愛を知らない

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591163238

作品紹介・あらすじ

響きわたる歌声、胸を裂く痛み。心の奥底に寄り添う、言いえぬ希望がここに。

私たちの本音って「嫌われたくない」じゃなくて「愛されたい」だったんだ。
―Superfly(越智志帆)絶賛!

絶望と希望の混じった強烈な吸引力
それぞれの「これから」を見たい
―宮下奈都(作家)

『1ミリの後悔もない、はずがない。』で話題を呼んだ一木けい、待望の第二作。若く力強い魂を描き出した、胸がひりひりするような青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • ヒリヒリしている

  •  初めて読む作家さん。文章が、素人の域を出ていなくて、少しびっくりし、戸惑いながら読んだ。でも、確かに、心を動かされるものがあった。話題になったのも頷けた。力がある1冊だった。

     幼い頃から親に虐待を受け、愛着障害を持つ女の子の物語。合唱コンクールの練習に励む高校生四人が主な登場人物。

     愛着障害を持つ女の子は、幼い頃、自分を施設から引き取ってくれた育ての親に、試し行動を繰り返し困らせた。高校生になって、随分と落ち着いたとはいえ、クラスメイトへの態度もぶっきらぼうだ。人からよく思われようなんていう気持ちは皆無と思える行動をとる。

     この物語を読んで1つ強く思ったことがある。私も、この女の子ほどではないが、愛着障害を持っている自覚がある。愛着障害というものを知ったのは、大人になって、ずいぶん経ってからだ。
    若い頃は、今思えば、試し行動を私もしていたように思う。ただ、もうずいぶん長い間していない。なんでだろう?もう良くなったかな?なんて思いながら、理由を考えてみた。

     試し行動を取るのは、こんな態度をとっても、あなたは私を想ってくれますか?と切望する気持ちからであって、対象は、この人から愛されたい、この人を愛したいと思う人に限定される。だから、そういう相手がいなければ、試し行動は現れない。これが理由だった。我ながらとても悲しい分析になってしまった。

     だから、試し行動をとられた人は、「自分はその人から愛されているんだ、そして自分にもっと愛して欲しいんだ」と捉えて欲しい。そして、その人と関わり続ける気があるならば、その人をとても想っていることを言葉にして、繰り返し伝えてあげて欲しい。愛着障害を持っている人は、ただただ愛に飢えていて不安なのだ。とても厄介だけれど、同時に純粋でもある。相手に対して欲しているものが、物やお金や、その人と仲良くなることで得られる地位や権力ではなく、ただ1つ、愛情なのだから。

     本から話がそれてしまったけれど、こんなふうに、心の深いところを揺さぶられる、価値のある1冊だと思う。ただ、もう少し先まで描いて欲しかったり、大人の登場人物の人格や言動に確固とした一貫性を持たせて欲しかったりと色々があり、出版に携わった周りの方がもう少しアドバイスしてあげてもよかったんじゃないかと、残念に思う気持ちも残った。この本の、他にはない勢いを、プロの手で邪魔したくなかった気持ちもわかるような気もするけれど。

  • 「誰も彼も、見たいものだけ見て、信じたいものだけ信じるよね。この世界にあるのは、そんなきれいなものばっかりじゃないのに。ー」(P.154)
    「誰かを傷つけないために言わないことで、別の誰かが傷ついたら?ただ黙っとくのがほんとうに、いいことだと涼ちゃんは思うの?ー」(P.155)
    「それで、その人のすべてを、わたしの中の引き出しに分けることにしたの。たしかに大事にしてもらった。愛をもらった。守ってもらった。つらいときに優しくしてくれた。情に厚くて、セクシーで、すごく魅力的な人。だけど、そのよい方ばかりに目を向けると、つらくなっちゃうのよ。そんな人に対してこんなことを思う自分がろくでなしに思えて。だから、自分の中のぜんぶの感情を認めて、分けたの」(P.230)
    「怖いくらい追いつめてくる人は、恐怖の中で生きているんだと思う」(P.231)

    合唱コンクールでソロに抜擢された橙子にはある秘密があった。芳子さんと仲良くいっているように見えたが、家では管理され、暴言を吐かれる日々。血の繋がりのない母娘が上手くいくことは不可能なのだろうか。かつて橙子に愛情を注げていたはずの自分もいるはずなのに娘が成長し、壁ができてしまった。修復出来なくなるまで壊れてしまうなんて相当だが、小さなすれ違いが重なるとこうなってしまうのかなとも思う。冬香先生の少し闇のあるような雰囲気や、高校生であるにも関わらず、深夜働き続けるヤマオなど、個性的な登場人物が多め。良い人だと思っていた芳子さんの変貌ぶりや、真逆の顔が怖すぎて、人の印象なんて他人によって簡単に左右されてしまうのだと思う。合唱コンクールに向けて練習し、本番用の帽子を買いに行く4人は青春そのもので羨ましく思った。クラス一体となり努力する感覚、本番が近づくにつれて一体感の出てくるあの感じをまた味わいたいと懐かしくなった。勝手ではあるが、決して嘘はつかない橙子のような人も面白いし、ヤマオのように明るく、真っ直ぐで誰かを救える人間も必要だと思った。

  • 愛を知らないということは生きていくうえで、いつも心に穴がぽっかり空いた状態のようなものなのだろうか。穴を埋めるためには愛されることしかなくて、無条件に与えられるであろう親の愛を知らない子供は、他の人に愛されてもやはり親に愛されたいと願うのでしょうね。友達の愛を感じて一つ前へ進みだすことができて良かったです。そして母親も愛されたかったんだろうなと思います。

  • 引き込まれるようにして読みました。

    こういう展開になるとは!

    冬香先生の言葉は、説得力がありました。

    確かに愛を知らないなら…
    そういう行動をとってしまうのだけど、
    だからといって、特に大人は許されるものではない。
    そういう環境に置かれている人は、
    たくさんいると思うので、
    なんかちょっと辛かったな。

    芳子さんも、最後の最後に、自分への橙子の愛を知る。
    でも、自分の過ちとか、幼すぎる行動の反省とか謝罪もなくて、なんか美化されてて…

    確かに高校まで育ててあげたという恩はあるけど、
    それはそれで、橙子を苦しめる。

    高校生が、自分の力で前へ進もうとした姿は良かったな。


  • 初めて一木さんの作品を読みました。
    本屋さんで表紙に惹かれてなんとなく選んだけど、読む!って決めてよかった、素敵な作品でした。

    誰が愛を知らない話なんだろう、と読み始めて
    この子かな?と思ったところから
    後半で転調、世界がひっくり返った。

    でも、ひっくり返ってなかった。
    愛がほしい者同士だったんだなと最後まで読んで感じた。

    好きなセリフがたくさんあった。

    『別の引き出しにしまう』そうすることで、
    人をよく見過ぎたり、悪く思い込もうとしたりせずに、大事なままとっておけるなと教えてもらいました。

    感情表現が繊細で、わたしの好きなタイプの本でした!

    『優しい嘘って言葉、あたし大っ嫌い。そんなのいらない。ひとっつもいらない』
    『追いつめる人って、たぶん追い詰められてるよね』
    『大事な人だった。だから愛情も感謝も、うしろめたさもあった。恩もね。相反する感情で、頭がぐちゃぐちゃになった。ぎりぎりの細い線の上を右へ左へ行ったりきたりで、いつあちら側に行ってもおかしくない日々だった。でもそんな中でただ一点、どんなときも消えない、たしかな気持ちがあったの』
    『逃げたいってこと』『その人のそばにいると息ができないから』
    『それで、その人のすべてを、わたしの中の引き出しに分けることにしたの。』
    『恩にも、時効はあっていいと思うのよ』

  • 一木けいさん2冊目。やっぱり好きだ。いろんな感情が湧き出てきて、ここまで本にのめり込んだのは久しぶり。

  • 愛とは。母親側からと子供側からの視点で描かれているけど、どちらの立場からしても辛い。血の繋がらない子供を育てるって軽くできることじゃないし相当な覚悟と精神力も必要で大変だろうと思う。それを思うと日記からもわかるように芳子の気持ちも痛いほどわかる。今同じように手がかかる子供がいる私自身の言葉を代弁しているような。そして橙子の愛を知りたいが為の言動や態度が子供ながらにしての必死のSOSだということもすごく伝わってきた。どっちも愛されたいだけなんだよな〜って読んでればわかるのに、現実はうまくいかなかったり言葉では言えないってあるよな〜

  • 一度世界に入ったら読み終わるまで続けて読んでしまった。
    あの年齢のそれぞれの悩みがリアルに書いてあって
    思い出してしまった
    自分と生まれてくるかもしれない子供のことも考えさせられた。

  • いやぁ、一木さんやっぱりいいわ。

    ヒリヒリする。

    もう読む手が止まらなかった。

    出てくるキャラクターがみんな良い。

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著者プロフィール

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、受賞作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』(新潮文庫)でデビュー。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』『9月9日9時9分』がある。

「2022年 『悪と無垢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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