繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 クレイトン・M・クリステンセン

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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596551450

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  • イノベーション論の大家による、貧困を抱えた国々に対する経済的援助の多くが陥る失敗を避け、持続的な繁栄をもたらすためには、インフラや法制度の整備よりも市場創造型のイノベーションが先決であることを説いた一冊。

    著者によれば、経済的貧困とは人々が「解決すべきこと(ジョブ)」があるのに入手可能なサービスやプロダクトが存在しない「無消費経済」(=可能性)であり、そこにソリューションをもたらすビジネスが新たな市場を作り、利益や雇用が生まれ、更なる事業拡大のために必要なインフラや法制度が整備されることによって、社会全体に持続可能な繁栄をもたらすシステムが構築されるという。

    今日の先進国においても、インフラが先にあったわけではない。著者はフォードによる自動車のイノベーションが米国の道路整備や郊外の開発を導いたことなどを例示しつつ、貧困地域の実態を無視した西欧型のインフラの押付けではなく、地域に根差したイノベーションを呼び水にしたインフラ開発の重要性を主張する。著者がこれまで積み上げてきたイノベーション理論を土台に、単なる経営論の枠組みを超えて、より良い社会のために我々ができることは何かを問う良書。

  • 持続的イノベーション(既存のものの改良)
    効率化イノベーション
    市場創造型イノベーション(無消費にチャンスを見出す、不便、苦痛、プッシュでなくプル、だからODAは成功しない、インフラ構築から始めたインドのトララム・ヌードルの大成功)、

    ドラッガーだな

  • おもしろかった。
    序盤は、まぁよくある、どうやったらイノベーションを生み出せるのかと、各国の事例。日本や韓国、アメリカのうまくいった例と、メキシコなどの失敗談が乗ってる。
    中盤8章からの腐敗、ガバナンスなどの話がおもしろい。
    「海賊版を入手する行為は、相対的に高価で時間がかかりすぎた。ある時点から、スポティファイやネットフリックスに申し込むほうが安くなり、デジタル資産を個人的に所有する習慣はしだいに消えていった。」
    無消費市場の需要を満たすビジネスをスケールさせることが一番で、規制は文化。実体経済についてくるもので汚職の法規制などは形骸化しがち。

    ー以下引用ーー
    本書では、繁栄を「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」と定義した。
    持続型イノベーションは値上げや利幅の拡大を伴うことが多い。自動車の暖房シートはメーカーが車の値段を上げたい場合に有効なオプションだが、ターゲットは既存ユーザーである。
    効率化イノベーションは、名前からも想像のつくとおり、企業がより少ない資源でより多くのことをおこなえるようにするイノベーションである。つまり、基本のビジネスモデルやそのプロダクトがターゲットにする顧客は同じままで、企業が既存の資源および新たに獲得した資源をぎりぎりまで活用できるようにするのだ。
    市場創造型イノベーションは、値段が高く複雑なプロダクトを、多くの人が買える手ごろな価格に下げ、多くの人が購入して使用できる入手性の高いプロダクトに変換する。
    新市場が成功すると、プロダクト/サービスが何であれ、そこには3つの成果物が伴う。「利益」と「雇用」、そして3つのなかで最も把握しにくいがおそらく最も強い影響力をもつ「文化的変容」である。
    市場創造型イノベーションは、社会の大勢の人が入手できるようにプロダクト/サービスを大衆化するだけでなく、新市場の成功がもたらす恩恵も大衆化する。
    イノベーションがうまくいくかどうかわからないのは、顧客が過去におこなったことをもとに未来を予測するデータに頼っているからだ。しかもそのデータには根本的な何かが欠けている。人がなぜその選択をしたのかを説明せず、顧客が将来どのような行動をするかを必ずしも予測するわけではない。そのうえ、人が商品やサービスを買わないこと──無消費──を選択した理由も把握できていないのだ。
    人は、満足のいかない方法でジョブを解決するプロダクト/サービスを「雇用」するよりは、それなしで、つまり無消費者のままでやりすごしがちだ。
    ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンが示したように、古いものが魅力的なのは、頭を使って考える必要がなく、解決策として一定の効用のあることが直観的にわかっているからである。人には損失回避という心理性向があり、「損をしたくない」気持ちのほうが「得をしたい」気持ちよりも 2倍強いことを、 1979年にカーネマンとエイモス・トベルスキーが明らかにした(
    アメリカだけでも、医療費関連の国の支出 2・ 7兆ドルのうち 80%以上が慢性病の治療に費やされている( 5)。
    メキシコで効率化イノベーションが主流であることを示す最も顕著な例は、「マキラドーラ」の普及だ。マキラドーラとは、工場があるプロダクトを製造して輸出する場合、製造に用いる原材料や部品を無関税で輸入できる制度を指す(
    イノベーションとは最先端技術を駆使した解決策だけを指すのではない。「組織が労働、資本、原料、情報をより高価値のプロダクト/サービスのかたちに転換するためのプロセスにおける変化」のなかにイノベーションは存在する。必ずしもハイテクである必要はない。

    第8章 イノベーションと制度の関係
    自由主義を進もうとする国家は、市場経済のための制度的な構造を積極的につくり出し、経済活動の根底にある特定の権利、資格、責任を再定義しなければならないだろう。──ウィリアム・ロイ、〝 Socializing Capital: The Rise of The Large Industrial Corporation in America〟(資本の社会化──アメリカの大規模企業の台頭)
    法が尊重されず、制度が欠如した状態は、貧困国をむしばむ疫病である( 1)。
    たんに規則や規制を並べるだけでは制度は機能しない。制度は地域の習慣や文化と密接にかかわり、制度の心臓部は人の価値観を反映しているからだ。だからこそ、制度はその地域で育まれなければならない。
    押しつけられた制度の多くは、透明性を向上させず、効率的でもない。逆に、意図しないままに社会的な混乱や汚職を引き起こすことすらある。  制度は社会を創造するのではなく、社会の価値を反映したものである。
    文化とは、共通の目標に向かって協働する方法であって、人々が他の方法で物事をおこなおうとは考えもしないほど非常に頻繁に、かつ非常に首尾よく踏襲されてきたものである。ひとたび文化が形成されると、人は成功するために必要なことを自律的におこなうようになる( 10)。
    制度は文化、すなわち時間をかけて体系化されてきた行動パターンを反映したものだ。
    経済の成長にとって、組織や社会が与える報酬とそれらの科すペナルティは大きな意味をもつ。

    第9章 なぜ腐敗は「雇用」されつづけるのか
    社会がその構成員に、進歩するための合法的な選択肢をほとんど提供できていないとき、腐敗は相対的に魅力のある選択肢となる。
    法律を順守することで得られる利益と、順守しないことによって被る不利益とを天秤にかける。不利益が小さいのなら、たとえ社会の利益には反したとしても、当人にとっては法に従うことが不合理となる。
    腐敗の第一段階では、とくに国自体が貧しいとき、新しい法を軸にした腐敗撲滅の施策は充分な効果を上げられない。
    腐敗とは、その時点で利用できる選択肢のうち、最も手っ取り早いものを「雇用」した結果なのである。
    進歩を遂げるための選択肢がなければ、汚職に手を出すことが魅力的に見えてしまうことがある。しかし、ほかにいい選択肢があれば、透明性へとつながるプロセスが始まる。
    第二の提案は、腐敗の発生する余地を小さくするために、業務の統合と内部化をつうじ、コントロールできるものにコントロールを集中させること
    シャンは性善説に基づく倫理教育だけでは終わらせなかった。自分たちの組織がもっとまとまらなければいけないと考え、汚職の申し立てと報告を処理する政府担当部門を設立し、従業員が政府関係者から賄賂を要求されるたびにその部門へ報告するように義務づけた。その報告は、ロシャンからアフガニスタンの大臣ら最上層部、援助団体や報道機関にもわたった。今日、同社はアフガニスタンの希望の象徴であり、国全体の資産だと認識されている。
    海賊版を入手する行為は、相対的に高価で時間がかかりすぎた。ある時点から、スポティファイやネットフリックスに申し込むほうが安くなり、デジタル資産を個人的に所有する習慣はしだいに消えていった。

    第10章 インフラのジレンマ
    インフラを別の視点から、より本質に沿って定義し直すと、「社会が価値を保管あるいは分配するための、最も効率的なメカニズム」
    ケニアの抱えていた問題は、鉄道(インフラ)がなかったことではなく、鉄道が運ぶ価値(イノベーション)がないことだった
    10億ドル以上の大規模プロジェクトとそのリスクを広範に調査したデンマーク人エコノミスト、ベント・フライフヨルグは、 10個中 9個のプロジェクトで遅延が発生し、予算超過を起こし、計画段階の成果の見通しを下回っていると指摘する。フライフヨルグが引用している事例や研究のほとんどは、大規模プロジェクトの管理に必要な制度、技術、運営能力が低い最貧国のものではない。最も裕福な国々での事例なのだ( 17)。
    今日、世界中で実行されている開発プロジェクトの多くに、プロジェクトのレベルと現地の能力が合致していない例がよく見られる

  • イノベーションにも3類型があり、その中で経済成長に貢献するのは市場創造型イノベーションであると力説している。

  • 持続する繁栄は無消費をターゲットとした市場創造による。インフラの価値は分配できる価値の量。「学校を建てることが教育ではない」色々置換可能で耳が痛い。

    内容メモ:
    ・無消費をターゲットとした市場創造型のイノベーションが必要なインフラをpullし持続する繁栄を生み出す
    ・豊かになったからといって社会/個人の問題をすべて解決できるわけではない、人生の価値を高めてくれるものは含まれていない
    ・インフラの価値はどれだけの価値を分配できるか、学校を建てることが教育ではない、大学に行っても就職できなければ価値がない
    ・最も成功している制度は文化から派生するものであって、制度が文化をつくるわけではない
    ・手続きは道徳の道具ではない。経済の道具である。何をすべきかを手続きが決定することはなく、ただ、より早くおこなう方法のみを決定する
    ・腐敗とは、実用上、他の方法より少しはましな対処策
    ・世界は機会であふれている。様々な視点で世界を見て新しい市場創造の機会を見つける

  • ・toppointで読む
    ・貧困市場を強いニーズがある機会と見なす

  • インフラ援助をして、完工式でテープカットの記念写真を撮る。でも、インフラは維持運用されない。なぜか? イノベーションの役割を考えさせてくれる。病魔を何度も克服されたクリステンセン教授が、六十歳台の若さで亡くなられた事が、残念でならない。

  • 貧困地域に非営利組織が設置した井戸5個の内、現在でも動いてるのは1つしかない。足りない物を支援する。それは貧困の緩和であり、繁栄には繋がらない。しかし、その反面、貧困から抜け出して繁栄している国々は存在する。この2つの違いは何なのか。
    答えは貧困国にインフラと雇用と新しい文化をもたらす「市場創造型イノベーション」です。
    それは無消費の中に苦痛を見出し、それを解消しようとすることによって生まれます。
    そうやって成功した「トララム」というインスタント麺を製造する企業があります。その企業はナイジェリアに10万以上の雇用を生み、インフラ構築、教育機関の設立、港建設に15億ドルの投資などを行って、繁栄に多大なる貢献をしてきています。
    他にも、フォードやコダック、ソニーを例に挙げて繁栄をもたらすイノベーションに共通する要素を分析しています。貧困とは、繁栄とは何か。という問いに対してイノベーションという視点から解決策を講じているので興味深く、読み応えのある本でした。

  • 貧困国に、教育や医療などを改善するために資金をいくら投じても、その国の長期的な繁栄にはつながらない —— 。この「繁栄のパラドクス」を脱し、貧しい地域を持続的に発展させる新しいイノベーション手法を、イノベーションの大家クレイトン・クリステンセン教授らが説く。

    第1部 市場創造型イノベーションのパワー
     第1章 繁栄のパラドクスとは
     第2章 イノベーションの種類
     第3章 苦痛に潜む機会
     第4章 プル対プッシュ――2つの戦略
    第2部 イノベーションと社会の繁栄
     第5章 アメリカを変えたイノベーション物語
     第6章 アジアの繁栄
     第7章 メキシコに見る効率化イノベーションの罠
    第3部 障壁を乗り越える
     第8章 イノベーションと制度の関係
     第9章 なぜ腐敗は「雇用」されつづけるのか
     第10章 インフラのジレンマ
    第4部 イノベーションにできること
     第11章 繁栄のパラドクスから繁栄のプロセスへ
    巻末付記 新しいレンズで見る世界

  • 根底に「イノベーションのジレンマ」、「ジョブ理論」を備えた本書で語られる繁栄のパラドクス。

    外挿される支援は一時的なものであり、継続的な発展には内発的なイノベーションが必要であること。
    ある場所でうまくいったイノベーションをそのままの形で間借りしてもうまくいかないこと。
    一見、そこに市場がないように思える無消費にこそイノベーションの萌芽があること。
    プッシュではなくプルで戦略を講じていくべきであること。

    これまでの著作から引用され反復されるテーマが、(主に途上国の)繁栄という大きな命題の中でより深い意義を持っている。

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