- Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620106908
感想・レビュー・書評
-
ごく平凡な主婦・敏子の夫が自宅で急死した。夫63歳、妻59歳還暦前。
夫に庇護されつけていた妻は、世の荒波にもまれる。
強風ににもてあそばれる木の葉のように。
といっても葬式詐欺にあったわけでも、事務的手続きにもたついたのでもない。
悲しみに打ちひしがれて病気になったのでもない。
突然逝った夫の過去が押し寄せる。
目の中に入れても痛くない可愛い子供たちが叛乱する。
まわりの人たちの同情、対応の変化が戸惑う。
想像を絶するは、事象でななく心の在りようをいうのだ。
人間は必ず歳をとる。ある年代にいつかは到達する。
連れ合いが亡くなるということはある年代になれば遭遇するだろう。
しかし、耳学問で知っていたつもりだが、経験してみなけれ想像もつかない世界なのである。
『確かに、以前の自分は頑固な人間だった。頑迷といっていい。自分に必要ないと思い込んだら、興味もないし、理解しようともしなかった。それも何の根拠もなく。』(P210)
『数えだしたらキリがないほど、自分はいろんなものを失うことだろう。老いて得るものがあるとしたら、それ何なのか、知りたいものだ。』(P258)
『何、奥さんだけが恥ずかしい目に逢っている訳じゃない。皆、どろどろとした思いを抱え、それを思わず表に出してしまうから、恥を掻いてそれでも生きておるのです。でもね、恥に無縁で濃い人生なんて歩めませんよ』(結婚詐欺に遇った69歳の男性の言葉 P399)
どこにでもある話である。何処にでもない話である。
夫が急死したことによってあぶりだされた夫婦のかたちが問われる。
作者は主人公を掘り下げ、登場人物に会話させ、積み重ねる。
諦観ではなく、悟りでもなく、どんどんと行き着くところまで行くべしという姿勢を。
*****
私としては異例中の異例。新刊も新刊書、即行の読了。面白し。
少々齟齬もある、繁子の性格の整合性がおかしいところもある。もう少し突っ込んで欲しいというか、深く探ってもらいたかったテーマでもある。次作品、期待!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
メロドラマのような
-
初桐野作品
おばさんがアホ息子にいいように踊らされるのか・・・
と思っていたら
ナカナカ!! -
だから荒野と猿の見る夢との三本立てで読みたい。猿の見る夢も好きだけどこっちも好き。
-
定年退職後の夫が心臓麻痺で急死し残された59歳専業主婦敏子。遺産目当てに近付いてくる疎遠だった子供達。死後に知る夫の愛人の存在。夫に守られ平穏に生きてきた、生きていくと思っていた生活は一変。これまで触れてこなかった世間にもさらされ変貌していく。一つの老後リアル。
-
読み始めて、一度読んだことがあったことに気づいた。
おそらく40代の頃に読んだその時と50代の今とでは感じ方が違う。 -
2008年09月05日 16:41
夫に先立たれた59歳の女性が主人公
桐野夏生さんの本を初めて読んだが
登場人物の描写や心情、細かいところまですごく巧く表現されていて
共感し感情移入しやすい物語になっている
自分がまだ経験していない、でも、必ずいずれは経験する「老い」に関して心構えが少し出来た気がした -
パート先のおばちゃんたちも旦那さんが亡くなる人が増えてきているので、この小説を読んでいるとありえるなーと
うなずいてしまった。あと、栄子さん、それに近い性格の人もいます! -
読了日2011/04
-
まともな人間が出てこなくて読んでいてキツかった。我が強いタイプの主人公の友人の言動とか、夫の愛人とのバトルとか、会話が生々しくてつらくて。でも面白かった。
斎藤学さんの著作でこの本が紹介されていた。主人公が段々と自分の心の中にあった怒りや、溜めていた感情に気づいていく過程が上手い。夫の死は悲劇だったろうけど、それをきっかけにして彼女は本当の自分のための人生への糸口を得たのだ。よかったね、旦那さんが亡くなって、と、そんな台詞を言いたくなった。