- Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
- / ISBN・EAN: 9784596550828
感想・レビュー・書評
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ドン・ウィンズロウ『ダ・フォース 下』ハーパーBOOKS。
これは非常に面白い作品。
下巻。窮地に陥ったデニー・マローンの運命や如何に…破滅の結末は上巻の冒頭で既に見えているのだが、FBIのネズミに成り下がり、少しずつ泥濘に嵌まっていくデニー・マローンの物語から目を反らすことが出来ない。
通称『ダ・フォース』、麻薬や銃犯罪を取り締まるマンハッタン・ノース特捜部を率いるデニー・マローンだったが、FBIの汚職警官捜査の渦に巻き込まれ、踏み出すべきではない一歩を踏み出したことから破滅への道程が始まる…
正義の側にあるはずの警察の腐敗はギャングやマフィア以上に進んでいたという皮肉。金と権力が進むべき道を見誤らせるのだろう。
リドリー・スコット製作で映画化されるようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ダーティーな刑事が、裏切者の枠の中でもがき踏み止まろうとするストーリー。ミステリ要素はほとんどない。彼らは汚職で手にした金で贅沢するのではなく、子供たちをいい大学に通わせるための資金にしようとするなど、あくまで目的は現実的。少し前に見た海外ドラマ『シェイズ・オブ・ブルー』を連想してしまう。下巻に入った辺りから徐々に歯車が動き出す。
そこで描かれるのは、腐敗の底なし沼と圧倒的なリアリズム。マローンが目指すところは、ニューヨークの犯罪組織を根こそぎ撲滅することではなく、犯罪組織を管理し現状を維持すること。このスタンスに現場の警察官のハードさがよく表れているように、作者の刑事に対する共感や敬意が本作品の根底にある。巻頭に列挙された殉職警察官のリストは印象的。
帯には”犬の力 ザ・カルテル すべてはこの作品のプロローグに過ぎなかった!”とあるが、それは過大評価。スケール、熱量、どれをとっても二作品の方が上回っている。マローンのキャラにしても途中から「刑事の王」に見えなくなってきたし、ツッコミたくなるシーンもちらほらあったかな。
ジャンルとしてはノワールでしょう。これを「警察小説」とすると、汚職刑事を肯定するようでイヤなので、個人的には犯罪小説として読んでほしいです。 -
こういうのを力業って言うんだろうなあ。主人公は、賄賂を贈り受け取り、押収薬物をかすめ取り、私刑をためらわずに殺人まで犯す悪徳警官。おまけにこいつは街の「キング」を自認する、ヒーロー気取りが鼻について仕方がないヤツなのだ。まあウインズロウなので、お話は面白く、上巻は我慢してつきあってやるかという気持ちだったのだが、あーら不思議、下巻の途中からはいつのまにか、このマローンに肩入れしてハラハラしながら読んでいるではないか。
およそ共感を呼ぶタイプとは言えないこういう主人公を造型し、最終的には感動的なラストへ持って行くというこの離れ業。ウインズロウの凄さをあらためて見せつけられた気がした。むせかえるような熱気がページから立ちのぼり、特に終盤の迫力は圧倒的だ。「本の雑誌」の新刊ガイドで「あまりのかっこよさに身もだえ必至の血みどろ外道ポリス・アクション・ノワールの傑作」と紹介されているが、確かにそうだろうと思う。
しかし、これを「かっこいい」と言い切るのは、私は抵抗がある。読みながらまるでヤクザやマフィアものみたいだなあと思ったが、それらと決定的に違うのは、マローンが権力の側にいることだ。現場はもとより、警察上層部や行政幹部、果ては司法に携わる者にまで深く腐敗ははびこり、何が正義かわからない混沌とした状況の中、自分の体を張って少しでも害悪を取り除こうとしたマローンの生き方には心を揺さぶられるものがある。それでも、悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。
もちろんウインズロウは単純な暴力礼賛を書いているのではなくて(当然だけど)、どうしようもなくそこに向かって一歩一歩進んで行ってしまう、人間の苦悩を描いている。そこに人を惹きつける力があると思う。それでもやはり私は、同じ米国警察小説で言えば、コナリーの書くボッシュが好きだ。1対1の状況でシリアルキラーを追い詰めながら、ボッシュは引き金をひけなかった。そいつが当然償うべき罪から逃れるかもしれないとわかっていたのに。そのことで苦しみつつ、「自分が戦う相手と同じものになる」ことを拒む姿を断固支持するのだ。-
>悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。
すごく共感します。警察なのに……っていうのがまたあって。葛藤...>悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。
すごく共感します。警察なのに……っていうのがまたあって。葛藤が詩的にかっこよく描いていても、でも目的の一部にわが子の大学費用も入ってるじゃん、とか思ったりして。そのせいかもうひとつノレませんでした。「犬の力」とか「カルテル」とかほんとにマフィアとかなら心情的に許せる(といっていいのかわからないですが)んですけど。
ボッシュとの比較もわかります! 最近コナリー読んでなかったんですが読みたくなりました。
2018/05/14 -
わーい、niwatokoさん、コメントありがとうございます!お久しぶりです、って言ってもレビューはしょっちゅう見てるんですけど。
>マ...わーい、niwatokoさん、コメントありがとうございます!お久しぶりです、って言ってもレビューはしょっちゅう見てるんですけど。
>マフィアとかなら心情的に許せる
そうそう!そうなんですよねえ、どういうわけか。ここのレビューで、これは「警察小説」ではなくて「犯罪小説」だと書いている方がいて、その通りだと思いました。そう思って読めば違う受け取り方ができたかも。
「犬の力」「カルテル」に続く新作も出るそうですね。何やかや言いながら、やっぱり読むと思います。ボッシュシリーズも早く出ないかなあ。2018/05/14
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人種差別による暴動が小説の中で起こり、現実にアメリカで暴動が発生し、ちょっとこのシンクロ感は不思議な感じがした。
報道されている内容に捕捉するようにこの小説の内容が思い浮かぶ。
警察にも殉職者は多くいて、白人以外の人種もいて、街にはドラッグと銃があふれ。
この物語からは、緊迫した世界でギリギリの精神状態のまま毎日をやりくりする人物が見事に描かれている。 -
面白かった。
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下巻は読むのが辛くなってくる場面が続く。しかし、これが現実だ。最後のシーンはため息しかない。
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重厚が半端ない上巻に比べ下巻は、マローンの進退がきになってほぼ一気読み。
ニュヨークを愛し警官という仕事を愛し、一緒に働く仲間を家族を愛している、悪徳ヒーロー警官マローン。
綺麗事では済まさせない腐敗しきった現実を生き抜く汚職警官マローン。巷には正義など何処にも無く、誰もが権力や富を欲しがり、そして悪に落ち犯罪に手を染める。それでも…人種差別、ドラック、銃、ドアの向こうには死が待っているかもしれない町で、身体を張り住民を守る警察官一人一人への敬意が感じられる。