([ほ]4-5)活版印刷三日月堂 空色の冊子 (ポプラ文庫 ほ 4-5)

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591164808

作品紹介・あらすじ

<内容紹介>
小さな活版印刷所「三日月堂」。
店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった言葉――。
弓子が幼いころ、初めて活版印刷に触れた思い出。祖父が三日月堂を閉めるときの話……。
本編で描かれなかった、三日月堂の「過去」が詰まった番外編。

<プロフィール>
ほしおさなえ
1964年東京都生まれ。小説家。1995年『影をめくるとき』が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』にて、第12回鮎川哲也賞最終候補。『銀塩写真探偵』『金継ぎの家 あたたかなしずくたち』「菓子屋横丁月光荘」「活版印刷三日月堂」シリーズなど著作多数。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ第五弾

    前回は主人公 月野弓子に大きな展開がありましたが、この本はまた過去の登場人物の人生のお話。
    今回は7編の連作

    「星は生きている。人と同じように。生きて、光っている。燃えている。生きるとは燃えることだ。熱くて苦しくて、だから輝いている。」
    「宇宙は広い。宇宙は暗い。ところどころ大きな火の玉のような星が浮かび、皓々と闇を照らす。命で照らす。星も怖い。暗闇も怖い。生きるのも、死ぬのも怖いのと同じように。逃げ場所なんかない。僕らはみんな宇宙にただよって、輝いている。燃え尽きれば死ぬとわかって、輝いている。それが生きることなんだ、よ思った。」

    「人生は選択の連続だ。選んだもの、選ぶしかなかったもの。どういう事情であれ、日々何かを選び、生きていかなければならない。そのたびに選ばなかったものが背中にまとわりつき、重くなっていく。」

    「世の中が変わって、技術も変わる。何でも機械でできるようになる。だけど、実際には機械で扱えるようにすれば、前にあった細かいことがそぎ落とされていってしまう。」

    実際に活版印刷された扉ページも、とってもあじがあってよかった。
    古本屋さんにいって、活版印刷にもっと触れてみたいと思いました。

    さて、次はどんな展開になるのか楽しみです。

  • まさかあると思っていなかった番外編の第一弾。なので本編を思い出しながらしみじみと読めました。
    弓子さんが生まれる前、そして生まれてから母・祖父母、そして父を亡くして三日月堂に戻ってくるまでの出来事が7編。

    1章は、弓子さん1歳の時の三日月堂で働く祖父の話。
    2章は、弓子さんが生まれる前の母カナコさんと父修平の話。

    3章は、1章の続き。母カナコさんが亡くなって三日月堂の祖父母の家に預けられていた弓子さん小学1年生最後の春休みの話。
    2年生になるのを機に父のいる横浜に引っ越しすることになった最後の日、弓子さんは祖母と一緒にレターセットと卵焼きを作る。
    レターセットは母カナコさんにお手紙を書くために使おうと思っている。
    届かないかも知れないと不安を持っているようだがきっと届くよ。弓子さんの名前が"弓"であるのはそういう想いが込められているから。

    4章は、弓子さんの母カナコの大学時代の友人裕美の話。
    裕美が自殺しようとしたとき「生きていれば、きっといいこともあるよ」と言ってなぜかカナコが歌ってくれたのがひこうき雲。
    20代で死んでしまったカナコの墓で裕美が思わず歌ってしまったのもひこうき雲。
    辛い立場に追い詰められてしまっていた裕美だが、(生きていれば)いいこと、(これから)きっとある。

    5章は、弓子さんが社会人で祖父が三日月堂を閉じる直前の話。かつてはそれなりに盛況で忙しかった和紙屋と活版印刷屋が時代に取り残されていくのが物悲しい。

    6章は、本のサブタイトルがつけられた章。祖父が三日月堂を閉じた後の話。3.11地震が起き、かつて弓子さんが通っていた保育園の卒園記念の冊子を作ることに。
    これからどうなるのかわからない、そんな時代を生きていかなければならない。地震の影響を乗り越えるべく「勇気を持って、元気に進もう」と冊子に印刷する。
    これは地震が起きたからではなく、いつだって、そんな時代の繰り返しのような気がする。

    7章は、弓子さん父までも亡くし、とうとう独りぼっちになってしまった頃の話。
    横浜から川越に引っ越しをする前日、大学時代の友達と偶然会う。
    希望に満ちた引っ越しではない、身近な親族が皆いなくなってしまったが、何とかして生きていくんだという気持ちでいっぱいの引っ越しだ。
    弓子さんが川越で新しい生活を始める日、友人も自分の人生だからと新しい生きかたを決意し札幌に戻る。

    さて、残すは本編で順調に仕事が回り始めた三日月堂の「未来」が描かれる番外編第二弾だ!
    どんな未来が待っているのか楽しみ。

  • 三日月堂の来し方が分かる番外編。

    祖父母とのエピソードを読むと、祖父母がいかに弓子に多大なる影響を与えてきたかよく分かる。
    活版印刷ひとすじに黙々と印刷業を営んできた「カラスの親父さん」こと弓子の祖父。
    幼い頃に母を病気で亡くした弓子にずっと寄り添ってくれた優しい祖母。
    この二人のDNAをそのまま受け継いで今の弓子がいる。

    『星と暗闇』に出てきた「ほんとうのさいわい」。
    何が「ほんとうのさいわい」か正解を考えることより、「ほんとうのさいわい」を皆で一緒に探すことこそが「ほんとうのさいわい」に繋がる、という『銀河鉄道の夜』の解釈が良かった。
    寄り添うことの温かさが身に染みる。
    弓子の行く末を、幸せを祈る両親の気持ちが切ない。

    『届かない手紙』では母を亡くした直後のエピソードが泣ける。
    弓子の名前の由来となった「思いを遠くまで届けられる人」。
    弓子は家族を亡くした後も、家族の思いをしっかり受け継いで生きていることがとても嬉しい。
    弓子の書いた手紙は亡き母にちゃんと届いているはずだ。

  • 今回、弓子さんは活版印刷でどんなものを作り出すんだろうかと本を開いたが、今回は三日月堂や三日月堂にまつわる人々の『過去』が詰まった番外編スピンオフのような巻だった

    私が図書館で借りたこの本には、初回限定特別版ということで、活版印刷で刷られた扉ページが入っていた
    なるほど、これが活版印刷なのかと、指でなぞったり、目を凝らしたりしてしみじみながめた

    紙にしっかり文字が根付いているという印象だ

    短編7編の主人公は、2巻で出てきた「われらの西部劇」
    の片山さんだったり、弓子の祖父母や父、弓子の大学時代の友人裕美や唯・川越で紙店を営む笠原方介だ

    気に入ったフレーズがある

    「銀河鉄道の夜」の中の一節『ほんとうのさいわい』について・・・
    なにが『ほんとうのさいわい』か正解を考えるんじゃない『ほんとうのさいわい』をみなで探すこと。そう決意し、そのために生きること。それこそが『ほんとうのさいわい』なんだ

    いつかは人も消える、星も消える。でもそれは、あったものがなくなるのではなくて、なかったものがまたなくなるだけなのだ。星と暗闇。僕たちもまた本来は暗闇だったものなのだから。

    弓子と歩いている。カナコもいっしょだ。生きているか死んでいるかなんて関係ない。僕たちは今もこうやって三人で歩いている。
    輝きながら、命を燃やしながら。
    ほんとうのさいわいに向かって、歩いている。

    妻カナコを亡くした修平は、祖父母に預けていた弓子を自分の元に引き取り、弓子としあわせになる道を探す決意をする


    前作の4冊と同じくこのシリーズを開くと、不思議なことに時間の流れがゆっくりになり、周りの余計な音が聞こえなくなる
    郷愁をそそられ、どこか悲しく懐かしく温かく泣きたくなる

    特に、三日月堂の店主弓子の祖父と紙店の笠原さんが、古き良き物について語り合う「最後のカレンダー」が好きだ
    昭和生まれの私には心にしみた

  • 扉の活版印刷……昔の文庫本ってみんなこんなだったよなあ…と懐かしかった。
     
     スピンオフっていうのかな。
     今までの登場人物のお話し。
     優しい物語、健在。
     

  • 活版印刷三日月堂の「過去」が詰まった番外編。
    活版印刷で刷られた扉ページがとても良い。味わいがあります。ずっと見ていられるし、指でなぞってみた。やっぱり、いいねー、活版印刷。

    本編とはまた違ったそれぞれの視点で描かれていて、7章すべてが、ほっこりしたり、しんみりしたり。どの話も温かくて、とても良かった。
    本編をもう一度読み返してみたくなった。

  • 三日月堂シリーズ番外編(シリーズ五冊目)。

    こちらは、三日月堂の「過去」の話七編が収録されています。
    まず、活版印刷で刷られた扉ページが良いですね~。本当、味わいあるなぁって。ずっと見ていたくなります。
    本書では、弓子さんのお祖父さんがバリバリ現役の頃の話から、弓子さんが成人し、「三日月堂」に引っ越してくる話まで、時系列で並んでいるのですかね(前後していたらすみません)。
    本編での弓子さんは、早くに身内を亡くしているせいか、ちょっと薄幸な感じがあったのですが、本書を読んでみると、“弓子さん、めっちゃ愛されていたのだなぁ”と彼女の周りの方々から見た“弓子ちゃん”の愛らしさが伝わってきました。
    そして、皆さん悩みながらも一生懸命生きています。それは私たちの現実社会でも同じで、しんどいけれど生きるしかないんですよね。なので、本の中に励まされるようなフレーズや描写があると心に染みてくる訳で。
    “いっしょに探しにいくことが<ほんとうのさいわい>なんじゃないかって・・”
    “これからどうなるのかわからない。そんな時代をいきていかなければならない。あせっちゃいけない。あきらめてもいけない。たいへんなこともあるだろうけどいつもとなりの人に手をさしのべよう。となりの人の手をにぎろう。どんな時でも、勇気を持って、元気に進もう。”
    後半は、3・11の震災の事が書かれた第六話「空色の冊子」からの引用ですが、コロナ禍の現在にも勇気をもらえるフレーズだなぁと思いました。
    そして、このシリーズの第六冊目には“後日談”的な番外編もあるようなので、そちらを読むのも楽しみです。

  • シリーズ5作目。4作目までより過去の出来事の短編で番外編という感じ。突然、自宅周辺が出てきてとても驚いた。

    なにが「ほんとうのさいわい」か正解を考えるんじゃない。「ほんとうのさいわい」をみなで探すこと。そう決意し、そのために生きること。それが「ほんとうのさいわい」なんだ。ーーーーーという言葉がとても響いた。あと、届かない手紙でも書いていいんだということ。

  • 本編の主人公・弓子が三日月堂を再開するまでの、人々の思いを描いた短編集。

    シリーズ冒頭の弓子からは考えられないほど、幼い頃の弓子は活発で負けず嫌い。
    母を、祖父母を、そして父を亡くして三日月堂に戻ってくるまでに、胸の奥でどれだけ涙を流してきたのだろう。
    それでも彼女が優しさを失わず、少しずつ明るさを取り戻せたのは、弓子を育んだ亡き人たちが、それぞれに限りある生命のなかで精一杯の愛情を弓子に注いできたから、そして弓子がそのひとつひとつを大切にしてきたから。
    こうしてみると、弓子の家族は、事故で突然にではなく、皆ゆっくりと死に向かい、旅立っていった。残された時間を思いながら伝えようとする愛情は、それはもう深く深く刻まれ、弓子の心を形づくってきたのだろう。

    さらりと読みやすいけれど、何度も涙。
    本当に弓子には、もっともっと幸せになって欲しい。
    誰かを愛して、たとえ死によって失われても、何度でもまた別の出会いから新しい愛を手にすることはできる。
    幸せにならなきゃいけないよ、と声をかけてあげたい。

  • 弓子の母親・カナコさんと父親のエピソードが語られる「星と暗闇」がよかった。
    カナコが銀河鉄道の夜のほんとうのさいわいを「いっしょに探しにいくこと」と思っているのがすごくしっくり来た。さいわいっていうのは相対的なものであって個々人によって変わるものだと個人的に思っていて、「ずっと考え続けていくもの」かなと思っていたので、カナコの考え方に近しいものを感じた。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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