悪と徳と 岸信介と未完の日本

著者 :
  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594065904

作品紹介・あらすじ

岸信介は、いかに困難を乗り越えたのか-稀代の文芸評論家による雄編評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介の幼少期から安保条約改定を断行した首相時代までの岸の歩みとその時代背景を、本人や関係者による回顧録も参照しながら振り返りつつ、現在の日本が抱える問題に一考を与えるもので、明治から戦後・昭和の状況を知るのにはうってつけの良本です。
    (その文芸的な表現も勉強するところが多々ありますが、何より明瞭かつ簡潔な書体でパッと理解しやすいです)。

    <幼少~学生期>
    ・吉田松陰に軍学を授けた祖父による家ぐるみの英才教育が施された
    ・北一輝の日本改造法案に触れ、その緻密性に感化され、相通ずるものを感じる
    ・主流の陸軍(長州閥)、大蔵・内務省(東京帝大一の秀才)を選ばず、当時三流と呼ばれた農商務省(⇒商工省)を選ぶ

    <官僚時代>
    ・第一次大戦後のパリ講和会議では、戦勝国として五大国の一角に連なりつつも、代表団がほとんど議論に参加できず、日本外交の無能と無内容を晒す
    ・官僚の公への忠誠のあり方として、明治期の官僚は朝臣として、天皇に忠誠を誓うことを求められる
    ・金本位制を目指した浜口雄幸内閣による財政引き締め、官吏の減棒方針に対して、商工省における反対運動のリーダーとして、辞表をまとめ直接大臣の下に出向いて撤回申入れ
    ・新興国アメリカの圧倒な産業力に対抗するため、ドイツ型の産業合理化・国家統制化(生産方式の最新化、合理化カルテルの締結)の必要性を痛感し、時の次官-岸文書課長ラインを形成し、重要産業統制法の導入など推進

    <戦中>
    ・時の商工大臣からパージされる形で次官とともに商工省を辞任、満州に渡り、産業開発に従事、日産の鮎川義介の招聘などを成し遂げ、満州経営の実権を握る「二キ三スケ」(東条秀機など)の一人に若輩にして数えられた
    ・40代前半に次官として商工省に復帰、自分より年上の商工官僚全員を辞めさせ若手を抜擢、さらに他省の革新官僚ら(企画院など)と共に、総動員体制を支える統制経済を推進するも時の大臣と対立して辞表
    ・東条内閣において商工大臣として入閣、自ら商工省を軍需省に改組させるも、敗戦明らか故に講和を主張し、憲兵に監視される身分となり、結局、閣内不一致で内閣総辞職

    <戦後>
    ・巣鴨プリズンに3年半いたことで、逆に健康状態がよくなる
    ・一時社会党への入党を考えていたが相手に断られ、結局、弟佐藤栄作もいる自由党で政界復帰
    ・民主鳩山を支え、保守合同⇒自主防衛、自主憲法を戦後・日本の国是とした自由民主党の設立に貢献
    ・三木武吉の言葉「無理押しをするんじゃない。無理押しは、一生に一度しか通らないもの」
    ・総理として、安保改定に向けた自主防衛の充実、戦後初のアジア歴訪(インド:ネルー(戦時日本と協力)、台湾:蒋介石(抗日)、タイ(同盟国として英米に宣戦布告)、スリランカ、ビルマ、)、初の公式訪米:アイゼンハウワー大統領と対等の付き合い

  • 六幼年学校(仙台、東京、名古屋、大阪、広島、熊本)
    皇道派、統制派
    吉野信次 トラック生産振興のため、トラックの標準化を進めた 共同設計されたトラックは「いすゞ」と命名された
    サイパン 日本本土への往復爆撃が可能。軍需工場、飛行場、鉄道、道路が破壊されれば、航空機も艦船も生産できない。そうなれば南方方面との連絡も途絶し、防衛戦が瓦解する。つまりはサイパンを失えばまけるのだ。負けると、明確にわかった、つまり勝負がついたのだであるから、戦争をやめるしかない。というのが岸の論理である。
    シャハト 1923 ドイツ国通貨委員として、国土を裏付けとする債権を元にした通貨、レンテンマルクを発行し、ハイパーインフレを収めた
    三浦義一 東條が巣鴨プリズンに収監された後、その家族を面倒万端をみた
    岸君、無理押しをするんじゃないよ。無理押しというのは一生に一度しか通らないものだ 三木武吉

  • 誕生から60年安保改定までの伝記。北一輝への心酔、商工官僚から満州での経験などを経て、統制経済の立役者である岸は、単なる自由経済をよしとせず、産業復興のための計画や、国力増強のための福祉に重点を置いたこと、安保改定もその流れにあったことをよく説明していて面白い。ただ、個人的にはどちらかというと官僚として統制経済を担った、また、満州での活動に興味があるので、そのあたりが薄いのがちょっと残念。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。『日本の家郷』で三島賞、『甘美な人生』で平林たい子賞、『地ひらく――石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。

「2023年 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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