扉の向こう側 (扶桑社ミステリー)

  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784594008642

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で何気なく手に取って借りた本。あらすじに宗教絡みの小説であることが書いてあったので小難しい内容かとも思い読み始めたが、全くそんなことはなくどんどん物語に引き込まれていった。読みやすい小説だった。文体が上手いんだろうな。

    訳者あとがきによると、「社会派風のサスペンス小説であり、十代の若者を主人公にした瑞瑞しい青春物語」であるというこの小説。
    主人公のアーサーは高校卒業間近の17歳。成績、特に生物学の成績が良く、名門のコロンビア大学への入学がほぼ内定しており、ガールフレンドも親友もいる。家族は、優しい母に真面目な父、弟は少々神経質だが、家族仲も良い。ごく普通の(むしろ"リア充"とも評されるかもしれない)青年である。
    そんなどこにでもいる青年が、父が宗教に目覚めたこと、青年のガールフレンドの妊娠・中絶、志望大学への進学断念、父からの勘当、失恋、そして家族が陥っていく大きな"事件"と目まぐるしい展開のなかで成長していく物語である。
    これらの展開のなかで私が衝撃を受けたのが、妊娠に関するアーサーやガールフレンドの捉え方である。アーサーたちは妊娠に関して"よくあること"とも考えているように見受けられるし、その事態を知ったアーサーの父に関しても"関係ないだろう"というスタンスである。アメリカの高校生・大学生のなかでの"普通"が何なのかよく分からないが、飲酒や喫煙も行っているし、中絶後もアーサーの家で性行為を行っている(それを見つけた弟には反発され、父からは勘当されるが)。それでもアーサーたちは"不良"というわけでもない。いわゆる日本の17歳18歳の倫理観とはまた別の部分それらの行動に対して違和感を感じた。
    また、"事件"により不在となった父と弟。"事件"そのものよりも父と弟がいなくなったこと、優しい母と住み慣れた自宅で再び暮らせるようになったことをアーサーが喜ぶ描写があり、アーサーに恐ろしさも感じた。

    原題の『People who knock on the door』を直訳すると『ドアを叩く人々』であり、物語中に登場するような聖書やパンフレット等を持って各家庭を訪問してキリスト教の布教活動を行う人々を指しているという。これを、『扉の向こう側』と訳したことも秀逸だと感じる。アーサーにとって布教活動を行う人々(父や弟、その仲間たちのようにキリスト教を懸命に信じる人)、逆にそれらの人々にとってアーサーたちのように神の心に反する行動を平気で取る人たち、もしかしたら読み手にとって理解しきれない倫理観をもつ登場人物たちのように、『扉の向こう側』という言葉が自分とは異なる立場、思い、信じるものをもっている(生半可な話し合いでは理解しきれない)人を指しているような気がした。

  • 話が微妙に嫌な方向へと進み、どんどん気の滅入るような状況に陥っていく、という点でいかにもハイスミスっぽい話。主人公が18歳ぐらいの青年な上、微妙に明るいラストなのが救いというか、物足りないというか。

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著者プロフィール

1921-1995年。テキサス州生まれ。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞。

「2022年 『水の墓碑銘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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