きみの存在を意識する (teens’best selections 51)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591163566

作品紹介・あらすじ

血のつながりのない同い年の姉は、
本を読むのが、深刻に苦手。

様々な見えにくい困難を見えないことにしないだれか達の話

────

中学2年の石崎ひすいの担任は読書活動に熱心。読んだ冊数を班ごとに競わせるが、ひすいは本を読むのが非常に困難。1冊をなかなか読み切れず、肩身が狭くなる。
同じクラスの猪熊心桜は、提出した読書カードの字が下手で、担任に差し替えられる。国語の追試をパソコンで受けさせてほしいと「合理的配慮」を求める心桜を、担任は否定する。
また、読書記録はプライバシーなので開示したくない、とカードを提出しない入来理幹のことも担任は認めない。理幹は、男か女か区別を求められることにも疑問を感じている。
クラス委員賀川小春の親友の尾木留美名は教室が臭いと言って別室登校を続けている。彼女は特定の臭いに過剰反応してしまう。辛さをぶつけてくる留美名に対応するストレスで、小春の調子もくるいだす。
両親と死別し、養育里親の養子になった石崎拓真は、ある日、同い年の姉ひすいと同じ家で暮らしていることをからかわれて──

さまざまな、見えにくい困難を抱える子どもたち。
どうしたらいいか、彼らは葛藤し、何かをつかんでいく。



<目次>
おぼろ月、名残り月
自分の正体スペクトル
血のインク
出さない手紙
ゴルディロックスの行方

あとがき

感想・レビュー・書評

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  • 両親と、同学年で3ヶ月違いの養弟と暮らすひすいの、新中学2年の担任教師は、個人が読んだ本と感想を書いた「読書カード」を掲示し、班ごとに冊数を競う方針を掲げた。彼女は、本そのものや読み聞かせは好きだったが読むことは苦手で、なかなかカードが出せず焦っていた。ところが、同じクラスの入来理幹は、プライバシーを理由にカードの提出を拒む。担任に気に入られたいひすいは、理幹の行動に驚くが、同じクラスの心桜の汚い字で幼い文章のカードにも、その字をパソコンで打ち替えたカードに張り替える担任教師にも驚くのだった。

    ディスレクシア、書字障害、化学物質過敏症、里親養子、外国人の血筋、過食症……、中学2年生の様々な悩みを、語り手を替えながら描く。


    *******ここからはネタバレ*******

    異性で、しかも実娘と同学年の養子を迎えた親子がどう物語を展開していくか期待しながら読み始めたこの本は、結局、物語としての進展は見せず、いろいろな悩みを紹介して終わりました。
    特に、著者の抱えている困難と同じ書字障害や化学物質過敏症についての記述はこれが中学2年生の言葉かと思うくらい詳細で、解説書のようです。

    他の人には理解してもらいにくい困難さを理解しようとしよう、お互いが気持ちよく暮らせるように配慮し合おうということで物語は締めくくられますが、本作で紹介される悩みがたくさん過ぎていささか消化不良に感じます。

    とはいえ、共感できるところもありました。理幹が、読書カードとプライバシーについて争ったところです。
    私自身、高校生の時、大嫌いな国語教師から自らの心情を描いた作文を書くように言われて拒否したことがあるので、気持ちがわかります。
    今でも、学校に掲示してある絵や習字等の作品、文集等を見ながら、子どもたちは自らの作品の公開を拒否できないのか、したくない子もいるだろうにと考えてしまいます、教育とプライバシーの境目についてもっと議論してほしいところです。


    物語としては物足りないが、たくさんの議論のネタを提供してくれる道徳の教科書のような一冊です。

    表現は平易で読みやすいけれど、ところどころ深いところがあるので、中学生以上か、しっかり考えるのが好きな高学年からオススメします。

    • チモシーさん
      プライバシーに関するお話は大変納得して読みました、学期ごとに自分の中のベスト展示物を選べたら面白いだろうなと思いました
      いつも拙い感想を評...
      プライバシーに関するお話は大変納得して読みました、学期ごとに自分の中のベスト展示物を選べたら面白いだろうなと思いました
      いつも拙い感想を評価いただきありがとうございます
      2020/10/06
    • 図書館あきよしうたさん
      チモシーさん、コメントありがとうございます。

      特に漫画の好みが同じものが多くて(「ゴールデンカムイ」とか「宇宙兄弟」とか)、ありがたく選書...
      チモシーさん、コメントありがとうございます。

      特に漫画の好みが同じものが多くて(「ゴールデンカムイ」とか「宇宙兄弟」とか)、ありがたく選書の参考にさせていただいています。


      私も、プライバシーのところは興味深く感じました。
      読んだ本のことだけでなく、小さい頃から不器用だった私は、自分の作品が展示されることが、自分の不器用さを晒されているかのように感じていたからです。
      特に参観日には、母の落胆と他のお母さま方の視線が辛かったことを覚えています。

      ベスト展示物なら、自分も納得できていいですよね。
      得意なもの、自分自身が良いと思えるものなら、むしろみんなに見てもらいたいと思えますもんね。

      こういう本やお話から、小さな痛みを慮ることができる人たちが増えていくといいなぁと思います。
      2020/10/06
  • 多様性を受け入れていたつもりだったけれど、、、。
    学習障害のグレーゾーンにいる子、過敏症、ストレスによる過食、ジェンダー問題、いろんな悩みや課題を抱えた子たちが出てくるが、それぞれ当事者目線で描かれており、どんなことに困っているのか、当事者が感じている生きづらさや、周りに理解されない苦しみなど、すごくよく表現されている。あー、こんな大人いるなぁと身につまされる思い。わかったつもりになっちゃいけないんだな、と思った。本当に理解する、ということは、難しい。向き合うことが大事。
    この本の登場人物たちと同じ年頃の中高生、いや大人が読むべきか?

  • スクールカースト、過敏症、ディスグラフィア、里親制度、性同一性障害、様々な問題が詰め込まれた1冊だった。学校は、多様な中学生が、同じ時間を過ごす一番人間関係が難しい場所。この本を読んで共感できる登場人物がいれば、孤独が少しラクになるかも。

  • 読字障害の疑いがあるひすい、性別に分けられることに違和感を感じている理幹、漢字を書くのが苦手な心桜、両親と死別しひすいの両親の養子となった拓真、大人の期待に応えたい過食気味の賀川、化学物質過敏症で教室に行けなくなった留美名。

    この本には、彼らのような生きづらさを抱えた中学生達が登場する。

    その中でも一番印象に残ったのは、性別に分けられることに違和感を感じている理幹だ。彼女は、体は女性でも、心は女でも男でもない、いわばXジェンダー、無性愛者である。

    多様性を求める社会となった今でも尚、この社会は「男」か「女」に分けたがっている。

    例えば、学校の模試や入学試験の願書、パスポートなど、私たちは様々な場面で、性別を問われている。


    かくいう私の学校では毎月一度、頭髪服装検査が行われる。

    特に髪型については厳しく指導される。

    男子は目、耳、襟に髪の毛がかかってはいけない。

    これまで約15年の間に育まれてきた私たちの個性は、大人達の手によって、大人達のものさしで測られ、切りそろえられていく。

    もしも、性同一性障害で、体は男性でも心は女性という人が髪を伸ばしたら、私の学校の大人達はどのように対応してくれるのだろうか。

    それでも彼らは彼らなりの「普通」を押し付けてくるのだろうか。


    この本に登場する中学生達は皆悩みを持っている。それでいて、彼らは人から「個性的で変わった人」というふうに見られてしまう。

    私の目には、食事中でも電車の中でも歩いていても、薄っぺらに光る四角い端末を飽きることなく凝視している彼らの方が、よっぽど変わっているように見えるのは、単なる視力の問題なのだろうか。

  • 人は異物を排除して安心したがる。
    だけど異物とは誰が決めたものなのか。
    そのためにもなぜできないかがわかると、生きやすいように対応する術はある。
    拓真はひすいのために、ひすいの好きな部分が周りにも伝わるように、そうしたいだけだったのに本人にも親にも伝わらない。
    小桜と理幹も留美名は自分を受け入れて進もうとしている。
    ひすいも自分を優先できるようになる未来を願ってしまうし、出生を含めた自分と向き合った拓真にも優しい未来があることを祈ってしまう。
    拓真がひすいちゃんと呼ぶのが好きだった。

  • すっごくよかった。
    ディスレクシアのひすい。
    ディスグラフィアの心桜。
    男・女の二分化に違和感をもつ理幹。
    ほかにも、生きづらさを抱えた中学生たちが登場する連作短編集。

    それぞれの物語が、安易に終わらないところが良かった。ひすいは自分がディスレクシアだと受け入れたわけじゃないし、心桜は学校の合理的配慮を受けられず、転校していく。でも決して悲観的なわけじゃなくて、悩みながらも前を向いて、自分らしくいられる環境を探して、進んでいく。

    なにかの本に、「共感と理解」について書かれていたのを思い出した。「共感」はできなくても、「理解」しようとすることはできる。それが大事だと思った。私たちは知性と想像力を持っているから。

  • これはなんというか「小説」というよりも「知識の本」だな…。全体を通して何か太い軸があるのかと思ったらそうでもなく、投げっぱなしになった登場人物もけっこういるし。それは、物語構成の失敗としてそうなったのではなく、もともとこの本が最初から、物語的面白さではなく、いろんな困り事について知ってください、という啓発目的に重心を置いているからだと感じた。
    理幹の話あたりまでは、拓真と関わってきたのもあって、困った子どうしが連帯してわからずやの大人をやっつける!みたいなカタルシスを想定していたんだけど、そんなことはなかった…。

    前に学校で働いていたのでわかる、角野みたいな大人って本当によくいる。人の話を聞きましょう、って言うけど、それは先生の言うことに従いなさいっていう意味でしかなくて、自分が生徒の話を真面目に聞くことなんてない。
    これだけいろんな人間がいるんだから、全員を同じ枠に押し込めて画一的教育をすることに躍起になるよりも、一人一人に寄り添っていった方が結果的には手間が少ないんじゃないか?と思う。いったん配慮がうまく回り出せばその方法を続ければいいんだし、大人の想定する枠からはみ出すたびに押し込めるその労力が無駄。しかし学校現場では、その押し込める無駄な労力をかけていることが評価されたりするから……ほんとに恐ろしいところ。

    心桜みたいに自分の意志を押し通せたり、そうでなくても理幹や拓真のように自分の中で違和感をしっかり持って言語化できていたりする子はまだいい方で、賀川さんみたいに大人の言うことを内面化してしまってる子がいちばん厄介だしかわいそう。
    大人と戦える子と、大人の言うことに合わせすぎる子の分かれ目は、身近な大人にどれだけ恵まれたか、だと思う。心桜はネットの知り合いが、理幹には祖父がいたから、自分は自分として考えて言葉を発していいんだ、っていうふうに思えた。拓真は経験したことと読書量のおかげかな。
    自分がいるのが世界のほんの狭い一部、って気づけるかどうか。そういうことを気づかせてくれる大人に恵まれないと、狭い世界の中で、身近な大人の言うことは絶対なんだ、って信じてしまって、自分で自分を縛るようなかわいそうなことになる。大人なんてだいたい「化石」なので、登場人物たちみんなに強く生きてほしい。

    何か困り事を打ち明けられたときに、ふざけてるとかわがままだとか思わずに、まずは「そうなんだ」と受け止めること。自分の感覚だけで考えて否定するのではなく、違う感覚を持った人間の話を、誠意と興味を持って聞くこと。そして理想を言えば「話してくれてありがとう」と付け加えたい。
    人はそれぞれ違う。自分が困らないことでも誰かは困っているかもしれないし、逆に自分がめちゃくちゃ困っていることは誰かにとってはなんでもないことだったりする。
    そういう、バラバラな人間が集まって生きているのがこの社会(そして偶然同い年なだけのバラバラな人間が強制的に集められたのが学校)なんだということを、もっとたくさんの人にわかってほしいし、自分も忘れずにいたい。

    ただ理幹の描き方はちょっと詰めが甘いというか、どういう設定?となってしまった。生まれてすぐに手術をした+大柄で男子生徒が女子制服を着ているみたい、って描写から、おそらくDSDなのだろうけど、それとXジェンダー・ノンバイナリーの抱える問題をごっちゃにしてしまっている。確かに「性別で分けられることへの違和」というのはDSDも感じるところではあるだろうけど、典型的パターンではないのでは。身体がそうだからと言って自認も揺らぐわけではなく、むしろ一般と同じく割合的には男女どちらかを自認することが多いと聞いたことあるんだけど…自分の勉強不足もあるが、この曖昧な描き方はどうなのか?と思う。ディスレクシアとディスグラフィアを細かく区別して描くぐらいなら、性別違和も自認の問題なのかDSDなのか、その複合なのか、はっきりしてほしかったし、作者の勉強不足ならば残念に思う。

  • タイトルは恋愛小説?となるけど、
    内容はまったく違います。
    ヤングアダルトのジャンルだけど、これは大人も読むべき。

    登場人物が抱える悩みは多種多様。
    「読む」ことができない子、
    「書く」ことができない子、
    男でもなく女でもない真ん中のあの子、
    養子縁組でほかの家族のなかで悩む子、
    親の期待に応えたい拒食症の子、
    匂いに敏感な「化学物質過敏症」の子。

    自分だけが、特別ですか?
    自分だけが、我慢すればいいですか?

    「ほかとは違う」あの子が生きやすい世の中に、せめて変えていけたらいいなと思う。日本はみんなと一緒と前ならえが好きだからなあ、、。

    大切なのはいろんなひとがいろんなことを知っていくこと。「あの子だけずるい」にならないように教育していくこと、知っていくこと。


    ただちょっと、この本に出てくる大人と親が、まともな人が少なすぎてどうなのだろう…

  • 子供たちが悩みながらも、怒って傷つきながらも、自分で考えることのできる子たちでよかった。
    誰もがみんななにかしら抱えている。

    かもしれない、のきっかけをくれる物語。タイトルがとてもいいな。子供はもちろん、(わたし自身が大人を教師を好きになれなかったこともあり)大人に読んでもらいたい。これは自分も、相手も、年齢関係なく、いつまでも忘れずに意識すべきものなのだと思う。

    ただ、もどかしさに悶えたりもする(個人的に出てくる大人が菊ちゃん先生と心桜のお父さん以外ずっとむかむかした…あと梅田と田西…ちゃんと向かい合ってくれる人がいるのになぜ伝わらないのだ…!)

    ただだれもかれもが、抱えすぎていて、抱えていない(と一般的に思われる)子たちの意識も、わたしは感じたかったと思う。

  • 養子になった異性の弟は同級生。ディスレクシア、摂食障害、文字が書けない学習障害、化学物質過敏症等等。見かけからはわからない悩みを皆が抱えていて、一人悩む中学生達。
    助けのヒントをくれる大人、子どもを自分の作品と言う親、思い通りに矯正しようとする先生、支えてくれる先生、こちらも様々。

    子供目線で書かれており、読んでいて暗くならないのは大きなプラスポイント!
    作者の体験も下地になっているのでしょうか。中学生の悩みと解決のヒントになりそうな小説でした。

    #中学生

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著者プロフィール

栃木県小山市生まれ。児童文学作家、YA作家。
法政大学兼任講師。
1998年、『でりばりぃAge』で第39回講談社児童文学新人賞受賞し、翌年、単行本デビュー。
2004年、『ピアニッシシモ』で第33回児童文芸新人賞受賞。『ココロ屋』が2012年全国読書感想文コンクール課題図書に選ばれる。その他、『プラネタリウム』『わらうきいろオニ』(講談社)『スノウ・ティアーズ』、『きみの存在を意識する』(ポプラ社)など著書多数。

「2020年 『エリーゼさんをさがして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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