銀の三角 (白泉社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592883012

感想・レビュー・書評

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  • 星系の消滅と共に絶滅した、特殊な能力を持つ種族「銀の三角」。3万年後に再び現れた銀の三角人を巡る、壮大なSF叙事詩。
    数十年前、学生時代に一読したきりだったので、今読めば理解できるだろうかと購入。一読目、細切れ読書ではなかなか頭がついていけず。可能なら時間のあるときに、一気読みした方が、その世界観にどっぷり浸れる。
    スケールの大きいタイムリープ、クローン、中性的人物、排除される異形種…これまで読んできた萩尾SFを彷彿とさせる。難解ではあるものの、繰り返し繰り返し読むことで、ストーリーが頭に入ってくる。緻密な構成の素晴らしさは勿論だけど、キャラクターも魅力的。敵か味方かわからない、歌うたいの黒髪の少女、ラグドーリン。きりっとした彼女の瞳とつかみどころのない存在にとても惹かれる。
    萩尾作品全般に言えることだが、大判で読みたいな!懐と場所を考えると文庫版はありがたいのだが、美しい絵とダイナミックなストーリーを楽しむなら、断然大判がいいなと思うのだ。
    何度も読み返すほどに新しい発見がありそうな、とても噛みごたえのある作品。

  • 記録によれば2006年6月に読んだことになっているが、それは再読で、たぶん大学生のころにハードカバーの単行本で初読だった。
    文庫を手に入れたから嵩張るほうは売っちゃおうという判断をした馬鹿め>自分。
    なぜなら萩尾望都の長いキャリアの中でも、あまり極端なことは言いたくないが、おそらく相当繊細な絵柄の時期だったので、その細い描線を見るには大判のほうがよかったのに。
    また後書きが収録か未収録かといった違いもあるので、慎重にしろ>自分。

    何よりも強調したいのが、ラグトーリンというキャラクターの造形の美しさ。
    「ラグトーリンの歌をお聞き 結晶風 闇の星 金銀の四角三角──無限角 民人たちは朝を待つ」
    書き写すだけでも溜め息の出る言葉と同時に描かれるのは、幼いんだか成熟しているんだか男なんだか女なんだか神なんだか人間なんだか分からない、そして最後まで判然としない人物。
    伏目もいいし、きっと睨むような眼もいいし、背丈や服装も素敵。(なんでも萩尾望都のSFにおける砂漠っぽい衣装はこの作品が最初なんだとか。)

    また、おそらく主人公と思われるマーリーが、決して唯一の存在ではなく、1号、2号、3号と増えていくあたり、連載されていた「SFマガジン」に合わせた難解さ、というか、SFリテラシーに合わせたものなのだろう。
    感情移入しながら読むというよりは、読み手が今いる現代日本など眼下にもない遥か遠く、さらに遠く、という志向。
    なんとなく山尾悠子の「ムーンゲイト」の水蛇と銀眼を思い出す。
    山尾悠子も1980年前後にSF界隈で活躍していたので、この連想も無為ではないだろう。

    また、マーリーが「シュタインズ・ゲート」「魔法少女まどか☆マギカ」かくやのループに嵌り込むが、これは素人が影響関係を探しても無駄なくらい過去からあった想像力が、各時代にメルクマールとして現れているだけなんだろう。

    ところで、よく小説や漫画や絵画から音楽を感じたという感想を見聞きするが、個人的には音楽メディア以外から音楽をまざまざと感じた経験はほぼない。
    もちろん本作でも、たとえばラグトーリンやエロキュスの歌をまざまざと聞いた、とは書かないけれど、
    ミューパントーが発した、波のような輪のようなボイスは、見えた、を越えて、聞こえたような気がしないでもない。
    これは萩尾望都の絵が凄いのと同時に、リザリゾという「短命」種の怒りなんだか残虐なんだか悲しみなんだかに無感動ではいられなくなった自分がいるから、だとも思う。

    最後にまたラグトーリンのよさを書きたい。
    ラグトーリンのラストのコマで、あの顔、あの表情、あの首に手を置いた角度、すべてが的確に「私は偏在して、見ているよ」ということを表している。
    ここまで言葉に頼らない表現が紙に描かれ、読み手が自身の中に再現できる言葉が詰まっている表現、というのは奇蹟的なことなのではなかろうか。
    萩尾信者には気を悪くされるかもしれないが、やはり極端なことを言えば、ある種の頂点なのではなかろうか。

  • 「萩尾望都SF原画展」に行ってきた。年明けからずっと楽しみにしていて、ワクワクしながら出かけたのだけど、期待通り、いやそれ以上に充実した内容で、深く深く満足した。帰宅してすぐ、取るものも取りあえず、「スターレッド」と「銀の三角」を読む。そうそう、このシーンのナマ原稿があったんだよねえ、一筆一筆手で書かれたのだということが何だか信じがたいような、すごい線だった、はあ~、とため息をつきまくりながら感動を反芻したのだった。

    四十年以上読んできた萩尾作品は、「ポーの一族」を筆頭にどれも大好きだけれど、とりわけSFには思い入れがある。SF的センスと叙情性が溶け合っていて、どれもすばらしいと思う。ブラッドベリ作品など、わたしのなかではあの絵柄と渾然一体となっている。(「みずうみ」の原画があって嬉しかった!)

    その中で特に好きなのが、「スターレッド」と「銀の三角」。SF度が高いのは後者だろうが、どちらも時空のスケールが大きくて、読後感の切なさたるや、言い表しようがない。萩尾作品ではいつもそうだけど、マイノリティに寄りそう深い思いを感じて、そこが心に響いてやまない。

    原画展の会場の一角、テーブルの上に数冊のスケッチブックが置かれていた。来場者が萩尾先生宛に感想を書くためのもので、会期が終了したら先生に届けられるのだそうだ。のぞいてみると、(わたしと同じように)長く読んできた方の思いのこもった感想が多く目につく。また、「母の持っていたコミックスを読んでファンになりました」という若い人の感想も見かけ、あらためて半世紀近い画業の素晴らしさを痛感した。ファンレターなどついぞ書いたことがないけれど、今回ばかりは是非先生への感謝を伝えたいと思いペンを取ったが、すごく迷った挙げ句全然たいしたことが書けなかった。トホホ。

    • nejidonさん
      たまもひさん、こんにちは♪
      萩尾さんのファンでいらしたのですね!
      (私はくらもちふさこさんが好き・笑)
      この作品は確かSFマガジンに連...
      たまもひさん、こんにちは♪
      萩尾さんのファンでいらしたのですね!
      (私はくらもちふさこさんが好き・笑)
      この作品は確かSFマガジンに連載されていたような・・
      プロットの組み立てが非常に上手くて、ラストに向けてどんどん全容が見えてくるのが
      たまらなく面白かったです。
      ラグドーリンが何者なのかが、最後まで分からないのも、二重丸。
      久々に懐かしい作品のレビューが読めて、とても嬉しかったです!
      そして最後の行も笑わせていただきました!
      そんなものかもしれませんね。とても他人事とは思えません。
      2017/11/08
    • たまもひさん
      nejidonさん、コメントありがとうございます!
      萩尾先生は、SFと少女漫画という、わたしの偏愛する二大ジャンルの重なりに燦然と君臨する...
      nejidonさん、コメントありがとうございます!
      萩尾先生は、SFと少女漫画という、わたしの偏愛する二大ジャンルの重なりに燦然と君臨する女神様です。いやほんと。
      そしてそして、く、くらもちふさこ先生とな!くらもち先生は、気持ちのふかーい所でずっと大事にしてきた、これまた別格の存在なのですよ。いやあ、同じファンと知って嬉しいです~。
      「くらもちふさこ デビュー45周年記念 ときめきの最前線」のレビューで、ほとばしるくらもちふさこ愛を書きなぐっていますので、もし良かったらご覧ください。

      「銀の三角」、何度読んでもクラクラするような読後感は変わりません。しかし、あのつたない感想を先生がご覧になるかもと思うと、頭をかきむしりたくなります…。
      2017/11/08
    • たまもひさん
      nejidonnさん、追加です。
      今見たら、くらもち先生のムックにはとうに「いいね!」をいただいてました。見逃していてごめんなさい。これに...
      nejidonnさん、追加です。
      今見たら、くらもち先生のムックにはとうに「いいね!」をいただいてました。見逃していてごめんなさい。これに懲りず、また読んでやってくださいね。
      2017/11/08
  • ラグトーリンって何者? エキュロスって?
    いや、そもそも主人公のマーリー自体いったい…。
    夢?予知?それとも…。

    これは勢いで読むものではなかった。もっとていねいに読もうとして何度目か。
    それでも、話も人もモザイクのように入り込んでいて、迷子になりそうになる。
    それでいて「難解」という堅い言葉は似つかわくない、流れるようななめらかさ、そして繊細さ。
    え、え?とさらに知りたくなる。
    途中、もっと長編で読みたいような気もしたけれど、今は、それよりイメージを広げて読むのがいいかも、という思いに変わった。

    同じストーリーであっても望都さん以外が描くと、ずいぶん違った印象になるんだろうな。
    私にはまだまだ謎があって、また読み返してみたいしそれが楽しみでもある。

  • ひさびさに読み返した大好きな作品。
    世界の運命を握るひとつの結び目。それを解き、世界を美しく留めるために時間と空間に干渉する謎の美女ラグトーリン。
    これって、時空の将棋、もしくは壮大な「もしもボックス」の話なんだ。
    小説じゃないから、スッと世界に入っていけるのだろうな。こういう話を小説で描くと、きっと、すごく難解で、読むのもタイヘンなのかも。
    それから、時空の話に音楽が登場するのが面白い。ストーリーの展開に直接係わってはこないのだけれど、音楽は時間の芸術だから。象徴なのかな?

    こういう話、他の萩尾作品にもあったなあと思い、探してみた。
    そしたら、小学館文庫の「半神」に入っていた。生まれ変わってもいつも同じ運命を辿る男女の話「酔夢」。「金曜の夜の集会」も繰り返す時間を扱っている。

  • 萩尾望都により、1980〜82年に「SFマガジン」誌上で連載された長編SF作品です。

    時は未来。
    舞台は宇宙に散らばる色々な星系に暮らす人間達の世界。
    主人公「マーリー」は、政府機関で社会安定の為、データの収集と分析を行うセクションに勤務していた。
    彼は予知能力があり、社会変事を察知しそれを防ぐのだ。
    或る日彼は「エロキュス・ルルゴーモア」という歌姫の歌を聞き、その中に社会変動を感じて調査におもむく。
    エロキュスの死。
    謎を追ううちにトラブルに巻き込まれて、マーリーも死ぬ。
    スペアのために用意してあったクローンマーリー2の起動。
    辺境の惑星の王の元に忌むべき子供が生まれる。
    夜毎殺され、生き返る赤ん坊。。。

    すべての原因は、「銀の三角」といわれる星に住んでいたすでに滅びた種族に起因した。
    彼等は音楽に対して特殊な能力があり、予知能力を持ち、非常に長命であったが、その予知能力のために、他の種族に狩られて滅んだという。

    謎の吟遊詩人、黒髪のラグトーリンは何者か?
    すべての謎はからみあう。
    幻覚、現実、幻想、実相、夢想、夢幻、消失と再生。

    ネムラセテ ソシテ
    ワタシヲ 岸辺ヘ カエシテ…

  • 私の中では、この本の世界とU.K.ル=グゥインの世界は地続きで、いろんなエピソードが自在に交じり合う。どちらも好きなので私自身は構わないが、それぞれのファンの方々と交流する時には困るのではないかと時々思う。

  • SF漫画としてはやや単調。でも、この世界観!
    音楽と宇宙が絡み合った、幻想的だが規律的な風景。

    大学時代の哲学の授業で、「天球は音楽を奏でている」という言葉を習った。それを残したのは、有名な直角三角形の定理を生み出したピュタゴラス。
    彼は相互に一定の距離を保ちつつ動く天体の軌道に興味を持ち、それを観察した結果「比」の存在を発見する。また、この「比」の応用から、有名なドレミファソラシドの7音階を生み出す。宇宙と数学、そして音楽が係累関係にあることがわかり、その驚きを、ピュタゴラスは「天球の音楽」という言葉で現す…
    「銀の三角」を読んで思い出したのはこの逸話だった。黄金比もピュタゴラスの発明なので、「銀」の「三角」というタイトルや、音楽と宇宙の関係性からして、もしかして起源はピュタゴラスに…? と思ったり。

    物語の冒頭部分はまったく全体像がつかめないのに、読了した後は完璧に把握出来るようになっている構成もすごい。異星の風俗を細かく描くのは、ジェームズ・ティプトリー・ジュニア作品に似ている。SF雑誌に載っていたためか、萩尾望都作品らしい耽美なロマンチックさはあまりない。そのためか、キャラクター造形がちょっと簡素。いっそ「ポーの一族」レベルに耽美さを加えてもよかったと思うけど、それは好みの問題かな。
    SF作品として秀作なことに代わりはないのに、萩尾望都の作品ということで期待値が高くなりすぎてしまう。先生なら、もっと素敵にやれたはず!

  •  トム・クルーズ主演の『オール・ユーーニード・イズ・キル』を観て、「『銀の三角』の複雑な枝葉をとっぱらって単純化したみたいな話だな」と思い、本棚から発掘して再読。奥付は94年9月で、なんと20年も前の本か!(初出の雑誌連載は80年~82年)
     初めて読んだ時は、何が何やらさっぱりわからなかった。3~4回読み返してようやく物語の大枠が見えてきて、10回くらい読んでなんとかストーリーは理解できたかな。でも、人に説明する自信はない。そのように超難解で哲学的なSFだが、再読に堪えるというか、再読せずにはおられない不思議な魅力のある作品だ。こんな話を考える萩尾望都の頭の中はいったいどうなっているのだろう?
     家じゅうの本棚をあさったら、びっくりするほどたくさんの萩尾作品が出てきた。いずれも骨のある物語ばかり。しばらく耽溺してしまいそう。

  • この作品を知ったのはよしながふみの対談集。
    すごく衝撃を受けた作品として挙げていたので読みたいと思っていた。

    設定や内容に感しては今読んでも全く色褪せない、というか30年前にすでにこんな仕掛けで描いてたなんて、と素直に感心。
    今はただもうちょっとそれらしい横文字が増えたぐらいの差だ。

    しかし後書きで、毎月の生理が恨めしくてしょうがなくてこの作品を思いついたって、天才にかかると生理痛もかくも見事な作品を生み出すきっかけになるんだなと感動した。

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著者プロフィール

漫画家。1976年『ポーの一族』『11人いる!』で小学館漫画賞、2006年『バルバラ異界』で日本SF大賞、2012年に少女漫画家として初の紫綬褒章、2017年朝日賞など受賞歴多数。

「2022年 『百億の昼と千億の夜 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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