夜明けの風

  • ほるぷ出版
4.15
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本棚登録 : 55
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (487ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784593533848

作品紹介・あらすじ

侵入者サクソン族の手から父祖の地をとりもどそうと、ブリテンの人々は最後の戦いにうってでた。だが完膚なきまでに叩きのめされ、あたりは一面の廃墟となった。ただひとり生き残った14歳の少年オウェインは、愛犬とともに北にのがれようとする。逃避行で出会ったのは、飢え怯えた少女レジナ。オウェインは、病気の少女をどうしても見捨てることができず、自分に残されたただひとつのもの"自由"を売って、この少女を助けようと決心する。…サトクリフの金字塔『ローマン・ブリテン・シリーズ』掉尾を飾る幻の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 6世紀のイングランド南部の海岸地帯を舞台に、主人公ローマンブリトン人のオウェインが歴史の運命に翻弄されながら成長する物語である。
    ローマ人が去って100年以上経ったブリテン社会を、今度はゲルマン民族(ドイツ、デンマーク、ベルギー)であるサクソンやアングル、ジュートの侵入と進出が襲っている。土着民のケルトの部族社会はローマによって北に圧迫されながら、南部ではローマとキリスト教に同化してブリトンを形成していたが、そこに南東部からサクソンが移住を始め、この頃には海岸地帯から次第に定着し小王国を形成していた。歴史に記録があるアクア・スリス(バース)の戦いで、敗北した南部ブリトン集団の部族や親兄弟を失ったオウェインはウェールズの廃墟となった市街でレジナという少女と巡り会い、一緒にガリア地方(フランス)へ脱出しようと旅を始める。しかし途中で病気で動けなくなった少女を救うためにサクソンの奴隷となる。奴隷としての8年の生活でも、オウェインは希望と向上心を保ち、家族に能力を認められていた。
    その間の彼の存在を象徴するように設定されているのは、ドッグという忠実な軍用犬と親からもらった指輪である。正当な主人からの命令を確実に理解し実行する犬は、奴隷としてのオウェインの生き方を象徴させる。普通、奴隷は命令を言われた通りに実行すれば存在を許され、それ以上は期待されていない。独自の状況判断までは期待されない。しかし命令の意味を理解すると、主人の本来の目的のために命令以上の行為をしてしまうこともありえる。これは奴隷の枠を超えた行為が自由への脱出口となることを暗示している。一方、ドッグは主人との絆をいかに強く持ち得たとしても犬からの脱出はあり得ない。ただ献身的であることだけが飼い主に期待されそれに応えることになる。犬自身の生きがいは日常での安息にあるだけで、命が果てるまで終わりはない。
    オウェインがなぜ奴隷主に忠実で、期待以上に献身的であったかは、ひとつには自ら進んで奴隷を選択したこと、そしていつか終わりがあることを心に誓っていたからだろう。その象徴は前作の「灯火をかかげて」のアクイラの末裔であることを暗示するイルカの紋章のある指輪である。オウェインはいつか取り出す日がくることを知っていて(願って)サンザシの大木の根元に指輪を埋めたのである。この暗示に導かれたかのようにサクソン家族への献身的貢献を認められて奴隷から解放されたオウェインだが、故人との約束を守り家族のためにさらに滞在を続けることになるが、しだいにサクソン人社会の政治的、集団間の戦いに関わることになっていく。これも史実にはめ込むための創作かもしれないが、そこに北部のブリテン人の関わりがあることで、侵略者(サクソン)の内部抗争の解決に、被侵略民の協力が必要だったという大きな構図が描かれる。この構図は、オウェインとサクソン家族との関係をさらに歴史に拡大して示すことで、征服者と被征服者との対立は恨みや憎しみを超えた融合しかないという著者の結論に結びついてくる。最後にレジナとの再会しブリテン人として未来に歩み出すことで、かろうじてローマの末裔としてのプライドと尊厳を保つ覚悟を示している。
    結局、著者は、種族の違いや個人の運命の違いがあっても、人間としての意識の高さや他者を愛し尊敬する生き方を強く支持し、そういう個人によって地域の歴史が支えられてきたことを言いたいのではないだろうか。地域間の紛争や、民族主義の問題を超えることは、決して政治的駆け引きや戦争によって解決するのではないという解釈ではなかろうか。
    この小説がゲルマン人による攻撃を直接受けてきた第二次世界大戦が終了して20年足らずの間に出版されており、当時の英国人、特に青少年に読まれてきた影響は少なくなかったと思うべきだ。

  • 最近、ローズマリーサトクリフさんの本を
    よく読むようになったけど
    全部同じパターンで飽きてきちゃった。

    最初は面白かったんだけどね
    途中ぐらいまで読んだらもう
    先が読めちゃって、しかもその通りに進むんだよな

    だから飽きちゃう。

  • 「ともしびをかかげて」に続くローマン・ブリテンの終焉と新しい時代の黎明を、アクイラの直系の一人の少年を通して描く。
    ブリトン人にとっては辛く苦しい時代で、主人公オウェインも奴隷となる時期をはさむけれど、いわゆる七王国時代なのでサクソン人にとって歴史に残る出来事がいろいろ起きている。

    という時代背景とは別に、ドッグと呼ぶ犬やレジナ(女王)という名の孤児の少女、テイトリ(子馬)という白馬、そして人々とオウェインとの交流で成長する少年を応援しながら読め、大きな感動はないけど読後感は爽やか。

    この後でイルカの指輪は「剣の歌」「シールド・リング」へと受け継がれる。

  • ドッグの死に涙・・・

  • 少女のため、自分にたったひとつ残った"自由"を手放した少年の話。最高。訳もすばらしい。出会えてよかった。

  • 何もかも失った少年、何もかも失ったまま乞食として生きてきた少女。病に倒れた少女を救うべく、少年は自分に残された「自由」をも手放した…。
    どこかひっそりとした絆。

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著者プロフィール

イギリスの児童文学者、小説家。幼いときの病がもとで歩行が不自由になる。自らの運命と向きあいながら、数多くの作品を書いた。『第九軍団のワシ』、『銀の枝』、『ともしびをかかげて』(59年カーネギー賞受賞)(以上、岩波書店)のローマン・ブリテン三部作で、歴史小説家としての地位を確立。数多くの長編、ラジオの脚本、イギリスの伝説の再話、自伝などがある。

「2020年 『夜明けの風[新版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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