- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594011758
感想・レビュー・書評
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ハイスミスの短編集。
*ゴルフコースの人魚たち
*ボタン
*事件の起きる場所
*クリス最後のパーティ
*カチコチ、クリスマスの時計
*無からの銃声
*狂気の詰め物
*たぶん、次の人生で
*僕は何もできない
*残酷なひと月
*ロマンティック
これらの短編では、陰惨な事件が起きるわけじゃない。ただ、ミルクにたらされた一滴のインクのような、そんな毒が、いつの間にか広がり変質されてしまう、そんな物語ばかりだ。
ハイスミスが、クールな作家だというのはよくわかっている。
クールだし、どちらかというとシニカルなんだろう。
世の中、クールでシニカルな作家は数多いる。けれど、ここまで突き放してしまうのはハイスミスだけだろう。
どれだけクールでシニカルでも、人はどこかに救いをもとめたり、よりかかったり、しているものだ。が、ハイスミスにはそういうものが一切ない。
彼女は、彼女で始まり彼女で完結している。
この短編集は、彼女の描くメビウスの輪のようなものだ。
つまり、どちらが表か裏かわからないけれど、彼女という輪から逃げることはできない。
孤高、その体言なのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大統領を銃弾から守った男の狂い始めた人生を描いた表題作、偶然に撮った写真から脚光を浴びることとなったカメラマンの変貌「事件の起る場所」、貧しい少年への施しをめぐり、徐々に埋めようのない亀裂が入っていく裕福な若夫婦の話「カチコチ、クリスマスの時計」、死んだペットを次々に剥製にして飾るまでに偏愛する妻の性癖に我慢がならなくなった夫が取った行動とは「狂気の詰め物」など、人間心理の暗部と狂気を鮮やかに描き出した短編11編を収録。
もう1冊のハイスミス短編集「風に吹かれて」よりもダークな味わいの作品が多い。とは言え、通常のホラーやミステリ作品のようなクライマックスやカタルシスは味わえず、急激に終わりを告げられた物語を前に、読者は半ば宙ぶらりんの気分、なんとも言えない「不協和音のような読後感」を味わうこととなる。その余韻の中に虚無感、ある種の残酷さ、恐怖が仕込まれているようにも感じる。