中国の嘘: 恐るべきメディア・コントロールの実態

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  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本 (486ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594048761

感想・レビュー・書評

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  •  甘い。甘すぎる。そーすいーと。この本を読み終わって、読む前の自分に投げる言葉がコレ。メディアに中国関連のニュースが出ない日はなく、上海などに観光に行く人も多い。経済的な交流が深まるにつれ、いつのまにかすっかーり中国を「普通の国」(普通って何よ、というのは置いておいて)と思いこんでいた自分に、がつんとハンマーくらわされた感じ。
     著者の何清漣氏は経済学を学んだ後、ジャーナリストとしても活動。国内での著作活動で当局ににらまれた結果、アメリカに出国を余儀なくされたという。その彼女が、中国の情報操作・報道規制の実態を告発する、というのが本書だというのだが……。その内容は、自分の想像をはるかに超えるものだった。

     共産党の一党独裁下で、メディアがプロパガンダ・マシーンとしての機能を大きく背負わされているのは、言うまでもないこと。新聞を発行するには政治的な審査・許可が必要だし、もちろん検閲ありだし、さらには厳しい管理をくぐり抜けた内容であっても「後の結果で処罰されることがある」という。
     共産党の支配を強化するため、いいニュースは誇張され、悪いニュースは隠蔽される。本書では鉱山事件81人が死亡したにもかかわらず、地方の政府部門が情報を徹底的に閉ざし、事故があったことそのものを否定する様子が書いてある。
     新聞だけではなく、インターネットにも厳格な統制が及んでいる。中国のYahoo!で「台湾独立」を検索することはできない……なぜならいくつかのキーワードが検索禁止になっているから。さらにユーザーの書き込みそのものがサイバーポリスを使って監視されていて、「異論者」は逮捕。これには最新の技術が使われていて、そのためのシステムを米シスコ社が受注したとして、国境なき記者団が糾弾の声を上げている。この状況では、ユーザーも「自律」しないではいられないだろう。
     報道規制だけではなく、情報そのものの操作も行われる。GDPなどの経済指標の数字まで、末端から数字がかさ上げされている始末だという。

     先日、中国各地で行われた「反日デモ」が大きな話題となった。あの事件の報道にしても、日本の発表と、中国で報道された内容は大きく食い違うものだった。9.11テロの際、中国では快哉を叫んだ人も多いと言うが、それがどのような報道規制・教育の成果によるものかは、考えておく必要があるだろう。
     もちろん、中国人すべてを中国共産党に洗脳されたロボット集団と考えるのは大きな誤りだ。たとえば戦前の日本だって、新聞は嘘八百だし、現人神はいるし、治安維持法だってあった。でも、その当時の日本人すべてが、教育勅語で天皇万歳なロボットばかりじゃなかっただろうし、ひとりひとりの日本人が邪悪なわけでもなかったに違いない。ただ、当時の日本人と今対話するなら、やはり当時の背景を知っておくほうが有益な話し合いができるんじゃないか、と思うのだ。
     経済的な交流を背景に、中国との関係は今後ますます重要度を増していくだろう。中国側の態度を見極めるため、そして何より、中国の民衆が置かれている立場を見極めるために、非常に有益な情報を提供してくれる本だと思う。

著者プロフィール

何 清漣(か・せいれん) Qinglian He
経済学者・ジャーナリスト。1956年、中国湖南省生まれ。湖南師範大学卒。上海・復旦大学で経済学修士号を取得。湖南財経学院、曁南大学で教鞭をとり、中共深圳市委員会宣伝部に勤務の後、『深圳法制報』で長らく記者を務めるかたわら、中国社会科学院公共政策センターの特約研究員となる。98年に政治経済学の視点から中国社会の構造的病弊と腐敗の根源を衝く『現代化的陥穽』(邦訳『中国現代化の落とし穴』〔草思社刊〕)を出版。知識人層から圧倒的な支持を得たが、共産党政権下の政治的タブーに踏みこむ言論活動を貫いたため、国家安全当局による常時監視、尾行、家宅侵入をはじめとするさまざまな圧力を受け、2001年に中国を脱出して米国に渡った。現在はプリンストン大学、ニューヨーク市立大学で研究活動を従事し、『当代中国研究』誌などに意欲的な論考を発表して精力的な活動を続けている。

「2022年 『中国の大プロパガンダ ――各国に親中派がはびこる〝仕組み〟とは?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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