少年は世界をのみこむ

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  • ハーパーコリンズ・ジャパン (2021年2月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784596552136

感想・レビュー・書評

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  • 日本語への翻訳作品が少ないオーストラリアの小説に興味があり。1980年代のブリスベンに住む兄弟を主人公にした青春冒険小説。
    現実の街を舞台にしつつ、アドベンチャー、ファンタジー要素がたっぷりあって、青年向け小説といった感じ。
    短い章の連なりなので、章が変わるたびに話の筋を飲み込むのに力が必要で、読むのに時間がかかってしまった。
    現代オーストラリアの文化に少し触れられた気がした。

  •  スケールの大きなタイトルだ。何せオーストラリア発のベストセラー作品、満を持して、華やかに登場! ページを開くと、すぐさま感じられるのは、高密度な文章による作風。物語力の高度さ。少し取っつきにくいくらいの言葉の奔流。それに何と言ってもイメージの横溢。これこそ少年の感性そのものかもしれない。それを大人になって完成された文章力が過去への旅程を辿り掬い上げたものなのかも。

     物語の牽引力は半端じゃない。少年イーライの育つオーストラリアはブリスベン郊外の田舎町。少年と親しい老人は、殺人の罪で獄中で生涯を過ごした脱獄王スリム。60歳も歳の差がある老人が少年に教えるのは人生の知恵と夢。

     少年の兄オーガストは5歳の頃から口をきかなくなり、空中に指で文字を描く。描かれた唐突な文字の予言に満ちた不可思議さは、小説後半への伏線となるので要チェック! 伏線は他にいくつも。隠された赤い電話。獄中の囚人にイーライが書き送る手紙。記者になる夢。麻薬密売に手を染める義父と母。彼らを取り巻く麻薬組織の悪のあまりの暗黒さ。

     最初のイメージは夢多き少年の冒険小説。ファンタジー・ランドみたいに見える作品世界は、大人たちの経済の論理で崩れてゆく。暴力と血と奸計とが、少年の周囲にある平和をこれ以上ないほどに搔き乱す。イーライにも試練が訪れる。いろいろなものを一気に失ってしまう衝撃的な時間。

     その後の第二幕は、失われた平和の跡みたいな、アル中で壊れた父との暮らし。そんな中でもさらに成長を続ける兄弟の物語。新たな未来に向けた少年のあくなき想像力と、たくましさを見よ。

     世界の美しさ。そして残酷さ。消えていった謎。さらに深まる伏線の数々。独特な語りと描写に引きずり込まれる。物語力ということの凄みさえ感じられるのが本書の中盤だろう。

     そして終盤。十代最後に近づき、夢であったジャーナリストの道を踏み出したイーライが、世界と本格的に格闘する物語。ばら撒かれてきた伏線と仕掛けが一気に花火のように爆発する時。こういう物語か? と俄かに信じがたいほどに、懸崖を墜落するが如く様相を急変させるこの不思議な小説。プリズムのように絶え間なく色を変える正体のわからない物語と少年の未来。

     ずっと家族の物語。ずっと夢の物語。ずっと冒険の物語。作者は自分自身、実際にジャーナリストを夢見た少年のモデルであったそうである。脱獄王スリムも、麻薬密売で連れ去られた義理の父親の運命も、本当の父親の本の虫ぶりも、物語の半分は少なくとも作者自身の体験からの物語ということである。

     現在の作者を作り出したすべてのエネルギーは、本書の少年イーライに込められているだろう。この作品に注がれた作家の情念は半端ではない。

     ちなみに本書のタイトル、各章の小タイトル、共にすべて、三語だけで成り立っている。それにはわけがある。他のあらゆる精緻な伏線もあちこちに仕掛けられている。鳥肌が立つほどの準備の多さに恐れ入ってしまう。まるでおもちゃ箱。仕掛け屋敷。

     ちなみにいくつかのシーンでイーライは窮地に陥る。そういう時、過去から差し伸べられる救いの手には、感動のあまり胸が詰まることがある。あれはこの時のため? 仕掛けの多さに驚きを禁じ得ないし、そこには人間の深い魂同士が繋がっている様が感じられる。心から情感を揺さぶられる物語。

     本書の今後の評価が実に楽しみな傑作である。どなたにも心よりお薦めしたい掛け値なしの傑作である。

  • 「2019年オーストラリアで最も売れた」と知り、オーストラリアに行く予定があったため気になって買った本。2023年の夏に買い、最初の方だけ読んでなかなか世界に入れず挫折し、1年後の今ようやく読了。(一気読み!タイミングってあるなぁと思う。)

    犯罪がはびこる郊外に暮らす少年が数々の悲劇に見舞われながらも、両親や兄、親友...との間にある単純ではない(でもささやかで幸福な)「愛」と向き合いながら新聞記者を目指して冒険し、成長する話。
    長い話の中に伏線が散りばめられていて、後半で怒涛の回収ラッシュがきて、すっきり!

    主人公の唯一の親友は60個上の元脱獄犯だし、麻薬の取引や暴力など私にとっては非日常的で衝撃的な場面が多いけど、登場するキャラクターの多くに親近感をもった。
    脱獄犯は実在した人で、話の半分は著者の実体験ということにも驚き。

    善良と邪悪、特別とへんてこの境界はどこにあるのか、その解釈について、誰が決めるのか、、答えはあるのか、、考えさせられる。

    この話がとっても長くなっている訳は、少年の目を通して見える「世界」の詳細(「ディテール」)がこれでもかというぐらい事細かに描写されているから。
    比喩表現、色彩表現が本当に巧みで、映像を見ているようだった。(訳者の池田真紀子さん、あっぱれ!いつか原文にも触れたい。)
    「言葉が世界を切り取る」というような考え方があるけれど、この物語と文章表現を通して、想像や観察を言葉にすることで広がる世界、人生の可能性を教えてもらった気がする。
    本文に「言葉は“なか"に似合わない。どんなときも外にあったほうがいい。(p.10)」とあるように。

    他、「『そばにいなかろうと、誰かを支えることはできる。』(p.99)」、「時間を殺れ。時間に殺られる前に。(p.107)」など親友のスリムが持つ、主人公を突き動かし続ける哲学が好き。

    あとは王立ブリスベン病院のブレナン先生、アレックス、ケイトリン・スパイズの人柄に魅了された。

    楽しい読書時間だった!
    ネトフリで映像化されてるみたいだから、もう少し本の余韻に浸ってから、見てみようかな。









  • 少年イーライとそれを取り囲む人達とのヒューマン物語。
    事実に基づいた話だけに、キャラクターの個性とさり気無い言葉に人間性をとても感じる。
    少年イーライは周りの噂や言葉に惑わされることなく、自分が接している人達を信じ突き進む。
    たとえ過酷な経験だろうと、立ち止まらない性格は危なかしくもあり、破天荒であり、犯罪と薬物が蔓延る街に彼なりの色彩を作り出す。
    師の言葉のディテールを追い求め、少年の新聞記者の夢を志す姿はたくましい。
    希望を信じれば、悪い状況からでも立て直せると、少し勇気を貰える文学的作品。

  • 「少年は世界をのみこむ Boy Swallows Universe」
    日本語訳で600ページ近くあるにもかかわらず、三語で表された各章はスムーズでリズムがある。しかも描写は細かく比喩も豊かで、流して読むには少々もったいないほど。

    物語は12歳の男の子イーライの目線で描かれる。
    犯罪の匂いのする親を持つ主人公が次々と襲い掛かる境遇に対し、必死に抗いながら成長していく。
    日本の小説にある普通の少年期の成長物語に比べ、とてつもないスケールの展開であるところにオーストラリアを感じる。

    登場人物の中では、主人公イーライはもちろん、ある事故から言葉を話さなくなったのち、空に指で文字を書く不思議な兄オーガストの存在が物語を神秘的に彩る。
    そして、伝説の脱獄王スリム(二人のベビーシッター)、この人がとてもいい。
    「ディテールだ、ディテールを頭の中に叩き込め」
    「時間は操ることができる」
    「時間を殺れ、殺られる前に」

    ミステリー形式ではあるが、すべてを明らかにしようとするのではなく、少年期から青年期への成長とともに“いつのまにか失くしていくもの”など、柔らかく包み込むようにして描写している。

    スティーヴン・キングの少年物とはまた一味違った面白さがここにある。

  • おもしろい。最初から面白い。そして話が進むほど面白くなる。最後までだ。
    少年はディティールを見ることが、記憶することが得意。そして話し、書く。手紙を見知らぬ囚人にも。

    この物語が惹きつけるのは少年が正直だから、誠実だからだと思う。

    ベビーシッターの年上の友達に言われる、
    ”みんなの物語を語るのはやめて、たまには自分の物語を語れ”
    これは事実上の別れのシーンだが、このあとも、刑務所の母親に会いに行くシーン、裏切者と対決するシーン、宿敵と対決するシーンとどれも切実だが少年の誠実な思いが根底にあり、応援せずにはいられない。

    貧困、酒、ドラッグ、暴力、すさんだ環境でも、微妙に少年はその道からそれる、それはベビーシッターで年上の友達と冷静な兄がいたから。

    ミステリアスな兄のミステリアスな理由は最後までわからなかったがそれでいいと思う。何もかもわかる物語より。
    この物語に完璧な人間など登場しない。

    ローリングストーンズの、ルビー・チュースデーという曲が名曲であるということも知る。

    章のタイトルが、すべて英単語で3語で、途中でなぜ3語なのかもわかる、腑に落ちる。

    オーストラリアが舞台というのも新鮮だった。

    あー素敵な本だった。

  • 600ページ近い長編。解説を読んで知ったが、これは著者の体験が基になっている自伝的小説ということ!

  • 人に流されず考えて考えて生きる。
    あなたは善良な人か。どんな状況でも善良でいることの難しさ。
    でもそれがもたらす周りへの影響。
    勇敢に挑むイーライが素敵でした。

  • 福知山

  • 【請求記号:933 ダ】

  • 海外作品を訳されたものを読み慣れてない(私みたいな人)だと、海外ならでは?の風景描写や言い回しとかが上手く飲み込めなくて読むのすっごい時間かかると思う。
    でも訳された文章は本当に至高!わかんないけど、多分原文の良さがまんまか、それ以上に加わって高められたものになってると思った!原文の良さをひとつも損なってないよ、多分、勝手な推測と体感だけど。でもそれくらい、素敵な言い回しが多くてもうあげきれないほど。
    内容は、日本では非現実的な綱渡りみたいな生活が終始描かれてる感じかなぁ。でもその実、人との出会いも別れも、ままならない現実も、全部自分の身近にもあるようなものにも思えたけど。
    ご都合展開と呼ばれるものだけど、そこまで行き着くのに長かったぶんくさくはなかった。

  • CL 2022.1.18-2022.1.22
    色彩とディテール
    善良な人間

    作者の実体験に基づいた作品だというのが驚き。

    あと、本のタイトルも「少年、世界をのみこむ」でよかったんじゃない?

  • たくさんの賞を受賞し、
    たくさんの国で翻訳され読まれている本。
    とても波乱にとんだ内容だった。
    イーライは、おしゃべりで、
    お話を作るのが得意で、ちょっと泣き虫。
    オーガストは、ひと言も話さない。空中に指で書く文字は、予言めいたものもあれば、意味不明な文字列のこともあるが、賢い兄で頼れるアドバイザー。
    母の恋人ライルは、父親も同然。
    麻薬密売組織に連れ去られ、なぜ消えてしまったのか?真実を探しに行く。
    ベビーシッターで、年齢差60歳の親友スリムからたくさんのことを学ぶ。
    みんなでハグ!
    愛情や信頼を感じる家族。
    けれど、世間から見たら悪人と呼ばれるのかもしれない。
    本書の半分は著者が実際に体験したことだという。
    そして、イーライの切り取られた人差し指のことは驚いたが、著者の右手の指はちゃんとそろっていると訳者あとがきにあり、ホッとする。
    12~19才までの少年イーライの成長と家族の物語。

  • 読み始め,圧倒的に高度な文章構成で,自分も付いていくことができるか心配であったが,家族の物語でありながら,冒険の物語であり,少年の成長の物語であり,要所要所にそれらの活劇感が挿入され,当初の心配は杞憂であった.
    日常とは言っても,平和な日常では無く,びっくりするようなことも起こり,少しづつ読み進める毎日が楽しみでした.

    もう1度読むかなあ.

  • 圧倒的な量と質!細かなディテールにこだわるイーライ少年のように、たくさんのエピソード、感じた事、ちょっとした会話、言われなかった言葉などがこれでもかというくらい書かれていて、魔術のようにそれがどんどん繋がっていく。エンターテイメントとしても面白いし、家族愛や兄オーガストへの信頼、ベビーシッターだった元脱獄犯のスリムとの絆など深い内容満載で少年の成長物語として素晴らしかったです。
    あとがきの作者の右手の指がちゃんとあるとの情報、ほっとしました。

  • イーライと同じでディーテールが細かい。あー、ここに繋がるのかが多数。

  • 少年を取り巻く治安の悪い世界+少年の成長+ファンタジー+若干サスペンスな感じの物語。

    「ディテールを残らずみる」、「人生は簡単なことよりも正しいことをできるかだ」、「時間を殺れ、時間に殺られる前に」など登場人物の一人である元脱獄犯のスリム・ハリデーの言葉には覚えておきたい人生訓がいくつかあったが、主人公がどうしても好きになれなかったので星二つにした。色彩はたしかに目に浮かぶようだが、なぜかとても疲れた。

    オーストラリアに治安が悪いイメージがなかったので、半分ぐらい作者の実体験と知りそこに一番衝撃を受けた。

  • ディテールと色彩が、破滅的な世界を照らす珠玉の小説。愚かで勇敢な少年の冒険譚。どこかファンタジックな雰囲気も醸し出しつつ、ドキュメンタリー的に細部にこだわった作品で、とてもワクワクさせられた。

    子ども思いだけど麻薬の密売人をやっている母、その母の恋人で同じく密売人をやっている男性的な魅力ある男、話すのを拒み文字を空中に書いて意思表示する兄と、普通ではない環境に置かれたイーライ。
    親友は、脱獄犯のベビーシッターであるスリムで、年齢的にはイーライと60の差がある。
    こんな環境でも、擦れることのない少年イーライの視点から物語は語られる。
    スリムの哲学を忠実に再現しようとする純粋さや、見たままだけを信じない疑う能力、自分に向かってくる不条理や暴力に、ときには怯えながらも、真っ直ぐに立ち向かう姿勢を持とうとするイーライに心惹かれる。

    こうしたカラフルな登場人物たちが魅力的なのだが、彼らのセリフもとても印象深い。
    なかでも、老年のスリムがイーライ少年に幾度となく伝える「時間を殺れ」という言葉が印象的だ。
    目に見えない時間をどう殺すのか?
    スリムは、獄中で時間を操っていたと語り、物事の細部を見逃さない、つまりディテールを見逃さないという方法で、時間を永遠に近いものにしてきた。

    その教えが一人語りの文にも生かされており、時には滑稽で時には真に迫った会話劇や、時々の状況を克明に、かつ詩的に描いたまさしくディテールを見逃さない文体が読み手を飽きさせない。
    詩的な表現が、破滅的で絶望的な環境下に置かれても、イーライの目には色彩が失われない理由のひとつになっている。

    この小説を読んでいると、なんとなく過ごしてきた日々の細部にもディテールがあり、それを見逃してきた自分に気づかされる。
    イーライのように色彩を手に入れるためには、日々の細部に注目し、時間を手繰る必要があるのだろう。
    この小説は、読み手にも色彩が如何なるものか、どうやって色彩を手に入れるかのヒントをくれる。

    常識的に考えて、親がろくでもないことをしていれば、嘆き悲しみ打つ手なしで泣き寝入りするところだが、イーライやオーガストは、状況を受け止めて進んでいく。
    少年らしい向こ見ずな言動も含めて、勇気を与えられた。

    細部に拘っているからと言って、ストーリーに手を抜いているわけではない。
    じつは序盤から伏線がいくつも存在し、ストーリーが進むごとに紡がれていく。
    兄のオーガストの予言めいたメッセージ、意味深な言動がこの物語を想像力豊かなものにしている。
    主人公イーライは、想像力と現実を見つめる目と、どちらも持って世界に飛び込んでいく。

    どんな状況下であっても、イーライが自分の意思を持って飛び込んでいく姿が頼もしい。
    展開が読めないのでドキドキしながら読むことができた。

    また、訳者の後書きによると、この物語の状況は、作者自身の環境をモデルにしているらしい。作者は元クーリエメールのジャーナリストなので、ほとんどイーライと同じような人生を送ったようなものではないかと、驚かされた。

    長い長い小説だが、売れただけあり、ラストに至るまでの盛り上がりも素晴らしく、哲学に満ち満ちている。 

  • 長い本だったけど、主人公イーライがずっと全力で考えて行動し続けているせいか中断せずに読み切れた。
    イーライの12歳から19歳の間の物語で、彼の周りでは犯罪と暴力にまつわる事件が常に起こっていて、正気を保っていられるかどうかの瀬戸際という感じ。
    そんな中でイーライは空想したり兄のオーガストと協力しあったり親友で元脱獄犯のスリムに大切なことを教わったりしながら大人になっていく。
    そのおかげで、すぐ泣いてしまう全力のイーライだったけど逞しく優しく成長していく。
    幸せになってほしいなと思いながら、イーライを追いかけていくように読んだ。
    力強くてパワーをもらえる本だった。



    ブクログのプレゼント企画に当選して読みました。
    ありがとうございます!!!

  • 貧しい少年がその環境下においてたくさんの危険や大切な経験をして成長していく話でした。こういうと普通の小説なんですが、この小説には、空想、色彩、ディテール、スリム等いろいろなものがスパイズされて、絵画のようになってます。
    私はイーライではないのであざやかには説明できないけど、たくさんの人に感じてもらいたいと思いました。

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