていて不安なのだ。とても厄介だけれど、同時に純粋でもある。相手に対して欲しているものが、物やお金や、その人と仲良くなることで得られる地位や権力ではなく、ただ1つ、愛情なのだから。

     本から話がそれてしまったけれど、こんなふうに、心の深いところを揺さぶられる、価値のある1冊だと思う。ただ、もう少し先まで描いて欲しかったり、大人の登場人物の人格や言動に確固とした一貫性を持たせて欲しかったりと色々があり、出版に携わった周りの方がもう少しアドバイスしてあげてもよかったんじゃないかと、残念に思う気持ちも残った。この本の、他にはない勢いを、プロの手で邪魔したくなかった気持ちもわかるような気もするけれど。

  • 圧倒された一冊。

    一言で言うと言葉が心に襲ってきてその都度圧倒された、そんな物語だった。

    時折挟まれる日記にはただ必死で不器用だった自分を思い出し、今でも決して完璧ではない小さな傷口がたくさんある自分の心にヒリヒリと沁み込んできた。

    橙子の何気ない言葉一つが明確な意味を持っていたと見せられた瞬間は言葉にならない。

    そしてそれをケアするかのような冬香先生の言葉が、ストレートで的確な言葉が、また沁みる。

    友の差し伸べる手に涙、ラストの慟哭にまた涙。

    後からかけがえのないものに気づく…人ってこんな事の繰り返しなのかな。

  • 高校で同じクラスになった親戚の橙子は、まわりから浮いている存在だ。クラスでも一目置かれるヤマオの推薦で橙子は合唱祭のアルトソロになる。ピアノ伴奏する涼と指揮者の青木さんの四人で練習をはじめるが...。
    「愛着障害」この言葉を最近になって目にすることが多くなってきた。
    橙子は、ネグレクトされて保護されて芳子の家に里子として引き取られた。里子にだされた子供は、度が過ぎる程のイタズラや、悪さを繰り返し、里親の反応を試しくるのだそう。
    クラスに馴染めない橙子も、そんな可哀想な子供だから、わかって欲しいと芳子は言った。
    しかし、芳子の本当の姿を涼とヤマオは知ってしまう。
    「恩にも時効はあっていいと思うのよ」涼のピアノの先生が言った言葉が印象に残った。
    芳子の日記を読むと、育てにくさを感じながらも懸命に子育てしていたのが伝わる。
    あの子を遠くからそっと守るように大切にする。そんな愛し方もあると最後に気付いてくれて良かった。
    「誰かに大切にされた経験は、どんなつらいことでも生き抜く力になる」に胸が詰まる気持ちになった。
    「愛を知らない」はやっぱり「愛されたい」の裏返し。
    橙子はきっと強く生きていけると思う。


  • 「1ミリの後悔もない、はずがない」が好きだったので、手に取りました。

    愛してはいるはずなのに、うまくいかなくて、傷つけ合う。器用に愛しあえず間違えて間違えて、悲しかった。

    でも誰かに気づいてもらえた彼女は幸せだ。

  • 読みやすいし、青木さんやヤマオなど、キャラが立っていて好感も持ちやすく面白かった。

    ただ、芳子の橙子との向き合い方は残念すぎるし、最後も、「今さら後悔しても…」感が尽きない。

  • 辛いことを経験した人ほど他人に優しくできる。
    エスカレートして自分を見失ってはいけない。
    子供に逃げ場はないのだから。

  • 「誰も彼も、見たいものだけ見て、信じたいものだけ信じるよね。この世界にあるのは、そんなきれいなものばっかりじゃないのに。ー」(P.154)
    「誰かを傷つけないために言わないことで、別の誰かが傷ついたら?ただ黙っとくのがほんとうに、いいことだと涼ちゃんは思うの?ー」(P.155)
    「それで、その人のすべてを、わたしの中の引き出しに分けることにしたの。たしかに大事にしてもらった。愛をもらった。守ってもらった。つらいときに優しくしてくれた。情に厚くて、セクシーで、すごく魅力的な人。だけど、そのよい方ばかりに目を向けると、つらくなっちゃうのよ。そんな人に対してこんなことを思う自分がろくでなしに思えて。だから、自分の中のぜんぶの感情を認めて、分けたの」(P.230)
    「怖いくらい追いつめてくる人は、恐怖の中で生きているんだと思う」(P.231)

    合唱コンクールでソロに抜擢された橙子にはある秘密があった。芳子さんと仲良くいっているように見えたが、家では管理され、暴言を吐かれる日々。血の繋がりのない母娘が上手くいくことは不可能なのだろうか。かつて橙子に愛情を注げていたはずの自分もいるはずなのに娘が成長し、壁ができてしまった。修復出来なくなるまで壊れてしまうなんて相当だが、小さなすれ違いが重なるとこうなってしまうのかなとも思う。冬香先生の少し闇のあるような雰囲気や、高校生であるにも関わらず、深夜働き続けるヤマオなど、個性的な登場人物が多め。良い人だと思っていた芳子さんの変貌ぶりや、真逆の顔が怖すぎて、人の印象なんて他人によって簡単に左右されてしまうのだと思う。合唱コンクールに向けて練習し、本番用の帽子を買いに行く4人は青春そのもので羨ましく思った。クラス一体となり努力する感覚、本番が近づくにつれて一体感の出てくるあの感じをまた味わいたいと懐かしくなった。勝手ではあるが、決して嘘はつかない橙子のような人も面白いし、ヤマオのように明るく、真っ直ぐで誰かを救える人間も必要だと思った。

  • 愛とは。母親側からと子供側からの視点で描かれているけど、どちらの立場からしても辛い。血の繋がらない子供を育てるって軽くできることじゃないし相当な覚悟と精神力も必要で大変だろうと思う。それを思うと日記からもわかるように芳子の気持ちも痛いほどわかる。今同じように手がかかる子供がいる私自身の言葉を代弁しているような。そして橙子の愛を知りたいが為の言動や態度が子供ながらにしての必死のSOSだということもすごく伝わってきた。どっちも愛されたいだけなんだよな〜って読んでればわかるのに、現実はうまくいかなかったり言葉では言えないってあるよな〜

  • 前作「一ミリの後悔もない、はずがない」が良かったので読みました。
    読み終わって感じたのが、この作者さんは感性で読ませる人だなぁと。
    物語自体はそれほど突飛でもなく、どこかにありそうな青春ものであり、登場人物には裏がありそうだなと読み始めから予想はついていたので、あぁやっぱりか、という展開でした。まず主人公の男子が良い子すぎるし、クラスの皆も平和だし、ピアノの先生はやたらきれいな感じだし、物語の鍵となる芳子おばさんも当初は良い人すぎるので、序盤は退屈で先にレビューを見てしまいました。ただ読みやすいし情景は浮かびやすいし、橙子だけが異質なのでおもしろくなりそうかな、と読みすすめました。
    後半からは一気に緊迫感が出て入り込めました。ただ、先にレビューを見てしまったこともあり、そこまでひどい展開でもなかったな……ピアノの先生とかがどす黒く豹変したらもっとおもろかってんけどな……とは思いましたが(笑)それでもラストの橙子の決意はすばらしかったし泣けました。この力強いラストのための合唱物語。ラストに向かうまでの数々のエピソードは正直冗長気味には感じたものの最後はしっかり感動できたし、感性で読ませてくれたなぁ…というわけで★4つ。
    個人的には母子ものには共感できないタイプなので、好みのベクトルでいえば前作の恋愛もの(特に不倫の話とか良かった…)のほうが印象に残りました。

  • 高校生の橙子。人に馴染めずクラスで浮く存在である。しかし、合唱コンクールでクラスメートのヤマオよりソロの推薦を受ける。橙子は歌うのか。そして、橙子にはどんな過去があったのか。
    橙子の生い立ちを読むと苦しい。そして、橙子の母・芳子も辛い。この母にも暖かい手が差し伸べられるべき。愛の枯渇。自分だったら上手く接することができるだろうか、大切なことを読み進めながら心に留める。高校生のストレートな感情、上手く描き世界を完成させていました、ですのでこれからも期待です。

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著者プロフィール

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、受賞作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』(新潮文庫)でデビュー。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』『9月9日9時9分』がある。

「2022年 『悪と無垢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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