我が名は切り裂きジャック(下) (扶桑社ミステリー)

  • 扶桑社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594074722

作品紹介・あらすじ

ジャック・ザ・リッパーは、私のところにいきなり入り込んできて、自分について書くよう強要してきた。彼は一年のあいだ私を人質にとった。書き上げて出て行ってもらわなかったら、奴は私の首を掻き切っていただろう。
――スティーヴン・ハンター




四人の犠牲者が出るにおよび、連続娼婦殺人犯はジャック・ザ・リッパーの名で
日夜ロンドンの新聞で報じられることになった。
ジェブはデア教授のプロファイリングによって浮かび上がった犯人像をもとに、
容疑者を絞りこみ調査を続行するが、やがて事件は思いもかけない展開を見せて……

殺人鬼の日記と記者の回想録を交互に並べる魅力的な構成。
膨大な文献調査と資料批判に基づく緻密な時代考証。
現実に知られる証拠の斬新かつあっと驚く新解釈。
歴史的事象と物語的虚構のはざまでたゆといながら、
やがてハンターが提示する衝撃の犯人像とは?

巨匠が満を持して挑んだヴィクトリアン・ミステリーの最高峰、ここに登場。
(解説・三橋曉)

感想・レビュー・書評

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  • 犯罪史上最悪にして最も有名な未解決の猟奇殺人。なんでまた切り裂きジャックなの?という疑問がまず最初にあったが、巻末の参考文献リストを見ると、作者のリサーチに費やした想いが見て取れる。

    ストーリーは、犯人の日記と記者の回顧録を交互に並べる形で展開する。上巻はスローペース。五人目の被害者以降に動き出すが、当時の時代背景や、記者としての葛藤などにページを割いてあるようで、謎解きよりもその世界観の方が印象に残った。正直、新犯人の解釈よりも時代考証の緻密さに脱帽した感じ。

    そして肝心の新犯人だが、あやふやに終わらせるのではなく、はっきりと断定している。今まで語られてきた数多くの犯人像とは明らかに異なる。そこに至る推理のプロセスも自然で違和感ないのだが、作者流のアレンジが加わっているため、やはりどこまでいっても小説の中における新解釈という感は拭えない。ま、フィクションなんだから当たり前か。切り裂きジャック関連の先入観はなしに、でも「小説」だという前提で読んでほしい作品です。

    最後に野暮だけど言わせて。やっぱりハンターはガンアクションがないとつまんねーわ。

  •  あまりにも有名な殺人鬼<切り裂きジャック>について書かれた本をぼくはこれまで読んだことがない。特に読まなかったことの理由はない。ほとんどの作品を読んでいるはずのパトリシア・コーンウェルが『切り裂きジャック』を書いた時にもなぜか食指が動かなかった。

     ほとんどの作品を読んでいるこの作家スティーヴン・ハンターの本書にしても買ってすぐに手に取ったわけではない。半年以上経った頃になってようやく、それもどちらかと言えば気が向かぬままに手に取った。

     古いロンドンの街を脅かした切り裂きジャックが有名な連続殺人鬼の代表格のような存在として知られながら、ついに逮捕されることなく未解決に終わっているという中途半端な伝説的事実。

     それに近代という古臭い時代、ロンドンの石畳とガス灯の街路を馬車が歩くそんな時代にまで遡って結局は解決もしなかった事件を、作家の想像力で仕立てたり、調査した事実関係を並べられたりしても読むに値する物語ができるとはとても考えられなかったのだ。

     しかしハンターには実績がある。ケネディ暗殺を独自の視点から描いた『第三の銃弾』、ロシアに実在した女スナイパーを題材にした『スナイパーの誇り』と、歴史を物語らせる最近のハンターの文学的手腕に対する信頼がある。なので、他の作家であれば手に取ることがなかっただろうこの切り裂きジャックテーマに挑んだ作家の手腕を改めて見てみようじゃないか、という気持ちになれたのだ。

     そしてその手腕は裏切られることがなかった。切り裂きジャックの事件はなぜ未解決だったのか? 半年に満たない短期間に五人もの連続殺人を犯した切り裂きジャックはなぜ犯行を唐突にやめたのか? その二つの疑問に挑むハンターの想像力は『第三の銃弾』でケネディを暗殺しなければならなかった男の内面をモノローグで描いたと同様に、本書でも切り裂きジャックの日記を鬼気迫る武器として用いている。

     さらに売春婦の手紙、雑誌記者の手記と三つの形式で物語を紡いでゆく。事実に基づくことから、シャーロック・ホームズと同時代であることも含めて、ロンドンの闇の回廊に蠢く殺人鬼と、推理する側の好奇心と、スプラッター映画のような過酷な殺害シーンとを。

     数ある伏線とひねり抜いたストーリーにあっと驚く主要登場人物の正体など、遊び感覚を備えながら語る、語らせる、そんな技巧とツイストに満ちた上物ミステリーに仕上がっているのである。円熟のハンターはあの名作『真夜中のデッドリミット』からこっちずっと読者の心をとらえて離さないままなのである。

  • 何故にスティーブンハンターが切り裂きジャック?つい先日、シェリーディクスンカーの切り裂きジャックを題材にしたタイムトラベルものを読んだばかりなので
    事件にはちょっと詳しくなったところ。凄惨な事件ですが現在まで未解決であることでイギリスでは有名みたいですね。
    小説での描写や実際の犯人の遣り口から現代ならDNA鑑定であっという間に捕まってしまいそう。
    また1880年代ってシャーロックホームズと同時代なんですね。小説の中にも「緋色の研究」が発表されたばかりとの記述があります。
    混沌としたヴィクトリア朝時代、ロンドンの下町の世相が良く判る、風俗小説として読んでも面白いです。
    スカートを捲っただけで路上で出来ちゃう、西欧の娼婦って凄いですね。
    小説の主人公には高名な実在の小説家(戯曲家?)を配し、一応犯人を追いつめて自滅させていますが、実在の人物なのかモデルがいるのか、その辺は詳しくないので
    面白みには欠けます。欧米の作家なら、一度は扱ってみたい題材なのでしょうか、昔の事件を描くよりも、ボブザネイラーを活躍させてくれよ!と思う今日この頃です。

  • 犯人像の浮かび上がる後半。いよいよその展開を楽しめるかと思いきや、意外とあっさりでした。内容はジャックマニアには物足りず、かといって推理やサスペンスものが好きでよく読む層には、ちょっと物足りなくなってしまうかもしれません。ジャックの犯行の描写はしっかりしていただけに、若干ホわっと終わっちゃった感。

  • これまで、切り裂きジャックの犯人像に迫る作品を何冊か読んでいるが、これだけ明解に犯人像を示した作品は無かったのではないだろうか。やはり、信頼すべき作家スティーヴン・ハンターだけのことはある。もっとも犯人像はスティーヴン・ハンターの創作なのだが。意外な犯人像と、ただでは済まないストーリー展開。なかなか面白い。

    連続娼婦殺人事件の犯人、切り裂きジャックの正体に新聞記者のジェブが音声学者のデア教授と共に迫る。

    これまでの切り裂きジャック事件を扱った作品はさんざん証拠や事実を並べ、事件をこねくり回した挙げ句に犯人像は不明確で、フラストレーションが溜まる作品が多かったが、見事にスティーヴン・ハンターがこのフラストレーションを晴らしてくれた。

  • クゥ〜ッ!そうだったのジェブ!上巻の感想がこっぱずかしくなるリアル・シャーロック・ホームズなデア教授!スワガー・サーガを離れての今作、ちょっと不安だったけどいやいやどうしてのエンターテイメント!スティーヴン・ハンターに見事にやられました。面白かったです。\u003eスティーヴン・ハンターさんへ。で、本当のところ真犯人は誰なの?(笑

  • 題材が題材なのでアクションシーンはほぼ無く、いつものハンター作品を思うと寂しさを覚えはしますがヴィクトリア期のミステリーと思えば面白い本でした。
    犯人の特定がやや呆気なかったのは物足りなさがありますが新聞記者が後の有名作家と言う設定は斬新です。
    『マイ・フェア・レディ』をもう一度見たくなりました。

  • 登場人物が少ないので、こうなる以外ないなという結末に至ってしまう。
    ハンターはやはり銃撃戦を描いて欲しい。

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著者プロフィール

Stephen Hunter
スティーヴン・ハンター

1946年ミズーリ州カンザスシティ生まれ。
68年ノースウェスタン大学卒業。
71年ボルティモア・サン紙に入社。
書評担当などを経て映画批評担当になる。
96年ワシントン・ポスト紙に転じ、
映画批評部門のチーフとなる。
2003年ピューリッツアー賞(批評部門)を受賞。

「2022年 『囚われのスナイパー(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スティーヴン・ハンターの作品

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