- 本 ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591164808
作品紹介・あらすじ
<内容紹介>
小さな活版印刷所「三日月堂」。
店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった言葉――。
弓子が幼いころ、初めて活版印刷に触れた思い出。祖父が三日月堂を閉めるときの話……。
本編で描かれなかった、三日月堂の「過去」が詰まった番外編。
<プロフィール>
ほしおさなえ
1964年東京都生まれ。小説家。1995年『影をめくるとき』が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』にて、第12回鮎川哲也賞最終候補。『銀塩写真探偵』『金継ぎの家 あたたかなしずくたち』「菓子屋横丁月光荘」「活版印刷三日月堂」シリーズなど著作多数。
感想・レビュー・書評
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活版印刷三日月堂の番外編。
東日本大震災から14年目の昨日、東日本大震災の描写があるシーンを目にした。
すごいタイミングに見えない何かを感じる。
祖母・祖父・父を見送り、この流れで活版印刷の第1弾に繋がっていったのかと本編で目にしたあれやこれやを思い出し感慨深さを味わった。
本編に繋がっていた色んなシーンそれぞれが思い出され、本編がより奥行のある物語として存在してくれた。
色々な人とを見送ったり、失われたものを思い浮かべたりする機会も多かったので、読み終えた今、少し淋しさを感じる読後感を味わっている。
でも!この後ものすごく素晴らしく力強い世界が広がって行くんだよなということを思い出す。
よし、私も頑張ろう!そんな力が自分の中から顔を出す。 -
まさかあると思っていなかった番外編の第一弾。なので本編を思い出しながらしみじみと読めました。
弓子さんが生まれる前、そして生まれてから母・祖父母、そして父を亡くして三日月堂に戻ってくるまでの出来事が7編。
1章は、弓子さん1歳の時の三日月堂で働く祖父の話。
2章は、弓子さんが生まれる前の母カナコさんと父修平の話。
3章は、1章の続き。母カナコさんが亡くなって三日月堂の祖父母の家に預けられていた弓子さん小学1年生最後の春休みの話。
2年生になるのを機に父のいる横浜に引っ越しすることになった最後の日、弓子さんは祖母と一緒にレターセットと卵焼きを作る。
レターセットは母カナコさんにお手紙を書くために使おうと思っている。
届かないかも知れないと不安を持っているようだがきっと届くよ。弓子さんの名前が"弓"であるのはそういう想いが込められているから。
4章は、弓子さんの母カナコの大学時代の友人裕美の話。
裕美が自殺しようとしたとき「生きていれば、きっといいこともあるよ」と言ってなぜかカナコが歌ってくれたのがひこうき雲。
20代で死んでしまったカナコの墓で裕美が思わず歌ってしまったのもひこうき雲。
辛い立場に追い詰められてしまっていた裕美だが、(生きていれば)いいこと、(これから)きっとある。
5章は、弓子さんが社会人で祖父が三日月堂を閉じる直前の話。かつてはそれなりに盛況で忙しかった和紙屋と活版印刷屋が時代に取り残されていくのが物悲しい。
6章は、本のサブタイトルがつけられた章。祖父が三日月堂を閉じた後の話。3.11地震が起き、かつて弓子さんが通っていた保育園の卒園記念の冊子を作ることに。
これからどうなるのかわからない、そんな時代を生きていかなければならない。地震の影響を乗り越えるべく「勇気を持って、元気に進もう」と冊子に印刷する。
これは地震が起きたからではなく、いつだって、そんな時代の繰り返しのような気がする。
7章は、弓子さん父までも亡くし、とうとう独りぼっちになってしまった頃の話。
横浜から川越に引っ越しをする前日、大学時代の友達と偶然会う。
希望に満ちた引っ越しではない、身近な親族が皆いなくなってしまったが、何とかして生きていくんだという気持ちでいっぱいの引っ越しだ。
弓子さんが川越で新しい生活を始める日、友人も自分の人生だからと新しい生きかたを決意し札幌に戻る。
さて、残すは本編で順調に仕事が回り始めた三日月堂の「未来」が描かれる番外編第二弾だ!
どんな未来が待っているのか楽しみ。 -
今までの登場人物や主人公に関わってきた人達が今度は主役となり話は進んでいく。
ようやく登場人物が整理された感じ。
そして当たり前だけどもそれぞれに人生があって、自分のこれからを考えるのは子供や若い人だけではなく大人になっても歳をとっても環境や仕事、人との別れが関わってくる。
自分を見つめ直す時、どうするのかを決める時は周りに支えてくれる人がいてもやっぱり1人なんだなと。
シリーズも後1冊。
どんな結末になるのかな。 -
番外編。
これまで気になっていた部分のストーリーが読めて嬉しかったです。
どの話もじーんときました。 -
今回、弓子さんは活版印刷でどんなものを作り出すんだろうかと本を開いたが、今回は三日月堂や三日月堂にまつわる人々の『過去』が詰まった番外編スピンオフのような巻だった
私が図書館で借りたこの本には、初回限定特別版ということで、活版印刷で刷られた扉ページが入っていた
なるほど、これが活版印刷なのかと、指でなぞったり、目を凝らしたりしてしみじみながめた
紙にしっかり文字が根付いているという印象だ
短編7編の主人公は、2巻で出てきた「われらの西部劇」
の片山さんだったり、弓子の祖父母や父、弓子の大学時代の友人裕美や唯・川越で紙店を営む笠原方介だ
気に入ったフレーズがある
「銀河鉄道の夜」の中の一節『ほんとうのさいわい』について・・・
なにが『ほんとうのさいわい』か正解を考えるんじゃない『ほんとうのさいわい』をみなで探すこと。そう決意し、そのために生きること。それこそが『ほんとうのさいわい』なんだ
いつかは人も消える、星も消える。でもそれは、あったものがなくなるのではなくて、なかったものがまたなくなるだけなのだ。星と暗闇。僕たちもまた本来は暗闇だったものなのだから。
弓子と歩いている。カナコもいっしょだ。生きているか死んでいるかなんて関係ない。僕たちは今もこうやって三人で歩いている。
輝きながら、命を燃やしながら。
ほんとうのさいわいに向かって、歩いている。
妻カナコを亡くした修平は、祖父母に預けていた弓子を自分の元に引き取り、弓子としあわせになる道を探す決意をする
前作の4冊と同じくこのシリーズを開くと、不思議なことに時間の流れがゆっくりになり、周りの余計な音が聞こえなくなる
郷愁をそそられ、どこか悲しく懐かしく温かく泣きたくなる
特に、三日月堂の店主弓子の祖父と紙店の笠原さんが、古き良き物について語り合う「最後のカレンダー」が好きだ
昭和生まれの私には心にしみた -
扉の活版印刷……昔の文庫本ってみんなこんなだったよなあ…と懐かしかった。
スピンオフっていうのかな。
今までの登場人物のお話し。
優しい物語、健在。
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活版印刷三日月堂の「過去」が詰まった番外編。
活版印刷で刷られた扉ページがとても良い。味わいがあります。ずっと見ていられるし、指でなぞってみた。やっぱり、いいねー、活版印刷。
本編とはまた違ったそれぞれの視点で描かれていて、7章すべてが、ほっこりしたり、しんみりしたり。どの話も温かくて、とても良かった。
本編をもう一度読み返してみたくなった。 -
三日月堂シリーズ番外編(シリーズ五冊目)。
こちらは、三日月堂の「過去」の話七編が収録されています。
まず、活版印刷で刷られた扉ページが良いですね~。本当、味わいあるなぁって。ずっと見ていたくなります。
本書では、弓子さんのお祖父さんがバリバリ現役の頃の話から、弓子さんが成人し、「三日月堂」に引っ越してくる話まで、時系列で並んでいるのですかね(前後していたらすみません)。
本編での弓子さんは、早くに身内を亡くしているせいか、ちょっと薄幸な感じがあったのですが、本書を読んでみると、“弓子さん、めっちゃ愛されていたのだなぁ”と彼女の周りの方々から見た“弓子ちゃん”の愛らしさが伝わってきました。
そして、皆さん悩みながらも一生懸命生きています。それは私たちの現実社会でも同じで、しんどいけれど生きるしかないんですよね。なので、本の中に励まされるようなフレーズや描写があると心に染みてくる訳で。
“いっしょに探しにいくことが<ほんとうのさいわい>なんじゃないかって・・”
“これからどうなるのかわからない。そんな時代をいきていかなければならない。あせっちゃいけない。あきらめてもいけない。たいへんなこともあるだろうけどいつもとなりの人に手をさしのべよう。となりの人の手をにぎろう。どんな時でも、勇気を持って、元気に進もう。”
後半は、3・11の震災の事が書かれた第六話「空色の冊子」からの引用ですが、コロナ禍の現在にも勇気をもらえるフレーズだなぁと思いました。
そして、このシリーズの第六冊目には“後日談”的な番外編もあるようなので、そちらを読むのも楽しみです。
著者プロフィール
ほしおさなえの作品





