i (ポプラ文庫 に 2-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591164457

作品紹介・あらすじ

アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。
内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。
なのに、自分は恵まれた生活を送っている。
そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。
けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける――
たとえ理解できなくても、愛することはできる。
世界を変えられないとしても、想うことはできる。
西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
累計21万部!巻末に又吉直樹氏との対談を収録

残酷な現実に対抗する力を、この優しくて強靭な物語が、与えてくれました。――又吉直樹

読み終わった後も、ずっと感動に浸っていました。なんてすごいんだろう。この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。――中村文則

感想・レビュー・書評

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  • 生徒: さてさて先生、虚数『i』ってなんですか?
    さてさて: 虚数っていうのはだな、想像上の数なんだよ。”Imaginary number”といって、目には見えない実体のないものなんだよ
    生徒: じゃあ、『i』って『愛』と同じですね。『愛』だって見えないですから。
    さてさて: そうだな。見えないということでは同じだが、その二つにはもうひとつ共通するものがあるな。
    生徒: 読み方が同じということですか?
    さてさて: それもそうだがもうひとつある。
    生徒: なんだろう。わからないです。
    さてさて: それはだな。その存在の先にある結果を導くためには欠かせないものだということだよ。
    生徒: えっ?よくわからないんですが?
    さてさて: そんな君には、是非このレビューを読んで欲しい。
    生徒: (なんだか無理に誘導されたような...)
    さてさて: 何か言ったかな?
    生徒: い、いえ、なんでもないです。読みま〜す!読ませていただきま〜す!

    『この世界にアイは存在しません』という教師の言葉に『「え」と声を出し』、『咄嗟に口を覆った』主人公。『二乗してマイナス1になる、そのような数はこの世界に存在しないんです』と続ける教師。そんな授業を聞く『ワイルド曽田アイ』、『それがアイの名前だ』という主人公には『アメリカ人の父と、日本人の母』がいます。『父ダニエルは、アイという言葉が日本語の「愛」に相当することを』気に入り、『母綾子は、アイが英語で「I」、自身のことを指すということ』が気に入ってつけられたというその名前。『意味を限定しないために『アイ』というカタカナ表記』を用いたその名前。そんなアイは『自身が両親と血の繋がった子どもではないということ、つまり「養子」である』ということを幼い頃から知って育ちました。『1988年、シリアで生まれた』というアイは、小学校卒業までをニューヨークで過ごします。『あらゆる人種の子供たちがいた』という小学校は『白人、黒人、ヒスパニック、アジア系、そしてアラブ系』と『校内はとてもカラフルだった』というその時代。一方で『自分が「養子」であるという意識は、いつもどこかにあった』というその時代。ある時『片言の英語を使うシッターと会った』時に『一瞬で、自分が遺伝的に両親よりもこの女に似ている』ことを察します。『その頃から、自分が「不当な幸せ」を手にしていると』思うようになったアイ。そんなアイの希望を満たしてくれる優しい両親は、何かを手渡す時『ほしいものを手にすることが出来ない子どもたちのことを、考えないといけないよ』と付け加えます。『同じ時期に教えられた「世界の不均衡」の犠牲者でもある、様々な子どもたち』のことを思うアイ。『あたし知ってるよ、あんたってヨウシなんでしょ?』とある時言われ『自分の足下が揺らぐような気持ちになる』アイ。『いつまでも愛されていると思う?両親に本当の子どもが出来たらどうする?』と考え出すアイ。そんなアイは中学入学を機に日本の私立中学に移ります。ニューヨークの『あらゆる人種のあらゆる個性が集まる場所』を怖がっていたアイは『日本では「みんな同じ」だった』というその環境に安堵します。しかし、『孤独の代わりに訪れたのは、疎外感だった』という中学時代を過ごすアイ。そして自らの能力のまま『受験勉強をすること』にしたアイ。『何かに没頭出来る時間』を切望するアイは『そこには「自分」などなく、ただ何かを学ぶという大いなる波があるだけ』と邁進します。そして『この世界にアイは存在しません』という教師の言葉がいつまでも心に引っ掛かり続けるそんなアイの悩み多き人生が描かれていきます。

    『高校生の時に「この世界にアイは存在しません」と数学の先生がおっしゃった、虚数のiに関する言葉がすごく残っていて、それを書こうと思いました』と語る西加奈子さん。私も”虚数は、想像上の数。つまり、実数のように、実際は大きさなどが見えない数”と説明されて意味不明?となり、数学嫌いの原因の一つにもなったこの『i』のことはよく覚えています。物語の冒頭、西さんの経験をなぞるように展開される授業の場面で教師が言った言葉、それが、
    『この世界にアイは存在しません』
    でした。そしてこの言葉が、この作品を読んでいく中で一つの重要なキーワードとなっていきます。あまりに数多く登場するので、こういう場合数えずにはいられない私はまた頑張って数えてみました。全編で、
    『この世界にアイは存在しません』 25回登場!
    と結構な数になります。一方でこの作品を読み進めれば進めるほどに、この『アイ』という言葉には、象徴的に用いられる虚数『i』の他にも複数の意味が重なっているのに気づきます。それは、上記した主人公アイの命名の由来にも明らかです。私自身の『I』とラブの『愛』、そして主人公の名前アイ。『この世界にアイは存在しません』という言葉の中には、これら四つの存在を否定する意味合いが重なっていきます。

    主人公のアイは『自分が恵まれた環境の恩恵にあずかる正当な人間ではない気が、ずっとしていた』という思いを抱きつつ生きてきました。それは、シリアからの養子という自らの”Identity”から湧き上がる思いでもありました。優しい両親のもと、裕福な暮らしを享受するアイ。『ここにいるのは私だが、私ではない他の誰かだったかもしれない』と考えるアイ。養子としてたまたま自分が誰かによって選ばれた結果ここにいるに過ぎないと考えるアイ。それは『自分は「その子の権利を不当に奪ったのではないか」』という考えに向かっていきます。

    そして、アイはニュースで目にする世界各地の事故や災害、そして戦争の犠牲者の数をノートに記し始めます。”IS“の無差別テロにより粉々に崩れ去ってしまった国であるシリア。主人公のアイは、そんな破壊されてしまった国に出自を持ち、養子としてアメリカに渡りました。ニュースをあまり見ない人でもシリアと聞けば、その惨状を思い浮かべる、そのくらいの強いインパクトを私たちに与えた国です。そんな背景を知る以上、主人公アイのことを私たちが思う時、どうしてもその彼女の出自が持つ陰惨さを思い浮かべざるを得ません。そして、この作品ではそんな彼女のノートの中に、この15年における世界各地の事故や災害、そして戦争の記述、そしてそれによる死者の数が登場します。中には読者である私の記憶にも強く刻まれた酷い惨状の記録がある一方で、全く記憶にないものもあります。それらについて、淡々と、そして執拗に事実を記していくアイ。そんな文章を読んでいる時に、ふと、気づきました。ストーリーに直接には関係しないそれらの記事、そして死者の数に関する記述をスラスラと読み飛ばしがちに軽く読んでしまっている読者の私!『毎日人が死んでいるのは、それも数万人単位で死んでいることは間違いない』、それはアイの記述の通りです。この作品が2016年に刊行されて以降も世界では数多くの人が亡くなっています。しかし、『自分たちの近くで起こらなければ、それはなかったと同じことになる』という現実的な感情が私自身の中にもあることに気づきます。『誰かがどこかで死んでも、空が割れるわけでもなく、血の雨が降るわけでもない。世界はただ平穏だ』という我々の日常。そんなことよりも、今日の晩御飯のメニューが、明日の天気の方が重要と考えてしまう現実。一方で物語の中でアイは『何百人、何千人の死者は、かたまりではない。そのひとりひとりに人生があり、そのひとりひとりに死があった』ということに気づいていきます。このあたり、簡単に結論づけることも難しい問題だと思いますし、簡単に書くことも憚られる問題だとも思います。この作品に出会ったことで、主人公アイの様々な葛藤を通して、そんな残酷な世界が私たちの平穏な日常と紙一重に今も続いている、改めてそのことに気づかされました。

    『自分が世界に、この激動する世界にいることが、信じられなかった。あるいはやはり、自分はこの世界にいないのかもしれない』と考える主人公・アイ。そんなアイが、自分自身=『I』の存在の意味を考えるこの物語。虚数『i』とは、確かに目には見えない存在ではあります。しかし、”i × i = -1”、二乗して-1になる数字、つまり、負の数の平方根を表すためにはこの『i』は欠かせません。それが虚数『i』です。一方で『愛』はどうでしょう?『愛』は確かにそれ自身目に見えるものではありません。しかし、恋が成就するためにも、結婚というゴールに至るためにも、やはり『愛』が欠かせません。それ自体は目に見えない虚数『i』と『愛』。目には見えなくても存在しないというわけでは決してなく、その解を得るためには決して欠かせないもの、欠かしてはいけないもの、それが虚数『i』と『愛』。そう、”アイ”だと思いました。

    『この世界にアイは存在しません』
    という命題のような言葉が25回も繰り返し登場するこの作品。その言葉の意味を常に問い続ける主人公・アイは、その『アイ』を自身のことのように受け止め、自身の存在について自問し続けました。『ずっと、誰かの幸せを不当に奪ったような気が』する、『自分が世界に、この激動する世界にいることが信じられ』ないアイ。『やはり、自分はこの世界にいないのかもしれない』と葛藤し続けるアイ。そんなアイが『私がこの世界にいていいのだ!』という自身の存在を見出す結末に、生きることの大変さと、人と人の結びつきの大切さ、そしてそれを結びつける目には見えない『愛』の存在がふっと浮かび上った、そんな西さん渾身の傑作でした。

  • 主人公アイの脆さは引っ掛かるが、読者に想像力を喚起させる為の人物設定だろう。
    無知、無関心は愚かなのではなく、ただ知らないだけなのだ、だから貴方には知って欲しい、という作者の思いは伝わった。

  • 「この世界にアイは存在しません。」
    「この世界にアイは存在します。だから私たちを想像して欲しい。」
    当事者じゃなければ、悲惨な事に口を出すべきでない。だが、それなら人々の記憶からすぐに死者の存在は消えてしまう。愛は確かにある。たとえ当事者でなくても、アイで考えていこう。全て存在していた命なのだから。
    我々がアンタッチャブルとしていたテーマに切り込んで、指針をくれた作品。
    素晴らしい構成。確かな筆力。大傑作だと思う。

  • 久しぶりの西さん。「この世界にアイは存在しません」若さと息苦しさを感じながらも一気に読んだ。今の世界の状況に罪悪感を抱く点がリンクしたと同時に、自分の身の回りの小さな出来事に風穴を開け言葉を与えてもらったような気持ちになった。

  • 「この世界にアイは存在しません」
    高校に入ってすぐに、数学の教師に言われた言葉。虚数の
    i(imagnaryの頭文字から、とは知らなかった…)のことを述べた言葉だが、主人公のワイルド曽田アイは、世界と自分との関係性について言われていると捉える。
    シリアで生まれ、アメリカ人の父と日本人の母の養子として育ったアイが、揺れ動くアイデンティティと格闘しながら、自分がこの世界に絶対的に存在していることを実感することができるようになるまでを描く。

    この小説、ラストが西加奈子さんの心の叫びが聴こえてくるくらい圧倒的な力がある。感動!

    さて、翻って自分について考えると、若い頃は、世界で起きている悲しいニュースに心を寄せて考えることは、人としての当然の嗜みと考えていた。でも、世界に対する自らのあまりの無力さに、いつからか考えることを諦めるようになっていたような気がする。
    つまり、「アイ(=僕)の中に世界は存在しません」という状態。危険だな、と思った。
    世界を変えられないとしても「想うこと」ぐらいはもう少し自覚的にしたいな、と思った。2020年はオリンピック・イヤーだし。

    「理解できなくても愛し合うことはできる」
    この小説の大きなテーマであり、言葉として何を言わんとしているかはすぐ理解できるが、実際それが可能なのかどうかは、読者それぞれに突きつけられる課題だと思う。
    僕自身にはかなりの難題だな。

  • 西加奈子さんの思いがぎゅっと詰まった作品。

    移民、セクシャリティ、出産などの問題が一人の女性の中で、揺れ動く。
    重たい問題も苦痛でなく、読み続けられる。
    その中には数学の美しさも。
    巻末の又吉さんとの対談も含めて、とてもよい作品でした。

  • 自分がいなくなるような、生きている意味が感じられなくなるような、そんな強烈な否定と、そしてすべてを包み込むような、生きることへの肯定の物語であった気がします。

    アメリカ人の父と、日本人の母の元で養子として育てられたシリア人のアイ。
    シリアを始めとした中東各国が内戦や紛争、貧困に喘ぐ中、シリア生まれの自分だけが恵まれた生活に安住していることに、アイは罪悪感を覚えます。

    そしてその思いは徐々に大きくなり、天災や事故、戦争のニュースを聞くたびに「なぜ自分は生きているのか」思い悩むように。一方で、そうしたニュースに触れ同情する自分は「傲慢ではないか」とも考えるようになり……
    そして、血のつながっていない養父母に対しても、言葉にできない遠慮の思いが常に渦巻き……

    アイの繊細さがとにかくイタい。徹底される自己嫌悪と否定、そして終わりなき疑問。「なぜ私ではないのか」「なぜ私だったのか」

    数学教師が授業の際、言った言葉『アイはこの世界に存在しません』

    アイというのは虚数のiことで、この言葉はアイに向けられた言葉ではないのだけど、アイはこの言葉に囚われます。

    血のつながらない家族。記憶にない祖国。人種的にも、境遇的にも自分と同じ人は周りにまったくいない。彼女のアイデンティティは常に揺らぎ続け、自己嫌悪と否定は、生への実感を揺るがすようにも思えてくる。

    だから『アイはこの世界に存在しません』という言葉は、ことあるごとにアイの思考の中に浮かび上がり、彼女を縛ります。

    そのアイの世界に差す光となりうるのが、親ではなく他人というのはとても示唆的な気がします。
    学生時代に出会い、唯一無二の親友となるミナ。彼女自身も実は、あることに悩んでいてある意味アイと似た孤独を抱えていたことが分かってくる。

    そして、恋人であるユウ。彼との出会いは、アイに新たな生きる意味を与える。しかし、そこで悲劇が二人を襲い……

    人の痛みというものは、感じられるようになればなるほど、自分が無力だということも思い知らされる。戦争反対と書いても、戦争はなくならない。児童虐待のニュースに心痛めても、きっとどこかで今も同じことは起こっている。

    そのことに思い至るようになると、そうしたニュースに痛みは感じても、思い立ち止まることは少なくなっていく。自分の場合は、年を重ねるとなおさら、そうなっていきました。

    事件や事故のニュースなんかで、生前のその人のことが語られる話をニュースや新聞で目にするたびに、「なんでこんな素晴らしい人が死んで、自分は生きているんだろう」「この人より、自分が死んだ方がいいんじゃない」と思った、小・中・高時代。
    最近でも『京都アニメーション』の事件の時、それと似た思いは抱いたけど、でもその感覚は当時ほど鋭いものじゃなくなった気もします。

    感性が鈍くなったのか、それなりに責任ある大人になったからかはわからないけど、素直に「自分がいなくなる方がいい」と思うほどには、なかなか立ち止まれない。

    当事者意識というのもあるとは思う。作中でもアイが恵まれた自分が不幸な人を思うことは傲慢ではないか、と思い悩み、そして作中で3.11が起こった時、これで自分も不幸の当事者になれると、思ってしまう場面が描かれます。この気持ちは分からないでもなかった。

    事件や事故の被害者や遺族。そうした人たちに寄り添おうとすると「当事者でもないのに、気持ちがわかるのか」「踏み込んでいいのか」と立ち止まってしまうことはあると思う。それにネットやSNSではそうした行為や想いが“偽善”と切り捨てられる場合だってある。

    そうした偽善という負い目は、多くの人は少なからずあると思います。安全圏から同情するふりをしているだけではないか。日々が流れていけば、悼みは薄れ、忘れてしまうのではないか。

    自分も京アニの義援金口座に、少しばかり振り込んだけど、どこかで「この想いもいつか薄れるのだろうなあ」と思った記憶もあります。

    それもまたどうしようもなく事実だし、安全圏の罪悪感も怖くて、また悲劇を悼むことに臆病になる。

    人はどれだけ人を想っても、真にその人も、その人が置かれた状況も理解できないし、分かり合えもしない。どれだけ悼んでも、心を痛めても、人にも世界にも真に届かない。それは絶望なのか。

    西加奈子さんはこの『i』という小説で、その絶望に高らかに『NO』を突き付けます。悼むことも、想うことも無駄に見えるけど、無駄じゃない。悼むから、痛めるから、想うから、悲劇も人も現象ではなく、確かに実態のあるものとして世界に刻まれる。

    それはあらゆる世界の出来事も、生きる実感を持てない人にも同じ。誰かを想うこと、想われるということ。寄りかかるものがなくても、どれだけ頼りなくても、人は想い、想われるから、世界も個人もここに確かに「在る」

    だから自分たちは、誰かを想う感性も、悲劇を悼む感性も完全に失ってはいけない。それが世界で、そしてまぎれもない自分なのです。
    世界の悲劇、アイ個人の悲劇、そして親友との決定的な対立。その果てに、最後にアイがたどり着いた真理は、そういうことなのだと思います。

    『この世界にアイは、存在する』

    この“アイ”は、物語の中のアイだけでなくて、私たちすべてのことなのだと、そう思います。

    第14回本屋大賞7位

  • 始めから終わりまで苦しかった。

    西加奈子作品「サラバ」「おまじない」、「ふる」についで4番目

    ↑のレビューを書いた時、理解できない、わからないとーすると
    ブクログのnaonaonao16g様から
    ぜひ「i」をと勧めていただき、挑戦しました。
    確かに素晴らしい作品です。


    「この世界にiは存在しません」
    繰り返されるこのフレーズ。シリア生まれ
    adopted child 養子として
    日本人綾子、アメリカ人ダニエルという父に引き取られる

    yes.noをはっきり言え自分のことをしっかり持った愛のある子に育ってほしいと
    アイとつけられた
    もどかしいほど、繊細でその自分の心を持て余してた、
    親の願いとは裏腹に、自分を出さず
    絶えず周りを思いやってた。
    恵まれていることに、喜び反面苦しみ、

    このアイの心がわかりすぎるほどわかり
    ホント苦しかった、
    ナイーブであり
    こういう神経は
    自分で自分を持て余し、勉学に逃げた「?」
    恵まれていることに対する罪悪感に苦しみー


    世界ではアフガニスタンの爆撃
    カンボジアのポルポトの虐殺
    シリアの中東戦争
    阪神大震災
    ワールドトレードセンターの2機の飛行機激突
    毎日のように人が死んでいる

    アイは人が亡くなった数「事故、事件」、をノートに書き記していく

    本文よりー
    毎日のように多かれ少なかれ人が死んでいっても
    自分の近くで起こらなければ、なかったことと同じ
    世界はただ平穏だ
    空が割れるわけでもなく血の雨が降るわけでもない

    ここまで読んでいても辛くてたまらなかったが

    これで容赦はなくまだまだー

    ダニエルと綾子両親から愛されれば愛されるほど
    自分でいいのか
    自分だけ安穏幸せで良いのかと
    まあこんな単純な分析ではないのですが

    ルーツの分からなさ、
    一族の写真の中で、自分だけ似てないー
    ファミリーツリーのこと、
    不満ではなく厳然とした事実、
    有り難く喜んでいるのだけど理屈ではない感情



    この作品は西加奈子しかかけない!

    世界中での災い、内戦、紛争、テロ、人種問題、他にももっと根の深い問題
    また西加奈子だからこそ書くべきものでしょう。

    自分は、キャパを超え
    受け取りきらない、苦しい

    読みながら苦しみ、逃げたいと思う
    「同苦できない、したくない」
    逃げたい、
    目を背けてはいけないのはわかっているが
    しかし正面切って対峙したくない
    今の世の中は世界全体で、地獄にあっている。
    コロナという、
    戦争からも人間は生き返った、またみんなで明るい世の中にできるのでしょう
    今をみんなで乗り越えていけば
    また道が見えて来る

    最後のフレーズ
    「この世界にアイは」




    • トミーさん
      いつもありがとうございます。
      コメント嬉しいです。
      なかなかレビューがむつかしかったです。
      西加奈子氏がすごい人と分かりました。環境は大事で...
      いつもありがとうございます。
      コメント嬉しいです。
      なかなかレビューがむつかしかったです。
      西加奈子氏がすごい人と分かりました。環境は大事ですね、
      おかげさまで読む機会を与えてくださりありがとうございました
      2020/07/23
    • トミーさん
      挨拶もお名前も抜けてましたね。
      naonaonao16g様
      嬉しくて感情を先に出してしまいました。
      挨拶もお名前も抜けてましたね。
      naonaonao16g様
      嬉しくて感情を先に出してしまいました。
      2020/07/23
    • naonaonao16gさん
      トミーさん、お返事嬉しいです!
      「おまじない」が「おなじない」になっており恥ずかしくて返信しました(笑)

      感情が先に出るの、いいじゃないで...
      トミーさん、お返事嬉しいです!
      「おまじない」が「おなじない」になっており恥ずかしくて返信しました(笑)

      感情が先に出るの、いいじゃないですか!わたしもですよ!(笑)
      2020/07/23
  • シリアで孤児として産まれ、裕福な家庭に養子に来たアイ。アメリカで育ち、日本にやってきた。そんな複雑な生い立ちを抱えながらアイが自分自身を認められるようになるまでの半生を描く。
    西さんは考えるより行動!の力強い女性を描く作家さんというイメージだったので、アイの揺れ動く感情を捉えた淡々とした文章はすごく新鮮だった。

    ◉恵まれている事に対する「恥」
    アイは世界中にいる貧しい子供達のことを知るたび「もしかしたら自分がそうなっていたかもしれない」「今の両親はすごく私を大切にしてくれる。欲しいものも買ってくれる。その恵まれ過ぎている環境が恥ずかしい」と考える。
    そうして世界で起こったテロや災害での犠牲者数をノートに書いて持ち歩く。
    死んだ人たちを漠然と思う。どうして私じゃなかったんだろう。
    「アイはこの世に存在しません」という言葉が呪いのようにアイを追いかけてくる。

    私もアイまではいかないけど似た感情をずっと持っていたので驚いた。
    私もたくさん愛情や物を与えられて育ったから、幼少期に苦労した事・努力で得た経験などのエピソードを聞くたびに居心地が悪かったのだ。

    ◉他の人と悲しみを比べられないし、比べようとしてはいけない
    アイはわざと危ない環境に身を置き「悲劇を体験」しようとする。が、それが傲慢である事にもすぐに気づく。
    そんな事で本当に渦中にある人の気持ちは分からないし、当人からしたらありがた迷惑。

    後書きの対談で西さんが言っていたフレーズが心に残る。
    【今の自分の幸せを願う気持ちと、この世界の誰かを思いやる気持ちは矛盾しない】
    恵まれていることは恥ずかしい事ではない。それに今の私には私の悲しみがある。数値化して他の人と比べるような事ではない。
    今の生活のまま、悲劇に見舞われている人のことを想像する。
    偽善と言われようが、そういう気持ちをまず大切にしなければと思った。


    余談だけど、日本って余りにも世界のニュースを流さないなぁって改めて思った。
    中国の交通事故のニュースとかはやたら見るんだが。
    (物語の中にもある世界的に有名らしい写真の話が出てきたが当然知らなかった)
    きっと遠過ぎて、どう話題を広げたらいいか分からないんだろうな。
    他の国の人が知っている事を日本人だけ知らないなんてことが多くあるんだろうな。

    そう思うと自分から世界で起こっているニュースを得ていきたいなと思った。
    知ってどうするのかと言われればどうも出来ないのだけど。

  • 読後、普段は自分でレビューを書いてから他の方のレビューを見るようにしているが、今回はいろんな感情がごちゃまぜになって書きたいことが全くまとまらず、先に皆さんのレビューを読ませていただいた。それくらい、この作品を読んで心が揺さぶられた。皆さん、きちんとこの作品を自分で昇華されていて尊敬します。

    未だにまとまりませんが心の中にあるもやもやしたものを記録します。

    シリアで生まれたのち、アメリカ人と日本人の夫妻に養子縁組されたアイは、幼い頃はアメリカ、思春期以降は日本で恵まれた生活を送るも、自分のアイデンティティやその恵まれた境遇に疑問を感じ悩み続ける。
    アイの悩みを日本生まれ日本育ちの私が自分のものとして抱くことはできない。できないけれど、なんとかアイの気持ちを理解できないかと自分なりにもがいた時間こそが、もしかしたら今後誰かの力になるかもしれない。これまで、世界で起こる様々な不幸な出来事を新聞で読むたびに、苦しい気持ちになるのと同時に、思うだけで何もできないのなら、いっそ知らない方がいいのでは、と思うことも多々あった。でも、そういう情報に対してきちんとアンテナを張って、少しでもできそうなことはないか考えること、直接は世界を変えることが出来なくても、せめて自分の周りにいる人が笑顔でいられるように行動することを心がけて生きていけたらいいのかなという心境になった。

    後半の妊娠にまつわる出来事は、今まさに自分が二人目を妊娠していることもあって辛すぎた。実際周りを見ても、子宝に恵まれている人もいれば、不妊治療を行っている人もいる。子どもは授かりものだと頭では分かっていても、境遇の違いは時として友人関係を変えてしまうことも理解できる。
    アイとその親友ミナの場合はこの出来事を乗り越えて、お互いの想いを受け止め合って以前よりももっともっと強い絆で結ばれた。そんな二人を本当にすごいと思う。相当なエネルギーを要したはずだ。この二人を見ていて、人間はお互いの様々な違いを乗り越えて、本当に繋がる、通じ合うことができるんだという希望を持つことができた。
    一人ひとりの「I」=「私」が他者と「愛」を分かち合って生きることができれば、この世界はもっともっと幸せになるんじゃないか。そう思わせてくれた筆者に感謝です。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

西加奈子の作品

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