死にたい夜にかぎって

著者 :
  • 扶桑社
4.10
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本棚登録 : 578
レビュー : 53
  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594078980

作品紹介・あらすじ

「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」――憧れのクラスメイトにそう指摘された少年は、この日を境にうまく笑えなくなった。

Webサイト『日刊SPA!』で驚異的なPVを誇る連載エッセイ『タクシー×ハンター』。その中でも特に人気の高かった「恋愛エピソード」を中心に、大幅加筆修正のうえ再構築したのが、この『死にたい夜にかぎって』だ。

出会い系サイトに生きる車椅子の女、カルト宗教を信仰する女、新宿で唾を売って生計を立てる女etc. 幼くして母に捨てられた男は、さまざまな女たちとの出会いを通じ、ときにぶつかり合い、たまに逃げたりしながら、少しずつ笑顔を取り戻していく……。女性に振り回され、それでも楽しく生きてきた男の半生は、“死にたい夜”を抱えた人々の心を、ちょっとだけ元気にするだろう。

作者である爪切男は、同人誌即売会・文学フリマでは『夫のちんぽが入らない』主婦こだまらと「A4しんちゃん」というユニットを組んで活動。頒布した同人誌『なし水』やブログ本は、それを求める人々が行列をなすほどの人気ぶりだった。

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

(本文より抜粋)
 私の笑顔は虫の裏側に似ている。学校で一番可愛い女の子が言っていたのだから間違いない。生まれてすぐに母親に捨てられ、母乳の出ない祖母のおっぱいを吸って育った。初恋の女の子は自転車泥棒で、初体験の相手は車椅子の女性だった。初めて出来た彼女は変な宗教を信仰しているヤリマンで、とにかくエロかった。そして今、震度四強で揺れる大地の上で人生最愛の女にフラれている最中だ。部屋の窓から鋭角に差し込む朝の光を浴びた彼女が、ヤジロベエのようにゆらゆらと揺れている。

感想・レビュー・書評

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  • 濃い!濃い!恋!
    うっすい人生の自分には味わえなかった他人の人生をつまみ食いさせてくれる本です。
    読み終わってから全ての登場人物の幸せを願いたくなるような愛情に充ちている。
    「男はやせ我慢」とインタビューでおっしゃっていた気がするがやせ我慢でけっこうではないか、と思った。

  • 「死にたい夜にかぎって空にはたくさんの星が輝いている」って今まで読んだどんな日本語の文章よりも美しい気がして、ちょっと泣いてしまった

  • 母親に捨てられ、借金を抱えた父親からは鉄拳で育てられ、クラスで一番の美少女からは笑顔が虫の裏側みたいだと言われる。童貞を出会い系サイトで知り合った車いすの女性にささげたあとは次々と女性との関係を結んだり恋したり捨てられたり…どう考えても不幸でしょ。まったくもって不幸な人生だ、と思うのだけど、ここには全く暗くじめじめした不幸がない。なぜだろう。最低で最悪な人生を歩き続けているはずなのに、彼の人生には笑顔が見える。
    7年間同棲していた彼女から別れを切り出され、独りぼっちの生活に戻ってしまう、その日でさえ笑顔の彼がいる。うつ病で浮気性の彼女との7年間で何度も裏切られたり傷つけられたりしてるのに、なぜ笑顔で見送れるんだろう。あぁそうか、最低で最悪な人生の中でも小さな幸せを見つける術を彼は知っていたからか。その術を教えてくれたのが彼を通り過ぎて行った女たちなのね。なるほどね。彼と彼に関わったたくさんの女たちの幸せを祈りたくなる私も、なんだか笑顔になってしまう。不思議だ。何だか知らないけど元気が、笑顔がじわじわと生まれて来る。不思議だ。

  • 人生というものに質量があるとするなら、それは案外、拍子抜けするほど軽いものなのかも・・・そう思わされた作品。
    これはエッセイでありながら、人生訓でもあると思います。


    主人公(以下ツメ君)はお世辞にも幸福な人生を歩む男とはいえない人物。3歳になる少し前に母が家を出て行く、鉄拳制裁の親父、学校のマドンナに顔にダニたくさんいそうだと、”ダニ退治”の名目でビンタされ、挙げ句の果てに笑った顔がカナブンの裏側といわれたり、最愛の彼女アスカは心の病にかかり、断薬すると殺しに来る勢いで襲ってきたり、浮気したり、風呂にはいらなくなって激臭を漂わせるようになったり、借金してたり・・・

    「俺は不幸だ・・・」といっても誰も責めないような人生。
    でもツメ君は親父の『どんなに辛いことがあっても、その中に一つでも楽しさを見つけて笑え』という言葉を胸に(しまってるからなのかはわからないが)

    アスカが襲撃してくる度にスタンプポイントをため、たまったら自分にご褒美を買うようにしてみたり(それを自分のためでなくアスカに還元されるようにしたり)

    母親と違いちゃんと帰ってくるというただそれだけでアスカを許してしまったり(やるせなさは風俗で発散)

    借金を怒るどころか、唾を売る嫌な仕事を自ら行い、耐え抜いて借金の半分を返したアスカに対し感謝の念を抱き、ツメ君が肩代わりしたり・・・

    後書きにもあったが、どんなに辛いことがあっても『まぁいいか』で済ませるところは本当にすごいと思いました。なんなら首都圏あたりで俺が一番幸せとか思ってそうです(^0^;)

    何気に1番驚いたのは、あとがきのあとがきで、サラっと「最近こんな出来事あったんです」くらいのノリで30年ぶりに母親に再開したことをカミングアウトしたこと。その分量、わずか2文、100字足らず。『割と大きな出来事としては、作中に頻繁に登場した生き別れの母親と三十年振りに再会しました。あれだけ蓄積していた母親への恨みが一回の出会いで全て消えてしまうのだから、人生って面白いです』

    『うん、すごすぎる。苦しいことに鈍感なんだよね』
    『でも、それと同じくらい幸せにも鈍感だからダメなんだけどね』
    とアスカがツメ君に対して言っていますが、それが一番いいのかもしれないなぁ、と読み終わって思いました。


    自分が気付けた身の丈に合った幸せは素直に喜べばいいし、苦しいことがあったなら、楽しさを探してみる。それでだめなら、その苦しさを”大したこと”にしなければいい。

    幸せや不幸をあれこれ考え込むより、等身大の人生を、等身大に生きる。人生も恋も、そんなテキトウでいいのかもしれない・・・


    最高に無駄な恋が教えてくれる、最高に面白い人生訓でした。

  • ヒンドゥー教の苦行僧はサドゥーと呼ばれる
    サドゥーは苦行により人々のカルマを打ち払うとも

    「死にたい夜にかぎって」はまさに文学のサドゥーだ
    赤裸々に性遍歴を抉り出しながら、綴り、そして祓う。
    吐き出した伏線をすべて回収し最後に解脱し昇華する

    とてもここには書けない自らの深いカルマを思いおこし
    少しイビツなサドゥーに託す

    どうしようもなく情けなくって、
    あきれるほど正直で綺麗な文章

    焦がれるジリジリした気持ちが背中を炙る

    読んでいる途中で竹原ピストルが歌う
    「野狐禅/自殺志願者が線路に飛び込むスピードで」
    が聞きたくなった
    ♪ナメクジみたいに 君の体を這う毎日
    ゴキブリみたいに 夜を這う毎日

    ただ、生きていくだけ 
    シンプルなことを教えてくれる1冊

    「モグラは穴を掘って太陽を探している
     ときに地へたどり着くが
     太陽を見た途端、眼は光を失う」
    ※エルトポより

  • 自宅ソファーで読了。
    破滅的かと思えばそうでもなく、退廃的かと思えばそうでもなく。
    切なさがあり。

  • 六年間同棲したアスカさんとの思い出話と自身の生い立ちや父との関係、初体験、いくつもの恋を心地よく追体験できる名作。

    セックスやオナニー、風俗などの性にまつわる話、父親との不思議な関係、ひと時でも優しくしてくれた女の人たち、そして、アスカさん。すべてに愛情を感じた。しょうもないオナニーですら、回りまわってアスカさんへの愛だった、と感じるほどだ。
    様々な時期のことを面白おかしく書いているけど、実際は笑えない時間ばかりだったのではないかと思う。でも、アスカさんとの約束で笑える洒落みたいに書かれていた。愛だよな、やっぱり。

    嬉しいだろうな。昔からの夢が叶うことを、昔愛していた人に伝えるなんて。
    かっこいいな。愛した人にフラれて死にたくなっても、それでも生きて夢を叶えるなんて。

  • 中学の頃に読んだ音楽雑誌でミスチル桜井和寿が「『諦める』という言葉は『明らかにして、見極める』という意味が転じたもの」と語っていた。ゴルゴ松本の命の授業的な胡散臭さを感じなくもないのだが、僕は「なるほどな」と思ったものだった。ネガティブな意味ではなく「こんなもんだ」と見極めることで浮き上がってくるものが人生には存在する。愛すべき人たちや自分自身にちょっとくらい欠点があっても「まあいいか」と笑って許せばいいじゃないか。足りないものばかりを数えてたって始まらないのだ。

  • 著者のことを知るきっかけは、
    「ボクたちはみんな大人になれなかった」の燃え殻さんが本書について言及していたこと。

    その呟きと、タイトル、表紙の装丁だけで、良書に違いないと確信した。

    1/25発売の本書を手に入れたのがなんやかんや1/29。
    流通の壁を感じて悲しくなりましたが、このことについて綴ると無限に止まらなくなってしまいそうなので割愛。

    帰宅してamazon様からの荷物を開封し、一気読み。

    やはり、予感は的中した。


    書いてある内容・エピソードはお上品ではないが、
    著者の爪さんの生き様を感じることができ、熱が伝わってくる。

    薬師や渋谷の風景が浮かんでくる。

    登場する女性たちも、みんな魅力的に浮き上がる。

    序盤こそ、時折出てくる、「このフレーズとか文、おもしろいでしょ?」的な雰囲気にちょっと醒めるところもあった。
    が、途中からは爪さんとアスカさんとの物語にぐぐぐっと引き込まれて、それどころじゃなくなった。


    もちろん、万人向けではないと思う。
    というか、一部の(女性の)方々からは、
    「これだから男ってクソだわー」とか批判されると思う。

    いいんじゃないすかね、人それぞれで。と思う。

    ただ、僕は本書を いい!と思える人と友達になりたいし、
    飲みに行って、くそくだらねー話をし続けていきたい。

  • ひっそり追いかけていた爪切男さんの新刊。ずーっと楽しみにしていたので本当におめでたい!6年間共に暮らした元カノを中心に進む、関わった色んな女性にまつわるお話。折角なので最後は中野のスタバで読んだが、本からふと目を外すと、本当にいろんな人がいる。もしかしたら、それはアスカさんであり、南さんであり、赤毛ちゃんであるかもしれない。出会って別れたら忘れてしまうからこそ、本に残すのはとても素敵なことだよなぁと思う。最後はうるっときて「なんでうるうるしてるんだ、私は」と思ったりした。面白おかしい、どんな人にでも寄り添う優しい1冊でした。

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著者プロフィール

79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』が人気。14年、『夫のちんぽが入らない』の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』がそこそこ話題となる。15年に頒布したブログ本も、文学フリマではそこそこの行列を生んだ。現在、『日刊SPA!』で連載中。同連載を大幅に加筆修正したうえで改題した本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。

「2018年 『死にたい夜にかぎって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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