ぼくの地球を守って 1 (花とゆめCOMICS)

著者 :
  • 白泉社 (1987年1月1日発売)
3.98
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本棚登録 : 831
感想 : 74
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592114857

感想・レビュー・書評

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  • <最終巻までのネタバレを含みます>

    間違いなく、日本少女漫画界屈指の問題作。別名黒歴史大量製造漫画。
    連載当時カルト的な人気を誇って、いわゆる「前世ブーム」を引き起こしたとされているけれど、今なお以て全く潰えるところを知らないその感染力に、これをリアルタイムで読んでいた日にはどれほど道を踏み外したろうか…と、かつての熱狂ぶりを思うにつけても震撼してしまう。という訳で、思想的に影響されやすい中学生以下の子どもたちにはお薦めしかねる作品。私が初めて読んだのは小学校高学年の時だったけれど、あまりに幼すぎて話の細部まで(特に後半に渡り展開される月基地でのドロドロとした人間関係…小学生にレイプという行為の存在など想像できるはずもない)理解できなかったのに加え、まだそれほど沢山の種類の漫画を読みこなしていなかったこともあって、本当にあっさりと洗脳されてしまった。
    何と言っても、「植物と会話ができる」「前世の記憶がある」「超能力戦争」など、今であれば容易に中二病認定されそうな要素がとにかくふんだんに盛り込まれている。それだけに、想像と現実の境界が未だ曖昧な子どもの読者にとっては、少なからぬ危険を持つ作品ともなり得る。作画の綿密さ・完成度、多様なキャラクターに前後する時間軸、数々の伏線を回収しながら一気にラストへ収束していくシナリオの素晴らしさと、どれを取っても「傑作」の呼び声高い本作ではあるけれど、その一種脅威的なまでの中毒性たるや、数ある花とゆめコミックスの中でも異彩を放つ作品という他はない。とにかく、「この物語はフィクションです。登場する団体名・地名・人物などは…」というお決まりの前書きが全く用をなさないのだ。読者は皆、学校で、町のどこかで、自分のすぐ近くで、作品と似たような出来事が展開されているのではないかと錯覚してしまう。それは、ひいては作品が持つリアリティという美点へと結びついていくのだろうが、それにしてもそのひきかえとして被る「毒」が強すぎる。設定だけを見れば作り物としか思えない物語が、実際には「作者の実体験」を描いたものではないのかと疑うファンもいたらしい。とんでもない話だとは思うものの、かと言って私はそうした人々を馬鹿馬鹿しいと言って笑い飛ばすこともできない。確かに、これを書いていた当時の作者には本当に「別の」何かが乗り移っていたのではないかと、思わずそんな疑念まで抱いてしまうほどこの作品が持つ影響力は凄まじい。だから、簡単に「読んでくれ」とは言えない。未だに買い集めて手元に置くこともできない。連載中だという続編を読めば、その畏怖のようなものも薄れるかもしれないけれど…どちらにせよ、自分にとっては何となく、再び向き合うまでに相応の覚悟と時間が必要だと思われる作品である。

    そうして、肝心の話の内容については、読んでいる当時私は未来路が好きだったような気がする。彼はサイキックで分かりやすくカッコ良かったし、複雑な生い立ちにも関わらず悠々と肩肘張らず生きている様や、何より柔らかな京都弁口調がやたら新鮮に感じられて好きだった。特に、遺伝上は繋がりのない母と兄とのエピソードがいい。それに、何となく彼は登場シーンから見せ場が多く作られて贔屓されているような感もあり…後に、どこかで「作者は未来路にキャラ萌していたのではなかろうか」という書評を目にしたことがあったけれど、当時やけに納得した記憶を持っている。続編にも彼の娘(?)という子どもが出てくるそうだし、この指摘はあながち間違いという訳でもないのだろう。
    とはいえ、時が経つだけ記憶が精錬されて、そうして次第にこの作品の象徴のように思われてくるのはやはりシオンの存在である。少女漫画における、いわゆる「ヒーロー」的な役割を受け持つキャラクターとして、私は良い意味でも悪い意味でも、とにかく彼以上に強烈な人を知らない。人並み外れた教養と機転の持ち主で、それでいて最も苛烈、最も狡猾、最も残虐でありながら、同時に絶望的なまでの孤独とその裏返しとしての愛情への餓えを抱えている。多くの矛盾を身の内に孕みながら、何とか調和が保たれているようでもあり、激情に駆られて不可解な反応を起こすかと思えば、確かにそれは彼の中でどこか首尾一貫している。そんな人物を想起し、描いていくのに、作者はどれほどのエネルギーを消耗したことだろう。シオンと聞くと、私はいつでも彼の、あの鋭く相手を見据えるような断罪の視線を思い出す。問いかけるようで、責めなじるようで、従属を命じるようで、その実すがる相手を求めているかのような、それは憎悪と共にむきだしにされる彼の無防備な感性の表出である。
    『ぼくの地球を守って』は結局、このシオンの救済の物語だと言っていい。残酷な運命に生まれ、悪意と暴力とに晒されながら、それでも彼は最期にようやく魂の安らげる場所を見出した。これはシオンという男の、来世をも含めた壮大なる一代記なのだ。「早くどこかへ帰りたい」、そんな漠然としたノスタルジーを抱えていた彼が、生涯に渡る生の苦闘を経て最期、草花に躯を晒している姿が発見される。今でも、思い返すだけで鳥肌の立つシーンである。


    もう一つ蛇足を加えるとすれば、この作品は後に作られたOVAのクオリティも素晴らしかった。特に、菅野よう子作曲によるエンディングの演出は筆舌に尽くしがたい。どこかあどけない哀愁漂うメロディの中、色褪せたススキ野の真ん中で、所在なさげに幼子のシオンが立ち尽くしている。間奏の咽び泣くようなコーラスの合間、登場人物たちの前世と現世の姿が入れ替わるようにして折り重なる。微笑む者、どこか複雑な表情を浮かべる者、そうして一人だけ天を仰ぐシオン。原作のファンで、まだ目にしたことがないという方には併せてお薦めしたい。とにかく涙なしでは見られない名作だ。

  • 読了後、喪失感なのか、達成感なのか、よくわからない感情に襲われ、
    こちらの感想欄や、ネットの海に漂う考察を読み漁りました。
    こういう転生ファンタジーものは本当に弱くて、、しばらくの間ずっとこの作品のことを考えていました。

    思春期に読んでいたら、その後の人生観、価値観に大きく影響を与えられていただろうな、と確信する漫画でした。

    壮大で、切なくて、面白い。

  • やっと読めた、、、
    ぼくの地球を守ってーーー読みたいけれどもブックオフにも本屋にも置いておらずかといってアマ○ンで頼むのも母を経由しないといけないさぁ困った。と、ずーっとうじうじうじうじしていたらまさかまさかの近所の図書館で置いてありまして。
    灯台下暗しってこーゆーことを言うんでしょーね。

    早速読んでみたものの、一巻前半、輪くん落下前後はどこかの漫画アプリの試し読みで読了済み。そのせいか当初の輪くんの印象が私の頭の中に鮮明に残っていましたので、一巻後半の輪くんの変貌ぶりにはビビります。
    それと、レビューに「壮大!切ない!」とか書かれていたからさてはてどのくらいシリアスなのかと思うていたらその逆でギャグ要素満載でした。
    それにしてもこのありすのビジュアル。どーしても蘭世が連想されてしまうよーっ(泣)

  • 何度も読み返しては世界観に浸ってます。
    読み直すたびに新しい発見があるのは、自分が成長しているからかも。

  • 子供のころ読んだとても大切に読んだ、心残る作品です。

  • 大変だったけどよかったねーありす。一成が好きです。

  • 全21巻

  • わたしの中二病の入り口。

  • 『ぼく地球』にみる日常への回帰

    <あらすじ>
    仮母星(シア)から月基地に派遣され、地球観測に当っていた7人。星間戦争による仮母星全滅後、彼らも伝染病で次々と病死してしまう。その後彼らは地球人に転生、前世の記憶の覚醒を積み重ねながら交流を続ける。しかし、月基地での反目、愛憎、混乱が現世に影響し始める。前世と現世が交錯する中で、それぞれ悩み苦しみつつ過去を清算しようとする。

    ●戦士症候群
    人間は、自分の生に必ず意味を与えようとする。現状に満足できない者は、新たな意味を求めて旅立つ。しかし旅立てない者は、空想の中で意味ある人生を夢見るしかない。手っ取り早いのは、誰かに生きる目的や使命を与えられることだ。それが、1980年代に一世を風靡した「光の戦士」ブームである。例えば映画『幻魔大戦』では戦士としての啓示を受けた者が超常能力に目覚めて闇の勢力を闘う。その当時、「夢で啓示を受けた」少年少女があちこちに出現した。

    ●「輪廻転生」ブーム
    この戦士ブームに、「転生」ブームが付け加わる。不死の魂が次々と転生するという輪廻思想は、意外と若者の支持を受けた。自分の「前世」は何だったのか。現状に満足できない彼らは、現世に生きる意味を前世に見出そうとした。戦士と転生が結びついたとき、新たな物語が生まれた。「私たちは『前世』からの『戦士』なんだもの」(『東京BABYLON』)。戦士として敵と闘う使命が、前世によって運命づけられていたというわけだ。

    ●『ぼく地球(たま)』でのモチーフの変化
    『ぼくの地球を守って』は、こうした雰囲気の中で生まれた。但し、モチーフには大きな変化が見られる。
    ①光と闇の闘いといった大状況はなくなり、「選ばれた戦士」というモチーフが希薄になった。
    ②その結果、「転生」も特別の使命を与えるという意味を失った。それどころか、前世の覚醒は現世にかつての苦悩をもたらすことになる。転生は「日常」の再生産であり、現世に輝かしい意味を与えてはくれないのだ。

    ●日常への回帰
    『ぼく地球』が提示するのは、「日常」という「小状況」への回帰である。現世にとって前世は非日常であるが、前世にとって前世は日常である。主人公たちは前世を相対化し、現世こそ重要なのだと教えてくれる。現実的で冷めた存在と言われる子どもたちは、脆くて壊れやすい魂を大事に隠している。マンガを通じてこの部分に触れた作者は、子どもたちに呼びかける。現実逃避や自己陶酔に耽ることなく、現実の生を力強く歩もうと。
    (『ソフトノミクス』1994年9月号に寄稿)

  • 全巻読破

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