([に]2-1)i (ポプラ文庫 に 2-1)

著者 :
  • ポプラ社
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本棚登録 : 334
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591164457

作品紹介・あらすじ

アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。
内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。
なのに、自分は恵まれた生活を送っている。
そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。
けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける――
たとえ理解できなくても、愛することはできる。
世界を変えられないとしても、想うことはできる。
西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
累計21万部!巻末に又吉直樹氏との対談を収録

残酷な現実に対抗する力を、この優しくて強靭な物語が、与えてくれました。――又吉直樹

読み終わった後も、ずっと感動に浸っていました。なんてすごいんだろう。この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。――中村文則

感想・レビュー・書評

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  • 生きていると誰もが、つまづく時がある。

    でも、ひとそれぞれにつまづく場所が違って、周りは軽々とそれを超えていく。
    主人公であるアイにとって、つまづいたのは、「この世にはアイは存在しません」という言葉だった。

    養子として育てられ、本当の親も知らない。
    ただの数学の定理である、2乗するとマイナス1になる、iが存在しないことは、育て親と血のつながりのないアイにとっては、ものすごく衝撃的で、それは成長しても、耳について離れることはなかった。

    世界中で犠牲になる人と、そうならなかった自分は何が違うのか。アイは常にそればかり考え続け、苦しめられていた。

    平等ってなんだろうって。でも、そんなことを考えられるのは、アイがとても繊細で頭がいいからなんだよね。

    不確実であるにも関わらず、当たり前のように毎日は続いているように思えるし、嬉しいことがあったり、でもその一方で死んでいく人もいる。

    目を覆いたくなるような、世界中で起こり続ける悲劇に、当事者でなければ、分かち合うことはできないのか。
    いつまで経っても部外者にしかなれないのか。
    その答えを、西加奈子さんは教えてくれているように思える。

    西さんの作品を、はじめて読んだが、現実の冷たさ、人の温かさ、そして、叫び。
    それらが丁寧に、起伏が混じりながら力強くまとまっているように感じられた。
    この熱量が一気に駆け抜ける快感を、また味わいたく、西加奈子ワールドハマってしまいそうな自分。

  • 記憶にないほど幼い頃、シリアから裕福な家庭の養子になったアイ。
    なぜ自分が幸福を享受しているのかが分からず、高校時代にかけられた「この世界にアイは存在しません」という言葉に囚われる。
    数学の世界に没頭しながらも、いつも、ほんの少し開いている窓を通じ、アイは世界に触れ、沢山の死者をノートに認めながら、自責している。

    「ジョージア伯母さんの言う『ダニエルのしたことを誇りに思う』という言葉にも、アイはわずかに傷ついた。自分を家族にしたことは、『誇り』に思うような重大な決断なのだ。」

    養子縁組を、人ではなく出来事として語られることを、こんなに奇妙に感じるなんて。
    西加奈子は、すごいな。

    振り返って、私の中では『サラバ!』よりも『白いしるし』が心に残った作品だったのが、自分でも意外だった。
    でも、この作品は同じくらい、一生懸命読んだ。

    読みながら、私は、私自身が経験した祖父の死と、友人の死の違いを感じていた。
    センセーショナルに奪われた友人の死は、ずっと鮮やかに、苦しみとして残っている。
    祖父の死だって、彼が望んだものではなかったろうに、どこかで自然の流れだったような、勝手な解釈をして、納得している自分がいる。

    当事者にはなれない、それらのことを見つめる自分は、時に感情を揺さぶられ、時に傲慢だ。
    でも、この作品を読んで、「想像」することの大切さを、「思い出す」ことで今を豊かにする意味を、考える機会をもらったような気がする。

    『アイが死んだ人の数をノートに書きこんでいることを、私は完全に理解出来たわけではないけど、それは「想像」なんじゃないかなと思う。私にとって「想像」はこの本を読むことだったの。時間があるときに読んで。』

    自分が存在することを、そもそも強く疑問に思ったこともなければ、肯定したこともなかった。
    そういう意味では、アイとは立ち位置が違うし、彼女の抱える罪悪感は、きっと私には分からないことだっただろう。
    でも、物語は、その隔たりを少し乗り越えてくる。
    その、少しに、感謝する時がある。

    ミナが紹介する「Reading Lolita in Tehran」を私も読むぞ!

  • 自分は◯◯なのにも関わらず恵まれてる…だから幸せになるべきじゃないと無意識に思い込んで、なかなか他者と思いを共有できず、孤独を感じてしまう。罪悪感で被害者側に立つことを望んでしまう。

    ハッとさせられます。でも自分が単に望んで被害者側の立場に立とうとしたところで、痛みを味わおうと思ったところで、それは傲慢であり矮小な自己満足なだけ。なんですよね。

    主人公は周りの愛情によって心情の変化が起こります。その過程の中で共感したり一緒に成長したり…いい小説です。終わり方もよかった。

  • さすが。参りました、って感じ。乱暴に言うと、かの『サラバ!』をギュッと濃縮して一冊にまとめてみました、的内容。移民、トランスジェンダー、出産などなどについて、読者それぞれが自分なりに考えられるよう、上手い具合に導かれている。お仕着せがましい訳でなく、かといって全てを受け手に放り投げる訳でなく、絶妙のバランスで描き切る。凄い筆力。

  • 自分がどこにも存在しないし、してはいけないという思いから、愛すること愛されることを知って自分は存在してもいいという思いになり、最後には、存在している自分を人は愛してくれた、になるという心の移り変わりが鮮やかだった。
    人の痛みを想像して苦しむことは傲慢でありながら時にそれが苦しむ人を救うという話には私も救われた気がする

  • ミナさんとの関係がすごくよかった。
    世界で起きていることがたくさん出てきた、最近わたしの口からなんと言っていいかわからない。

  • 幸せと不幸への向き合い方には誰もが苦しむけど、苦しむこと自体が大切であり愛なんだと思う。

  • 西さんの小説はラストシーンでぐっと持っていかれる。
    今回もそうでした。高揚感。

    自分の存在を相対的ではなく、絶対的なものとして思えるようになったら、きっと、と期待してしまう。
    期待するほど大きな変化じゃないかもしれない。
    それでも、小さな変化はその人を強くするはず。生きていく力になるはず。

  • 自分のアイデンティティを強固に確立させるまでの、葛藤の物語。

    アイはシリアで生まれ、日本人とアメリカ人の裕福で人間力の高い夫婦の元へ養子に貰われた。アメリカに住んでいる頃は、「個性を発揮せよ」という圧力に生きづらさを感じ、日本に移ってからは同族意識の高い環境において自らの容姿の特異さに悩むことになる。
    だけどそれ以上にアイを苦しめたのは、「のうのうと」「苦労をせずに」「恵まれた家庭」に守られて生きている、奇跡のような事実である。この世には毎日何千、何万もの人たちが、理不尽な暴力や、戦争や、災害やらで命を落としているというに、自分が産まれたシリアでは内戦により幼い子らも陵辱され無残に亡くなっているというのに、実の両親もどうしているのかわからないというのに、なぜ私は、私だけは、何不自由のない暮らしを享受しているのか。不幸を語れないことに、申し訳なさや恥ずかしさを感じて生きていたのだ。

    ミナはアイの高校時代からの親友だ。レズビアンであることをあるタイミングで告白し、アイのルーツやそれ故の繊細さを理解し、アイをアイのままで受け入れてくれる存在。

    アイは自らの幸福に後ろめたさを感じながらも、愛する人とる出会い、自己受容をしていくことになる。
    が、流産をしたことにより、またそのタイミングでレズビアンであるはずのミナが望まない妊娠をし中絶を考えていることを知り、言い様のない感情の波に飲み込まれてしまう。

    物語の最後には、アイはミナの、ミナといるときの私の、かけがえのなさを再実感し、この世界に自分が確かに存在しているという揺るぎない事実を感じ取ることになる。


    心に残ったフレーズを。

    流産をしたときのアイの気持ち。
    「ユウが男であるというそれだけで、彼のことを憎んでしまう一瞬があった。世界中の男たちに、一度でもあの診察台に上がってほしかった。大きく足を開かれ、器具をからだに突っ込まれて、死んだ子どもを掻きだされてほしかった。
    この悲劇を、一度でも体験してみろ。」

    関東大震災のあと、渡米を進める両親や親友の誘いを断り東京に残った時の気持ちを語るアイ。
    「あのとき私は、残るべきだって思ったの。残ることできっと、命の危機を、その恐怖を語る権利を得たかったのだと思う。」「それってとても傲慢だった。そんなことで、被災した人たちの気持ちなんて分かるわけがない。」
    「でも、渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。(渦中の苦しみ)それごどういうことなのか、想像でしかないけれど、それに実際の力はないかもしれないけれど、想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う。」「私に起こったこともそう。私のからだの中で赤ん坊が死んで、その悲しみは私のものだけど、でも、その経験をしていない人たちにだって、私の悲しみを想像することは出来る。想像するというその力だけで亡くなった子どもは戻ってこないけど、でも、私の心は取り戻せる。」

    ミナに会いたいという気持ちと、ミナを許せないという気持ちの狭間でどうしていいか分からず苦しむアイに、ユウが伝えた言葉。
    「会いたいという気持ちと、理解できないという気持ちのふたつごあるなら、僕は会いたいという気持ちを優先させるべきだと思う。」「理解出来なくても、愛し合うことは出来ると、僕は思う。」

    中絶しようと思っていることをアイに告げアイから距離をとられたが、自分の意思で最後には産むことを決意したミナ。でもそこに、アイや不妊に悩む人たちへの配慮があったわけではない。その想いはこう語られた。
    「私は未だに、中絶する人は誰にも謝ることはないと思ってる。その人のからだは、その人のものだから。その人のからだは社会のためにあるんじゃない、子どもが出来ない人のためにあるんでもない。その人の命のためにあるんだって、そう思ってる。」

    真剣に、真摯に、自分が大切に思っていることを自分の言葉で伝えることができる関係。いいな。

  • うーん、なんとなく言わんとすることは理解できるのだけれど、終始『で?』が喉元までせり上がってくるかんじ。

    この世界にアイは存在する、とみんなが思えたらいいね。
    たぶんこの小説は今の時代の若者が読んだほうがいいとおもう。

    大人が読んでしまうと、どうしても余計なことを言いたくなってしまうから。
    (たとえば、ヒロインに対して、うだうだ言ってないで働きなさい!とか笑)

    親の庇護の元にいるうちにこれを読んで何を感じ、何を想像できて何を想像できないのか、それを考えることは悪くない。

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著者プロフィール

西加奈子(にし かなこ)
1977年、イランのテヘラン生まれ。エジプトのカイロ、大阪府堺市で育つ。関西大学法学部卒業。雑誌「ぴあ」のライターを経て、2004年『あおい』でデビュー。
2007年『通天閣』で織田作之助賞大賞、2011年咲くやこの花賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞。
その他代表作として、宮崎あおい・向井理出演で映画化された絵本『きいろいゾウ』、同じく映画化された『円卓』、20万部を超えるベストセラー『さくら』、本屋大賞ノミネート作『i』など。2020年初夏、『さくら』が映画化決定。プロレス好きとして知られる。お気に入りの本は『アントニオ猪木詩集』。

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