否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596550750

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  • ホロコースト否定者であるアーヴィングに、名誉毀損で訴えられたリップシュタット教授。
    無視することはアーヴィングの勝利に繋がり、多額の賠償金がかかってくることになる。
    実際にあった法廷闘争を、リップシュタット教授の視点からまとめた一冊。

    いやあ、長かったー。
    もちろん、より細かに答弁が記載されていたら、こんなもんではなかっただろうけど。

    あの大量虐殺は、在ったのか。
    という問題提起は、今日、あらゆる形に言い換えることが可能だ。
    その際に、我々が対峙するのはアーヴィングやナチス、ヒトラーではなく、今なお権勢を誇る「国」そのものであるかもしれない。

    この話の中で、アーヴィングの資料に対する歪曲が明らかになり、結果的に他のホロコースト否定者にも影響を及ぼすという結末を辿る。
    そもそも、アーヴィングはホロコーストを否定すると同時に、ユダヤ人に対する差別的意識もあって、その発言にまた傷付く人々が出てくる。
    語ることで、傷を与える。
    歴史家とは、そういった人の心とは距離のあるところにいるように感じていたが、そうではないのだと知った。

    反面、歴史的見解における挑戦の必要性も感じる。
    アーヴィングを支持するわけではなく、グレイ裁判官の「過激な意見を言う者の保護」にも、一つの意味があると思うからだ。

    面白いのは、アーヴィングを毛嫌いしているリップシュタット自身に、もしかしたら?という疑念が生まれる場面がある。(モチロン、ホロコーストの中核に関わる部分ではないけど)

    「アーヴィングは歪曲と捏造を重ねてきた人物なのに、わたしたちはふたりとも彼に翻弄され、ほんの一瞬ではあったが、アーヴィングの説を真剣に受けとめたのだ。」

    ランプトンの言う、目を合わせ続けると絆が生じる、という言葉は確かにそうなのかもしれない。

  • 1995年、ホロコーストへのヒトラー関与を否定する歴史家アーヴィングが、自分を批判する歴史学者を名誉棄損で起訴。訴えられたリップシュタットの側からの裁判回顧録。
    見どころは二点。一つは歴史的事実をめぐる解釈の争い、もう一つは法律家による弁論の駆け引き。文書史料から化学的分析、現地調査まで行って色々な証拠が提出される。本来論文上で展開するような戦いを、法廷という別の場で様々な登場人物が繰り広げる様子はエンターテインメントとしても純粋に興味深い。映画化されたそうだが、さもありなんと思う。
    ただ、もちろん面白がっていい事柄ではない。著者自身はホロコースト体験者ではないが、本書では行われた事実への怒りと痛みに繰り返し言及する。法廷での丁々発止に目を奪われ、単に「あったか無かったか」の問題であるかのように錯覚しそうになる読者は、その度に我に返ることになる。
    その象徴的なエピソードが、たとえば番号の入れ墨を著者に見せた生存者。あるいは裁判の経過を追う新聞記者が、エレベータで何体の死体を運べるか計算してみたくだり。「ぼくは電卓のキーを叩いた。一時間に運べるのは百五十体(…中略…)よかった、帳尻が合う。だけど、自分のしていることに気づいた瞬間、怒りのあまり、コンパートメントの奥へ電卓を放り投げそうになった」(p278)
    法で争われていたのはあくまでアーヴィングが嘘つきかどうかという点であり、その限りでは冷静でなければ戦えない。しかし否定されそうになった事実に痛みを感じなくなっては、それもまたある種の敗北となる。冷静なサイエンスとロジックで料理する視点、なまなましい血の通う視点。歴史に向き合う時にはその両方が必要なのかもしれない。
    この裁判からは既に20年が経過している。法廷で著者を応援したホロコースト生存者も、多くが亡くなっていることだろう。次に同じ裁判が起きたらその時は、どうなるだろうか。

  • ホロコーストは本当にあったことなのか?
    実際の真実はどうだったのか?
    実際に2000年イギリスの法廷で争った内容が
    この冬映画が日本でも上映されるということで
    とりあえずその前に本を読んでみようかと。
    すげー面白い!
    面白いというかなんというかリアルというか。
    原告はホロコースト否定の歴史家
    被告はホロコーストを学び教える大学教授&出版社
    裁判って一言で言っても
    プロフェッショナルチームがいたからこそ
    勝てた裁判なのかもしれないなーとか。
    歴史を嘘偽した者は許さない!
    ホロコースト生存者が傍聴席で
    見守る姿がすごい生々しい。
    1人のマダムがホロコーストで腕に入れられた
    収容所番号の入れ墨に対して
    「1945年以降、その入れ墨でいくら儲けたんです?」
    って。
    ひどい。ひどいよアーヴィング(原告の名前)
    これは映画も観ようと思う!

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2021年度第1回図書館企画展示
    「大学生に読んでほしい本」 第1弾!

     本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。
     小柳智一教授(日本語日本文学科)からのおすすめ図書を展示しています。
     展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

  • 身につまされる……。共感しながら読みました。映画もすごく良かったです。

  • ホロコーストがなかったという歴史家(?)とそれに意見したため被告となった著者の裁判記録。虚偽を虚偽でないと教えるのも言葉で、誤りを正すのもまた言葉。言葉の計り知れない重さを思う。

  • 海外でのユダヤ人襲撃事件が報じられ、なぜこんなことが未だに起こるんだろうと漠然とひっかかっていた中、偶然本屋で目についた本作。
    法廷闘争の中でのアーヴィングの言い逃れの数々やそれに対する裁判官の反応などが面白く、回顧録ではあるが小説のように楽しめる。法廷はあくまでもアーヴィングの歴史家としての態度を問うものであり、歴史そのものを問う場ではないというリップシュタットの信念にはなるほどと思わされた。

  • 【書誌情報】
    著者 デボラ・E・リップシュタット
    訳者 山本やよい
    ISBN 978-4-596-55075-0
    頁数 608頁 / 文庫判
    発行日 2017年11月20日
    定価 1,290円(税込)

    “ナチスによる大量虐殺を証明できるか──。歴史学者対ホロコースト否定者真実をかけた法廷闘争、緊迫の1779日!実際にあった世紀の裁判の回顧録。映画『否定と肯定』原作!歴史家には事実に対して独自の解釈をする権利があるが、その事実を故意に歪めて述べる権利はないことを、この映画が教えてくれるだろう。──デイヴィット・ヘアー(映画『否定と肯定』脚本家)”
       「まえがき」より

     「ナチスによる大量虐殺はなかった」。そう主張する、イギリス人歴史家アーヴィング。彼を“史実を歪曲したホロコースト否定者”と断じたユダヤ人歴史学者リップシュタットは、反対に名誉毀損で訴えられる。裁判に勝つには、ホロコーストが事実だと法廷で証明するしかない。だが予想に反し、アーヴィングの主張は世間の関心を集めていく──。実際にあった世紀の法廷闘争の回顧録。
    映画原作! 
    https://www.harpercollins.co.jp/hc/books/detail/11173


    【簡易目次】
    第1部 前奏曲
    私生活と学究生活のオデッセイ
    弁護方針
    アウシュヴィッツ 
    科学捜査の旅
    ほか

    第2部 裁判 
    “全員起立!"
    証言台のアーヴィング 否定者ではなく犠牲者
    一連の文書
    ほか

    第3部 余波 
    判決の日
    鳴り続ける電話、詩篇、眠れぬ生存者たち
    山のような感謝の言葉
    道化の衣装
    ほか

  • なかにし礼さんの本で紹介されていたのを読んでこの本のことを知りました。なかにし礼さんが大興奮で書かれていたとおり、すごくおもしろかった。
    すべてのページが実話ならではの驚きに満ちた本でした。

    裁判のゆくえ、判決がどう出るか、という、大筋が興味深かったのはもちろんですが、それ以外にも、非常に考えさせられた点がいくつも。

    最初にああそうなのか、と驚いたというか、腑に落ちたのは、第二次世界大戦時の状況に対する思いがユダヤの人々と日本人とはまったく違うということ。いや、考えれば当たり前なんだけれど、私には目からウロコだった。

    ホロコーストで多くのユダヤ人が犠牲となった、という事実が、ユダヤ人の間では「助けられた命があったかもしれないのに助けることができず、ただ殺されてしまった」という悲しく辛い悔恨のような思いになっていて、それが「今度はもう、ぼうっと突っ立ってるようなことはしない」「黙って殺されたりはしない」という固い決意になっていることをプロローグ部分を読んでひしひしと感じた。(だから好戦的だ、ということではないです、念のため)
    日本人の私はというと、「侵略戦争のような間違いを二度と起こさない」「二度と戦わない」という考え方をひたすら繰り返し聞かされて大きくなったので、その立場の違いからくる教訓の違いに今さらびっくりした。
    憲法第九条をノーベル平和賞に、とかいう考えを初めて聞いたとき、ものすごく違和感があって、でもその違和感をうまく言葉にできなかったのだけれど、その理由がこのへんにありそうとも思う。なんというか、自分たちの反省の念や決意を国の大切な理念として掲げるのはいいんだけれど、それをまるで自分たちが平和の象徴であるかのように「いいでしょ?この考え」と言って誇らしげにするのは被害を被った側から見るといかがなものか、という気がしたのかも?

    また、ところどころで見えるイギリスの文化についての描写も非常におもしろかった。
    「英国の正義はいささかまわりくどく、感情によって動くものではありません。神の臼と同じく、回転はのろいけれど、ときにはきわめて細かい粉を挽くことができます 」と最後の方で書かれていたとおり、感情論を極めて排除し、理性的に、客観的に物事を判断しようとする姿勢、それらが評価されるシステムには、激しく心ときめいた。
    著者は、グレイ裁判官が時にアーヴィングの馬鹿げた説にも真摯に耳を傾けている様子に非常にやきもきさせられていたけれど、私は逆に、意識してそうしているのだと感じて感銘を受けた。
    先入観を徹底的に排除して公平に判決を下そうとする態度をとることは、判決後に「あの判事は最初から先入観があった」などという誹謗を受けないために非常に重要だと思う。特にエヴァンズの報告書に先入観の危険性があると指摘するあたり(P378 )は圧倒された。
    すごいな、こういう人がイギリスの裁判官なのか、と感動した。
    ちょうど、砂川事件の最高裁長官のスキャンダルに関するドキュメンタリーを見て、日本の司法が簡単に権力に籠絡されてしまったこの事件にかなりガッカリしたところだったから、よけいにこのプロフェッショナルな姿勢に感動した。まあ、砂川事件はこの件とは時代も論点も違うし全然関係ないんだけど。

    プロフェッショナルと言えば、著者側についた弁護側チームのプロ意識にもひどく感動した。「アーヴィングとの戦いは、通りで踏みつけた糞のようなものだ」っていう言い草! 素敵すぎる。
    相手の挑発的な言動に感情を乱されて同じレベルに落ちてはいけないとする抑制のきいた大人な態度。すぐ人の言うことに振り回される私には大いに学ぶところがあります。ええ。本当に。

    この本は「アメリカ人によるイギリス文化観察日記」的な側面もあって、そこもおもしろかった。著者のリップシュタットがこれまたアメリカ人らしいアメリカ人で(口が達者で、感情がストレート)、その違いがところどころに表れていて、おかしかった。

    この裁判では、名誉棄損の立証責任が原告にあるのか被告にあるのかが、アメリカとイギリスでは逆になっている、ということがひとつの重要ポイントになっているのだけれど、私が深く愛する海外ドラマ「グッドワイフ」のシーズン3にも、この点に着目したエピソードがあって、すごくおもしろかったのを思い出した。
    ドラマでは、TV会議システムを使ってイギリスの法廷につないで裁判を行っていて、かつらや法廷用語などイギリス独特の作法がおもしろおかしく描かれていたが、この本にもそうしたことが印象的に述べられている。あのドラマのエピソードは実はこの本がアイデア元だったんじゃないだろうか、なんて思ってしまった。
    いずれにせよ、イギリスって、ほんとおもしろい国だなぁ、とつくづく思う。

    海外ドラマと言えば、第二次大戦を描いた別のドラマ「バンド・オブ・ブラザース」終盤に、強制収容所を発見するシーンが出てくる。某大手ショッピングサイトのビデオ配信サービスでもこのドラマは視聴可能で、実際に私も見てそのシーンにはひどく心揺さぶられたのだけれど、見終わった後でそのサイトの視聴コメント欄を見ていたら、アーヴィングと全く同じ主張を繰り広げているコメント(ホロコーストの事実を疑うような記述、ガス室は消毒施設だったかも、ヒトラーにも功績がある、等)を書き込んでいる人がいて、正直驚いた。
    アーヴィングたちの広報努力の結果?をこうして身近なところで目の当たりにしちゃうと、この裁判での戦いは非常に意味があるものにも思えるし、かつ著者が言うように、究極の勝利ではないのだな、とも思う。
    映画化の脚本をつとめたデイヴィッド・ヘアが最初のまえがきで言っている、「ポスト真実(トゥルース)の時代」とはこういうことを意味するんだな、とうすら寒くも思った。

  • 社会

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