- Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
- / ISBN・EAN: 9784592886235
感想・レビュー・書評
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どこで、どう道を誤ってしまったのか。
小説からかけ離れた分野のレビューばかり書いています。
小説のレビューを書くのは結構エネルギーを消耗するので(きちんと調べて、瑕疵のないように書かないと作者に申し訳ないので)、息抜きに「もしドラ」のレビューを書いたのがきっかけか。
あれは、そもそも小説じゃなくて自己啓発本、或いはドラッカー入門本? だもの。
その中で、(「もしドラ」は「おお振り」だ)説を暴露してしまったので、落とし前をつけるために「おお振り」のレビューも書かなければと思い、生まれて初めて漫画のレビューを書いた後、再び「夢を与える」を苦しみながら読みきったまではいいのだが、その読後感のやるせなさで、少し軽いものをと料理本のレビューを書き、いざ「夢を与える」のレビューに取り掛かったら、その救いようのない結末に映画「ダンサーインザダーク」を思い出し、結局その映画のレビューも書く羽目になり、ますます気分が落ち込み、そんなわけで感動したお薦め小説のレビューを書こうとしたのだが、そういえば思い切り感動した漫画があったよなあと、この「学生たちの道」が脳裏の片隅を過ぎったので、これについて書くのもいいな、と思ったわけでして。
私が漫画のレビューを書くなんて「おお振り」以外はありえない、などと大見得を切ったわりには、結局書いているじゃないか。自分の嘘つき!
このまま行くと「巨人の星」とか「明日のジョー」とか、或いは「タイガーマスク」や、今年30数年ぶりに映画化(2012年6月16日公開。なんと今日3月3日から特典付き前売り券発売開始らしい。運命の糸に手繰り寄せられたような不思議な縁です)されるのを知って、『君のためなら死ねる』という名台詞を言い放った岩清水君のおろかな純愛(註:高校時代、私のお馬鹿な友人は、好きになった女の子に本当にこの文言を書いてラブレターを送りました。もちろん振られましたが……。
だって、『君のためなら死ねる』なんて書いたラブレターを女子高生がもらってみなさいよ。気持ち悪いですよね、そんな男子高校生。
今なら「ストーカー」として逮捕されかねません)とヒロイン早乙女愛の可憐な美しさ(清廉潔白の廉です! というような──これも名文句ですね。小学校の教科書で読んだ言葉を今でも覚えているのだから。
しかもその可憐な愛役は武井咲。昔の早乙女愛よりは「謎解きはディナーのあとで」のお嬢様役を演じた北川景子みたいに原作のイメージにピッタリ。誠役は妻夫木君で、年齢的にはかなり無理があるものの、それでも当時の西条秀樹よりは期待が持てる)が頭に浮かび、何もそこまでと自分自身思いながらBOKK OFFでコミックを衝動買いし、全巻揃えてしまった「愛と誠」。
はたまた「課長島耕作」や「ゴルゴ13」、さらにはアニメの「秒速5センチメートル」まで書いてしまいそうな自分が怖い。
「学生たちの道」でキーワード入れると、こんな漫画でもすぐにamazonで検索されて本棚に登録されるんだ。
ブクログすごいけれど、リニューアル後の不具合は早く何とかして下さい、お願いだから。
よく考えたら、手元にあるこの本は復刻版で、amazonで検索して手に入れたんだった。
昔、高校時代に買ったはずの、おそらく集英社漫画文庫というやつがどこかに消えてなくなってしまったせいで。
手元にあるのは(白泉社文庫─西谷祥子傑作選)という代物なのだ。
白泉社というのは、どんな出版社なのかあまり知らなかったが(調べたら集英社から枝分かれしたわけね、納得)、こういう名作を復刊してくれるのはとてもありがたい。
西谷祥子さんの漫画が好きでした、むかし。
あの、顔の四分の一ほどもあろうかという大きな瞳の美少女が好きでした、むかし。
でも、あんな大きな瞳を持った女の子が実際にいたら、とても気持ち悪いだろうなあと思っていました、むかし。いや、これは今でも思うけれど。
この「学生たちの道」は、心がすさんだ時に読むと、幸せの涙で癒されます。
西欧のブルジョアたちが通うスイスのハイスクール(でいいのか?)セント・アザレア学園。
弁護士の父親も学んだというその学校に、とてもきれいな顔をした息子が入学するところから物語は始まります。
かなり裕福な家の子でなければ入れませんが、有名な哲学の先生がいて、その先生に憧れ、学生たちも様々な国からやってきます。
主人公アルバートの下宿生活が始まります。
その下宿の手伝いをしている美しい町娘ジョアンナがアルバートに好意を抱き、そこからアルバートは夢と希望に満ち溢れた学生生活を──と思いきや、いきなり事件勃発。
学校の規則を破ったとして学生牢に入れられるわ、ジョアンナは変な男に付きまとわれるわ、父親の友人の息子で兄貴分とも言うべきモーリスが決闘で貴族の息子を殺してしまうわ、さらには父親が急死したため、学費が払えなくなり、アルバートは学校を辞めて酒場で働くという展開。
夢一杯だった友人たちも、様々な困難に遭遇し、みんなばらばらになり学生街を離れていきます。
でも、悩み、迷い、苦しみ、ある時は絶望の淵に追い込まれながらも、どこかに希望を持ってみんな生き続ける。
様々なエピソードを交えながら展開される青春群像劇。
アルバートと同じ下宿に住んでいた友人、ドイツから来た、それほど裕福ではない「あばたのヨーゼフ」が、貧しさ故に授かった知識を基にアルバートの美しい妹カロリーヌの命を救う場面。
「あなたは誰にもおとらない。尊敬します」と抱きかかえた彼女からキスを受ける。
「神さまがわしのために天使をひとり、とっておいてくださった」とヨーゼフは涙を浮かべながら呟く。
泣けます。今読んでも感動の涙が頬を伝わり落ちます。
そして、最後には、みんな再び学生街へ帰ってくる。自分たちの生きるべき、歩むべき“道”を見つけて。
もうあの頃のように若くはないけれど、人生の荒波を乗り越え、一回りも二回りも大きな姿になって。
辻村深月の言葉を借りれば「闇は深ければ深いほど、そこに射し込む光は柔らかく温かいはず」。
深い闇の中で、もがき苦しみ、でも挫けることなく、前向きに生きたことへの神様からのご褒美。
ラストに近づくに従って感動の涙を禁じ得ません。
人間は素晴らしい、友情って素晴らしい、夢を忘れずに生きていくことは素晴らしい。
素直な気持ちになって、純粋にそんな思いを抱かせてくれる青春の物語。
単なる少女マンガではありません。
少女マンガ史上、おそらく初めて男性を主人公とした記念碑とも言うべき作品。
心揺さぶられるお薦めの一冊です。
辻村深月「スロウハイツの神様」のように。
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