- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620106618
感想・レビュー・書評
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見果てぬ夢。この夢は、美し過ぎたのか。だから、薩摩も長州も、それを認めることができなかったこではないか。
京で、攘夷派の志士を倒し続けた自分に、美し過ぎる夢はふさわしかったのか。(362p)
あるいは、こんな会話があった。
「私は聞いたことがあります。この国にも、外国にも、民の血さえ見ること無く、権力の移譲がなされた歴史は無いと。いつか誰かが、それをたたえるはずです」
「江戸と京だけは、戦火で焼いてはならん。それをやれば外国の介入がある。そう信じた自分を、私は否定する気はない。いまも、正しかったと信じている。しかし、夢もまた、正しいと信じて私が抱いたものであった」
「薩長が、小さ過ぎました。自分たちが安心する国を作りたい。民ではなく、自分たちがと考えたのだろうと思います」
「土方、私は生きられるかぎり生きて、この国の行末を見つめていこうと思う。願わくは、平和な国として大きくなってほしいと思う。薩長さえも、恨むまいぞ、土方」
「はい」(320p)
一方は土方歳三、一方は徳川慶喜である。
北海道を独立国にする。「カムイ伝」でも、「男一匹ガキ大将」でも語られた「男の夢」が此処でも語られ、そして閉じられた。此処での夢の語られ方が私は一番好きだ。非戦の夢。しかし、それは決して夢物語じゃないと、私は思う。むしろ、弥生時代の国譲りから始まって、我々の伝統でもある。日本はかつて内戦でも戦争でも、一族郎党を殺し尽くす戦いをしたことは、殆んどない(例外は信長と南京、重慶だけだ)。だから、彼らの夢は正しい。あり得たかもしれない夢を描いただけなのである。
土方歳三という、歴史の中では全く傍系の人物を通して、夢を描く。その手法は、やがて「水滸伝」「楊令伝」、そしておそらく「岳飛伝」に繋がって行く。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新撰組は本当に好きですね~特に土方の生き方が僕には魅力的で彼の短い生涯が本当に羨ましくさえも感じる。駆け抜けるには良い舞台だったのかもしれない。でも、一軍の将としてもっと大きな舞台を与えられたら彼はどんな活躍を見せたのでしょうかね?
さすが北方先生といいたいところは、僕の中では新撰組のエピソードの中では一番嫌いな山南の脱走のところなんですよね!そのエピソードに至るまでの土方と山南のやり取りを誰よりも美しく描いています。この部分がなんとも言えずにいい!世代は違えど簡単に仲間を裏切る行為とはなかなか出来ないことです。その中でありえそうな物語を作っていただいたことに感謝をしたいくらい。
上下巻合わせて800Pほどの大作ではあるが、頭の中に次々と飛び込んできた寝る間も惜しんで2日間で読破しました。エンディングは僕の一番望む終わり方で読み終わった頃には笑みがあふれていました! -
明治維新に際し、日本を内戦状態にしてはならない。間違いなく、坂本龍馬、勝海舟、徳川慶喜は思い、行動したのだろう。
新撰組土方歳三は、何を思い、函館まで戦い抜いたのだろう。
ここに書かれてあるような歴史的事実はないが、歴史の裏側には、北方謙三氏が書かれているような熱い男たちの思いが隠されているような気がしてならない。 -
蝦夷の地における新国家設立に向けて、慶喜、勝、小栗、村垣、土方が連携して動き出す。対する西郷が小物だったり、化け物だったり、小心者だったりと、かなり悪いイメージで描かれている。
土方歳三というただの田舎侍が、漠然とした野心から京へ行き、新撰組へとなった。己がこれまで歩いてきた道と進むべき道を時代を見据えながら冷静に判断してきたはずが徐々に袋小路に追い込まれていく。近藤勇は、新撰組が京から江戸へ移った頃から己の死に場所を求めていたが、土方歳三はどんなに追い詰められても死ぬ為の戦いは行わなかった。そして、最期、土方歳三が派手に死ぬシーンがあるが、あれが替え玉だったという設定は中々面白かった。生きるという彼の考え方と替え玉は矛盾していないと思った。 -
読了しました!
唯一の難点が徳川慶喜を擁護しかねない
ストーリーと解釈なのですが、まさかの作戦
が幕末史の裏を見たようでドキドキです
骨太な時代小説に感謝! -
歴史小説で、最後はだいたい予想ついていたのですが、いい意味で、やられたって感じです。
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――北方謙ちゃんが、土方を書く。かっこいいに決まってる。
新撰組の流れについて説明するのは蛇足というものだろうから、あらすじは省略。
初めてこの本を知った時の「かっこいいに決まってる」という印象は、読了後もそのまま残ったのこった。だって、「いかに(かっこよく)死ぬか」というのをテーマとして小説を量産している北方先生が、新撰組という「ロマン」や「美学」で満たされた題材を扱ったんだから。
特に良かったのが一般的に敵対していたと言われる、土方と山南が実はお互いを理解しあった同士であった、という設定だ。フィクションならではの魅力に満ち、新撰組ファンにはたまらないところをつつきてきたものだ! 新撰組を滅ぼしたくないという土方の葛藤とそれを理解し、彼に手をかす山南。自らの死を無駄にしないなんて、まさに北方先生のテーマに触れているじゃないかっ。
さらに沖田。土方と沖田の関係は、ほほえましさと名状しがたい悲しみを感じさせる。
ラストは笑えたわらえた。まさかそうくるとはっ。エンターテイメントだ。 -
土方歳三の新撰組~箱館戦争時代までを描いた北方謙三による歴史フィクション。様々な野望を抱いた男達がぶつかり合い、戦略と謀略に満ち満ちた幕末の時代を描いた作品はどれも読んでいて血が滾る!中でも今作は土方歳三に焦点が当てられていたため、どちらかといえば倒幕派びいきの自分があまり知らなかった佐幕派の動きや心情等も「知る」事ができ、勉強になった。本著はあくまでフィクションであるが、様々な歴史的事件も色々な捉え方ができると再確認し、感心した。そして殺陣の描写も格好良かった。ただそれぞれのキャラクターの会話が冗長過ぎ、途中でしばらくだれた点が致命的。