許されざる者 下

著者 :
  • 毎日新聞社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107363

作品紹介・あらすじ

日比谷騒擾事件に揺れる日本。森宮では「熊野革命五人団」が暴走する-。運命にあらがう"生"。人びとをのみ込む、新しい時代。辻原文学の集大成。豊饒な物語世界、ついに完結。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に記載

  • それでは「許されざる者」は誰なのか。強烈に色鮮やかな永い夢をみたあとの微熱を感じている。

  • 106ページ
     クツーゾフ将軍
      ◆クツーゾフ→クトゥーゾフ
        ※上巻で「クトゥーゾフ」。

    179ページ
     刑を終えてもおまえたちは結婚できない。民法第四章第三十三条によってね
      ◆民法第四章第三十三条→民法第七百六十八条
        ※日露戦争前の明治31年に民法施行。条文は「姦通ニ因リテ離婚又ハ刑ノ宣告ヲ受ケタル者ハ相姦者ト婚姻ヲ為スコトヲ得ス」。「第四章第三十三条」は施行されなかったボアソナード民法http://books.google.co.jp/books?id=Cz6idlW4QekC&printsec=frontcover&dq=%22%E6%97%A7%E6%B0%91%E6%B3%95%22&source=bl&ots=tATIJlXafr&sig=jnQOVufYh5tGKDAn21aYkCJYpPE&hl=ja&ei=_ZhmTND7IcvQcaeltZAF&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=6&ved=0CDsQ6AEwBQ#v=onepage&q&f=false(264ページ)の番号と思われる。Http://www.geocities.jp/nakanolib/hou/m4_o.htm

  • なんかぼんやりした小説でした。

  • 日露戦争前夜の明治三十六年(1903)三月、紀伊半島の南に位置する森宮の港にひとりの男が帰ってくる。男の名前は槇隆光。元森宮藩藩医の四男でアメリカで学位を取得後カナダで診療経験を積み、帰朝後森宮で開業していた。貧しい者からは金を取らず、金持ちからは高額の治療費を取る、毒取ル先生と呼ばれていた。そのドクトルが再び海を渡ってインドはボンベイ大学で脚気を研究し、その成果を引っさげての三年ぶりの帰郷である。町は沸き立っていた。

    同じ頃、元森宮藩主の長男永野忠庸少佐は八甲田山雪中行軍で遭難死した弟の救出に向かい、その計画の杜撰さを指摘したことで軍から譴責を受け、妻を伴って帰郷していた。物語は、槇と永野夫人の許されざる恋愛を核に、槇の姪、西千春をめぐる甥の若林勉ほか若者たちの競争をからませながら、日露戦争を背景に、開戦論者と幸徳秋水たち非戦論者の闘いを描く一大ロマンスである。

    インドから持ち帰ったトンガと呼ばれる二輪馬車を駆って森宮の町を疾駆するドクトル槇の颯爽とした姿は、いかにも大衆好みの設定だが、実は槇にはモデルがいる。佐藤春夫や与謝野鉄幹が、その早すぎる死を悼んだ新宮の医師大石誠之助その人である。差別された人々にも進んで施療し「毒取ル」と呼ばれ、太平洋食堂を開業し、洋食の普及に努めるなど、開明的な活動家であったが、幸徳秋水との関係が災いし逮捕され死刑となる。

    作家はこの郷土が生んだ傑物の復権を試みたのだろう。脚気の特効薬ベリベリ丸を大陸に持ち込み、脚気に悩む将兵を治療したり、元藩主筋に当たる永野の妻と愛し合わせたり、と大石にはできなかっただろう縦横無尽の活躍ぶりである。モデルといえば、勉や千春には文化学院を開設した西村伊作の風貌が垣間見えるし、千春の結婚相手である上林青年は阪急鉄道や宝塚歌劇団の創始者小林一三翁の若き日の姿が重なる。シルクロードの探検隊を組織し帰りの船で槇と出会う谷晃之は真宗大谷派の宗主大谷光瑞。石光真清や森鴎外、田村花袋、頭山満、ジャック・ロンドンという錚々たる顔ぶれは本人の名前で登場する。

    ロマンスといえば、本来中世騎士物語のことだが、槇と永野が夫人の愛を争う三角関係は円卓の騎士ランスロットがアーサー王の妻、グィネビアと愛を通じ合う有名な物語を思い出させる。ホイッスルという愛馬を駆る槇の姿は囚われの王妃を救い出そうとする騎士を髣髴させるし、思い姫を故国に置いて北の戦場に赴く槇の姿は遍歴の騎士そのものであろう。

    階級差というものがはっきりしない現代日本においてロマンスを描こうというのはかなり難しいことにちがいない。その点、まだ旧藩主というものが存在し、同時に西洋の後を一生懸命追いかけていた明治時代なら華麗なロマンスが描けるだろう。時計のネジ巻き屋やガス燈の点燈夫といった職業もこの時代ならでは。アンナという名の入ったロルネットのような小物を使って、トルストイやチェーホフの名作を持ち出したりできるのも共通する時代背景があってこそ。

    さらには、日本陸軍が脚気黴菌説を墨守し、白米色にこだわり脚気による大量の戦病死者を出したという軍事上の事実を重要なエピソードとして持ち込むことで、コッホの説を疑わず、麦飯・パンを食べれば脚気が治るなどというのは非科学的な妄説とした軍医総監森鴎外に脚気の特効薬を開発したドクトル槇を対峙させるなど、辻原登ならではの小説的詐術が愉快である。

    同時代の日本を描いた司馬遼太郎の『坂の上の雲』を意識したにちがいない設定には、同じ小説家として国民的人気作家に対する挑戦が感じられる。テロルなきアナーキズムやレーニン以前のマルクシズムを奉じる槇のイデオロギーは、その言葉から伝わりはするが、大仏教教団の宗主で爵位を持つ谷と友人付き合いしたり、侠客といえば聞こえがいいが、自分に気がある女親分の力を借りたりと、実際の行動には権力や暴力という力の行使に無思慮に過ぎる気もする。まあ、そこはロマンス、あまり堅苦しく考えるのも野暮だろう。新聞連載小説らしく、誰にでも読みやすく書かれている。暑気払いにはうってつけの痛快巨編である。

  • まさに「浪漫小説」と漢字で表したい作品でした。日露戦争の前後の和歌山県の森宮(新宮のことと思います)を舞台にアメリカやインドで医学を学んだドクトル槙を主人公にしたドラマティックな物語です。奉仕精神豊かな資産家階級、過激な社会主義者や野望に燃える警官、美貌の人妻や、無知で愛すべき労働者たちが交錯して盛りだくさんの内容です。実在の人物もさりげなく盛り込まれていて面白いです。ただ大作なので少々息切れがします。私は上巻に時間を取りましたが、下巻は乗ってきました。
    貧富の差、ではないですが、階級がとてもはっきりしていた時代ならではの話だなあと思います。
    先に読んだ「蒼穹の昴」に出てきた万朝報が出てきて懐かしかったです。

  • 和歌山、新宮などを舞台とした作品です。

  • んー、まあまあ、でしょうか…。永野夫妻のやりとりのあたりはよかったけれど、なんだか全体的にぼやーっとした小説でした。何がテーマなんでしょう。恋?人間の生き方?戦争?戦争と人間?そして、谷は必要なのだろうか…。

  • おもしろかった。
    登場人物がみんな魅力的だった。特に千春と点灯屋の中森がお気に入りである。とにかくキャラクターが皆、自分で立って歩いていた。読んでいて飽きることがなかったのはそのためだろう。
    永野夫人。どんだけ綺麗やねんて感じだ。
    彼女の下の名前、一箇所だけ出てくる。こういう細かい技?も何気によかった。

  • 再読なので丁寧にじっくり時間を掛けて楽しんで読みました。

    歴史上の史実の上に虚構をうまく融合させた大河ロマン小説です、

    森鴎外、田山花袋、幸徳秋水、石光真清などの人物も生き生きと登場します!


    読んだ人にだけ分かる質問、

    「永野夫人のファーストネームはなんでしょうか?」

    長編小説ですが永野夫人のファーストネームはその中で一度しか出てこないのです。


    この「許されざる者」のモデルになった町「森宮」は和歌山の「新宮」のことなのですが、毎年松茸を送ってくださる義母の友人の住んでいる町です。

    一度、ぜひとも歩いてみたい町になりました!

  • 歴史小説っていうより恋愛小説?

  • 2010.01.ドクトル槇は、赤十字の派遣民間医として日露戦争に行く.永野は脊髄損傷となり日本へ戻るものの亡くなってしまう.日露戦争には勝ったものの戦勝金が一銭も取れなかったことに民衆は怒り暴動を始める.五人団が中心になり爆破等を進める.鳥子署長は、ドクトルが黒幕であると槇を逮捕するが、中子菊子親分の活躍により釈放される.ドクトルは、ボーエン博士の招請によりアメリカへ行くことになり、槇の子を身ごもった永野夫人も出産後に後を追うことになった.日露戦争の勉強にもなり面白かった.

  • 槇の出征。永野の負傷、永野夫人との恋、永野の死。
    出征時の遺書から最後の遺書へ。それを辞退して密かに暮らす永野夫人。美しい恋愛の形を見た感じ。

    歴史的な背景のなかで切り取られた個々人の生活にしばし思いを馳せた。

  • 新潮2009年9月に書評されていた本

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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