不完全燃焼、ベビーバギー、そして暴力の萌芽について

著者 :
  • 毎日新聞社
3.21
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107486

作品紹介・あらすじ

暗い水たまりを走る夜の通勤バス。確実な死をもたらすカプセルの、奇妙な生の感触。母親に愛されなかった娘と、姉を失った青年が背負うはるかな歴史。私たちがここに生まれ、生きているということ。雨の動物園で、異国のエレベーターの中で、世界中の悲劇を幻視する女たち。さまざまな記憶を呼び覚ます、不思議な物語6編。

感想・レビュー・書評

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  • そんなふうにして、さかのぼってみるとすると、十代前には千二十四人の人がいる、ということになる。十代前って、だいたい千七00年ころでしょうかねえ。ちょっとややこしいけど、その人たちを全部足してみます。そうすると、自分の親から、十代前の千二十四人まで、二千四十六人の人たちが関わっているんですよ。二千四十六人。そして当然のことですけど、その半分が母親です。千二十三人が母親。みんな、女、です。その女たちのひとりでも、気を変えてこの子を産むのをやめよう、とおもったら、あなたにはつながっていなかった。そしてね、ひとりひとりが、若いころがあり、親との葛藤があり、恋があり、悩みがあったんだ。あなたのお母さんは、それをみんな、受け取って、今のお母さんになっているんですよ。母親になる、ということは、それまでの女の歴史を、自分で全部受け止める、ということです。









    「しょうがなかったから、今の仕事を選んだんだよ。就職氷河期だったしさ」夫は言うが、わたしは知っている。それは夫がやむをえず選択したように聞こえるけれど、その時点の「決断」によっている。彼がそう決めたから、そうなっているんだ。この世界で起こっていることって、みんな結局、やむをえない選択みたいに見えても、実は自分がそんなふうに決断している果てに起こっているに違いない。
    流されているように見えて、本当のところは、みんな自分でそうやって流される決断をしているんだわ、わたしは思う。本当に選ぼうと思えば違う道だってあったはずだ。みんな、それぞれ、正しかったり間違ったりしているけれど、決断しながら生きているんだわ。思うようにならない、ってそれってどこかの決断が間違っているんだ。意志の力さえあれば、なんとかなる。




    チベットの曼荼羅



    「夢も見ないっていうことは現実に夢を持てない、ということと同じだわ」







    忙しいと、何でもめんどうくさい。いいかげんにやるようになる。だから、そこで処理されたことは、後々になって問題が出てくる。いつもそうだ。わかっているのに、忙しくて、めんどうくさかった。なんてこと。






    でも、そういうものって本当はたくさんあるんだと思う。やりかけて、見届けることができないもの。ほとんどのことってそうなんじゃないだろうか。なんでもやり始めることは楽しい。でも最後までやりとおすことは難しい。やり始めたのとを終えられなかったことはなんとなくうしろめたいから、わたしたちは、言い訳したり、病気になったり、むやみに忙しくなったりしながら、適当にごまかしながら生きている。そういうものだ。だから、ラザニアが見届けられなくても、それは、もうひとつ、私の人生に重ねられた「未完のこと」に過ぎない。








    「人知らずして恨みず」孔子
    他の人になんと思われても、それはその人が知らないだけなのだから、怒ってはいけない。人が自分のことを全く理解してくれなくても、怒ってはいけない。自分がよりよい状態であれば、相手のほうが変わっていく。長い間かかってもかならずそうなる。





    三砂先生のお話が短編になった感じ。言ってることはいつもと同じなのだけど、物語になっている。
    どれも好きなのだけど、ベビーバギーだけはちょっと考えちゃった。
    もし、生まれるところを自分で選べるとしたら。紛争地では、こどもが少なくなるはずじゃない?日本で少子化がおこらないはずじゃない?(これはそうとは言えないか…)

  • 親から十代前までを足すと2046人、その半分が女であり、ひとりでもこの子を産むのをやめようと思っていたら、自分にはつながらなかった・・。

  • タイトルだけが素敵な本でした。
    もやもやとしたまま話が進み、登場人物だけが納得して終わっていくので読んでいて置いて行かれた気分が残ります。内容もふわっとしていて捕らえどころがないです。自分がまだ誰の母親でもないから理解できないのかな。読み終わっても何も得るものがなかった、という感じ。読んだことさえ忘れそう。
    2016.4.3 図書館

  • 強烈なタイトルに惹かれ手にしましたが、タイトルのみ強烈でした。
    どの短編も、言わんとすることは分かるのですが、そこにたどり着くまでが哲学的というか独自というか、でも話に重さがあるわけではないので、さらりと読めてしまい、結果、読後、何を読んだか印象が残らない本でした。

  • なんというあざといタイトル…!
    狙いは分かってはいるものの、誘惑に負けて読んでしまいました。

    予想通り、タイトルが一番良いです。
    内容はスカスカ。
    ぬるくさい自己肯定とか、ねむり(村上春樹)を丸パクリした話とか、ほんといい年してなに書いてんだ。

    これだから女流純文学は嫌いなんですよ、みんなが書いてるのと同じようなの書いて、自分を叱咤激励したり他人を叱咤激励したり叱咤激励なんて馬鹿らしいとか言ってみたり。
    結局「私は今のままでオーケー」みたいな一山いくらで並んでいるような三文小説ばっかり。
    血が出るくらい自分自身をえぐってみろってんだ。

    12.07.30

  • この方、フィクションも書けるんだなー。

    全て短編で、よく練られたお話でした。
    いわゆる「研究者」の方が、自分の専門分野をテーマにしたストーリーをかくというのが面白い!
    母娘の関係や、時間に縛られる話、
    どれもリアリティがありました。

  • この人の小説?はそこはかとなく面白い。
    ジャンルはなんなんだろう。
    身体って不思議だ。そう思う。

  • 1〜4本目までは好きだった。残り2つはメッセージが書かれすぎてて嫌だった。特に三十分は面白かった。ありそうでない、めずらしい作家。

  • これも『We』読者であるHさんオススメの本。こないだ読んだ『月の小屋』がおもしろかったので、こっちの小説も読みたいと思っていたが、近所の図書館にはまだ(?)入っていない。買うか~と思っていたら、Hさんが貸してくれるというので、ありがたく借りる。届いてから毎日一話か二話ずつ読んだ。

    「人生の真実」を相談する"先生"がパンダだという、そこだけ聞くと川上弘美の小説か?と思うような話がさいしょ。着ぐるみにもぬいぐるみにも見えないパンダを相手に、38歳・ユカリは、母親のことを話す。自分は母親のことが好きだが、母のほうは自分のことをどうでもいいみたいだ、自分より妹のほうがかわいいみたいだ、そういうことをパンダと話しながら、ユカリはパンダに「なにか、不都合がありますか? お母さんがあなたのことを愛してない、ということで」と訊かれて、不都合はないと答えながら、泣けてくる。

    パンダはこう諭す。「先に逝った人たちのことを何も知らないと、今を生きることは全部自分の責任になるから、つらいんですよ。」

    表題作(えらい長いタイトルだが)は、赤ん坊になる前のタネ(?)であるところから、母親になる人を観察してきた「オレ」の語りがはさまる話。「赤ん坊はなんにもわからないだろう、と思って育てる親は、そりゃ後から大変さ。」という、生まれてきた「オレ」の語りが、ちょっとこわい。

    前に読んで、ビミョーという印象が残ったままの『オニババ…』本を、もういっぺん読んでみようかなと思ったりした。

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著者プロフィール

1958年山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。京都薬科大学卒業。ロンドン大学PhD(疫学)。作家、疫学者。津田塾大学多文化・国際協力学科教授。専門は疫学、母子保健。著書に、『オニババ化する女たち』(光文社新書)、『死にゆく人のかたわらで』(幻冬舎)、『女が女になること』(藤原書店)、『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』(ミシマ社)、『女に産土はいらない』(春秋社)、『セルタンとリトラル』(弦書房)、『ケアリング・ストーリー』(ミツイパブリッシング)など、きものについては『きものは、からだにとてもいい』(講談社+α文庫)がある。編著に『赤ちゃんにおむつはいらない』(勁草書房)、共著に『気はやさしくて力持ち』(内田樹、晶文社)、『ヒトはどこからきたのか』(伊谷原一、亜紀書房)、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』(亜紀書房)などがある。

「2024年 『六〇代は、きものに誘われて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三砂ちづるの作品

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