スターリン秘録 (扶桑社文庫 さ 17-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594059699
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感想・レビュー・書評

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  • 打ちのめされるスターリンの悪逆無道ぶり【赤松正雄の読書録ブログ】

     一度書評で取り上げておきながら、同じ媒体でもう一回触れるということはおよそ珍しい。それをロシア通訳者の米原万理はある週刊誌の書評欄でやってしまった。その本とは斎藤勉『スターリン秘録』である。著者は、産経新聞元モスクワ支局長。ことの経緯は、米原の『打ちのめされるようなすごい本』にくわしい。要するに、スターリンの悪逆無道ぶりを徹底した資料の読み込みを駆使して克明に描いた本であるのに、それを米原はどこかで一度読んだものとの感じがして「トンデモ本、ゴミ本扱いにして一度は酷評」したのだ。あとで、それが間違いだと分かり、謝ったうえで改めて取り上げ、今度は礼賛しなおした。

     以前から、斎藤のこの新聞連載は凄いとの噂を聞きながらも、本になってからも読まずにいた。半年ほど前に文庫化されたのを機にようやく読んだ。よくぞここまでやるとの思いがするほどの悪辣極まりないことをスターリンはつい半世紀ほど前にやってのけた。ヒトラーとの往復書簡など大スクープとされるものなど豊富な内容が満載されており、興味津々で読める。先の大戦の戦前から戦後にかけての国際政治史を追うものにとって必読の書だろう。

     写真や挿絵なども結構ふんだんに入っており、実に読みやすい。なかでも呆れたのは「スターリンの落書き」の項。「当時のブリュハーノフ財務人民委員(財務相)が裸にされたうえ、男性器をひもで縛られて滑車でつるし上げられている図」は、現実にはありえない絵柄だが、思わずしばし見入ってしまった。スターリンはこの絵に自ら別紙で「政治局員各位へ。今日と将来の罪のためにブリュハーノフを睾丸づりにせよ。つり上げても睾丸が切れなかったら裁判では無罪とみなし、切れたら川に沈めてしまえ」と説明を加えた。

     この男のお陰で数え切れない人が死んだと言われてもピンとこないが、こういうことをやってのける人物だと知った瞬間、さもありなんと思う向きは多かろう。ここで書かれたことは遠い過去のことではない。「シベリア抑留問題は未解決のまま」であり、「スターリンがしでかした歯舞・色丹・国後・択捉の日本固有の北方四島の不法占拠はいまだ続いている」。ロシアの現政権は、スターリンの国家犯罪を頑なまでに正当化している。その意味で厳然とスターリニズムは生きているのだ。

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著者プロフィール

産経新聞論説委員。1949年、埼玉県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。産経新聞社に入社後、水戸支局、社会部、外信部を経てテヘラン特派員、モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長、正論調査室長などを歴任。常務取締役東京編集局長、取締役副社長大阪代表、論説顧問等を経て、2022年から現職。ソ連とロシアに特派員として通算約8年半在住し、一連のソ連・東欧報道でボーン・上田記念国際記者賞(89年)、「ソ連、共産党独裁を放棄へ」のスクープで日本新聞協会賞(90年)を受賞。著書に『スターリン秘録』(扶桑社文庫)、『日露外交』(角川書店)などがある。

「2022年 『「悪の枢軸」ロシア・中国の正体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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